DOING WONDERS
原田真二
1992-11-20


【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 原田真二
プロデュース         原田真二

1.SEXUAL SELECTION ★★★★☆ 
2.見つめてCARRY ON ​★★★★★
3.DOING WONDERS ★★★★☆
4.夏のDELAY ★★★★★ 
5.彼女にアンコール ★★★★☆
6.悲しきジョーク ​★★★☆☆
7.風をさがした午後 ★★★★☆ 
8.SLENDER GIRL ★★★★☆
9.EVERY NIGHT ★★★☆☆

1986年10月21日発売(CD・LP・CT)
1992年11月29日再発(CD)
2003年?月?日発売(SHINJI HARADA COMPLETE BOX)
2012年7月4日発売(35th Anniversary Box・リマスター・Blu-Spec CD)
フォーライフ
最高位33位(LP)
最高位38位(CT)

原田真二の9thアルバム。先行シングル「見つめてCARRY ON」を収録。前作「Magical Healing」からは約11ヶ月振りのリリースとなった。

原田真二は1977年に18歳にしてデビューし、「てぃーんず ぶるーす」「キャンディ」「シャドー・ボクサー」「タイム・トラベル」など次々とヒットを飛ばした「早熟の天才」と言えるシンガーソングライターである。日本におけるピアノロックの元祖と称されることも多い。当時はその容姿も相まって、アイドル的な人気を得ていた。
1980年にポリドールに移籍し、自らのバンド「原田真二&クライシス」を結成。1983年にフォーライフに戻るも、1980年以降はヒットチャートを離れ、自らのやりたい音楽を追求していくこととなる。様々なジャンルを取り入れても、ポップ性は忘れない。そこは一貫している。ちなみに、原田真二&クライシスは「Magical Healing」をリリースした1985年に解消している。

今作は前作「Magical Healing」と同様に、当時全盛を極めていたPrinceを彷彿とさせるエレクトロファンクが展開されている。メロディーやサウンドを聴いているだけだと、とても日本の音楽とは思えなくなるほど。 Princeに大きな影響を受けた日本人アーティストの代表格は岡村靖幸だが、この時期の原田真二も名前を挙げられても良いのではと思う。独特のフェイクは本家にも劣らないクセの強さがある。


「SEXUAL SELECTION」は今作のオープニング曲。キレの良いエレクトロファンクナンバー。一度聴けば耳に絡みついてしまうメロディーは絶品。聴いているだけでも思わず身体が動いてしまうような、力強く存在感溢れるリズムがたまらない。打ち込みを多用しつつも、サウンド面の聴きごたえは生音にも負けず劣らず。
歌詞は英単語が多用されており、どこかスカした印象のあるもの。タイトルからも想像できるかもしれないが、人を愛するという行為そのものについて語られたような詞世界となっている。しかし、全体を通して見るとかなり官能的な詞世界。Princeからの影響がよく表れているように感じる。
オープニングだけあって、勢いの良さで一気に聴き手の心を掴んでくれる曲である。


「見つめてCARRY ON」は先行シングル曲。繊細さ漂うメロディーが心地良いミディアムナンバー。それでも、サビはかなりキャッチーに仕上げてくる。シングル曲ならではの要素…というよりは、原田真二の優れたメロディーセンスの現れと言った方が良いだろう。打ち込みを多用した、どことなくひんやりした雰囲気を持ったサウンドが展開されている。聴き流していてもそれとわかる、この時代特有のシンセドラムの音がクセになる。
歌詞は恋人への想いをストレートに告げるもの。孤独に苦しんでいた主人公の気持ちを救ってくれたようだ。「もう離さない」「君守るさ」といったサビの力強いフレーズは清々しささえ感じられる。
全編を通して派手に盛り上がるわけでもない淡々とした感じの曲なのだが、それでも引き込まれる。


「DOING WONDERS」は今作のタイトル曲。淀みなく流れていくようなメロディーが心地良いミディアムナンバー。そのようなメロディーに反して、サウンド面はエレクトロファンク色の強いもの。シンセベースの分厚い音色や、くっきりとした音のシンセドラムが特に前面に出ている。その後ろで控えめながらに主張するギターサウンドも聴きどころ。
歌詞は恋人同士の夜をイメージさせるもの。「君と ひとつの 夜ならば明けないで」「不確かな関係でも トキメキははじめのままさ」といった歌詞だけで、様々な光景が浮かんでくる。原田真二の色気のあるボーカルにより、濃厚な詞世界の魅力がさらに高まっている印象。今作の世界観を象徴するような曲になっており、その辺りはタイトル曲ならでは。


「夏のDELAY」はしっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。いきなりこの曲が流れてきても、思わず聴き惚れてしまうような美しさを持ったメロディーが展開されている。原田真二のメロディーメーカーとしての面目躍如である。サウンド面はやはり力強いもの。温かみのあるシンセや、重厚なスラップベースがたまらない。この曲ではサビを始めとしてコーラスワークも曲を盛り上げており、曲の聴きどころとなっている。
歌詞は過ぎた夏の恋を振り返ったもの。全体を通して切なさ溢れる詞世界となっており、叙情的なメロディーの魅力を演出している。「片手の夢は いつしか両手にあふれ 君を抱き寄せる腕も ときめきも忘れ物」という歌詞が好き。「SEXUAL SELECTION」のような派手さは無いものの、心に沁みるバラードである。


