ENERGY
CHAGE&ASKA
2001-07-18


【収録曲】
1.作詞 チャゲ&飛鳥
2.4.7.9.10.作詞 飛鳥涼
3.5.6.8.作詞 澤地隆
1.3.5.6.8.作曲 CHAGE
2.4.7.9.10.作曲 飛鳥涼
1.2.9.編曲 十川知司
3.5.6.7.編曲 国吉良一
4.8.10.編曲 瀬尾一三
プロデュース CHAGE&ASUKA・山里剛

1.ripple ring ★★★★☆
2.Trip ★★★★☆
3.赤いベッド ★★☆☆☆
4.Energy ​★★★★☆
5.Rainy Night ★★★★☆
6.東京Doll ★★★☆☆
7.Love Affair ★★★★☆
8.夢のあとさき ★★☆☆☆
9.迷宮のReplicant ​★★★★☆
10.Far Away ★★★★☆

1988年11月21日発売(CD・LP・CT)
1989年3月21日発売(GOLD CD)
1990年7月21日再発
1993年12月17日発売(APO CD)
1999年12月16日再発
2001年7月18日再発(現行盤)
2009年10月21日再発(リマスター・SHM- CD)
ポニーキャニオン
東芝EMI(1999年盤)
ヤマハミュージックコミュニケーションズ(2001年盤・2009年盤)
最高位6位 売上4.9万枚
最高位257位 売上0.05万枚

チャゲ&飛鳥の11thアルバム。先行シングル「Trip」を収録。前作「RHAPSODY」からは8ヶ月振りのリリースとなった。

前作「RHAPSODY」からロンドンでのレコーディングが計画されていたが、今作でもスケジュールの都合でできず。ロンドンでのレコーディングは1990年の「SEE YA」までお預けとなる。今作はその折衷案なのか、ミュージシャンやエンジニアをロンドンから日本に招いて制作されることとなった。
ロンドンから参加したミュージシャンは譜面が読めなかったため、デモテープを聴かせたり、セッションをしたりしながらアイデアを出していったという。それが功を奏してか、今作の活気に満ちた作風に繋がっている。

今作はデビュー以来編曲を担当してきた瀬尾一三が参加した最後の作品。同時期から、中島みゆき(当時はチャゲ&飛鳥とレーベルメイトだった)のメインアレンジャーとして活躍するようになった。


「ripple ring」はシングル「ラプソディ」のC/W曲。しっとりとした曲調で聴かせるロックバラードナンバー。チャゲ&飛鳥名義での作詞がされた数少ない曲だが、作曲はCHAGEなのでメインボーカルはCHAGEとなっている。繊細さ漂うメロディーが心地良い。思わず聴き入ってしまう。サウンド面については、今作では唯一、日本人ミュージシャンで固められているのが特徴。
歌詞は世界平和への想いが綴られたものと解釈している。愛や平和が波紋のように、少しずつ少しずつ広がっていってほしい…というような詞世界。この手の壮大なテーマの曲はチャゲアスに定期的に見られるが、その先駆けと言えると思う。
オープニングには少々地味だという印象が否めないが、味わい深いメロディーで聴き手の心を掴んでくれる。


「Trip」は先行シングル曲。今作収録にあたって、新たなパートが追加されている。どこか不穏な雰囲気の漂うミディアムナンバー。飛鳥涼のメロディーセンスがこの曲では特に冴え渡っており、次作以降のさらなる開花を予見しているかのよう。全編通して「どんな頭してたらこんなメロディーを思いつくんだ?」と言いたくなるようなメロディーである。イントロやアウトロのスキャットがこの曲の聴きどころなのだが、それは狂気さえ感じられるほど。
歌詞は難解で意味はよくわからない。ただ、官能的なイメージのある詞世界である。複雑な比喩で武装した飛鳥涼独自の詞世界は、以降の作品でさらに顕著に現れるようになる。
「シングル向きではない」と飛鳥涼自らが言っていたようだが、まさにその通り。1曲単位ではそこそこ好きなのだが、シングルとして聴くにはきつい印象。


「赤いベッド」はここまでの流れを変えるようなミディアムロックナンバー。どこがサビなのかわかりにくいメロディーが展開されている。曲そのものよりも、シンセの音がやたらと耳に残る。SF映画のワンシーンにでも使われていそうな、当時の「近未来」をイメージしたような音色である。しかも、それが他の音を食わんばかりの勢いで鳴っている。
歌詞は「スキャンダル大好き」「スキャンダルもて遊ぶ」二人が主人公となったもの。部屋や化粧品の匂いさえ伝わってきそうな、生々しい詞世界が広がっている。
アルバムの流れで聴くと、かなり浮いてしまっている印象が否めない。ポップ性もそっちのけで、やりたいことをやり抜いてしまうのはCHAGE曲特有のものだと思う。


「Energy」は今作のタイトル曲。TBS系情報番組『朝のホットライン』のエンディングテーマに起用された。熱を帯びたロックナンバー。聴き手の心に火をつけてくれるような、勢いのあるメロディーが展開されている。イントロからノリの良いバンドサウンドが主張している。スコンスコンというイメージの、抜けの良いドラミングがたまらなく気持ちいい。
歌詞は冴えない日々を過ごす人を描いたもの。それでも「エナジー」は無くさない。「今日もメロディー 進まない」「ピアノはなんだか ここいら四、五日不機嫌で」といった歌詞は当時の飛鳥涼自身を描いたものだろうか。
大ヒットしてからもこの手のロックナンバーは多くあるのだが、それらとはまた違った良さがある。この頃にしか出せなかった熱さを持っていると思う。


