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米村裕美
1992-05-21


【収録曲】
全曲作詞作曲 米村裕美
2.3.作詞 岩切修子
全曲編曲       亀田誠治
2.コーラスアレンジ 崎谷健次郎
サウンドプロデュース 亀田誠治

1.見えなくなったシャツへ ​★★★★☆
2.風の約束 ★★★★★ 
3.つづきをみていってね ★★★☆☆ 
4.初雪 ★★★★☆ 
5.台風とひまわり ★★★☆☆ 
6.いたいほどわかるんです ★★★☆☆
7.一枚の写真 ​★★★★☆
8.Treasure〜だいじなもの〜 ​★★★★★
9.卒業 ​★★★☆☆
10.ただいま ★★★★☆ 
11.初雪-reprise- 省略

1992年5月21日発売
ハミングバード
最高位不明 売上不明

米村裕美の2ndアルバム。先行シングル「Treasure〜だいじなもの〜」を収録。前作「もういちどあの場所へ」からは約11ヶ月振りのリリースとなった。

米村裕美は1991年にデビューしたシンガーソングライター。現在も音楽活動を行なっているかどうかは不明だが、現在までにシングル3作・アルバム5作をリリースしている。相馬裕子や國府田マリ子を始めとして、他のアーティストへの楽曲提供も積極的に行なっていた。

米村裕美は子供の頃の風景を想起させる、どこか懐かしい詞世界を持ったポップスを得意としていた。可愛らしさや透明感に満ちた独特な歌声や、自然に耳に入ってきて、そのまま離れなくなるメロディーセンスが魅力。


「見えなくなったシャツへ」は今作のオープニング曲。爽やかなアコースティックポップナンバー。派手に盛り上がるわけではないが、それでもキャッチーなメロディーが展開されている。サウンド面はオーソドックスなバンドサウンドが主体なのだが、一つ一つの楽器が確かな存在感を放っており、かなりの聴きごたえがある。特に、青山純による一打一打がくっきりとしたドラミングがこの曲に力強さを与えている。
歌詞は別れた恋人への想いが綴られたもの。「あなた」が着ていたのは白いシャツ。「突然消えたりしないで」「やさしい言葉もいらない もっと我慢する お願いそばにいて」など、主人公の気持ちが痛いほどに伝わる詞世界である。訴求力のあるボーカルがまた、この曲の切なさを高める。オープニングというには少々重いテーマの曲だと思うが、メロディーやサウンドはかなり明るい。


「風の約束」は先行シングル「Treasure〜だいじなもの〜」のC/W曲。ノスタルジーな作風を得意とする米村裕美だが、この曲は比較的AOR色の強い大人な作風。このアレンジはコーラスで参加した崎谷健次郎の影響もあるのだろうか?淡々と進んでいく美しいメロディーや、聴きごたえのあるバンドサウンドがそのような雰囲気を演出している。まさに「通りすぎてゆく風」のように涼しげなイメージがある。
歌詞は「懐かしいあの人」のことを回想したもの。その存在を通りすぎてゆく風に例え、二人での思い出を暮れていく空に例えている。「大人な作風」と前述したが、かつての思い出を振り返った詞世界は米村裕美の王道と言えるもの。ただ、王道を少し外したメロディーやアレンジが自分好み。


「つづきをみていってね」は爽快感のあるポップロックナンバー。一度聴けばしばらく耳を離れなくなるサビはインパクト抜群。キレの良いギターサウンドを始めとした力強いバンドサウンドに加え、シンセやバイオリンが彩りを添えている。米村裕美の曲にしては珍しく、比較的ロック色が強めのサウンドとなっている。
歌詞は岩切修子によるもの。歌詞全体としては難解で意味はよくわからない。ただ、サビで繰り返される「みてて わたしをみていて」というフレーズがとにかく耳に残る。もはや歌詞がそれだけだと錯覚してしまうほど。メロディーとぴったり合っているからだろう。また、聴いていて笑ってしまうほどにあどけなさのある歌声もこの曲の面白さの一つ。


「初雪」は前の曲から一転して、しっとりと聴かせるバラードナンバー。どことなく懐かしさを持った、切ないメロディーがたまらない。アコギや柔らかいシンセの音色が前面に出ており、曲そのものの優しさをより引き立てている。サビのメロディーが大江千里の「本降りになったら」と似ている印象がある。影響を受けているのだろうか?
歌詞は上京して別れた昔の恋人へのメッセージのようになっている。主人公の女性が上京したようだ。「もう ふたりはなれても あなた思う気持ちはずっと つながっているとわたし信じていたい」という歌詞は主人公の女性の想いがよく伝わってくる。寂しさを隠しきれない様子の詞世界が印象的である。曲全体を通じて「懐かしさ」という要素を失っていないのは脱帽。


