遠く離れても
栗林誠一郎
1994-10-21


【収録曲】
全曲作詞 小田佳奈子
1.6.作詞 栗林誠一郎
4.10.作詞 坂井泉水
7.作詞 川島だりあ
10.英訳詞 栗林誠一郎
全曲作曲編曲 栗林誠一郎
3.11.編曲 大島康祐
7.ストリングスアレンジ 池田大介
プロデュース BMF

1.Love Ya,Lady ​★★★★☆
2.I Love You So ★★★★★
3.帰らない季節 ★★★☆☆ 
4.誰かが待ってる ​★★★☆☆
5.遠く離れても ​★★★★★
6.Don’t You See What I Love ★★★★☆
7.永遠をあずけてくれ ★★★★★
8.残された夏 ★★★★★ 
9.いつでも君を見つめている ★★★★☆
10.Canaria〜カナリヤ〜 ★★★☆☆ 
11.Nobody Got It Right ★★★☆☆

1994年10月21日発売
BMGルームス
最高位不明 売上不明

栗林誠一郎の6thアルバム。先行シングルは無し。前作「会わなくてもI Love You」からは1年7ヶ月振りのリリースとなった。

栗林誠一郎はZARDやWANDS、DEENを始めとしたビーイング系アーティストに数多くの楽曲を提供し、ビーイングの全盛期には織田哲郎と並ぶ作曲家として活躍していた。シンガーソングライターとしても、Barbier(バルビエ)名義を含めて10作のオリジナルアルバムをリリースしており、そちらの活動も盛んだったことがわかる。
しかし、1998年9月22日に行われたライブを最後に活動休止。現在もなお近況は不明。活動休止以降も栗林誠一郎による楽曲提供が行われたことがあるが、それらは過去のストックだとされている。

作曲家としての栗林誠一郎の魅力は、ポップなのにどことなく哀愁を帯びたメロディーにあると言える。それは最も多くの楽曲を提供したZARDの楽曲に顕著に表れている。織田哲郎とは異なり、シングル曲の作曲をすることは少なかったものの、アルバム曲の中心的な作曲家として作品を彩っていた。

シンガーソングライターとしては、シティポップ・AOR色の強い作品を多くリリースしていたのが特徴。甘いハイトーンボイスも魅力的。他のアーティストの楽曲にコーラス参加することはあったが、その魅力はやはりソロの方が楽しめる。また、ロサンゼルスに4年留学していたようで、英語も堪能。全編英語詞で作詞することも多い。


「Love Ya,Lady」は今作のオープニング曲。栗林誠一郎の楽曲としては珍しく、ロック色の強い曲。サビまでは淡々としているが、サビで一気にキャッチーになるメロディーが印象的。この曲でも清涼感があって落ち着いた歌声を聴かせてくれるが、サビはかなり張り上げて歌っている感じ。サウンド面は力強いバンドサウンドとホーンの絡みが格好良い。青山純のパワフルなドラミングは特に聴きごたえがある。栗林誠一郎の作品では常連のドラマーだが、楽曲に骨太さを与えてくれるような演奏の数々は圧巻。
歌詞は全編英語詞で、相手への恋心をストレートに打ち明けたもの。力強くも軽快なメロディーやサウンドとの相性が良いと思う。オープニングにはうってつけな曲である。


「I Love You So」は重厚感のあるAORナンバー。繊細で切ないメロディーには聴き惚れてしまうばかり。ただ、英語詞から始まるサビは確かなインパクトがある。栗林誠一郎のメロディーセンスを堪能できるような仕上がりである。増崎孝司によるキレの良いギターのカッティングは絶品。何回だって聴きたくなる。また、この曲ではフリューゲルホルンが使われており、その音色は曲の持つメロウな雰囲気をさらに高めている。
歌詞は「君と迎える 初めての夏」を舞台とした、幸せなイメージのあるもの。坂井泉水が歌っても全く違和感無く、ZARDの曲として表現できてしまえそうなくらい爽やかな詞世界である。もはやその爽やかさは「眩しい」と言った方が良いかもしれない。メロディーやサウンド、詞世界も自分好みなので今作の中でも特に好きな方に入ってくる。


