REFLECTION{Drip}初回盤
Mr.Children
2015-06-04


REFLECTION{Drip}通常盤
Mr.Children
2015-06-04


【収録曲】
※・編曲表記がされているのは12.のみ。それ以外は、編曲とプロデュースが同義だと思われる。
   ・曲順の前に「♪」が付いているのは{Naked}限定収録。

全曲作詞作曲 桜井和寿
12.編曲 森俊之
4.ブラスアレンジ 小林武史&山本拓夫
7.ブラスアレンジ タブゾンビ&武嶋聡
13.14.ブラスアレンジ 桜井和寿&山本拓夫
3.4.8.オーケストレーションアレンジ 小林武史&四家卯大
11.22.23.オーケストレーションアレンジ 桜井和寿&四家卯大
12.オーケストレーションアレンジ 森俊之
プロデュース Mr.Children
3.4.5.8.15.18.プロデュース Mr.Children&小林武史

1.fantasy ​★★★★★
2.FIGHT CLUB ★★★★★
3.斜陽 ★★★★☆
4.Melody ​★★★★☆
5.蜘蛛の糸 ​★★★☆☆
♪6.I Can Make It ​★★★★☆
♪7.ROLLIN’ ROLLING~一見は百聞に如かず~ ★★★★★ 
♪8.放たれる ★★★★☆
♪9.街の風景 ★★★☆☆
♪10.運命 ​★★★★☆
11.足音~Be Strong ★★★★★
12.忘れ得ぬ人 ★★★☆☆ 
♪13.You make me happy ​★★★☆☆
♪14.Jewelry ★★★☆☆
15.REM ★★★★☆
16.WALTZ ★★★★☆
17.進化論 ★★★☆☆
18.幻聴 ★★★★★
19.Reflection 省略
♪20.遠くへと ★★★★☆
♪21.I wanna be there ★★★★☆
22.Starting Over ​★★★★☆
23.未完 ​★★★★★

2015年6月4日発売
トイズファクトリー
最高位1位 売上58.6万枚(合算)

Mr.Childrenの18thアルバム。先行シングル「足音~Be Strong」及び、配信限定シングル「REM」「放たれる」を収録。前作「[(an imitation) blood orange]」からは約2年6ヶ月振りのリリースとなった。

「REFLECTION{Naked}」はUSBアルバムという異色の形態でリリースされ、9曲省いた14曲入りの「REFLECTION{Drip}」がCDでリリースされた。{Naked}は{Drip}の初回盤に加え、80Pの写真集、ライナーノーツ&デモ音源視聴コード付のブックレットも付属したBOX仕様。{Naked}は{Drip}の完全上位互換と言える。

今作はデビュー以来プロデュースを担当してきた小林武史から離れ、セルフプロデュースで制作された。とはいえ、6曲でプロデューサーとして参加し、8曲でキーボーディストとして参加している。小林武史がプロデュースに参加している曲は、今作の中でも前の方に制作された曲だと思われる。
また「Mr.Children&小林武史」とバンド名が先に出たプロデュース表記は初。

ここからの楽曲感想は{Naked}の曲順に沿って書いていく。


「fantasy」は今作のオープニング曲。BMW「2シリーズ アクティブ ツアラー/グランツアラー」のCMソングに起用された。爽快感溢れるポップロックナンバー。イントロのギターサウンドから、新しい何かが始まる予感を告げてくれる。シングル曲よりもシングルらしさを感じさせる、ポップなメロディーは絶品。活気に満ちたバンドサウンドはその魅力を高める役割を果たしている。
明るいメロディーやサウンドに反し、歌詞はかなり皮肉めいたものとなっている。ポジティブなフレーズこそ登場するが、それらを「皮肉」「勘違い」「嘘」などと痛烈に切り捨てている。それでも、それらを道連れに「日常の中のファンタジー」へと旅立つことを決める。
メロディーもサウンドもとにかく自分好み。今作の収録曲の中でも特に好きな曲。これほど聴き手に高揚感を与えてくれるオープニングもそうそう無い。この曲の真価はオープニングという位置で発揮されると思う。


