次に再評価されるジャンルは?

数年前から70年代〜80年代のシティポップ・AORが再評価され、数多くのフォロワーが音楽界に生まれている。それは国内だけでなく、海外のリスナーからも評価されているようだ。シティポップ・AORはファンクやソウルといったブラックミュージックとも繋がりが深いため、ceroやSuchmosのようにそれらの要素を取り入れたフォロワーもいる。恐らく、今後もその機運は高まっていくことだろう。


それでは、シティポップ・AORの次に再評価される音楽のジャンルは何だろう。
私は80年代後半〜90年代中頃にひっそりと盛り上がりを見せていた「ガールポップ」だと考える。これを見て納得できる方は、当時を過ごした世代の方でも少ないはず。それもそのはず、チャートの上位に食い込んでくることが少なかった上に、ジャンル自体が完全に定着していたとは言い難いものだったからだ。


80年代後半〜90年代初頭といえば、BOØWYやレベッカ、THE BLUE HEARTS、PRINCESS PRINCESSなどに端を発して『イカ天』で隆盛を極めたバンドブームの時代だったと言える。この時代に「バンド」というものへの憧れが高まったり、中心メンバーがカリスマ的人気(時にアイドル的な人気も)を誇ったりするようになったと思う。
このムーブメントは現在でも根強いファンが数多く存在し、影響を受けた後進のアーティストも少なくない。この世代を過ごした両親の影響を受け、親子2代でこの世代のバンドのファンという例も決して稀ではないだろう。今でも定期的にベスト盤や再発盤がリリースされているというのはその証拠と言える。


バンドブームと同時期に、ピチカート・ファイヴやフリッパーズ・ギターを中心とした渋谷系やネオアコのブームも起きていた。フリッパーズ・ギターが解散してからは、メンバーだった小沢健二と小山田圭吾(CORNELIUS)が少しの間を置いてそれぞれソロ活動を展開し、渋谷系のブームをさらに強固なものにしていった。他にも、ORIGINAL LOVEやカヒミカリィなどが人気を集めた。
チャートの上位を占めることもあまり無ければ、年間チャートの上位に顔を出すことも無かったため、一般に広く膾炙したとは言い難いジャンルだが、今でもこのジャンルを愛好するリスナーは非常に多い。かくいう自分もその一人なのだが。
近年ではシティポップと繋がる形で、このジャンルも再評価されているような印象がある。一部のアーティストは再評価どころか「神格化」に近い扱いを受けている感じすらある。


これらのジャンルが人気を集めていたその裏で、ガールポップも確かに存在していた。極めて小さいムーブメントではあったが、局地的に熱い支持を得ていたと思われる。とはいえこのジャンル、定義がよくわからない。ガールポップ系アーティストをリアルタイムで追いかけていた方でも、その定義をはっきりと答えられる方は少ないのではないか。

以下は極私的な「ガールポップ」の定義を挙げていく。


1.80年代後半〜90年代中頃のデビュー

これは最低条件。この年代で括った以上は当然。定義が曖昧とはいえ、この時点でベテランの域に達していた松任谷由実や中島みゆき、谷山浩子、尾崎亜美などをガールポップの文脈で語るようなものは見たことが無い。90年代後半にデビューしたアーティストの場合、ガールポップとして語られることはあるが。


2.売れそうだったが定着しなかった 

失礼な話だが、この要素はかなり重要だと思う。知っている人は熱烈に支持し、知らない人は全く知らない。嫌いな人も一定数いる。極端だが、これくらいの知名度がガールポップ系アーティストにふさわしいように感じる。さらに細かく条件をつけるとしたら↓のような感じ。

・ヒットシングルはあれど、大幅なヒットは記録していない。(世代の方の一部が知っている程度の)
・シングルやアルバムでミリオンを達成したアーティストは除外。(例:今井美樹、広瀬香美、岡本真夜、JUDY AND MARYなど)


