今回が10回目となる企画です。これは以前行った「私的○○年代ベストアルバム」の続編のようなものです。その企画では管理人が所有する1985年〜2016年リリースのアルバムの中から、好きな作品を1年ごとにベスト5形式(一部それより少なかったり多かったりしましたが)で紹介してきましたが、「曇りめがね的名盤特集」はその中から作品のチョイスに特に迷ってしまった年をピックアップし、好きな作品を紹介していきます。この企画ではランキング形式をやめ、作品及びその解説を並べていくだけの極めてシンプルな形をとります。何作紹介するかという数も決めていません。   
既にブログで紹介した作品はリンクも用意しています。紹介している順番については、管理人が使っているCD管理アプリでのアーティストの並び順です。ご了承ください。

「曇りめがね的名盤特集」の記念すべき?第10回は1990年です。少々マニアックで渋い佇まいの名盤が多く生まれたという印象があります。


D-project「TEMPEST」
テンペスト
D-PROJECT
1990-04-21


D-projectの2ndアルバム。作曲家・プロデューサーなどで活躍するジョー・リノイエがボーカルを担当していた3人組ユニットです。シンセが多用されたニューウェーブが展開された作品ですが、都会的でクールな雰囲気を持ったものばかり。AOR色の強い曲も一部あり、後にその路線に傾倒することを予期しているかのよう。現在は自分では歌わなくなったジョー・リノイエは、渋く力強い歌声を聴かせてくれます。たまには自分で歌ってほしいと思ってしまうくらい好きな歌声です。


DOVE「Parallel Trip」
Parallel Trip
DOVE
1990-05-21


DOVEの2ndアルバム。3人組バンドですが、とても3人で演奏しているとは思えないほどに分厚いバンドサウンドや卓越した演奏力が持ち味。一つ一つの演奏に聴き惚れること間違い無し。プログレを思わせる展開もあるので、一曲単位で聴くのも良いですが、アルバム単位で聴くとさらに楽しめます。どこか気だるく幻想的な詞世界も魅力。今になって聴いても先進的だと感じられる、全体を通して格好良い作品です。


E-ZEE BAND「Paisley Lover」
E-ZEE BAND
1990-10-25
B78A7D81-6149-4B21-B363-F7EF181B90BA


E-ZEE BANDの1stアルバム。作編曲家・プロデューサーとして活躍するイクマあきら(生熊朗)がボーカルを務めていたファンクバンド。タイトルから察しがつく方もいらっしゃるかもしれませんが、Princeからの影響を強く感じさせるファンクが並んだ作品です。タイト、淫靡、格好良い…様々な感想が浮かぶことでしょう。生熊朗の甘く色気のある歌声は本家のPrinceにも劣らないほど。長尺な曲も多いですが、あっという間に聴けてしまいます。「究極のファンクバンド 遂に登場」という帯文も大言壮語ではないと思えるほどの作品です。このようなバンドが埋もれてしまっているのが本当に歯がゆいばかり。


FLEX「COLD BLOOD」
COLD BLOOD
FLEX
1990-03-21


FLEXの1stアルバム。現在は作編曲家として確固たる地位を築いたCHOKKAKUが在籍していたファンクバンドの1stにしてラストアルバム。メンバー全員が優れた演奏力を持っており、どの曲でも聴きごたえのあるサウンドを聴かせてくれます。ボーカルの長原裕三の力強いハイトーンボイスも圧巻。CHOKKAKUはギター、作曲やプログラミングを担当していましたが、後に活躍するのも頷けるほどにメロディーセンスやサウンド構築の技術が冴え渡っています。キレッキレのファンクと親しみやすいメロディーを共存させるのはかなり難しいことですが、FLEXはそれを見事に実現させました。今作だけで終わってしまったのが惜しいところ。


続いてゆくのかな
FLYING KIDS
1990-04-21


FLYING KIDSの1stアルバム。E-ZEE BAND、FLEXとファンクバンドの作品が続いてきましたが、こちらも。3者の中では最も著名でしょう。激しい演奏と内省的でメッセージ性の強い歌詞が共存したファンクや、浜崎貴司の野生的なボーカルは今でも圧倒されるばかり。スガシカオが強い影響を受けた作品であり、衝撃のあまり音楽活動をしばらく辞めてしまったというほど。ファンクバンドとして語られることが多いFLYING KIDSですが、本格的にファンクをやっていたのは今作と次作くらいのもの。今作と同年にリリースされた「新しき魂と光の道」も同様にファンクの名盤です。