「FIGHT CLUB」は疾走感溢れるポップロックナンバー。それもそのはず、仮タイトルは「疾走POP」だったという。高揚感どころか、全能感さえ与えてくれるようなサビは凄まじいほどにキャッチー。いつもはバッキングに徹するギターも、この曲では前に出て曲を牽引している。演奏するのを心から楽しんでいるようなバンドサウンドは、聴き手の心も明るくしてくれる。
タイトルは歌詞にも登場するブラッド・ピット(歌詞では「ブラピ」で登場)出演の映画『Fight Club』から取られている。歌詞もその作品をイメージさせるもの。青春時代の少年をイメージさせる詞世界である。「真の敵」を見つけて戦おうと誓う内容だが、この頃は世の中のあらゆるものが敵に見えてしまうもの。その頃を思い出しながらこの曲を聴いてしまう。眠っていた闘争心を呼び覚ましてくれるような、素直に「かっこいい」と感じられる曲だと思う。


「斜陽」はここまでの流れを落ち着けるミディアムナンバー。2014年12月の『FNS歌謡祭』で未発表曲として披露されていた。タイトルは太宰治の同名の小説から取られたという。シリアスな雰囲気を持ったメロディーではあるが、サビは比較的キャッチーな仕上がり。ピアノや流麗なストリングスが使われているが、バンドサウンドとのバランスが取れたサウンドとなっている。むしろ、バンドサウンドの方が前に出ている印象がある。
歌詞は内省的なメッセージが並んだもの。「ビルの影が東に伸びて 家路を辿る人の背中が増えてく その営み それぞれの役割を果たしながら 背負いながら歩いていく」という2番のAメロの歌詞が好き。歌詞全体としては明るいイメージがあるのだが、タイトルのせいかどことなく陰を感じさせる。サウンド面も含め、今までありそうで無かった曲になった印象がある。


「Melody」は先行シングル「足音〜Be Strong」のC/W曲。コーセー「エスプリーク」のCMソングに起用された。爽やかな雰囲気に満ちたポップナンバー。思わず口ずさみたくなるような、心地の良いメロディーが展開されている。キラキラした音色のシンセや、高らかなホーンはメロディーを鮮やかに彩っている。バンドサウンドはそれらよりも少し後ろで鳴っている印象がある。
歌詞は輝きのある日常を求める想いが綴られたもの。代わり映えのしない日々にうんざりしつつも、素敵なメロディーに支えられて生活する。そして「クリスマスみたいに光る」日が来ることを願う。このようなテーマの歌詞は過去にもよく見られたものだと思う。ミスチルの楽曲の大きなテーマの一つなのかもしれない。
今作に収録されたことで、派手な装飾音も逆に心地良く感じられるようになった。C/W曲ながら、割と好きな曲。


「蜘蛛の糸」はしっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。繊細さに満ちたメロディーと、訴求力溢れるボーカルには引き込まれるばかり。イントロからピアノが前面に出てサウンド面を牽引し、そこからストリングスが合流して厳かな雰囲気で盛り上がっていく。ギターを始めとした他のバンドサウンドは、かなり後ろで鳴っているような感じ。前作くらいですっかり定番になってしまっていたサウンドである。
歌詞は「大人のラブソング」をテーマにしたものだという。タイトルは芥川龍之介の同名の小説から取ったもののようだ。「荒れ茂る木々の暗がりで 夜露の滴に濡れて煌めく その美しき糸を指で触れるよ」というサビの歌詞は鮮やかかつ官能的。「蜘蛛」というタイトルのフレーズもどことなく官能的なイメージがあるのだが、この歌詞は圧巻。桜井和寿の作詞の才能には圧倒されるばかりだ。この曲に関しては、メロディーやサウンド面よりも詞世界に魅かれた。


「I Can Make It」は陰を感じさせるミディアムナンバー。サビまではどことなく暗い雰囲気を持ったメロディーで進んでいくが、サビはかなりポップな仕上がり。それを違和感無くまとめてしまうメロディーセンスには脱帽するしかない。力強いバンドサウンドが曲を牽引しており、かなり骨太なイメージのあるサウンド面となっている。その脇を優しい音色のキーボードが固めており、曲が完全に暗いものになってしまうのを防いでいる感じ。
タイトルは「うまくやれる」というような意味があるが、歌詞は自らにそれを言い聞かせているようなイメージを持ったもの。「逆転劇」を起こしたいと願う人の心が描かれている。この曲の歌詞で好きなのは「ため息に溶け 飛んでいけ」「I Can Make It」で韻を踏んでいるところ。流石は桜井和寿としか言いようが無い。言葉遊びはミスチルの楽曲の大きな魅力だが、この曲ではそれを十二分に堪能できる。


