CHANGE THIS WORLD
INSTANT CYTRON
1995-10-25


INSTANT CYTRON
2001-08-30


【収録曲】
全曲作詞 片岡知子
4.作詞 長瀬五郎
11.作詞 片岡知子・長瀬五郎
全曲作曲 長瀬五郎
8.作曲 片岡知子
12.作詞作曲 Cytron Obliques
全曲編曲 Instant Cytron 
2.ホーンアレンジ 中山努
4.ストリングス・ホーンアレンジ 中山努・片岡知子
7.9.ストリングスアレンジ 中山努・片岡知子
8.ホーンアレンジ 中山努・片岡知子
10.11.ストリングスアレンジ 長谷川智樹
プロデュース Instant Cytron 

1.Theme of CHANGE THIS WORLD 省略
2.STILL BE SHINE ★★★★★
3.窓辺のPillow Talk ★★★☆☆
4.しあわせな時間 ​★★★★★
5.HEY DAY,DANDY ​★★★☆☆
6.SEE FOR MILES ​★★★★★
7.(Make Me Your)SPECIAL GIRLFRIEND ★★★★★
8.MARCHIN’ IN THE RAIN ★★★★☆
9.小さな泥棒-La Petite Voleuse- ​★★★★☆
10.HONEY MOON,HONEY PIE ★★★☆☆
11.CHANGE THIS WORLD ★★★★☆
↓2001年盤のみ収録のボーナストラック
12.IT’S A FANCY DAY ★★★★☆

1995年10月25日発売
2001年8月30日再発
東芝EMI(オリジナル盤)
ドリームスヴィルレコード(再発盤)
最高位不明 売上不明

Instant Cytronの1stアルバム。先行シングル「SEE FOR MILES」「しあわせな時間」を収録。

Instant Cytronはボーカル・キーボードの片岡知子、ギターの長瀬五郎の2人組ユニット。メンバーいずれも作詞作曲を行う。インディーズ時代にはベース・プログラミングの松尾宗能が在籍していたが、メジャーデビューの際に脱退して2人組となった。サウンド面でもメジャーデビューするにあたって、生音主体に変化したようだ。当初はテクノポップも取り入れていたという。

Instant Cytronの楽曲の大きな魅力は、卓越したポップセンスと片岡知子のウィスパーボイスにある。ポップとは何かを知り尽くしたようなメロディーと、聴いていて不安になるほどに透明感のある歌声の絡みは素晴らしいもの。


「Theme of CHANGE THIS WORLD」は今作のオープニングを飾る曲。ユニ・チャームのCMソングに起用された。1分半ほどの短めな曲。全編英語詞だが、スキャットのような印象がある。オープニングというには穏やか過ぎる感じもするが、どこか懐かしく温かみに溢れた今作の世界に聴き手を誘ってくれる。


「STILL BE SHINE」は爽快感のあるポップナンバー。イントロ無しでいきなりサビから始まる構成はインパクト抜群。相当にグルーヴ感のあるサウンド面となっている。キレの良いギターサウンドと、浮遊感のあるエレピの絡みは格好良さと心地良さの両方を感じさせてくれる。曲の要所ではホーンも主張して、聴き手に高揚感を与える。
歌詞の意味はよくわからないものの、季節の移ろいや天候をイメージさせるフレーズが多く並んでいる。「僕は書く君の名を 砂に雪に灰に」というサビの歌詞から察するに、恋人と過ごした日々を振り返ったものだと解釈しているが…実際のところはわからない。お洒落かつどこまでもポップな曲であり、実質的なオープニングというポジションにはぴったりな印象。Instant Cytronの楽曲の魅力を知らしめるような役割を果たしていると思う。


「窓辺のPillow Talk」はアコースティックなバンドサウンドで聴かせるバラードナンバー。そのタイトル通り、聴いていると眠くなってしまうくらい優しく心地良いメロディーが展開されている。アコギやピアノが主体になったサウンドもまた、その心地良さを演出している。一日の終わりに聴きたくなるような雰囲気がある。
タイトルの「Pillow Talk」というフレーズだけ見て、濃厚なラブソングかと思ってしまう方もいらっしゃるかもしれない。ただ、それは大きな間違いである。「星と星が会話してる」「星がひとつ 流れてゆく あなたに あげたいな」といった歌詞から想像できるように、ファンタジックな詞世界となっている。カップルというよりは、母親と子供が話している光景が浮かんでくる。メルヘンで可愛らしい今作のジャケ写の世界を具現化した曲という印象がある。