GRASS VALLEY「瓦礫の街〜SEEK FOR LOVE〜」
瓦礫の街
GRASS VALLEY
1990-05-21


GRASS VALLEYの5thアルバム。日本におけるニューウェーブ・ニューロマンティックの代表格と言えるバンド。ドラムの上領亘が在籍していた時代のラストアルバム。分裂しそうになったバンドを保つための苦肉の策だったのか、戦火の中を生きる少年少女をテーマとしたコンセプトアルバムとなっています。
隙のないバンドサウンドと、ワンフレーズで曲を彩る幻想的なシンセの絡み。それこそGRASS VALLEYの曲の持ち味ですが、それは今作で完成を見ました。コンセプトアルバムなので、全体を通しての流れも素晴らしいものがあります。GRASS VALLEYの中では問題作的な扱いですが、問題作にして傑作と言えます。


HALO「HALO」
HALO
1990-01-25
F105AE9B-9842-4494-8B82-D7668DB0E5CF


HALOの1stアルバム。80'sを代表するニューウェーブ・ロックバンドのPINKのボーカルだった福岡ユタカ、ドラムだった矢壁アツノブから成る2人組ユニット。前半ではAOR色の強い美しい曲たち、中盤では民族音楽的な雰囲気の曲、後半ではキレのあるファンク…と目まぐるしい変化を楽しめる作品。何処までも伸びていくような、福岡ユタカ独特の歌声も凄まじい存在感を放っています。福岡ユタカのメロディーセンスはPINK時代よりもさらに進化し、サウンドの聴きごたえも進化。PINKが好きなら聴いておくべき名盤です。PINKの作品ほど評価されていないことを心底疑問に思います。


KANの5thアルバム。大ヒット曲「愛は勝つ」が収録され、セールス面が格段に向上した出世作。「愛は勝つ」だけが圧倒的なセールスを記録してしまったため、どうにも一発屋扱いされてしまいますが、今作を聴けばそれ以外にも良い曲はいくらでもあることが分かるでしょう。これまでよりも売れ線に寄りつつも、卓越したメロディーセンスはさらに冴え渡っています。「真のアイカツおじさん」の実力がよくわかる作品です。


SING LIKE TALKING III
SING LIKE TALKING
1990-04-25


SING LIKE TALKINGの3rdアルバム。Rod Antoonがプロデューサーとなり、6thアルバム「ENCOUNTER」まで参加することになります。これまでの2作よりもファンク色の強い作風となり、後のSLTの路線の基になった作品という印象があります。初期3作の特徴である、シティポップ色の強い曲も健在。
チャートインしなかった、いわゆる「売れなかった頃」の作品なので、どうしても過小評価されがちな感がありますが、それで敬遠するのは勿体無いです。


SOFT BALLET「DOCUMENT」
DOCUMENT
SOFT BALLET
1994-09-28
(再発盤)

SOFT BALLETの2ndアルバム。森岡賢によるエレクトロポップが主体となった前作「EARTH BORN」から一転、藤井麻輝によるダークでノイジーな曲が目立った作品。ただ、ポップなメロディーとダークなサウンドの相性は不思議とぴったり。遠藤遼一の低く渋い歌声も映えます。後にも先にもSOFT BALLETにしか生み出せなかった、異様な中毒性を持った曲ばかり。怪しく格好良い、SOFT BALLETの魅力が詰まった名盤です。


たま「さんだる」
さんだる
たま
1990-07-10


たまの1stアルバム。イカ天ブームや「さよなら人類」のヒットによって、一躍人気を集めたバンド。見た目や歌声の強烈なインパクトもさることながら、楽曲も一度聴けば忘れられないものばかり。美しく親しみやすいメロディー、アコースティックでありながら奇抜なサウンド、どこか不気味で不穏なフレーズが並んだ歌詞…真似しようもない世界観を持った作品です。
ブームと共に忘れ去られ、いつしか一発屋扱いされてしまったバンドですが、いつの時代にも彼らの楽曲に引き込まれてしまう人が現れると思います。それくらい実力の優れたバンドであることは今作を聴けばわかります。


SOUTHERN ALL STARS(リマスタリング盤)
サザンオールスターズ
2008-12-03
(再発盤)

