YOURS
FAIRCHILD
1994-05-20



【収録曲】
1.8.作詞 石川あゆ子・YOU
2.作詞 麻生圭子
3.10.作詞 YOU
4.作詞 蓮田ひろか
5.作詞 石川あゆ子
6.作詞 巻上公一
7.作詞 YOU・蓮田ひろか
9.作詞 戸田誠司
全曲作曲編曲 戸田誠司
プロデュース FAIRCHILD 

1.偽名の口唇 ​★★★★★
2.悪戯の森のレイン ★★★★☆
3.PUPPY LOVE ★★★★☆ 
4.Q・Q・Q ★★★☆☆
5.さよならは短い言葉 ​★★★★☆
6.アウラ ​★★★☆☆
7.おまかせピタゴラス ★★★★★
8.双子のバイオリン ★★★☆☆
9.NEUTROPIC ​★★★★☆
10.嘆きの健康優良児 ★★★★★ 

1988年9月7日発売
1994年5月20日再発
ポニーキャニオン
最高位不明 売上不明

FAIRCHILDの1stアルバム。先行シングル「おまかせピタゴラス」を収録。今作発売後に「嘆きの健康優良児」が「Bye Bye キッチン・ガール」のC/W曲としてシングルカットされた。

FAIRCHILDは1988年にデビューし、1993年に解散した3人組ユニット。現在はマルチタレントとして活躍するYOUがボーカル、SHI-SHONENのリーダーだった戸田誠司がベース・プログラミング、ギターの川口浩和という構成。YOUが作詞、戸田誠司が作曲・編曲を主に行っていた。川口浩和はハードロック的なアプローチの演奏が持ち味で、サウンドのアクセントとしてその存在感を発揮していた。

SHI-SHONENはテクノポップ・ニューウェーブ色の強いマニアックな曲を得意としていたが、FAIRCHILDはわかりやすくポップな曲を押し出していた。今作はSHI-SHONEN時代の雰囲気を残しつつも、王道寄りなポップスを展開した作品となっている。次作「FLOWER BURGER」以降はSHI-SHONEN時代の空気は感じられなくなり、FAIRCHILD独自のポップスを放つようになる。


「偽名の口唇」は今作のオープニング曲。どこか哀愁の漂うメロディーが心地良いポップナンバー。サビまでは比較的淡々としたメロディーながら、サビは一転してキャッチーになり、聴き手の心を掴んで離さない。シンセ主体の曲が多い今作の中では珍しく、生音が主体となっている。間奏やアウトロでのギターソロは曲に力強さを与えている。ギターサウンドはFAIRCHILDの魅力の一つだが、オープニング曲から既にそれを実感させてくれる。
歌詞は浮気している女性の心情を描いたもの…と解釈している。全体を通じて、小悪魔的な女性の姿が浮かんでくるような詞世界となっている。無邪気さが感じられるYOUの歌声によって、この曲に可愛らしさも加えられた。1stの始まりの曲に対してこのようなことを言うのも難だが、FAIRCHILDの曲の中でも特に好き。


「悪戯の森のレイン」はミステリアスな雰囲気漂うミディアムナンバー。派手さは無い淡々としたメロディーながら、不思議と耳に残るのが特徴。戸田誠司のメロディーセンスの高さがうかがえる。サウンド面はどこか神秘的なイメージのシンセの音色が主体。重厚なベースはサウンドを骨太なものにしている。
歌詞はネガティブなのかポジティブなのかわかりにくいもの。少し情けない部分を持った「好きなBoy」に「しあわせをあげたい」と願う詞世界。「悪戯の森のレイン」とは主人公の女性のことなのだろうか?この曲の歌詞だと「光と影 つくらなきゃ 物語はつまんないよ」という歌詞が好き。聴く度にどんどん沁みていって、離れなくなるような曲である。


「PUPPY LOVE」は爽快感のあるポップナンバー。全体を通して勢いがあってインパクトのあるメロディーだが、サビではそれが顕著。イントロからキレのあるギターサウンドが響いており、曲の爽快感を演出している。ロック色の強い演奏が多い川口浩和だが、この曲ではポップなギターサウンドが主体。
歌詞はタイトルからも想像できるように、父親のことが好きな娘が主人公。彼氏と二人で父親の元に行く姿が描かれており、自分の全てを受け止めてくれる父親への愛が綴られている。彼氏と父親のどちらを取る?というような話ではなく、どちらも違った意味合いで大好きな存在なのだろう。この独特な詞世界と少しひねったポップセンスこそ、FAIRCHILDの王道と感じる。


「Q・Q・Q」は先行シングル「おまかせピタゴラス」のC/W曲。再びのミディアムナンバー。サビで一気に聴き手の心を掴んでくるようなメロディーである。そこまではかなり落ち着いたメロディー。今になって聴くとチープなシンセの音色が前面に出ているが、それがクセになる。そのようなシンセに寄り添ったギターサウンドも絶妙。このバランス感覚こそFAIRCHILDの魅力だろう。
歌詞は不穏な雰囲気を持ったもの。タイトルのフレーズはサビで登場するが、意味はよくわからない。「少しずつ駄目にしてあげる 生きてないように 死なないように」という歌詞は何となく怖い。このような曲でもYOUの可愛らしい歌声は変わらない。それがこの曲の謎めいた世界観を象徴している。


