【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 高野寛
プロデュース        高野寛

1.Everything is good ★★★★☆
2.Portrait ​★★★★★
3.Candle of Hope ​★★★★☆
4.Mondo Electro 省略
5.180° ★★★★☆
6.DAN☆SHARI ​★★★☆☆
7.Rio-Tokio ★★★☆☆
↓〈Bonus Tracks〉
デモ音源やインストなので、星評価は全て省略させていただく。
8.炎(1992)-“Candle of Hope”Prototype 
9.Everything is good(2005)-Acoustic demo 
10.Portrait(2016)-Cassette demo
11.180°(2016)-Cassette demo
12.Children’s Song(2017)-“Rio-Tokio”Instrumental ver. 

2017年10月25日発売
SUNBURST
最高位144位 売上不明

高野寛の14thアルバム。先行シングルは無し。前作「TRIO」からは3年2ヶ月振りのリリースとなった。

今作は「デビュー30周年アニバーサリーイヤーの予告編」として制作された。デビュー以来の卓越したポップセンスはもちろん楽しめるほか、近年の作品でのアコースティックな路線も継続されている。

今作の収録曲はクリエイターズ・サイトのnoteで発表・配信された100曲以上の未発表曲から厳選されたもの。その曲たちを、さらにサウンド面を作り込んで制作していったのだと思われる。ライブで演奏され、段々と磨かれたという曲もある。


「Everything is good」は今作のオープニングを飾るタイトル曲。美しいメロディーが心地良いバラードナンバー。しっとりとした曲調ながら、サビは耳に残るような仕上がり。これぞ高野寛と言うべきメロディーセンス。サウンドはアコギが主体となった、極めてシンプルなもの。作風としては「確かな光」の頃を彷彿とさせる。
歌詞は映画のワンシーンを切り取ったようなイメージのもの。恋人と過ごした日の帰りが舞台となっており、多幸感と儚さの両方が感じられる詞世界である。楽しい時間はすぐに過ぎてしまうと言うが、その感情が見事に表現されている。オープニングというには少々地味という印象もあるが、それでもやはり引き込まれる。


「Portrait」は爽快感のあるポップナンバー。高野寛曰く「RINGの雰囲気で作ってみた」とのこと。その頃のような打ち込みサウンドは影を潜め、活気のあるバンドサウンドで聴き手の心を掴むサウンドとなっている。しかし、一筋縄ではいかない雰囲気を持ったポップなメロディーは「RING」に収録された「カレンダー」や「BLUE PERIOD」を思わせる。
歌詞は別れた恋人との思い出を振り返ったもの。「ひび割れた画面 指でなぞって 破れた言の葉を 探してた」という歌詞が印象に残る。スマホがすっかり定着した近年だからこそ書けた歌詞ではないかと思う。コミュニケーションの手段こそ変われど、人々の感情は変わらない。それが伝わってくるフレーズである。
メロディーやサウンドが自分の好みのどストライクであり、今作の収録曲の中で一番好きな曲。


「Candle of Hope」は4つ打ちのリズムが印象的な曲。メロディー自体は淡々としている印象なのだが、サビはかなりキャッチーな仕上がり。一度聴けばしっかりと耳に残る。今作の中では数少ない、生音主体の曲。キレの良いギターサウンドや重厚なベースライン、力強いドラムには引き込まれるばかり。聴きながら思わず身体が動いていることだろう。
歌詞は高野寛の曲にしては珍しく、女性目線で描かれたもの。高野寛も参加したという、キャンドルナイトをイメージさせる歌詞となっている。幻想的でありつつも、どこか社会派な印象のある詞世界である。
ここまでダンサブルな方向に寄った楽曲はこれまでには無かった印象。30年目を前にしての新境地。


「Mondo Electro」はギターインスト曲。これまでの作品でもインスト曲は度々収録されてきたが、ギターインストは新境地だという。多彩なギターサウンドが展開されたサウンドとなっており、聴いているとその中を漂っているような感覚に襲われる。インスト曲がフィーチャーされた「AWAKENING」を彷彿とさせるが、その頃とはまた違う魅力がある。


「180°」はフォークロック色の強いミディアムナンバー。サビでも派手に盛り上がるわけではないのだが、それでも不思議と心を掴まれるメロディーが展開されている。これぞ高野寛のメロディーセンスである。サウンド面では「Candle of Hope」と同じく、生音主体のもの。骨太なバンドサウンドが展開されており、曲そのものに力強さを与えている。
歌詞は理想と現実のギャップを描いたものだと解釈している。ラブソングかと言われればそうかもしれないが、その要素は極めて薄い。「霞んだ夜影(よる) 僕の心の様 暗闇(やみ)に隠され 何も視えなくなる」という歌詞からは、疑心暗鬼になっている様子がよくわかる。
現代の曲なのに、かなり前の曲を聴いているような感覚に襲われるが、この曲独特の魅力ということだろう。