「ROLLIN’ ROLLING~一見は百聞に如かず~」は風刺がされたロックナンバー。心の奥底にどんどん沈んでいくようなメロディーが展開されているが、サビでは一転して激しくなる。不穏な雰囲気の漂うバンドサウンドは曲の世界観を構成していると言える。サビや後半になるとホーンやピアノも入るのだが、それですら曲の雰囲気を明るく変えることはできていない。
歌詞は人生の不条理を説く男と、そのメッセージが描かれている。妻と親友に裏切られた優男と、変声期のせいで栄光を失った少年歌手の例が挙げられている。それを語る男もまた、過去に不条理に苦しめられた者なのだろう。「俺みたいな奴にはなるなよ!」と言わんばかりに、人々に語りかけている。詞世界に関しては「深海」や「BOLERO」の頃のそれが蘇ったような感覚がある。ミスチルのダークサイドの王道とでも言いたくなる。この手の曲は大好きなのでたまらない。
主人公の怒りや悔しさを代弁するかのように、全身から声を絞り出して聴き手にぶつけるボーカルには引き込まれるほかない。


「放たれる」は配信限定シングル曲。後に「足音〜Be Strong」のC/W曲としてCD化された。映画『青天の霹靂』の主題歌に起用された。しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。どこか懐かしい雰囲気を持ったメロディーが心地良い。今作の中では比較的初出が古い曲だけあって、ピアノやストリングスが前面に出たサウンドが展開されている。一時期は食傷気味になっていたが、今作で聴くと変化球のように感じられる。
歌詞は桜井和寿曰く「ケージの中で傷を癒した鳥が、再び空に向かって飛び立つ瞬間」というイメージで作られたという。大切な人の温もりや優しさに触れられなくなっても、その人への想いは消えない。そして、最後には「だからもう恐れることは何もないの」と言い切っている。前述したように、今作に収録されたことで好印象に変わった。{Naked}のみ収録されたのも何となく頷ける。


「街の風景」はフォークロック色の強い曲。住友生命「ヤングジャパンアクション2015 活動編」のCMソングに起用された。TBS系番組『クリスマスの約束』で桜井和寿と小田和正が共作した「パノラマの街」はこの曲が元になっている。そちらと聴き比べてみるのも面白い…と思うのだが、音源化されていないのが残念。サイモン&ガーファンクルを彷彿とさせる、懐かしさや温かみのあるメロディーが展開されている。そのようなメロディーに寄り添ったバンドサウンドやボーカルは、曲の心地良さを引き立てている。
歌詞はタイトル通り、日常の風景をテーマにしたもの。様々な人との関わりと、それから得た想いがセットで綴られている。「できるなら 汚れない心で できるなら 嘘のない言葉で 自分や他人やこの世の中と ちゃんと向き合っていきたい」という歌詞が好き。聴いているだけで心が落ち着くような優しさを持った曲だと思う。それは小田和正の楽曲にも共通する魅力である。


「運命」は爽やかなポップロックナンバー。カルピス「カルピスウォーター」のCMソングに起用された。J-POPの王道ど真ん中を突いたような、キャッチー性に満ちたサビがたまらない。サウンド面は、ピュアな雰囲気すら感じられるほどにストレートなバンドサウンドが主体となっている。要所では神秘的なイメージのあるキーボードの音色が登場して、曲を効果的に盛り上げている。
歌詞は青春時代の恋模様をイメージさせるもの。友達以上恋人未満の関係の二人が描かれている。「君」への想いを募らせた挙句、最後には相手との恋を「運命」と確信する。しかし、この曲の歌詞で最も印象的なのは「時には自分を戒める いやらしい妄想をして 自分を慰めたあとで」という歌詞。爽やかな歌詞が展開されている中で突然現れるので、ついつい驚いてしまう。ただ、共感するしかない。
CMソングとしてそれなりに流されていた記憶がある上に、聴き手を選ばないポップ性を持った曲であるため、この曲に関しては{Drip}に収録されていても良かったのではと思う。やはり、前述した歌詞がよろしくなかったのだろうか。


