STARTING OVER (ALUBUM+DVD)
Dorothy Little Happy
2014-02-26


STARTING OVER (通常盤)
Dorothy Little Happy
2014-02-26


【収録曲】
1.5.12.作詞 永井真理子
2.作詞 Dorothy Little Happy
3.作詞 和田耕平
4.作詞 大野一成
6.7.11.作詞 磯貝サイモン
8.9.作詞 坂本サトル
10.作詞 小澤正澄
2.ラップ作詞 YUA
1.2.5.12.作曲 COZZi
3.作曲 和田耕平
4.作曲 大久保友裕
6.7.11.作曲 磯貝サイモン
8.9.作曲 坂本サトル
10.作曲 小澤正澄
1.2.5.12.編曲 COZZi
3.編曲 和田耕平
4.編曲 大久保友裕
6.7.11.編曲 磯貝サイモン
8.9.編曲 安部潤・坂本サトル
10.編曲 小澤正澄

1.COLD BLUE ​★★★★☆
2.2 the sky​ ★★★★☆
3.colorful life ​★★★★★
4.恋は走りだした ★★★★★
5.ASIAN STONE ★★★★☆ 
6.CLAP!CLAP!CLAP! ★★★☆☆
7.ストーリー ​★★★★☆
8.どこか連れていって ★★★★☆ 
9.言わなくてよかった ★★★★☆ 
10.青い空 ​★★★☆☆
11.STARTING OVER ​★★★★★
12.明日は晴れるよ ★★★★★

2014年2月26日発売
avex trax
最高位9位 売上約1.3万枚

Dorothy Little Happyの2ndアルバム。先行シングル「colorful life」「ASIAN STONE」を収録。前作「Life goes on」からは1年振りのリリースとなった。Type A,B,Cの3形態でリリースされた。Aは生写真とDVDが付属した2枚組、Bは生写真とフォトブック付属、Cは6曲入りの廉価盤。なお、自分が所有しているのはType Aなので、それに沿って書いていく。

Dorothy Little Happyは2011年にメジャーデビューした5人組ガールズユニット。(今作リリース当時)。白戸佳奈(リーダー)、髙橋麻里、秋元瑠海、富永美杜、早坂香美から成る。2015年に髙橋麻里、白戸佳奈の2人体制になった後、2017年に白戸佳奈が芸能界引退に伴って卒業。他の3人は現在、callmeというグループで活動している。現在は髙橋麻里のソロ活動となっているが、2018年12月に卒業することを発表している。今後はどうなっていくのだろう。

いつもは楽曲感想のところでタイアップ情報を書いているが、今回はタイアップ情報があまりにも多くなる曲があるので、↓の画像にまとめた。

22C1068B-59F1-416F-87E9-3BFC0C8549C22BC1DC69-FE60-4146-8F4D-3EA72D854D78


「COLD BLUE」は今作のオープニング曲。アグレッシブなロックナンバー。ちなみに、作編曲のCOZZi(廣田コージ)は作詞の永井真理子の夫。イントロから歪んだギターサウンドが主張しており、終始ソロと言っても良いほどに鳴り響いている。ここまで重厚なロックサウンドを響かせた曲は異色である。そのようなサウンドに反して、メロディー自体は繊細さを感じさせるもの。このギャップがたまらない。
歌詞は別れた恋人のことを忘れられない女性を描いたもの。「嫌いな振りして 去って行ったのは 私に出来る 最後の愛だったの」と言いつつも「君の胸に 私はもう居ない」「君の名前呼んでも 答えない 響かない 全てが見えない」と本心を出す。精一杯の強がりや脆さの両方が感じられる詞世界となっており、上記のサウンドやメロディーとよく合っている印象。
今作はダークな雰囲気のこの曲から始まる。さあ、次からはどう展開していくのだろう。