「台風とひまわり」は前の曲と同じく、落ち着いた曲調で聴かせるバラードナンバー。キャッチーさは全く無いものの、聴き流すのが非常に心地良いメロディーである。サウンド面はギター、ベース共にアコースティックなもの。うっすらとシンセを用いているのも絶妙。ところどころで虫の鳴き声のような音が入っているのも特徴的で、この曲の世界観を演出している。
歌詞は自然を想起させるフレーズが多く並んでいる。「庭のつげの枝」「ひまわり」「秋が匂う風」「夏の花」といったフレーズが顕著。歌詞全体としては少々難解なのだが、台風の日や過ぎ去ったあとの光景が浮かんでくるような詞世界である。この曲に関しては、凝った音作りを楽しむ曲だと思っている。


「いたいほどわかるんです」はアコースティックなサウンドで聴かせるバラードナンバー。全体を通して派手に盛り上がるような曲ではないのだが、それでもサビは耳に残る仕上がり。米村裕美の優れたメロディーセンスがしっかり現れている。サウンド面はアコギやピアノに加え、フルートも効果的に使われている。曲に表情をつけるようなフルートの音色は絶品。
歌詞については、語尾に「〜です」が多用されているのがインパクト抜群。別れた恋人へのメッセージのようになっている。この手のテーマの曲は今作に多い。「追いかけてたあの夢に 手を伸ばして もういちど」というサビの歌詞はとても優しく、円満な別れ方だったのかと邪推してしまう。バラードが続くが、それでも飽きない構成が見事。


「一枚の写真」はしっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。繊細さや切なさを感じさせるメロディーには引き込まれるばかり。バラードナンバーが連続してきたが、その中でも比較的音の数が多めである。サウンド面はアコギやピアノが前面に出たシンプルなもの。浮遊感のあるシンセパッドも随所に使われており、サウンドにアクセントをつけている。
歌詞は学生時代を振り返った内容。男友達なのか、かつて付き合っていたのかは具体的に描写されていないが、その相手は転校して近況がわからないようだ。二人が映った「一枚の写真」を見た主人公の想いが綴られている。切なさに満ちた詞世界なので、聴いているだけでも主人公の気持ちになったような気分になる。
まさに米村裕美の王道と言った感じのバラードとなっており、今作収録のバラードナンバーの中では一番好き。


「Treasure〜だいじなもの〜」は先行シングル曲。南都銀行のCMソングに起用された。米村裕美の楽曲の中でも著名な方だと思われる。親しみやすさに溢れたポップナンバー。売れ線寄りなキャッチーさを持ったメロディーながら、懐かしさも感じさせる。サウンド面はシンプルなバンドサウンドとその脇を固めるシンセに加え、マンドリンやハーモニカも効果的に使われている。
歌詞はメッセージ性の強いもの。人がそれぞれに持つ「だいじなもの」を見つけてほしい…というもの。聴き手に寄り添った、優しさのある詞世界がたまらない。自分は特に「どんなところにたどり着いても 君は君だよ」というサビのフレーズが好き。
メロディーや歌詞、サウンド面に至るまであらゆる面がとにかく自分好み。米村裕美の楽曲単位の最高傑作だと思っているし、90年代ガールポップにおける名曲だと思っている。


「卒業」はここまでの流れをぐっと落ち着けるバラードナンバー。6分45秒ほどの長さであり、今作の中でも最長。繊細さ漂うメロディーが展開されており、それには聴き惚れるばかり。最初はピアノ一本だが、曲が進むにつれて音の数が増えていくアレンジが印象的。後半ではギターサウンドも入って壮大なサウンドになる。
歌詞はタイトル通り、卒業式の日を舞台にしたもの。友人との別れをテーマにした詞世界。今 ふたり並んで歩く 今 この瞬間巻き戻して ずっとずっと見てたい」「これが最後なの そんなことをまだ思わせないで」といった歌詞は何とも切ない。一言一言を絞り出すように歌うボーカルがこの曲の寂しげな雰囲気を何よりも表現している。


「ただいま」は爽やかさのあるポップナンバー。淀みなく流れていくようなメロディーが展開されており、それはとても聴き心地が良い。イントロや間奏、アウトロでサックスがフィーチャーされているのが特徴で、その音色で曲自体が持つ軽やかさを高めている。
歌詞はかつての恋人と復縁した女性の心情を描いたもの…と解釈している。「だいじなもの はなさない はなしたくない」「ただいまって聞かせて おかえりを言わせて」といった歌詞は力強さがある。米村裕美のふわふわとした歌声も、いつもより少し力を増しているように感じられる。この曲が実質的なラストなのだが、最後までポップ性を忘れない構成となっている印象。


「初雪-reprise-」は今作のラストを飾るインスト曲。「初雪」のサビの部分を、吉川忠英によるアコギで奏でている。原曲の持つ切なさをより引き出した音色がたまらない。


あまり売れた作品ではないので中古屋では滅多に見かけない。
90年代ガールポップの中でも割とマイナーなアーティストだと思うが、作品のクオリティはかなり高い。若き日の亀田誠治が全曲の編曲を行なっているのだが、バンドサウンドとシンセのバランスが取れているのが素晴らしいところ。ノスタルジックな曲を得意としているだけあってバラードが多めなのだが、今作は流石に多過ぎたという印象が否めない。アルバムを通して聴くよりも、一曲単位の方が楽しめるように思う。

​★★★☆☆