サザンオールスターズの9thアルバム。セルフタイトルにして、初の完全セルフプロデュースによる作品。とはいえ、桑田佳祐ソロで活躍していた小林武史が全面的にバックアップしているのが特徴。これまでの作品よりもさらに音が洗練され、作風も幅広くなった印象があります。ただ、それがサザンらしいかと言われると少々疑問です。しかし、バンド史を振り返る上では重要な立ち位置にある作品というのは否定できません。


スターダストレビュー「ONE&MILLIONS」
ONE & MILLIONS
スターダスト・レビュー
1990-10-03


スターダストレビューの8thアルバム。同年にシングルスベスト「Best Wishes」をリリースし、それまでの活動を総括した上で制作された作品。根本要曰く「アルバムならではの音作りを意識した」というだけあって、これまでの作品には無かった新たなアプローチが盛り込まれた曲があります。三谷泰弘による、都会的で洗練された楽曲やアレンジの数々はこれまで通り。打ち込みやシンセと生音を絶妙なバランスで両立させ、お洒落かつポップに仕上げるセンスには魅かれるのみ。


カメラ・トーク
Flipper's Guitar
1993-09-01
(再発盤)

フリッパーズ・ギターの2ndアルバム。全編英語詞だった前作「three cheers for our side」から一転、日本語詞に挑戦した作品。メンバーも小山田圭吾・小沢健二の2人組になりました。「恋とマシンガン」のヒットにより、セールスも向上しました。全体を通して軽快でお洒落な作風がたまらない名盤。青春時代の空気を感じさせる鮮やかな詞世界も絶品。「渋谷系」の象徴として語られることが多いのも納得です。また、夏が舞台となった曲も多いので、夏に聴くと今作をより楽しめると思います。


丸山みゆき「夢を見てますか」
夢を見てますか
丸山みゆき
1990-06-25


丸山みゆきの1stアルバム。(1988年に1作アルバムをリリースしていますが、再デビュー扱い)
爽やかで可愛らしい歌声が魅力のシンガーソングライター。全体を通してゆったりとした曲が揃った構成ですが、歌声のイメージによく合っている印象があるので構成はそれほど気になりません。1990年リリースの作品ながら、それよりももう少し前のフォークソング・ニューミュージック的な雰囲気を感じさせる作品となっています。その懐かしさに不思議と引き込まれてしまいます。


BONGA WANGA
久保田利伸
1990-07-14


久保田利伸の4thアルバム。これまでの作品よりもさらに「黒い」曲が並んでいます。R&Bやソウル、ファンクのみならずアフリカの民族音楽のテイストも取り入れるようになりました。当時最新鋭の高級楽器・シンクラヴィアがフィーチャーされていたり、ニューヨークを拠点に世界的に活躍するミュージシャンも多く起用されていたりとサウンド面でも大きな変化を遂げています。ファンキーな曲とメロウな曲とのバランスも丁度良く、充実した作品となっています。


井上陽水「ハンサムボーイ」
ハンサムボーイ
井上陽水
1990-10-21


井上陽水の13thアルバム。タイアップがついた曲が多く収録され、セールス面で再び脚光を浴びたアルバム。11曲中実に7曲で何かしらのタイアップがついており、当時としては半ばベスト盤のような趣の作品だったと言えるでしょう。全体を通して明るくバラエティ豊かな作風ながら、怪しげで底の見えない井上陽水ならではの詞世界は相変わらずキレッキレ。ピンクの背景に満面の笑みの井上陽水…というジャケ写のインパクトが相当に強いですが、それに押されて購入しても損は無い作品です。


APOLLO
大江千里
1990-09-21


大江千里の9thアルバム。大江千里にとっては最初で最後のチャート1位を獲得したヒット作。テレビ番組やCMでの露出も増え、リリース当時は充実した状況だったと思いますが、それが聴いているだけでも伝わってくるほど。ポップ、バラードはもちろん、ジャズテイストの曲やハウスを取り入れた曲まで多彩な作風も特徴。一曲一曲の完成度も安定感に満ちています。それによって、何度でも楽しめる作品になっています。


安岡孝章「Miracle of Love」
ミラクル・オブ・ラヴ
安岡孝章
1990-06-21


安岡孝章の1stアルバム。優れたクオリティのポップスを多く生み出した80'sバンドのアイリーン・フォーリーンのボーカルだった安岡孝章のソロアルバム。しかし、バンド時代の盟友だった堀麻夫や小倉博和も制作に参加しており、アイリーン・フォーリーンの4thアルバムと言える作風。
バンド時代よりもAOR色の強い曲が増え、安岡孝章の持つ卓越したメロディーセンスが冴え渡った曲ばかり。当然、爽やかなポップナンバーもあり。メロディーセンスや歌声は以前と全く変わらなかっただけに、ソロアルバムが今作のみで終わってしまったのが惜しまれます。