「2 the sky」は爽快感溢れるポップロックナンバー。メインボーカルは富永美杜。イントロとアウトロでは早坂香美による英語詞のラップが入っており、曲の力強さを引き立てている。前の曲と同じくロック色の強いサウンドではあるが、メロディー自体の疾走感のお陰でスッと流れていく感覚がある。開放感に満ちたサビのメロディーには、何度聴いてもワクワクさせられる。
作詞はDorothy Little Happy名義。前の曲は「深く蒼く樹海の中」にいたが、この曲では早くもそこから引っ張り出されるような感じ。「地図がないなら 感覚でいいんじゃない」「マイナス思考さえも掛け算をすれば プラスに変わるでしょ」などとポジティブな歌詞が並ぶ。逆境でさえも楽しもうとする姿勢が描かれている。歌詞の一言一言に込められた力が、曲やサウンドだけでなくボーカルでもさらに高められた。


「colorful life」は先行シングル曲。爽やかで高揚感に溢れたポップナンバー。秋元瑠海、富永美杜、早坂香美の3人がメインボーカル。Aメロ→Bメロ→サビと変遷がわかりやすいキャッチーなメロディーが見事。随所に挟まれた、楽曲をタイトル通りカラフルに彩るようなギターサウンドがたまらなく心地良い。エレキギターの音色の持ち味は「透明感」だと思わせてくれる。その音色はメロディーそのものが持つポップ性をさらに高めた。
歌詞は新たな出逢いに対しての喜びが綴られたものと解釈している。「見慣れた 空や雲」「風にゆれてる 花たち」といった当たり前の光景が、いつもよりも彩り豊かに見える。誰かとの新たな出逢いが、人生を鮮やかにしてくれる。「希望」というフレーズは歌詞の中に登場しないものの、希望に満ち溢れた詞世界となっている。既発曲がここで初めて登場するわけだが、作品のストーリーに沿う形で違和感無く収まっていると思う。


「恋は走りだした」は力強いメロディーで聴き手の心を掴んで離さないポップナンバー。メインボーカルは秋元瑠海。キャッチーかつ高揚感のあるサビのメロディーは、一度聴けば耳が恋して忘れられなくなる。打ち込みによるバンドサウンドを前面に押し出したサウンドも、曲を効果的に盛り上げる役割を果たしている。そのためか、初期の代表曲「デモサヨナラ」と並んでライブでは定番曲として披露されていた。確かに、披露されたらイントロから盛り上がりそうだ。
歌詞は新たな恋に落ちたことに気付いた少女の想いが綴られたもの。恐らく、相手とは長らく友達として接してきたのだろう。恋心に気付くきっかけになったのは「あの娘」の存在。そして、サビでは「あの娘には負けないぞ」と力強く誓う。
10代半ば〜後半くらいの少女の心情を的確かつドラマティックに描き出した、大野一成の作詞家としての実力も素晴らしい。曲調と歌詞のイメージがぴったり合っており、それがこの曲の持つ高揚感に繋がっているのだろうと思う。


「ASIAN STONE」は先行シングル曲。これまでのシングル曲には無かった、シリアスな雰囲気が感じられるミディアムナンバー。キャッチーではあるが、どこか陰のあるメロディーが展開されている。イントロ無しでいきなり歌が始まる構成は曲には確かな力を与え、聴き手にはインパクトを与えている。打ち込みによる4つ打ちのリズムは曲の浮遊感を演出する。
歌詞はまた一歩先のステージを目指していく、Dorothy Little Happyそのものの姿を描いたものだと思っている。「新しい世界の大きな扉を この手で開いて行くよ」と力強い想いも綴られているが、それ以上に不安や戸惑いも描かれている。それでも「私らしく 穏やかなスピードで」前へ進んでいく。
グループそのものが飛躍していく中でリリースされた曲なので、そういった面を考慮するとさらにこの曲を堪能できると思う。


「CLAP!CLAP!CLAP!」は先行シングル「ASIAN STONE」のC/W曲。爽快感のあるポップロックナンバー。何も知らない状態で「ASIAN STONE」とこの曲を聴いたら、こちらの方を表題曲だと思うはず。それくらい、王道なアイドルポップと言いたくなる雰囲気がある。一緒に口ずさみたくなるようなサビはキャッチーさを極めている。随所に挟まれた手拍子のみならず、エッジの効いたギターサウンドや浮遊感のある打ち込み音なども曲を盛り上げている。この曲もまた、ライブの定番としてよく披露されていた。
歌詞はポジティブなメッセージが並んだもの。前の曲の主人公を誰かが励ましているようなイメージ。それは主人公自身かもしれない。そして「悩んだぶん幸せになれるって信じてみたいんだ」と言い聞かせ、立ち直って再び歩き出す。
今作の流れから外れた曲だとは決して思っていないのだが、何故かこの曲に関しては一曲単位で聴いた方が好印象になる。


