Greetings
田嶋里香
1996-08-28


【収録曲】
全曲作詞 田嶋里香
7.8.作詞 沢村大和
1.12.作曲 松本俊明
2.作曲 濱田金吾
3.4.7.8.9.10.作曲 小泉誠司
5.作曲 平間あきひこ
6.作曲 渚十吾(黒田日出良の変名)
11.作曲 野中則夫
1.3.7.8.9.10.編曲 小泉誠司
2.4.6.編曲 Haward Killy(河井拓実の変名と思われる)
5.11.編曲 野中則夫
12.編曲 三宅一徳
1.7.ストリングスアレンジ 三宅一徳
プロデュース 長戸秀介

1.ありがとう ​★★★★☆
2.day after day ★★★★☆
3.My Friend ​★★★★★
4.鳴らない電話 ★★★☆☆ 
5.潮風の休日 ★★★★★
6.夏の終わりに(seaside version) ★★★★☆
7.忘れないでね ​★★★★★
8.明日になれば ★★★★☆
9.恋しよう ★★★★★
10.I Wish〜これからもずっと〜 ​★★★☆☆
11.情景〜夏の手紙〜 ★★★☆☆
12.ありがとう(reprise) 省略

1996年8月28日発売
東芝EMI
最高位不明 売上不明

田嶋里香の2ndアルバム。先行シングル「忘れないでね」「ありがとう」「My Friend」を収録。今作発売後に「恋しよう」がシングル「粉雪」のC/W曲としてシングルカットされた。前作「RIKA」からは1年3ヶ月振りのリリースとなった。

田嶋里香は1994年にデビューした女性歌手。今作リリース当初は18歳だったため、その容姿も活かしてアイドル的な売られ方もされていたのかもしれない。結局、歌手としてはシングル9作、アルバム2作を残した。アルバムとしては今作が最後。CM出演や、深夜ドラマで主演を務めたこともあったようで、女優としても活動していたと思われる。その後は名義を変更して活動していたようだが、近況は不明。

田嶋里香の持ち味は、透き通るような歌声にある。「お嬢様っぽい」と思ってしまうような、どことなく上品さを感じさせる歌声である。なおかつ、可愛らしさも持っている。この手の女性ボーカルは沢山いそうで、意外といないもの。

前作との違いに関しては、田嶋里香がほぼ全曲の作詞を手掛けていること、前作と同じ作家を続投させつつも、多くの作曲・編曲家が新たに起用されていることにある。


「ありがとう」は今作のオープニングを飾る先行シングル曲。壮大なバラードナンバー。温かみがあって美しいメロディーが心地良い。それでいて、サビはしっかりと耳に馴染む仕上がり。ストリングスやアコギをフィーチャーしたサウンドが展開されており、静かながらも盛り上がりのあるサウンド面となっている。
歌詞は恋人への感謝が綴られたもの。「いつも想う 小さな幸せ 言えないけれど うれしいの」「つないだ手と手から言葉よりももっと 大切なこと 伝わってくるわ」といった歌詞は何とも微笑ましく、幸せさが伝わってくる。
シングル曲とはいえ、決して派手とは言えないこの曲をオープニングに据えるという采配には驚かされた。田嶋里香から聴き手へのメッセージのような曲が並んだ今作の世界によく合っているとは思うが。


「day after day」はリゾートミュージックのテイストを感じさせるポップナンバー。シティポップ・AORの界隈で評価される濱田金吾が作曲を手掛けたからだろうか。聴き流すのがとにかく心地良いメロディーが展開されており、それはまさにリゾートミュージックの魅力である。サウンド面では、キレの良いギターのカッティングや重厚な打ち込みベースが存在感を放つ。シンセも同様に多用されており、曲のポップ性を演出する。充実したコーラスワークも曲を効果的に盛り上げる役割を果たしている。
歌詞はストーリー性に満ちたもの。主人公は失恋して傷心。それを慰める男友達。恋の終わりと新たな恋とをイメージさせる。田嶋里香の曲としては珍しく、強気な女性像を想起させる詞世界も印象的。


「My Friend」は先行シングル曲。大鵬薬品の「チオビタドリンク」のCMソングに起用された。爽やかさに包まれたポップナンバー。キャッチーかつ上品な雰囲気のあるサビのメロディーにはすぐに心を掴まれてしまう。シンプルなバンドサウンドと煌めきを感じさせるシンセの音色との絡みも絶品。
歌詞はタイトルからも想像できるように、友人への想いが綴られたもの。学校を卒業して友人と離れ離れになっても、何となくその友人のことを思い出したり気にしたりすることがある。たまに連絡を取り合うと安心できて、ありのままの自分を見せられる存在。聴き手の誰もがそのような存在を思い浮かべて聴けるような詞世界となっている。
自分が田嶋里香にハマったきっかけがこの曲。一聴しただけでそのメロディーや歌声に魅かれ、何度も繰り返し聴いたことを覚えている。今でも田嶋里香の楽曲の中で一番好き。