FAR EAST CAFE
小田和正
1990-05-09


小田和正の3rdアルバム。オフコース解散後初のソロアルバム。今作リリースの翌年に「ラブ・ストーリーは突然に」が大ヒットを記録するわけですが、今作はその前夜の雰囲気が漂っています。前2作はAOR色の強い作風でしたが、今作はそれが少し薄れて王道なポップスに寄った作風となりました。それは「下世話にしよう」と意識して作られたという、先行シングル曲の「恋は大騒ぎ」からも伺えます。「オフコースの小田和正」ではなく、ソロアーティストとしての小田和正の作風を確立した作品と言えます。


尾崎豊「誕生」
誕生
尾崎豊
1990-11-15


尾崎豊の5thアルバム。2枚組で全20曲、2時間近くに及ぶ大作。1989年に第一子の尾崎裕哉が誕生したこともあってか、夫人や子供を題材としたプライベートな内容の曲が多めなのが特徴です。一言一言が圧倒的な強さを持った歌詞も当然魅力ですが、今作は優れたメロディーセンスが発揮された曲ばかり。何かのついでに聴いていても、思わず引き込まれてしまうようなメロディー揃い。アメリカのミュージシャンを多数起用したことにより、サウンドの聴きごたえもこれまでより増した印象。シティポップやフュージョンを想起させる曲は今までには無かったので、かなり新鮮に感じられます。


家庭教師
岡村靖幸
1990-11-16


岡村靖幸の4thアルバム。全曲の作詞作曲編曲プロデュース、殆どの楽器を自ら演奏するというスタイルで制作されました。一曲一曲の完成度も圧倒的なものがありますが、全編に渡って展開される、変態的でナルシストな詞世界に圧倒されるばかり。それでいて、バブル時代末期の退廃的な雰囲気も感じられる作風。
「気持ち悪い」「変態」といった感想が最早褒め言葉と化してしまう、後にも先にも似たような作品は無いと断言できる傑作です。ただ、人前で聴けたような曲はほぼありません。真夜中に一人でニヤニヤしながら聴くべきでしょう。


ただ一度だけの永遠
崎谷健次郎
1990-04-21


崎谷健次郎の4thアルバム。前作「KISS OF LIFE」はハウスミュージックに傾倒した作品でしたが、今作は再び王道のAORに回帰。ロンドンのロイヤル・フィルハーモニー・管弦楽団によるストリングスがフィーチャーされているのが特徴で、実に収録曲の半分で起用されています。美しいメロディーの数々とストリングスの絡みは聴き惚れてしまうばかり。ソウルやファンク、ジャズなど多彩なジャンルの要素も取り入れられており、一つ一つのサウンドにもかなり聴きごたえがあります。崎谷健次郎のキャリアを通じても、特に充実した作品だと思います。


木村恵子「M」
木村恵子
1990-09-21
710A7A18-8380-4A37-978D-B22E499EEF1D
 
木村恵子の4thアルバム。今作までは普通のシティポップ・AOR系のシンガーソングライターだったのですが、今作は「精神的なマゾヒズム」をテーマにした、背徳的で退廃的な作風となっています。聴き手を突き放すような、どこか冷たい雰囲気のある歌声もそうした世界観を引き立てています。今作を聴いたマゾな男性から電話が来たというエピソードもあるほど。
そのような詞世界やジャケ写が凄まじいインパクトを放っているわけですが、メロディーやサウンド面はこれまで通り。徹底されたコンセプトの中でも、元々持っているお洒落さは失われていないのが見事。


天国のドア
松任谷由実
1990-11-23


松任谷由実の22ndアルバム。出荷枚数ベースではありますが、日本の音楽史上初の売上200万枚を達成したヒット作。バブルの象徴的な扱いをされていた頃のユーミンの作品ですが、全体としてはそれほど派手な曲も無く、一曲単位で聴くよりもアルバムを通して聴く方が良いと感じられる作品です。一曲一曲の完成度は高いだけに、不思議な作品という印象が強いです。ヒット作の割に、後にベスト盤に収録された曲も少ないため、やはり今作を通して聴く形が望ましいのかもしれません。