「帰らない季節」は打ち込みが多用されたミディアムナンバー。キャッチーながらも、どことなく哀愁を感じさせるサビのメロディーは栗林誠一郎の真骨頂と言える。アレンジは元WANDSで当時SO-FIの大島康祐が行なっているだけあって、ダンサブルな音作りがされたもの。ギター以外は全て打ち込みによるものだが、それでも確かな聴きごたえのあるサウンド面である。また、コーラスでSO-FIのボーカルだった岩切玲子が起用されており、その歌声で曲を鮮やかなものにしている。
歌詞はタイトルからも想像できるように、恋人と別れた男性の後悔が綴られたもの。女々しさも感じさせるボーカルとの相性がぴったりな詞世界である。
一曲単位で聴くと何とも思わないのだが、今作を通じて聴くとどうにも浮いてしまっている印象が否めない。


「誰かが待ってる」はZARDに提供した曲のセルフカバー。原曲はZARDならではの爽やかさと切なさが共存した名曲だが、こちらは原曲よりもぐっと落ち着いたアレンジがされている。キーもかなり下がった。心なしか、他の曲よりも栗林誠一郎のボーカルに臨場感があるように感じる。まるでライブで聴いているような感覚。「落ち着いたアレンジ」と書いたが、ボサノバテイストのアレンジとなっている。増崎孝司によるギターがフィーチャーされており、その涼しげな音色で曲を彩っている。間奏ではジャズ色の強いピアノソロが入って曲を静かに盛り上げる。
原曲に慣れ親しんでいるリスナーほど、このバージョンに面食らうはず。ただ、メロディーの良さが際立つようなアレンジになっていると思う。


「遠く離れても」は今作のタイトル曲。関西テレビ系ドラマ『愛と疑惑のサスペンス』のエンディングテーマに起用された。しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。繊細さ漂う切ないメロディーながらも、サビはかなりキャッチーな仕上がり。これぞ栗林誠一郎!と言いたくなるようなメロディーである。サウンドはシンプルなバンドサウンドが主体だが、サビではホーンが入ってかなり盛り上がる。この変貌振りは見事。
歌詞はタイトルからも察しがつくように、恋人との別れを決めた男性の想いが綴られたもの。「遠く離れても 二度とは 戻れなくても 優しい想い出に 変わるよ」というサビの歌詞から、酷い別れ方ではなかったのだろうと信じたい。それほどヒットはしていないが、栗林誠一郎のシンガーソングライターとしての代表作と言っていいのではないか。名バラード。


「Don’t You See What I Love」はフュージョン色の強いミディアムナンバー。耳に違和感無く入ってきて、そのまま流れていくような心地良さを持ったメロディーは絶品。DEENの田川伸治がギターで参加しており、叙情的な音色を聴かせてくれる。栗林誠一郎独特の太いベースも確かな存在感を放つ。ドラムは打ち込みによるもので、丁寧な生音とのギャップは曲にアクセントをつけている。
歌詞は全編英語詞によるもの。恋人と過ごす幸せな時を過ごしている光景が浮かんでくるような詞世界となっている。曲全体から漂う「渋さ」がたまらない。日本人が歌ったり演奏したりしているとは思えないような感覚に襲われる。


「永遠をあずけてくれ」はDEENに提供した曲のセルフカバー。原曲は若干のロック色を感じさせるバラードナンバーだったが、このバージョンはそのバラードの要素をさらに強めたアレンジ。ピアノやストリングスを前面に押し出した、厳かな雰囲気漂うアレンジへと変貌を遂げた。それは歌詞でも描かれた銀世界を想起させる。ただ、間奏では田川伸治による情感のこもったギターソロがある。その演奏には鳥肌を立てながら聴くほかない。栗林誠一郎の、池森秀一に負けず劣らずの甘く爽やかな歌声にも引き込まれるばかり。原曲も大好きだが、こちらのバージョンも好き。