「ストーリー」は清涼感のあるポップナンバー。今作をレコードのA面・B面に分けるとすると、この曲が二つの境目になると思う。B面のオープニングとも考えられるが、自分はA面のラストというポジションを想定してこの曲を聴いている。美しく流れていくようなメロディーが心地良いが、サビは開放感溢れるメロディーに変わる。違和感無く変化するのには驚かされるばかり。打ち込みを多用したキラキラしたサウンドが主体だが、所々で打ち込みによるストリングスが曲を流麗に盛り上げる。
歌詞は好きな人に対して素直になれない少女の想いが綴られたもの。「知りたいんだ きみが描くストーリーを」という歌詞は、言葉に表現し難い「恋心」を絶妙に言い当てている。また、このピュアな詞世界を演出しているのは5人のボーカル。その中でも、曲そのものに表情をつけるかのような白戸佳奈のボーカルが素晴らしい。目まぐるしく展開する曲についていくだけでなく、自分の色に染めようとしているかのよう。


「どこか連れていって」は先行シングル「colorful life」のC/W曲。夏の空や海を想起させる爽やかなポップナンバー。ボーカルは髙橋麻里のソロで、それは当時としては初。「いつもより強い歌い方」を意識したという。ポップながら、どことなく切なさを帯びたメロディーは坂本サトルならでは。それを打ち込みによるバンドサウンド主体のアレンジで彩る。そのせいか、90年代のJ-POPの雰囲気が感じられる曲となった。
歌詞はドライブデートをしているカップルを描いたもの。幸せそうな光景が浮かぶ描写が並んでいるのだが、その中で「今夜は帰りたくない」というフレーズが異彩を放つ。彼氏に対して言っているようにも、言葉に出さず心の中だけに留まっているようにも感じる。そこに主人公の女性の本心が込められているのではと思う。何度も聴いていると、そもそも二人はドライブデートに出たのかということさえ疑いたくなる。
他の曲でも言及したが、やはり既発曲が自然と今作の世界の中に溶け込んでいるのが凄い。当たり前のようでいて、中々に難しいことだと思う。


「言わなくてよかった」はここまでの流れを落ち着けるミディアムナンバー。ライブではあまり披露されず、レア曲扱いされていたという。坂本サトルのメロウな部分がよく現れた、叙情的なメロディーが展開されている。サビは何とかキャッチーに仕上がっているのだが、やはり切なさが上回る。今作では珍しく、エレキギターとベースとキーボードが生音。どこか切迫感のあるサウンドとなっており、曲の世界観を構成している。
今作収録曲の歌詞が一つのストーリーで繋がっているとすると、この曲は起承転結の転である。恋人に浮気されてしまった女性の心情が綴られたもの。片想いしていた相手に恋人がいたとも解釈できる。「あの娘」に負けてしまったのだろうか?遂には「馬鹿だな私」「聞き分けのいい自分が 今はちょっと嫌いだよ」と自己嫌悪に至る。聴いているだけでも胸をチクチクと刺されるような苦しい詞世界となった。歌う方も感情移入し過ぎると精神的にきつくなりそうだ。それを考慮すると、あまり披露されなかったのも何となく頷ける。


「青い空」は前の曲に続いてのミディアムナンバー。聴き手に寄り添い、ふんわりと流れていくようなメロディーが心地良い。サビに入った瞬間に、視界がぐっと開けたような感覚になれる。曲の中を雲のように漂うエレピの音色はサウンドに柔らかさを与えた。
歌詞は前の曲で落ち込んでしまった女性を慰めるようなイメージのもの。誰かが女性を慰めているとも、主人公自身が立ち直るように言い聞かせているとも捉えられるだろう。「戻らぬ時 悔やむよりも 明日を見つめよう」「きっといつか あんなことも あったと笑える日が来る」といった歌詞は、包容力と訴求力の両方を感じられる。聴き手の誰もを癒すようなボーカルは歌詞のメッセージの全てを優しく届けている。
正直なところ、今作の中では少々目立たない曲という印象がある。しかし、前の曲と次のタイトル曲の詞世界を繋ぐような役割を果たしていると思う。