「足音~Be Strong」は先行シングル曲。フジテレビ系ドラマ・東宝系映画『信長協奏曲』の主題歌に起用された。ミスチルにとっては初の、完全セルフプロデュースによるシングルとなった。2010年代のミスチルが作り上げた「終わりなき旅」とでも言いたくなるような、壮大な応援歌。それでいて、全ての聴き手の心を受け止めてくれるような大きな優しさを持ったメロディーが展開されている。力強いバンドサウンドと、それを包み込むようなストリングスの相性はぴったり。
歌詞は聴き手の背中を思い切り押してくれるようなメッセージが並んだもの。「夢見てた未来はそれほど離れちゃいない また一歩 次の一歩 足音を踏み鳴らせ!」というサビの歌詞はそれが顕著。熱を帯びた桜井和寿のボーカルも相まって、メッセージに圧倒的な説得力がある。タイアップ相手の世界観にもよく合っていたと思う。


「忘れ得ぬ人」は壮大なスローバラードナンバー。バンド史を通じても初の、外部(バンド・小林武史以外)が編曲を担当した曲。全編を通して展開されている、美しいメロディーには聴き惚れてしまうばかり。1番はピアノやストリングスのみで、2番以降にバンドサウンドが合流していくという演奏は曲の重厚感を引き立てている。
歌詞はタイトル通り「忘れ得ぬ人」への想いが綴られたもの。「君が弾くピアノのコードにひとつの濁りも無く 優しく僕を包んでくけど」という歌詞のせいで、ついつい小林武史のことを想像しながら聴いてしまうのだが、実際のところは誰がモデルなのだろうか?
森俊之が編曲を行なったものの、アレンジ自体は今までとそれほど変わらない印象。森俊之が参加したと言われないとわからないくらいだと思う。


「You make me happy」は聴き心地の良いミディアムナンバー。曲全体を通して派手に盛り上がる部分は無いものの、それでも聴いていて安心できるような温かみや懐かしさがある。バンドサウンドと同じくらい、ホーンも前面に出ているのが特徴。それやギターサウンドが影響してか、ジャズの色が強いサウンド面になっていると思う。
直訳すると「あなたが私を幸せにする」というタイトルの通り、歌詞は恋人への愛情が描かれたもの。「古い80'sのラブソング」を恋人と聴きながら過去の日々を恋しく思いつつも、恋人と過ごせる今を「好き」と言い切る。桜井和寿の実話なのでは?と思うほどにリアリティがあり、微笑ましさがある。そのため、とても多幸感のある詞世界に仕上がった印象がある。一曲単位で聴くと沁みるものの、アルバム単位で聴くとやはり地味な曲だと感じてしまう。


「Jewelry」は前の曲よりもさらにジャズの色が強い曲。一休みしながら聴くにはうってつけな、ゆったりとした優しいメロディーが展開されている。サビになっても大幅に盛り上がるわけではないが、このような曲ではそれが正解だろうと思う。サウンド面ではホーンやピアノが前に出ている印象。それによって、お洒落なカフェで流れていそうな曲に仕上がった。
歌詞は苦しい恋心が綴られたものと解釈している。主人公の性別がどちらかはわからないが、女性だと思って聴いている。この曲の歌詞で最も印象に残るのは「イノセントなまま」というフレーズ。純真無垢な恋心を「Jewelry」に例えているのだろう。アルバムの流れでこの曲を聴くと、丁度流れを落ち着けるような役割を果たしているのがわかる。一曲単位で聴くよりも、アルバムの流れで聴く方が良いと感じられるはず。


「REM」は配信限定の先行シングル曲。映画『リアル〜完全なる首長竜の日〜』の主題歌に起用された。2年越しにCD化された形。映画のプロデューサーに「とにかくぶっ飛ばしてくれ!」というリクエストを受けて制作されたというだけあって、バンドのキャリアを通じてもトップクラスで激しいロックナンバー。幾度となくシャウトする桜井和寿のボーカルは、聴いているだけでも苦しくなってしまうほど。最早「叫び」と言っていいだろう。どこがサビなのかわかりにくい構成もまた、曲の激しさを演出する要素となっている。
タイトルはレム睡眠から取られている。「外見では眠っているが、実際は脳が覚醒している」睡眠だが、この曲の歌詞では理想と現実の狭間で彷徨う人物という形で表現されている。主人公はその出口を求めているが、見つからないようだ。迷いや怒りが前面に押し出された詞世界はかなり刺々しい。
「よくわからない」と思いつつも「かっこいい」とも感じる不思議な曲である。


