Living
paris blue
1995-08-23


【収録曲】
全曲作詞 谷口實希
5.作詞 日比野信午
全曲作曲編曲 日比野信午
11.オーケストラアレンジ 岩崎琢
プロデュース  多田勉

1.朝が来る ★★★★★
2.LOVE IS ALRIGHT ★★★★☆
3.旅に出よう! ​★★★☆☆
4.I LOVE YOU SO ★★★★☆
5.It’s a fine day. ​★★★★☆
6.コスモス ★★★☆☆
7.新しい私(album version) ★★★★★
8.あなたと夜と音楽と ★★★☆☆ 
9.友達のまま ★★★☆☆ 
10.仲直りしよう ​★★★★☆
11.変らないものがあるなら ​★★★☆☆
12.朝が来る(reprise) 省略 

1995年8月23日発売
BMGビクター
最高位不明 売上不明

Paris Blueの4thアルバム。先行シングル「新しい私」「LOVE IS ALRIGHT」を収録。

Paris Blueは1992年にデビューし、1996年に活動休止した2人組ユニット。ボーカル・作詞の谷口實希、コーラス・作曲・編曲の日比野信午から成る。日比野信午は時折サックスも演奏する。ユニット名の表記に関しては「PARIS BLUE」「paris blue」「パリスブルー」と様々な表記があるが、当ブログでは「Paris Blue」で統一する。
Paris Blueの活動休止後、谷口實希は谷口美紀名義でソロデビューしてシングルを1枚リリースしたが、その後は行方知れず。日比野信午は作曲家や編曲家として活動しているが、体調のせいか精力的な活動ができているとは言えない状態。

Paris Blueは「新時代のアコースティックサウンド」を標榜し、フレンチポップやシティポップ・AORを取り入れたお洒落なポップスを得意としたユニットである。谷口實希の甘く可愛らしい歌声と、日比野信午のハイトーンボイスを生かした透明感のあるコーラスワークが魅力的。

今作ではデビュー以来編曲に関わってきた岡本洋が参加していないのが特徴。その影響もあるのか、日比野信午の趣味性がよく現れた作風となった。それはシティポップ・AOR。Paris Blueは以前からそうした要素を取り入れてきたが、今作はいつになくそれらの色が強い。
ちなみに、今作のテーマは「楽しい休日」というもの。まったりしながら聴きたくなる曲が揃っている。


「朝が来る」は今作のオープニング曲。フィリーソウルやAORの要素を強く感じさせるミディアムナンバー。耽美的なメロディーやサウンドには聴き惚れてしまうばかり。鳥山雄司による、フュージョン色が強いギターサウンドも絶品。
歌詞は「悲しみの中の強さ」をテーマにしたもの。「めぐり逢う数だけ物語があるの 過ごして来た日々は朝に続いてゆく」という歌詞が好き。どれだけ幸せな時でも、どれだけ悲しい時にも同じように朝はやってくる。全体的に内省的な雰囲気を持った詞世界となっているが、ネガティブな方に振り切っていないのは谷口實希の歌声のおかげだろう。オープニングというには渋過ぎる曲だが、今作の世界観の起点となる役割を果たしていると思う。


「LOVE IS ALRIGHT」は先行シングル曲。テレビ東京系番組『HERO’Sバー』のエンディングテーマに起用された。弾むような曲調が心地良いポップナンバー。これまでの作品よりもAOR色が強くなったメロディーが展開されているのが特徴。しかし、お洒落で活気のあるサウンドはこれまでと何ら変わらない。マニアックになり過ぎない程度の味付けが見事。日比野信午がサックスを演奏しているのがこの曲の大きなトピックである。
歌詞は恋愛関係で色々あった女性の想いが綴られている。誰かが主人公の今の恋人に噂を吹き込んだようだが、主人公はそれを認めている。「あなたと出逢うその前 確かに色々あったけど それは許して下さい 今の愛に面じて」「どうか許してください 今の愛を信じて」…字面だけ見るとシリアスなのだが、全体を通してコミカルなイメージの詞世界になっているのが特徴。Paris Blueの個性が遺憾無く発揮された王道な曲になっていると思う。