3.アイドル的要素を持っている
ガールポップ系アーティストをフィーチャーしたその名も『GiRLPOP』なる雑誌が存在するが、創刊した当初はこの条件を満たすアーティストが数多く取り上げられていた。余談だが、ジャンルの呼び名はその雑誌の名前が由来。とは言っても、この条件の優先順位は低め。
なお、雑誌『GiRLPOP』は2011年夏に季刊という形で復刊したが、それ以降はグループアイドルが扱われることが多くなっている。ただ、そちらとは別物だと解釈させていただく。
さらに細かく条件をつけるとしたら↓のような感じ。

・ソロアーティストがメイン。なおかつ、ビーイング系や小室ファミリーといった大きな括りに入らない存在のみ。ユニットやバンドの場合も同じく。
・自作はしていても、提供曲もかなり多い。
・アイドルとしても活動できていたのではと思えるような魅力がある(実際に元アイドルも一部いた)


このような感じ。かなり雑な定義なので、異論は幾らでも出てくるだろう。
それでは、ガールポップというジャンルの魅力及び、再評価されてもいいと思う理由を挙げていく。


・楽曲のクオリティの高さ

これは一番の魅力である。自作・提供問わず優れたメロディーメーカーが揃っており、その体制となればまずハズレは無い。
バブル期と重なる作品については、制作に多額の費用をかけることができたためか、今聴いても音質が良いと感じられるものが多い。サウンド面についても、実力派ミュージシャンが多数参加していることがよくあり、聴きごたえのあるサウンドを楽しめる。サウンド面ではシンセを始めとして時代性を感じさせるものもあるが、それもまた魅力の一つ。


・良い意味で雑多である

女性ボーカルが好きでよく聴くという方は多いと思うが、女性ボーカルと一口に言っても様々なタイプがいるのは事実。自分は女性アーティストの歌声で「可愛い系」「爽やか系」「パワフル系」などと勝手に区分けしているのだが、この時代のガールポップ系アーティストは実に多彩。歌声だけでなく、音楽性もまた然り。王道なポップスばかりかと思えば、シティポップ・AOR、ブラコン、フュージョンなど変化球も様々。それによって、聴き手それぞれの好みのアーティストを見つけやすいはず。


・作品を探しやすい

しょうもないと感じるかもしれないが、割と重要な要素だと思う。そこそこの知名度を持ったアーティストが多く当てはまっているので、中古屋でもその作品を見かけやすい。聴こうと思えば、よほどマイナーなアーティストでもない限り、すぐに作品を集めることができるだろう。これはリスナーにとっても、過去の作品から着想を得て新たな作品を作り出そうとする制作者側にとっても嬉しい要素である。


・アイドルとの親和性が高い

近年では音楽界の大きな存在として君臨しているアイドルだが、ガールポップが登場して密かに盛り上がっていた80年代後半〜90年代中頃は「冬の時代」と言ってもいい状態だった。そのような時代の中で、ガールポップ系アーティストが従来のアイドルの役割を担っていた面もある。そのため「アイドルがカバーしたら人気が出るのでは?」と思うような曲がかなり多くある。詞世界や曲調といった面で、今でも多くのアイドルファンに受け入れられそう…という意味。


・声優やアニソン歌手との親和性も高い

声優の音楽活動はかなり盛んで、現在では一つのジャンルとして完成している印象がある。その活動スタイルや音楽性の幅広さは、かつてのガールポップを彷彿とさせる。当時の人気声優だった笠原弘子や國府田マリ子もガールポップに括られることがあったので、現在の声優の音楽作品を聴く方にも支持されるような要素はあると思う。何より、女性アーティストの持つ明るく華やかなノリはいつの時代でも「オタク」な層を掴んで離さないものだ。


このような感じ。「定着度が微妙」「そもそも性別をジャンル名に入れていいのか」「括りが曖昧」などと問題点も数多くあるものの、再評価されることを心より願っている。