「しあわせな時間」は先行シングル曲。優しく温かみのあるポップナンバー。淀みなく流れていくような美しさを持ったメロディーがたまらない。それでいて、サビはキャッチーそのもの。タイトで隙のないバンドサウンドと、高らかなホーンが絡み合ったサウンドはどのような時に聴いても気持ちが明るくなる。メジャーコードを多用した、長瀬五郎独特のギターサウンドもそれを引き立てている。
タイトルだけ見ると多幸感に包まれた詞世界だと思ってしまうかもしれないが、実際は内省的な内容。「いつまでも忘れない この街で暮らしてた」というサビの歌詞から、どこかへ旅立つ人が描かれているのだろう。そして「しあわせなときはまたくると そう信じてる」と言って歌詞を締める。その部分で何とか明るさを感じさせてくれる印象。
いつまでも聴いていたいと思わせてくれるような、優しさや希望に満ちた曲となっている。自分がInstant Cytronにハマるきっかけになった曲なので、思い入れが深い。


「HEY DAY,DANDY」は温かみのあるミディアムナンバー。サビまでは淡々と進んでいくが、サビはかなりキャッチーな仕上がり。サウンド面では、シンプルなバンドサウンドに加えて波の音や南国風の音も使われており、リゾートミュージックの味わいを感じさせる。様々な要素を取り入れても、それを違和感無く聴かせてしまう能力には脱帽。
歌詞は幸せそうなカップルの様子が想像できるもの。「真っ赤な花」「貝殻」「海はどこまで青いの」「やしの実」など南国を想起させるフレーズが多く並んでいるのが特徴。そちらの国の言葉をイメージしたようなスキャットが多用されているのも中々にインパクトがある。前述したサウンド面も、このような詞世界なら納得がいく。主人公の女性の心情を代弁するかのような、片岡知子の可愛らしい歌声がこの曲では特に映える。


「SEE FOR MILES」は先行シングル曲。丸井キャンペーンのCMソングに起用された。Instant Cytronにとってのメジャーデビュー曲である。何かをしながら聴いていても、思わず聴き入ってしまうようなメロディーがたまらないミディアムナンバー。それでいて、Bメロ〜サビは相当にキャッチーかつ高揚感のある仕上がり。そこには長瀬五郎の卓越したポップセンスが現れている。力強いバンドサウンドと、どこか切ない音色のエレピの絡みが聴きどころ。アレンジの才が際立っているのがよくわかる。
歌詞は夏から秋に変わる頃を舞台に、列車で旅に出たカップルが描かれたもの。幸せな雰囲気も漂っているのだが、それ以上に情景の切なさの方が強く感じられる。見慣れない街の光景や、風の匂いまで浮かんでくるほどに繊細な描写がされている。そのような詞世界を、片岡知子のふんわりした歌声がさらに鮮やかなものにしていると思う。メジャーデビュー曲というには完成され過ぎている印象だが、Instant Cytronの実力がそれだけ高かったということだろう。


「(Make Me Your)SPECIAL GIRLFRIEND」は先行シングル「しあわせな時間」のC/W曲。切なさも感じさせるポップナンバー。とびきりポップなメロディーの中にも、泣きの要素を含ませるのはInstant Cytronの得意技である。バンドサウンドに加えて、ストリングスやピアノもかなり主張している。それらはメロディーや他の音に寄り添った音色のため、聴いていて心地良い。
歌詞は片想いしている女性の心情が描かれたもの。その相手は自分のことを知らないようだ。何とか自分のことを知ってもらいたいと奮闘する姿が想像できる。「いくじなし いざって時 すくんじゃう 今日だって 胸に手を当てたまま」という歌詞は主人公の苦しみがよく伝わってくる。C/W曲ながら、Instant Cytronの王道な作風となっている印象。「切なさ」という魅力がよく現れた曲である。


「MARCHIN’ IN THE RAIN」は今作では唯一、片岡知子が作曲を担当した曲。50〜60年代のアメリカンポップスを彷彿とさせる曲。リアルタイムで聴いたことは無いのに、何故か懐かしいと感じる。それでも、古臭いと感じることも無いメロディーである。弾むようなメロディーと、それを盛り上げるホーンの相性はぴったり。聴いているうちに段々と気持ちが明るくなるはず。
歌詞はタイトル通り、雨の日が舞台となっている。雨をテーマにした曲というと、どうしてもじめじめとした雰囲気の詞世界になりがちな印象がある。ただ、この曲は雨の日を楽しんでいるような雰囲気を持った詞世界が広がっている。恋人と雨の降る街を歩く光景が想像できる。メロディーやサウンド、詞世界などあらゆる要素から構成される「軽やかさ」がこの曲の魅力である。