「旅に出よう!」は開放感に満ちたポップナンバー。どこがサビなのか少々わかりにくいものの、聴いているだけでも気分が明るくなるようなメロディーは聴き心地が良い。小林靖宏(coba)によるアコーディオンがフィーチャーされているのがこの曲のサウンド面の特徴。楽しげなメロディーに寄り添うような音色となっている。その音が印象的で気付きにくくなってしまっているのだが、グルーヴ感のあるバンドサウンドもたまらない。
歌詞はタイトル通り、旅に出て新たな発見をした女性が描かれたもの。女性の喜びが伝わってくるような詞世界である。メロディーやサウンドだけでなく、ボーカルも楽しげな感じ。それらのおかげで、鼻歌を歌いながら聴きたくなるような曲に仕上がった。


「I LOVE YOU SO」はここまでの流れを落ち着けるミディアムナンバー。曲の世界に浸れるような、美しいメロディーが心地良い。派手さは無くてもしっかり耳に残るメロディーは日比野信午の優れたメロディーセンスの現れである。アコギを前面に押し出しつつも、グルーヴ感のあるサウンドになっている。ギタリストの古川昌義の演奏が冴え渡っている。
歌詞は男目線で相手を励ましているのが特徴。「君と出会ってから思うよ 愛されることばかりじゃなく 愛することが何より大事なんだと」という歌詞が印象的。全体的に誠実な男性像が浮かぶ詞世界なのだが、谷口實希が言われたい言葉を並べたのだろうか?
甘く艶のある谷口實希の歌声がこの曲で冴え渡っている。ポップナンバーでももちろん魅力的なのだが、この手の曲では特に映える。


「It’s a fine day.」は日比野信午がメインボーカルを務めた曲。爽快感のあるポップナンバー。シンセが主体となった、煌めきのあるサウンドは90年代のJ-POPならではの魅力である。それでもParis Blue独特のお洒落な雰囲気は忘れない。
歌詞も日比野信午によるもの。寝坊できるはずの休日なのに、いつもよりも早く起きてしまった朝を描いたもの。そして、恋人と街に出かけることを決める。まさに「It’s a fine day.」な光景を想像できる。多幸感のある詞世界に仕上がっている。いつもはコーラスに徹している日比野信午だが、メインボーカルにも耐えられる「いい声」の持ち主である。コーラスだけなのが勿体無く感じられるほど。日比野信午のボーカル曲をもっと聴きたかったと思う。


「コスモス」はしっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。繊細さに満ちたメロディーは聴き手の心を掴んで離さない。サウンド面はピアノ以外は全て打ち込みによるもの。日比野信午曰く「テクノバラード」。どことなく宇宙的な雰囲気を持ったサウンドに仕上がり、タイトルにも新たな意味が付け加えられたように感じる。
歌詞は谷口實希が亡母への想いを綴ったもの。コスモスは谷口實希の好きな花のようだが、母親は夏になるといつも部屋に飾ってくれたという。「もしも又どこかで 逢える日が来るなら 私あの日よりも弱くはないでしょう」という歌詞からは想いがよく伝わって来る。
自分はまだ、この曲で描かれた心情を理解できる年齢ではないが、いつかはこの曲の歌詞が沁みる日が来るのだろう。


「新しい私(album version)」は先行シングル曲。今作収録にあたってリミックスされている。元々はニッポン放送系番組『ぽっぷん王国ミュージックスタジアム』でオーディションをして結成されたTQPというバンドのために作っていた曲だという。上質な音作りが心地良いポップロックナンバー。跳ね上がるようにポップなメロディーは聴き手の心を明るくしてくれる。ジャズやソウルの要素を取り入れたサウンドや、サビのメロディーはThe Style Councilの「Shout To The Top」を思わせる。
歌詞はタイトル通り、髪を切って「新しい私」になろうとする女性を描いたもの。髪を切ると新鮮な気持ちになれるのは男女共に同じだと思うが、これからへの期待や不安が感じられる詞世界である。シングル曲になっただけあって、Paris Blueの王道と言える要素が詰まった曲である。