「WALTZ」は淡々とした曲調が逆に新鮮に感じられる曲。今作を制作する中で、最初にできた曲だという。タイトルのワルツのような心地良さもあるが、バンドサウンドやキーボードの音色はどこか不穏な雰囲気がある。特にギターについては、聴いていると焦燥感を煽られるような音色である。
歌詞はかつてのミスチルのような、闇(病み)を想起させるもの。第三者に自分の評価が下され、自分は「選ばれし人の流れ」に乗っているのか、そうではないのか。そうしたことに悩み苦しむ人間が描かれている。自分は就活生が主人公だと解釈しているが、聴いているだけでも自分がその立場になったような感覚に襲われる。ミスチルにはこうした状況に寄り添ってくれるような曲が多くあるが、ここまで心を抉ってくるような曲は少ないだろう。タイトルから想像されるものと、歌詞の内容がここまで乖離した曲も中々無いように思う。


「進化論」は温かみのある曲調が心地良いバラードナンバー。日本テレビ系ニュース番組『NEWS ZERO』のエンディングテーマに起用された。桜井和寿はこの曲が「大人の子守唄」になることを願って作ったというが、その通りの優しい雰囲気に包まれたメロディーがたまらない。キーボードやストリングスが前面に出たサウンドだが、要所ではギターやベースもしっかり主張する。セルフプロデュースならではの聴かせどころがある。
歌詞はタイトル通り「進化論」がキーワードとなっている。自分たちが持つ「強い願い」もいつしか、生物が進化してきたようにして実現するかもしれない。そのようなポジティブなメッセージが綴られている。自分はこの曲が使用されていた頃の『NEWS ZERO』をよく見ていたが、一日の終わりにぴったりな曲だったと思う。「大人の子守唄になってほしい」という旨の桜井和寿の「強い願い」が形になったと言える。


「幻聴」は爽快感溢れるポップロックナンバー。アルバムが完成したと思われた直後に浮かんできて、出来上がった曲だという。タイトルだけ見ると気味が悪いのだが、曲自体にそのようなイメージは一切無い。一度聴いただけで良いと思えるようなキャッチーなサビは絶品。躍動感のあるバンドサウンドに加え、それを鮮やかに引き立てるキーボードは聴き手の心を晴れやかにしてくれるようである。
歌詞はファンへのメッセージのようになっている。「向こうで手招くのは 宝島などじゃなく 人懐っこくて優しくて 暖かな誰かの微笑み」というサビの歌詞は、特にそれが現れている。「幻聴」はファンの笑顔や声援の例えとして描かれていると解釈している。そうした詞世界や盛り上がりのある曲調も相まって、今後もライブの定番曲になりそうな気がする。
自分が思う、ミスチルの王道な要素が詰め込まれている感じがたまらなく好き。今作のアルバム曲の中でも特に好きな方に入ってくる。


「Reflection」は今作のタイトル曲。ミスチルのドキュメンタリー映画『Mr.Children REFLECTION』のテーマ曲として作られたインスト曲。サウンド面は桜井和寿が演奏するピアノのみで構成されている。美しい音色と繊細なメロディーながら、壮大さも感じさせるインストとなった。今作の世界にも違和感無く溶け込むのはタイトル曲ならでは。


「遠くへと」はどこか懐かしい雰囲気を感じさせるミディアムナンバー。それもそのはず、荒井由実の「中央フリーウェイ」をイメージして作られたようだ。そちらはドライビングミュージックの定番と言える存在だが、その手の音楽が持つような疾走感は無い。緩やかに滑らかに都会を走る光景が浮かんでくる曲である。この曲もまた、同じような感覚がある。素朴ながらも時代性を感じさせないメロディーは絶品。アコギとエレピが主体となったサウンドは、いつまでも聴いていたくなるほどに心地良い。
歌詞は首都高速をドライブしている男性が描かれたもの。自動車なのか、バイクなのかは具体的に言及されていない。そこは想像でいくらでも補完できる。「カーブを曲がる度に 迷いをひとつ落としてく そこからまた僕をはじめる」という歌詞が好き。気分転換にドライブをする方は多いと思っているが、その心情を的確に表現したフレーズだと思う。地味な佇まいの曲なのだが、それでも割と好きな曲である。