森丘祥子「Pink&Blue」
ピンク&ブルー
森丘祥子
1990-05-25


森丘祥子の1stアルバム。森丘祥子はセブンティーン・クラブの元メンバー(当時は柴田くに子の名義でリーダー)で、今作はソロデビュー作。
甘く可愛らしい歌声の持ち主ですが、その魅力を活かしたポップナンバー揃いの作品です。アイドルポップスの味わいも感じさせる曲は絶品。また、ハイファイ・セットの「冷たい雨」のカバーが収録されていますが、原曲には無い新たな魅力を見出したカバーとなっており、それも聴きどころ。80年代後半〜90年代中頃は数々のガールポップ系のアーティストや作品が生まれましたが、その中でも隠れた名盤だと思っています。


楠瀬誠志郎「いつも逢えるわけじゃないから…」
楠瀬誠志郎
1990-07-21
DF018853-C812-46E2-A569-5A821047447B

楠瀬誠志郎の5thアルバム。どこまでも爽やかで甘い歌声が魅力的ですが、今作はそれを存分に堪能できる楽曲が揃っています。山下達郎のような分厚いコーラスワークや、シティポップ色の強いサウンド面がたまりません。叙情的かつポップなメロディーの数々も絶品。また、草食系男子の先駆けのような、優しく誠実な男性像が浮かぶ詞世界も特徴。「ほっとけないよ」の一発屋扱いされてしまいがちですが、それはあまりにも勿体無いと思ってしまうアーティストです。


槇原敬之の1stアルバム。アマチュア時代に作られた60曲あまりの中から厳選されたというだけあって、1stとは思えないほどの完成度を誇る曲ばかり。美しくキャッチーなメロディーという持ち味はこの頃から発揮されています。ボーカルが以降よりも固めだったり、共同アレンジされていたりするのは1stならではのご愛嬌。ピュアな恋模様が浮かんでくるような詞世界を持った曲が多いですが、この頃特有の頼りなくも真っ直ぐな歌声も相まって、かなり心に沁みてきます。


永田真代「JUST ME」
永田真代
1990-10-21
49BAC08F-943A-4007-A9C5-8779C6CD5035

永田真代の2ndアルバム。今作は小林武史がプロデュースを手掛け、収録曲の多くで作編曲を行っています。永田真代はEPOを彷彿とさせる、力強く明るい歌声が持ち味の歌手でしたが、それを生かした曲が並んでいます。自分が特に好きなのはタイトル曲の「JUST ME」。後のMY LITTLE LOVERの「evergreen」(楽曲)の雛形になったのでは?と思うような、壮大かつ爽やかなポップナンバー。ガールポップ系のアーティストが好きな方はもちろん、小林武史のプロデュースワークを深掘りしたい方にもおすすめできる作品です。


誰がために鐘は鳴る
浜田省吾
1990-06-21


浜田省吾の13thアルバム。精神的にダウンしていた時期を乗り越えて制作されたためか、全体を通して内省的な詞世界を持った曲が多めなのが特徴です。また、シンセを極力使わずに制作するように心がけていたようで、生音に拘ったサウンド面となっています。少々重苦しさはあるものの、美しいメロディーのおかげでそれほど聴き辛さはありません。正直なところ、一度聴いただけだと相当に地味な作品と感じることでしょう。それ以降は少しずつ心に沁みる曲が増えていくと思います。積極的に聴く気には中々なれませんが、それでも好きな作品。


米川英之「Sweet Voyage」
スウィート・ヴォヤージ
米川英之
1990-08-29


米川英之の1stアルバム。C-C-Bのギターだった米川英之ですが、初のソロアルバム。全曲の作編曲をこなしているのが凄いところ。シティポップ・AORに加え、フュージョンやウエストコーストロックのテイストを感じさせる曲が揃った作品になっています。
米川英之の渋い歌声もそのようなサウンド面の魅力をより引き出しています。今作はまだボーカルがぎこちない部分もありますが、そこは1st特有の現象ということで。


荒木真樹彦「Baby,You Cry」
荒木真樹彦
1990-03-25
C4E5A583-0C06-41E1-AA75-17615D1FF2E7

荒木真樹彦の2ndアルバム。ダンサブルなポップス、激しいロックナンバー、上質で美しいバラードなど多彩な音楽性に加え、マルチプレイヤーとしてもその実力を発揮したシンガーソングライターです。今作は荒削りなファンクやロックが多めだった前作「SYBER BEAT」とは打って変わって、AOR色の強い曲が多め。荒木真樹彦独自の、曲に表情をつけるようなギターサウンドが冴え渡る曲揃い。作編曲家としての実力のみならず、ギタリストとしての高い実力もわかる作品です。