「DAN☆SHARI」は肩肘張らずに作られた雰囲気のあるミディアムナンバー。初期の高野寛の作品ではネタ路線とでも言うのか、遊び心が前面に出た曲が収録されることが多かった。この曲は「五十歩百歩」「一喜一憂」「てにおえ」などを彷彿とさせる路線。
温かみがあって耳にスッと入ってくるようなメロディーがとても心地良い。アコギ主体の爽やかなバンドサウンドのおかげで、メロディーの魅力がさらに高まっている。
歌詞はタイトルからも想像できるように、断捨離をテーマにしたもの。「何にもいらない きみのほかには」と力強く言ってのける。ミニマリズムの極みのようなフレーズだが、様々な物が溢れた今には響く詞世界である。ただのネタ路線として片付けるには惜しい曲。


「Rio-Tokio」は今作のラストを飾る曲。ブラジルで録音された前作「TRIO」の世界観を継承したようなバラードナンバー。どこか懐かしい雰囲気のあるメロディーが展開されている。「2014年にブラジル・リオに録音に行った時借りていたアパートの部屋で爪弾いたギターのリフをサンプリングした。」らしく、そのアパート周辺の空気が伝わってくるようなサウンドとなった。子供の声や車のクラクションの音も入っているからだろう。
歌詞は日本に戻った後に、リオでの思い出を振り返っているようなイメージ。これは高野寛の思い出をそのまま表現した感じ。
ラストにふさわしい、前作とこれからを繋ぐような曲になったと思う。


以下の曲はボーナストラックとなる。


「炎(1992)-“Candle of Hope”Prototype」は「Candle of Hope」の原曲となった「炎」という曲のデモ音源をリマスターしたもの。「炎」は1992年のツアーのパンフレットのおまけについていたCDに収録されていたようだ。1992年制作というだけあって、「th@nks」の頃の作風を思わせる。段々と聴き手に迫ってくるようなメロディーが印象的。ハウスミュージックの要素を取り入れた、高野寛にしては異色なサウンドが展開されている。歌詞は掲載されていないので何とも言えないが「Candle of Hope」とは歌詞のテーマもかなり異なるように感じる。
「Candle of Hope」は4つ打ちだが、この曲のサウンド面を踏襲する形で作られたのだと思われる。


「Everything is good(2005)-Acoustic demo」はタイトル通りのデモ音源。アコギによる弾き語りで構成されている。オープニングに収録されているバージョンよりもさらに温かみが増した音になっている印象。高野寛がこの曲を弾き語りで披露したライブ映像があるくらいなので、少ない音の数で聴かせるのに適した曲なのだと思う。


「Portrait(2016)-Cassette demo」はタイトル通りカセットテープで録音されたデモ音源。この時代に何故カセットテープで録音したか。高野寛曰く「コンピューターで録ると中途半端に音が良すぎて盛り上がらないから」「無限にやり直しと編集ができて、緊張感がなくなるから」だという。
このバージョンを元に本編収録のバージョンを仕上げたようなので、まさに「原型」といった感じ。曲ができるまでの工程を見届けたような気分になれる。


「180°(2016)-Cassette demo」は前の曲と同じく、カセットテープで録音されたデモ音源。それを使った理由は前の曲で紹介した通り。アコギ主体のシンプルなアレンジがされており、バンドサウンドによる完成版とは聴こえ方がかなり変わってくる。こうしたデモ音源と完成版の違いを楽しめるのは今作の魅力と言える。


「Children’s Song(2017)-“Rio-Tokio”Instrumental ver.」は「Rio-Tokio」のインストバージョン。静謐な雰囲気に包まれた音ながら、鳥の鳴き声や風の音など様々な音が入っていることがわかる。今作を通して聴くと、実質的なラストはこの曲となる。聴き終えると、心が落ち着いていることだろう。ヒーリング音楽のような境地に達したインストである。


これまでにCD化されていなかった曲たちから厳選された曲が並んだ構成なので、どれも確かに耳に残る。デビュー30周年の前哨戦というような趣の作品だが、これまでのキャリアで積み重ねられた高野寛独自のポップスのみならず、サウンド面では新たな挑戦も取り入れられている。
ただ、日常に寄り添ってくれるような詞世界は不変。30周年を迎えてもなお、マイペースに新曲を生み出し続けてくれるはず。そう思わせてくれる作品だった。

★★★★☆