「彼女にアンコール」はここまでの流れを変えるような、華やかなポップナンバー。全体を通じてキャッチーなメロディーなのだが、憂いを帯びたAメロも素晴らしい。今作では数少ない、派手さを持ったこの曲を支える良いアクセントとなっている印象がある。サウンドは軽やかな感じ。楽しげな音色のシンセが曲に彩りを加えている。
歌詞は別れた恋人とやり直したいと願う男性の想いが綴られたもの。それがタイトルの「アンコール」に表れている。「I never let you down 誓うさ Happiness」とまで言い切ってしまう、キザで強気な詞世界がインパクト抜群。果たして復縁は叶うのだろうか。原田真二の歌声と詞世界がぴったり合っている印象。「格好良い」とも「ダサい」とも言える曲だが、それが魅力。


「悲しきジョーク」はここまでの流れを落ち着けるバラードナンバー。前の曲から一転して、かなりしっとりとした曲になる。繊細さに満ちたメロディーは、聴き手の胸に優しく沁み込んでいくようである。音の数はかなり少ないものの、それがメロディーやボーカルの良さを引き立てている。琴のような音色のシンセは原田真二の王道と言えるサウンドだが、この曲ではそれが効果的に使われている。
歌詞は新たな恋人に出逢った男性の想いが語られたもの。相手は過去の記憶を捨てきれないようで、それを全て忘れて自分と付き合ってほしいと願っている。どちらかというと幸せな雰囲気のある詞世界なのだが、メロディーやサウンドのせいか重さが漂っている。それでも引き込まれるのは原田真二の実力ゆえか。


「風をさがした午後」は懐かしさの漂うポップナンバー。曲全体を通して派手に盛り上がるような曲調ではないが、やはりポップ性は変わらない。サウンド面については、一つ一つの音が無駄なく鳴らされているような感覚がある。硬質なリズムながらも、逆にそれが心地良く感じられる。随所に入る、どこか枯れた感じの音色のサックスは絶品。
歌詞は青春時代の日々を振り返ったものと解釈している。「教室を出たかった」「一人だけでアクセル ならしてみたかった」「確かにどこかへ向かってた」など、過去を振り返った描写が多く登場するのが特徴。様々な思い出を愛おしむようなボーカルがこの曲の世界観を演出している。今作の中でもそれほど目立たない印象だが、それでも割と好きな曲。


「SLENDER GIRL」は先行シングル「見つめてCARRY ON」のB面曲。今作の中でも一際存在感を放つエレクトロファンクナンバー。メロディー自体はそれほど盛り上がらないものの、サウンド面の聴きごたえはかなりのもの。骨太なギターサウンドには圧倒されるばかりである。派手で硬いリズムは、聴いているだけで思わず身体を動かしてしまうこと請け合い。
歌詞は「SLENDER GIRL」に言い寄る男性の心情を描いたもの。歌詞を見るに、どこか陰のある女性像のようだ。そして、男性はそのような女性に振り回されているが、その状況すらも楽しんでいる。スリルのある詞世界となっており、サウンド面との相性が良いと思う。繊細な雰囲気で聴かせるA面曲「見つめてCARRY ON」とはまた異なる魅力を持った曲である。


「EVERY NIGHT」は今作のラストを飾る曲。しっとりとした曲調が心地良いバラードナンバー。訴求力に満ちた、優しく柔らかいメロディーが展開されている。語りかけるようなボーカルも相まって、聴いていると思わず眠くなってしまうほど。サウンド面はアコギやストリングスが主体となったシンプルなもの。
歌詞は恋人と別れた後の男性の心情が綴られたもの。全体を通じて哀愁漂う詞世界となっている。「逢いたい」と絞り出すように歌うサビ終わりは鳥肌が立ってしまう。その部分に主人公の想いが詰め込まれているように感じる。
この曲がラストに置かれたことで、バラエティ豊かな作風ながら収まりが良くなっている印象。ラスト以外に置き場所の無い曲ではあるが。


中古屋では滅多に見かけない。原田真二のオリジナルアルバムは軒並み廃盤になっており、見かけてもそれなりの高値で出回っていると思われる。
前作「Magical Healing」は派手なエレクトロファンクが並んでいたものの、今作は「聴かせる」タイプの曲が多め。地味と言ってしまったらそれまでだが、このような作品こそ原田真二のメロディーセンスを感じられる。
サウンド面の聴きごたえも、前作とは違う方面ではあるが変わらない。一曲一曲の完成度が高い上に、全体を通しての流れも良いため、曲数自体は少ないが満足度はかなりのもの。自分が思う原田真二の全盛期はこの時期。

​★★★★☆