「小さな泥棒-La Petite Voleuse-」はここまでの流れを落ち着けるバラードナンバー。切なさに満ちたメロディーには聴き惚れるばかり。キャッチーさと美しさを併せ持ったサビは絶品。音の数はそれほど多くないのだが、それでもかなり分厚い音だと感じる。実力派が揃って演奏されているということだろう。
可愛らしさを感じさせる詞世界となっている。この曲で語られる「きみ」が誰のことかはわからないが、その存在を全肯定するかのような優しい言葉が並んでいる。野原で野球をしている子供たちと、それを観る主人公が描かれている。タイトルの「小さな泥棒」というのは、試合が終わってユニフォームを泥だらけにしてしまった子供のことだろう。
味わい深い詞世界に加え、懐かしさや切なさといった魅力も堪能できる。少々地味な佇まいの曲だが、かなり好きな方に入ってくる。


「HONEY MOON,HONEY PIE」はしっとりとした曲調で聴かせる曲。全体的にジャズのテイストを感じさせる曲となっている。ポップ性はほとんどないが、それでも耳に残るメロディーが展開されている。職人と言ってもいいほどに優れたメロディーセンスが発揮されている。重厚なベースや叙情的なエレキギターの音色は聴きどころ。後からフルートやストリングス、ハープが合流して、お洒落に盛り上がっていく。
ロマンティックな詞世界が広がっている。恋人と過ごす甘い夜をイメージさせるもの。「とろけてくるような」「砂糖菓子のような」月を恋人と見ているようだ。これほど月のことを美味しそうに表現しているのは中々見たことが無い。
一曲単位で聴くよりも、アルバムの流れの中で聴いた方が引き込まれると思う。段々とアルバムが終わりに向かっているのが、聴いているだけでもよくわかるはず。


「CHANGE THIS WORLD」は今作のラストを飾るタイトル曲。泉パークタウンのCMソングに起用された。ボサノバのテイストも感じさせる、しっとりとした曲。この曲では流麗なストリングスやハープが特に冴え渡っており、その美しさと心地良さは今作の中でも群を抜いている。後半では子供のコーラス隊が参加し、曲全体から溢れるメルヘンな雰囲気を作り上げている。
歌詞は二人の共作によるもの。おとぎ話のような、聴き流しているだけでもワクワクするような詞世界が繰り広げられている。「お陽様が もうのぞいてる 窓を開いてごらん 少しだけ世界は変わってる」という歌詞が好き。大人になったら失ってしまう感覚も、この曲を聴けば思い出せる。
小沢健二の「おやすみなさい、仔猫ちゃん!」と同じような雰囲気を感じた。ほんわかしていて、優しくて、温かい。「ディズニー映画のよう」という言葉がよく似合う。


「IT’S A FANCY DAY」は先行シングル「SEE FOR MILES」のC/W曲にして、2001年盤のみ収録のボーナストラック。丸井キャンペーンのCMソングに起用された。インディーズ時代のミニアルバムにも収録されていた曲である。中毒性溢れるミディアムナンバー。一度聴けば耳を離れなくなるくらいキャッチーなサビは絶品。「インディーズ時代はテクノポップも取り入れていた」と前述したが、この曲ではその残り香がするようなサウンドが展開されている。他の曲と比べても、打ち込みが目立つ。打ち込みドラムや分厚いシンセベースが顕著。
歌詞の意味ははっきりとわからないが、楽しげな雰囲気はよく伝わってくる。他の曲と比べると、英語詞が多くなっている印象がある。
一曲単位だと好きな曲なのだが、もしこの曲が本編に収録されていたらと想像すると、今作の流れからかなり浮いていたように思う。ボーナストラックのポジションが適任だったのかもしれない。


あまり売れた作品ではないので中古屋では滅多に見かけない。Instant Cytronは優れたポップセンスを持っているが、今作ではそれが遺憾無く発揮されている。丁寧に作り上げられたバンドサウンドもまた素晴らしい聴きごたえである。その完成度は今になって聴いても圧倒的なものがある。「懐かしい」と感じる曲は多くあるが「古臭い」「時代性が強い」と感じることは全く無い。それらの言葉は今作には一切通用しない。まさにエバーグリーンな魅力を持った曲揃い。どのような時に聴いても「しあわせな時間」を与えてくれる名盤である。
現在はこの手のお洒落な音楽が再評価されやすい時代になっている印象なので、中古屋で見かけたら是非とも救い出してほしいと思う。

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