「さよならは短い言葉」は今作の中でも特にロック色の強い曲。ポップかつ力強いメロディーがたまらない。Aメロからキャッチーに仕上げられている。躍動感のあるギターサウンドが持ち味の川口浩和だが、この曲では特にそれが冴え渡っている。楽しみながら演奏している姿が浮かんでくる。
歌詞はタイトルからも察せられるように、恋人と別れるその時を切り取ったイメージがある。「アデュー」が連呼されたサビはインパクト抜群。仲が良かった頃の二人を「サボテンにさえ 名前をつけた二人ね」と表現しているのが何ともリアルで切ない。後追いで聴くと、シングル曲かと思ってしまうほどにわかりやすい曲になっている印象がある。


「アウラ」はここまでの流れを落ち着けるバラードナンバー。楽しげでどこかシュールな曲が並んでいたが、この曲はかなり真面目かつ壮大である。ゆったりとした曲調ながら、サビはしっかりと耳に残るものに仕上げられている。余計なものを一切省いた、シンプルかつ心に沁み渡るような静謐さを持ったサウンドが展開されている。透明感のあるシンセの音色は、優しく丁寧なボーカルと溶け込むよう。
作詞はヒカシューの巻上公一が手がけた。全編を通して幻想的な雰囲気を持った詞世界であり、童話のようなイメージがある。FAIRCHILDのメロウな面を押し出した、今作の中では数少ない曲である。明るい面の印象の方が圧倒的に強いが、こちらの路線も好き。


「おまかせピタゴラス」は先行シングル曲。フジテレビ系番組『さんまのまんま』のエンディングテーマに起用された。跳ね上がるようなメロディーが印象的なポップナンバー。サビのメロディーは一回聴いただけでも口ずさめる上に、しばらく耳を離れなくなるほどにキャッチーである。戸田誠司のポップセンスがよく現れている。ロック色が強くキレの良いギターサウンドをフィーチャーしつつ、シンセによってポップ性を高めている。FAIRCHILDならではのサウンドメイキングの妙はデビュー曲から既に出来上がっていた。
歌詞は奥手な男性と付き合っている女性の心情が綴られたもの。いつも優しいだけで手を出してこない相手に対して不満を噴出させている。
曲全体から可愛らしさが感じられて、それがたまらない。シングル曲ならではのわかりやすさがある曲だと思う。


「双子のバイオリン」は前の曲から一転して、渋さの漂うミディアムナンバー。この曲もまた、サビのメロディーはキャッチーなのだが、他の曲ほどの突き抜けるような感じは無い。渋さはそれが原因だろう。この曲でのギターサウンドは他の曲と比べてもクリーンな音色である。メロディーやボーカルに寄り添うような音色となっている。
歌詞は「アウラ」のような、幻想的な雰囲気を持ったもの。「蒼い馬」「ペガサス」「エンジェル」「ヴァーゴ」といったフレーズが顕著。空想にふける少女のような、無邪気で素直なYOUのボーカルがこの曲では特に映える。今作の中では地味な立ち位置という印象なのだが、何度でも聴きたくなるような中毒性を持った曲である。


「NEUTROPIC」は戸田誠司がボーカルを担当した曲。マニアックな音作りが印象的なテクノポップナンバー。派手に盛り上がるわけでもないのに、不思議と高揚感のあるメロディーがたまらない。今作の収録曲はどれもサウンド面がかなり凝っているのだが、その中でも特に作り込まれたサウンドが展開されていると思う。一つ一つのシンセや生音に強い拘りが感じられる。
歌詞は近未来的な雰囲気があるもの。「古くさい マシンの中 楽しいこと つまっている」というフレーズが好き。戸田誠司のボーカルは好青年的な爽やかさを持ちつつも、憂いも帯びている。同じ歌詞をYOUが歌ったとしても、戸田誠司ほどの魅力は出ないかもしれない。この曲に関しては、SHI-SHONEN時代の作風そのままという印象。


「嘆きの健康優良児」は今作発売後に「Bye Bye キッチン・ガール」のC/W曲としてシングルカットされた曲。明るいとも暗いとも言い切れない、独特なメロディーが特徴的なポップナンバー。「やったー!」というYOUのボイスサンプリングが多用されているのがインパクト抜群。シンセや重厚なベースを含め、聴きごたえのあるトラックに仕上がっている。
歌詞はネタ路線と言ったところ。華奢でか弱い少女になって、憧れの人に倒れ込みたいと願う丈夫な少女が主人公。1番では全校朝礼、2番では体育の授業の場面が描かれている。暑さや疲労の中、主人公だけが無事に耐えているのが何とも頼もしく、何とも悲しい。YOUのシュールなセンスが目覚めた詞世界と言っていい。初期の代表曲と称されることもあるが、それも頷ける。


あまり売れた作品ではないので、中古屋ではたまに見かける程度。現在ではFAIRCHILDの作品を振り返られる機会はほぼ無い。たまに振り返られたとしても、YOUの黒歴史というような形でネタ扱いされるくらいのもの。しかし、バンドブーム全盛期に真っ向からポップスを展開していたという功績を無視されるのは残念。王道なポップスに寄ったメロディーと、テクノやニューウェーブの精神を忘れない凝ったサウンド面の絡みも素晴らしい。時代性を感じさせるサウンドこそあれど、その作り込み振りは今でも驚かされる部分が多い。ネタ扱いされるのがかなり勿体無い作品である。今作及びFAIRCHILDそのものの再評価が望まれる。

★★★★★