「I wanna be there」は静かながらも力強さを持ったミディアムナンバー。壮大でありながら、親しみやすさも持ったメロディーはミスチルならでは。サウンド面はピアノもかなり主張しているが、アコギとエレキが重ねられているため、他の曲と比べても分厚いギターサウンドが展開されているのが特徴。
歌詞は新しい出会いを求めて旅をする人を描いたもの。一人称が「俺」になっているのは、ミスチルの楽曲では比較的珍しい要素。「アホらしい」と吐き捨てるもう一人の自分を黙らせて、旅に出た。明確にわかる部分は無いものの、安住の地を離れて、敢えて過酷な旅に出た…というようなイメージがある。この曲自体、アルバムのラストに配置されていてもいいような存在感がある。この位置に置かれたことで、ラストに置かれるよりもストーリー性が感じられるようになった印象がある。


「Starting Over」は壮大なロックバラードナンバー。アニメ映画『バケモノの子』の主題歌に起用された。当初は『信長協奏曲』の主題歌として制作されていたが、後に「足音〜Be Strong」が完成し、歌詞などを作り変えて完成させたという経緯がある。「やり直す」という意味のタイトルも、その辺りから付けられたのだろう。
メロディーに関しては「REM」のような派手さは無いものの、それでもサビでは心をグッと掴まれる感覚がある。サウンド面は無骨なバンドサウンドが主体となり、要所ではストリングスも入って曲を盛り上げる。
歌詞は「モンスター」と戦う少年の心を描いたストーリーのようになったもの。「モンスター」というのは、自らの心に眠る「虚栄心」「恐怖心」「自尊心」なのだろう。映画の世界観にぴったりの詞世界という印象。表現力に溢れたボーカルも含め、曲の世界に圧倒されながら聴いてしまうような曲になった。そして、ロックバンドとしてのミスチルの姿を楽しめる曲になったと思う。


「未完」は今作のラストを飾る曲。曲名がライブタイトルに使われたくらいなので、もう一つのタイトル曲と言っていいくらいの存在だろう。圧倒的な力強さと高揚感を持ったポップロックナンバー。ついつい鳥肌を立てながら聴いてしまうようなメロディーには引き込まれるしかない。メンバーの表情や息遣いすらイメージできるほどに、力のこもったバンドサウンドが展開されている。
歌詞はファンへの決意表明であり、バンド及び桜井和寿自らを含めたメンバーへの励ましだと捉えている。自分たちは永遠に「未完」であり、次の高みを目指してこれからも作品を生み出し続ける…そうした悲壮なほどの決意が真正面からぶつけられるような詞世界であり、歌詞の全編を紹介したいほどに名言揃い。桜井和寿は今作について「全ての力を出し切った」と言ってのけたようだが、この曲を聴くとそう言ったのも頷ける。
この曲がオープニングに配置されるのと、ラストに配置されるのでは意味合いが大きく異なる。ミスチルの「魂」がより感じられるのはラストだと思う。ただ、どちらの位置で聴いても名曲だというのは何ら変わらない。


ヒット作なので中古屋ではよく見かける。{Naked}は生産限定盤であり、現在でも比較的高値で売られていることが多い。

初の完全セルフプロデュースという形で制作された作品だが、その時のミスチルに出せる力を全て出し切った感じ。全23曲で2時間近い収録時間となれば、最早そこにまとまりなど無い。まとまりを求めるなら{Drip}を聴いた方がいい。こちらは、全ての曲が好き勝手に散らばった作品と言い切っていいと思う。ただ「fantasy」で始まって「未完」で終わるという構成は{Naked}でしか味わえない、圧倒的な高揚感がある。
「ロックバンド」としてのミスチルがまた戻ってきた。そう思えるだけの構成になっているのも{Naked}ならではの特徴と言える。全て聴くにはかなりの時間と気力を要するが、それに見合うだけの満足感がある。そして、聴き終える頃には「未完」のまま走り続けるミスチルの新たな作品を心待ちにしていることだろう。

★★★★★