詩人の血「とうめい」
詩人の血-LE SANG D’un POETE-
1990-06-21
D6CE5E46-BF19-4262-8CE3-1C106BFC91E1
 
詩人の血の2ndアルバム。一筋縄ではいかない、どこかひねくれているのにポップな曲を多く生み出したバンド。
ニューウェーブ色の強い前作「What If…」から一転して、ギターサウンドをより押し出したアグレッシブな作風になりました。また、ボーカルや一つ一つの音に丁寧なリバーブが掛けられており、それぞれがくっきりと聴こえるのが印象的。独特な音作りという面でも強い拘りが感じられ、後に作編曲家・プロデューサーとして活躍するギターの渡辺善太郎の実力が存分に発揮された作品と言えます。


PRISM
谷村有美
1990-05-12


谷村有美の4thアルバム。これまでの作品は多数の作家が楽曲提供していましたが、今作では谷村有美と西脇辰弥の二人で制作されています。そのタッグは相性が良かったのか、次作「愛は元気です。」でも全面的に関わることとなります。今作及び次作はシンガーソングライターとアイドルの中間「B級アイドル」的な路線を極めた作品です。親しみやすい歌声やポップなメロディーと、ブラックミュージックやフュージョンの要素を取り入れた上質なサウンドの相性は不思議とぴったり。谷村有美の魅力がよくわかる作品です。


遊佐未森「HOPE」
HOPE
遊佐未森
1990-09-21


遊佐未森の4thアルバム。幻想的でノスタルジックな作風の楽曲を得意とする遊佐未森ですが、そのパブリックイメージ通りの曲が並んでいます。これまでの作品での、アルバムのコンセプトのために作られた曲たち…というよりは、1曲1曲が独自の世界観を築いているという印象の作品。自分は「夏草の線路」が特に好きです。
聴き手を優しく包み込むような、透明感に満ちた遊佐未森の歌声も絶品。それを活かす曲を揃えたプロデュースも見事。


鈴木祥子「風の扉」
風の扉
鈴木祥子
1990-03-01


鈴木祥子の3rdアルバム。前2作から作風はそのままに、実力派ミュージシャンが多数参加した豪華なサウンド面が特徴。また、デビュー以来作詞を担当してきた川村真澄に加えて、他の作詞家や鈴木祥子自らも作詞するようになり、詞世界の面でも変化を遂げています。Aメロから聴き手を引き込んでやまない、訴求力に満ちたメロディーセンスは圧巻。聴いていると心が澄み渡っていくような、透き通った歌声には聴き惚れてしまうばかり。代表曲「ステイションワゴン」も収録されており、鈴木祥子の楽曲のパブリックイメージを築いた作品と言えるでしょう。


Long Long Way Home
鈴木祥子
1990-11-21


鈴木祥子の4thアルバム。同年リリースの前作「風の扉」よりもアコースティックなサウンドの曲が増えました。その分、鈴木祥子本来の卓越したメロディーセンスが存分に発揮された作品となっています。また、今作では川村真澄が作詞で参加せず、鈴木祥子自ら作詞した曲が半数を占めています。そのため、シンガーソングライターとしての本格的なデビュー作とも言えると思います。全体を通して内省的な作風ですが、鈴木祥子の艶のある歌声と相性が良い印象。「水の冠」と並んで、鈴木祥子の中でも特に好きな作品です。


CUE
高野寛
1990-03-07


高野寛の3rdアルバム。ヒット曲「虹の都へ」が収録され、セールス面が向上した作品。高野寛本人も強い影響を受けたというトッド・ラングレンがプロデュースを手掛けました。高野寛の持つメロディーやサウンド構築の技術といった魅力を最大限に引き出したプロデュースとなっています。様々なギミックを施したカラフルなサウンドと、どこかひねくれつつも王道に収める優れたポップセンスを楽しめる作品。ヒット曲が出たということもあってか、前2作よりも少し売れ線寄りになったという印象もあります。


色々な作品を挙げてきましたが、どれもおすすめです。中古屋やレンタル店に出向く際の参考にしていただけたら幸いです。今後追記する可能性がありますので、その際にはツイッター(@fumimegane0924)で報告しつつ加筆修正していきます。