「STARTING OVER」は今作のタイトル曲。これまでに無い壮大さを持ったバラードナンバー。聴き手の心を握りしめるような強さを持ったサビのメロディーは圧巻。それでいて、繊細さにも溢れたメロディーである。少ない音の数でしっかりと聴かせる、引き算の美学と言えるサウンドが展開されている。それはメンバーの個々の歌声の魅力を限りなく引き出す役割も担っている。
歌詞は別れた恋人と「もう一度だけ会いたい」と願う女性の心情が綴られている。この曲及び今作のタイトルは「やり直す」というような意味があるが、別れた恋人とやり直すことを望んでいるのだろう。後悔や弱さ、孤独であることの辛さを前面に押し出した詞世界となっており、軽い気持ちでは聴けないほど。
この曲が届いた際、スタッフからは今のDorothy Little Happyではまだ表現できないと言われ、猛練習したり何度もお願いしたりした末にこの曲を歌う許可を得たという。その経緯もあって、聴いているだけで鳥肌が立ってしまうくらい素晴らしいボーカルを堪能できる名バラードとなった。特に髙橋麻里のボーカルには圧倒されるばかり。
Dorothy Little Happyの曲の中でもこの曲が一番好き。他の曲からもう一段進んだところにあるイメージ。


「明日は晴れるよ」は今作のラストを飾る曲。温かみのあるメロディーが心地良いミディアムナンバー。陽だまりのような優しさも感じさせるサビのメロディーは絶品。力強くも清涼感のあるギターサウンドが終始前面に出ている。
歌詞は前の曲で苦しんだ主人公を励ましているイメージ。主人公のことをよく理解している親友というような視点だろう。前の曲での悲痛な想いを「願っても届かない」と切り捨てつつも、「でも自分から逃げないで」とフォローしている。時には相手に厳しくできるのが親友というもの。よく聞く言葉だが、それを体現した形。
ただ、この曲で一番好きなのは「二人で語っていた あなたの夢が 好き また 話の続き 聞かせて欲しい ずっと 待ってるよ」という歌詞。この部分はリーダーである白戸佳奈が歌っているのだが、聴き手や他の4人を包み込むような優しさを持った歌声を聴かせてくれる。
曲の最後のギターリフが止まった時、また最初から聴き直したくなってしまうことだろう。それはまさに「STARTING OVER」である。


それほど売れた作品ではないが、中古屋ではそこそこ見かける。入手する場合は、しっかり12曲収録されたType AかType Bを推奨する。そのどちらかでも特に、ダイジェスト版とはいえライブというもう一つの魅力を堪能できるType Aの方が良いと思う。

「アイドルのアルバムは楽曲集」このようなフレーズをよく耳にする印象がある。実際、構成も完成度も度外視して楽曲を大量に詰め込んだような作品はあるし、オリジナルアルバムながらベスト盤同然の作品も多くある。それはそれで良いのだが、「オリジナルアルバム」として楽しむには少々厳しい。
しかし、今作にそのようなフレーズは一切当てはまらない。既発曲を含めた全曲の完成度が高いのはもちろん、ストーリー性に満ちた内容で全体を通しての流れも素晴らしいものがある。既発曲もアルバム曲の中で浮くこと無く調和している。12曲のうちの1曲でも欠ければ、良さは失われてしまう。そう言い切れるほどに徹底した世界観ができている。幅広い曲調を取り揃えたのも見事。
この名盤を作り上げた最後のピースは、メンバー個々の卓越した表現力。何度だって聴けて、何度だって同じ部分に魅かれて、さらには新たな魅力も見つけられる。それは今作に寄り添った曲を生み出した作家のお陰でもあり、メンバー5人の優れた実力のお陰でもある。それをまた楽しめる日は来ないと思うと辛いものがあるが…

まとめの部分でここまで熱く語ったのも久し振りだと思うが、アイドルの楽曲を過小評価しがちだった自分の考えを変えてくれた名盤で思い入れが深いため。今作を紹介してくださったフォロワーさんには感謝してもしきれない。

​★★★★★