「残された夏」はここまでの流れをさらに落ち着けるAORナンバー。帯には「提供曲」として紹介されているが、誰に提供した曲なのかは不明。自分は誤記だと思っているが、実際のところはどうなのだろう。
全体を通じて叙情的で味わい深いメロディーが展開されている。サウンドはシンプルなバンドサウンドによるものだが、その中でも特に重厚なベースの音色がこの曲の「深み」を象徴している。また、イントロや間奏、アウトロではジャズ色の強いトランペットがフィーチャーされており、何度でも聴きたくなるような中毒性を生んでいる。
歌詞は恋人と別れた男性の喪失感を描いたもの。「残された夏は 永く 自由さえ 虚しいよ 何もかも 終わったのに 想い出が 戯れて 離れない」というサビの歌詞は聴き手の心を抉るような強さがある。
この曲もまた、メロディーやサウンドが自分好み。今作の中でもかなり好きな方に入ってくる。


「いつでも君を見つめている」は清涼感のあるシティポップナンバー。どこかスリリングな雰囲気を持ったメロディーが展開されている。江口信夫による、一打一打が力強いドラミングはサウンドの聴きごたえを演出する。バンドサウンド以外にもピアノやホーンも主張しており、全体を通して心地良いサウンドかたまらない。他の曲に比べてもかなり間奏やアウトロが長いのが特徴で、それぞれの演奏を楽しめる部分となっている。
歌詞は友達以上恋人未満の男女を描いたもの。告白できないまま時間だけが過ぎていくもどかしさが痛いほどに伝わってくる詞世界である。この曲に関しては、メロディーやボーカル以上に演奏を堪能する曲という印象が強い。


「Canaria〜カナリヤ〜」はZARDに提供した曲のセルフカバー。栗林誠一郎による英訳詞がされており、当然全編英語詞。ただ、元のバージョンに沿った訳かと言われるとそうでもない。英語に疎い自分の解釈なのであまり信用ならないが。栗林誠一郎によるピアノ一本による、極めて静謐かつシンプルなサウンドで聴かせる。これは原曲に忠実なアレンジ。透明感のある歌声が何よりも映えるようなサウンドである。
セルフカバーと言うと、原曲から離れた変化球なアレンジがされがちな印象がある。しかし、この曲は原曲にほぼ忠実なアレンジで真っ向勝負を仕掛けた。原曲と聴き比べてみるのも面白いだろう。


「Nobody Got It Right」は今作のラストを飾る曲。サビでもそれほど盛り上がらないメロディーながらも、不思議と耳に残る。「帰らない季節」と同じく、元WANDSで当時はSO-FIに在籍していた大島康祐がアレンジを手がけた。「帰らない季節」よりもさらに岩切玲子のコーラスが目立っており、曲を華やかなものにしている。キーボードやギターのカッティング主体のダンサブルなサウンドとなっており、いかにも当時のビーイングの王道といった感じのサウンド。
歌詞は恋人と別れ、後悔や虚無感に苛まれている男性を描いたもの。「帰らない季節」と同じく、情けなさを前面に押し出した詞世界。
それにしても、どうしてこのダンサブルな曲をラストに据えたのだろうか?「Canariya〜カナリヤ〜」がラストの方が良かったように思う。


あまり売れた作品ではないので、中古屋ではたまに見かける程度。ただ、栗林誠一郎のアルバムの中では比較的よく見かける方だと思う。
ビーイング関連で活躍したミュージシャンとはいえ、作風は一般的なビーイング系アーティストとはかなり異なる。そのため、セルフカバー目当てで聴くと馴染みにくい可能性がある。シティポップ・AOR色の強い作風なので、その手のジャンルが好きな方にもおすすめできる。
提供曲の数々を聴いていてもわかるが、じっくりと心に沁み渡るメロディーを持った曲が多い。ただ、派手さはあまり無い。栗林誠一郎自らが歌っているとそれをよく感じる。シンガーソングライターとしての栗林誠一郎も好きなのだが、やはり作家向きの存在だったのだろうと思う。

★★★★☆