「Rainy Night」は勢いのあるロックナンバー。聴き手をぐいぐいと引っ張ってくるような、力強くキャッチーなサビがたまらない。唸りを上げるようなギターサウンドと、渋さや哀愁を感じさせるCHAGEの歌声の相性は素晴らしいものがある。飛鳥涼のコーラスもまた、この曲の力強さをさらに引き立てている。
歌詞は恋人と別れるその時を切り取ったようなイメージがある。タイトル通り、雨の日の夜が舞台。メロディーやサウンド、歌詞が一体となって、激しく降り注ぐ雨を想像できるような曲になっていると思う。
この時期のCHAGEは、ロックナンバーの方で優れたメロディーセンスを発揮していた印象がある。この曲もその路線なので、今作のアルバム曲の中でも好きな方に入ってくる。


「東京Doll」はマニアックな要素が前面に出たポップナンバー。起伏の激しいメロディーはかなり歌いにくそうなのだが、あっさりと歌いこなす二人には驚くばかり。キレの良いギターのカッティングや、独特な音色のシンセが前面に出たサウンドは勢いがあるものの、思い切り盛り上がれるような派手さを持っているわけでもない。
歌詞は一夜だけ愛し合った女性を「東京Doll」に例えたもの。別れてからは一度も再会できていないようだ。全編を通してアダルトな雰囲気を持った詞世界となっているのだが、サラッと聴けてしまうのはサウンド面のせいだろうか。今作をリリースした頃は、CHAGE曲=マニアックというイメージはそれほど定着していなかったと思うが、それでもそう言ってしまいたくなるようなアクの強さがある。


「Love Affair」は清水宏次朗に提供した曲のセルフカバー。スリリングな雰囲気を感じさせるポップロックナンバー。清水宏次朗のバージョンはシングル化されているようだが、それも頷けるほどにキャッチーなサビである。跳ねるようなバンドサウンドとシンセによるホーンが絡み合ったサウンドは、聴いているだけでも身体を動かしてしまうことだろう。
歌詞はタイトル通り、許されない恋をしている二人が描かれたもの。「秘密の月明かり浴びないか さよならの後で 手がかり残さずに落ち合おうか」という歌詞からは、緊張感が伝わってくる。それにしても、許されない恋を描いた曲なのにワクワクしてくるのは何故だろう。他のアーティストの同じようなテーマの曲に対しても、同じ感想を抱くことがある。不思議なものだ。


「夢のあとさき」は異国情緒漂う曲。ゆったりとしたメロディーが展開されているが、サビでもそれは変わらない。キャッチー性はほとんど無い。サウンド面はスパニッシュギターや、シンセによるホーンがフィーチャーされている。それが前述した「異国情緒」を演出していると言える。他の曲にも増してねっとりしたCHAGEの歌い方がインパクト抜群。鼻づまりかと思ってしまうほど。
歌詞は「罪深い」「許されぬ」恋人たちが主人公となっている。道ならぬ恋をしてしまっているのか。そして、「夢のあとさき」を忘れて抱きあう。「東京Doll」よりも、さらにアダルトな雰囲気を持った詞世界になっていると思う。アルバムの流れで聴くと良いアクセントになるのだが、1曲単位で聴くことはまず無い。


「迷宮のReplicant」は力強い曲調で聴き手の心を掴むロックナンバー。展開を読めない、飛鳥涼独特のメロディーがこの曲では特に存在感を放っている。それでもキャッチーなサビにまとめる技術には圧倒されるばかり。タイトル通り、どことなく謎めいた雰囲気を持ったサウンドが特徴。タイトなバンドサウンドなのだが、それでも不思議と陰を感じさせる。シンセとの絡みによって、「陰」の要素がさらに増している印象がある。
歌詞は夢の中の光景を描いたもの。恋人と別れたショックのあまり、自らが「誰かの夢」の中に生きているのではと思う男性が主人公として描かれているのだが、何とも幻想的な詞世界。
今作のアルバム曲の中で最も好きなのがこの曲。メロディーやサウンド面が自分好み。


「Far Away」は今作のラストを飾る曲。飛鳥涼は後に「君の知らない君の歌」でセルフカバーしている。本人も気に入っている曲なのだろう。ラストにふさわしい、壮大なロックバラードナンバー。訴求力に満ちたサビのメロディーは聴き惚れてしまうほど。隙のないバンドサウンドに加え、透き通るような音色のピアノも登場する。力強さと美しさを併せ持ったサウンドは、メロディーの魅力をより引き出している。
歌詞は愛を求める二人が描かれたもの。何故か、ただの恋人同士には思えない。「恋のうちに 君を抱いていたいな 恋のうちに 君と死ねたらいいね」という歌詞は、恐ろしささえ感じる。
メロディーや、どこまでも伸びていくような二人のボーカルがとても好き。ごちゃごちゃした作風だと思うが、この曲がラストにあることでまとまった作品だと感じられる。


あまり売れた作品ではないが、中古屋ではそこそこ見かける。「チャゲアスのオリジナルアルバム史上最低の売上を記録した作品」という不名誉なイメージを持たれている作品なのだが、作風自体にそのような印象は無い。ヒットする前夜の雰囲気を持っている感じ。ロンドンのミュージシャンを招いて制作したためか、バンドサウンドにかなり聴きごたえがある。また、シンセが多用されていた少し前の作品よりも、普遍性が増しているように思う。後追い世代でも、そこそこ馴染みやすい作品と言えるだろう。

​★★★☆☆