「あなたと夜と音楽と」はジャズのテイストを取り入れた曲。それもそのはず、ジャズの名曲「You And The Night And The Music」からタイトルを取ったようだ。恐らく、ジャズは日比野信午にとってのルーツなのだろう。ゆったりとした曲調は聴いていて安心感がある。ビッグバンド風のアレンジがされているが、シンセを前面に出してエレクトロの要素も混ぜているのはParis Blueならでは。
歌詞はロマンティックな夜の光景が浮かんでくるようなもの。「月の吐息ひとつふたつ聞こえるの」「波の音が静かに果てなくつづく」といった歌詞が顕著。谷口實希の艶のある歌声によって、歌詞の一言一言の美しさが引き立てられている。一歩間違えたらいやらしい曲になってしまいそうなのだが、そこをギリギリで保って上品さを感じさせる曲にしている。


「友達のまま」は先行シングル「新しい私」のC/W曲。今作収録にあたってリミックスされているという。この曲の続編「やっぱり友達のまま」が「LOVE IS ALRIGHT」のC/W曲となっているが、アルバム未収録。ほんわかした雰囲気のあるポップナンバー。フレンチポップとボサノバを混ぜたような、お洒落で柔らかいサウンド面が特徴。曲のある部分で犬の鳴き声が入っているのがインパクト抜群。犬好きという谷口實希の意向が反映されたようだ。
歌詞は男目線となっている。タイトルからも想像できるように、友達から恋人への段階を超えられない男性の想いが綴られたもの。KANの楽曲でも聴いているかのような気分になる詞世界である。
2分55秒と短めな曲ながら、全体的に遊び心に満ちた曲となっており、C/W曲ならではの自由度の高さを実感させてくれる。


「仲直りしよう」は売れ線寄りなメロディーがたまらないポップナンバー。今作の中でも、特にキャッチーなメロディーが展開されたアルバム曲だと思う。力強さと叙情性を併せ持ったギターサウンドはAOR色が強いものだが、曲自体はかなりポップな仕上がり。
歌詞はタイトル通り、喧嘩しているカップルが描かれたもの。お互いがお互いに素直になれない。そのもどかしさが痛いほどに伝わってくる詞世界となっている。どうせなら笑い合いたいのに。ただ「歌っていてなんだかうれしい気持ちになる」という谷口實希の言葉通り、微笑みながら歌っているような雰囲気が感じられる。曲調と歌詞のギャップが中々に激しい印象だが、それによって明るさが保たれていると思う。


「変らないものがあるなら」はしっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。聴き手の心の奥にゆっくりと沁みていくようなメロディーは絶品。ピアノとストリングスのみで構成された、極めて静謐な雰囲気に包まれたサウンドが展開されている。そのようなサウンド面によって、メロディーそのものの持つ美しさが高められている。
歌詞はウエディングソングと解釈できるもの。二人が出逢ってから過ごしてきた日々を回想している詞世界。その全てを優しく包み込むような谷口實希の歌声は、主人公の幸せな気持ちを何よりも上手く表現している。谷口實希の歌声の「訴求力」という魅力がよく現れた曲だと思う。今作の実質的なラストというポジションにぴったりである。


「朝が来る(reprise)」は今作のラストを飾る曲。サビの英語詞「You gotta wake up early in the morning」というフレーズを繰り返したもの。この曲がラストに置かれていることによって、またもう一周聴きたくなるような魅力が生まれていると思う。


あまり売れた作品ではないが、中古屋ではそこそこ見かける。日比野信午の色が比較的強く現れた作品となったわけだが、従来のポップ性は失われていない。「楽しい休日」というテーマで制作されただけあって、開放感のある曲としっとりした曲とがバランス良く並んでいるのも特徴。今作に関しては、一曲単位で聴くよりもアルバムの流れで聴いた方が良いと感じられる曲が多いと思う。

谷口實希の歌声について何度も言及しては褒め称えてきたが、自分にとっての「理想の女性ボーカル」と言える存在のため。似たような歌声の持ち主は沢山いそうで、未だに出逢えていない。幸いYouTubeに楽曲が転がっているので、それを聴いて良いと思った方には是非とも作品を入手していただきたい。

★★★★☆