「鳴らない電話」は流れを再び落ち着けるミディアムナンバー。優しく温かみのあるメロディーが展開されており、それはサビになっても変わらない。ふとした時に口ずさみたくなるような心地良さがある。アコギとシンセをフィーチャーしたシンプルなサウンドは曲全体の心地良さを演出している。
歌詞は片想いしている女性の心情を描いたものと解釈している。遠距離恋愛をしている…とも捉えられるかもしれない。「あなた」にだけ電話番号を教えて電話を待ったが、結局相手からの電話は来ない。切なさに満ちた詞世界である。電話をテーマにしたものなので、今でも通じるのではと思う。今作の中では少し地味な印象があるが、それでも完成度で見劣りする訳ではない。


「潮風の休日」は爽快感のあるポップロックナンバー。砂浜を全速力で駆け抜けていくようなメロディーと、力強いギターサウンドの絡みは聴いていてとても心地良い。ギタリストの野中則夫が編曲を担当しただけあって、ロック色の強いアレンジに仕上がっている。
歌詞はドライブデートに出かけたカップルを描いたもの。海に行こうとしているようだ。「言葉よりずっと 好きが溢れてる 波の数よりずっと」という歌詞が好き。彼女にここまでのことを思わせることができる男性もかなりの人なのだろう。聴いているこちらまで胸が高鳴るような詞世界となっている。アルバム曲ながら、シングルと言っても違和感が無いほどの完成度を誇る曲である。


「夏の終わりに(seaside version)」は先行シングル「My Friend」のC/W曲。今作収録にあたって、アコギ一本という実にシンプルなリアレンジがされた。シングルバージョンはバンドサウンドやシンセまで入ったものだったので、違いは歴然。“seaside version”とあるが、確かに海岸で海を眺めながらギターを弾いているようなイメージのサウンドである。そのアレンジによって、メロディーそのものが持つ繊細さや脆さといった魅力がさらに高められた。
歌詞は恋人と過ごす夏の終わりが描かれている。一人で花火や星空を見ても美しくて楽しめるだろう。ただ、恋人と見なければつまらないし幸せとは言えない。恋人のいない人にとってはとてつもない贅沢である。詞世界、前述したメロディーやサウンド、思い出を慈しむようなボーカル。その全てが一体となって、切なさと多幸感を両立させた曲となった。


「忘れないでね」は先行シングル曲。日本テレビ系番組『ウッチャンウリウリ!ナンチャンナリナリ!!』のエンディングテーマに起用された。爽やかな雰囲気に満ちたポップナンバー。一度聴けば耳を離れなくなるほどにキャッチーなサビは絶品。サビの中に英語詞を織り交ぜることによって、さらに耳に残るような仕掛けがされている。サウンド面では、一打一打がやたらと力強い打ち込みドラムとストリングスが印象に残る。ストリングスは曲に美しさを与えている。
タイトルだけ見ると失恋ものバラードかと思ってしまうが、実際はむしろその逆。恋人に対して「恋の始まり」「ふたりを結ぶ このときめき」を「忘れないでね」と願っている。恋の始まりを感じさせるピュアで多幸感のある詞世界がたまらない。メロディーや歌詞がとにかく好み。「My Friend」と並んで、田嶋里香の曲の中でも特に好きな方に入ってくる。


「明日になれば」はゼネラル・エンタテイメント社のゲーム『TIZ -Tokyo Insect Zoo-』のテーマソングに起用された。開放感のあるポップロックナンバー。ポップ性と上品さを併せ持ったメロディーは田嶋里香の楽曲の持ち味。それがこの曲でも遺憾無く発揮されている。この曲でも野中則夫によるギターサウンドがフィーチャーされており、曲に勢いをつけている。それ以外はシンセによるものだが、生音と比べても遜色のない丁寧な打ち込みなので聴いていて違和感は無い。
歌詞は大切な人の旅立ちが描かれたもの。相手は夢のために主人公と別れて旅立つようだ。相手と過ごした日々を懐かしむ気持ち、相手との別れを惜しみつつも笑顔で送り出そうとする気持ち…様々な心情が綴られた詞世界。RPGの始まりのようなイメージがあり、ゲームとのタイアップがされたのも何となく頷ける。


「恋しよう」は今作発売後にシングル「粉雪」のC/W曲としてシングルカットされた曲。跳ね上がるような曲調が心地良いポップロックナンバー。もし仮に田嶋里香のライブがあったとしたら、盛り上げ担当の曲として定番になっていたのではと思う。一聴しただけでもそれくらい楽しめるような、ノリの良い曲調である。今作の中でも特に明るい。生音主体の勢いのあるサウンドも素晴らしい。
歌詞は片想いしている女性の想いが綴られたもの。「地味だし グズだし 冴えないタイプだし でも 気付いて欲しい」という歌詞は中々にインパクトがある。前述した通りの明るいメロディーやサウンドに、ここまで痛烈な自己卑下が乗せられる。それでも決して暗い詞世界にはなっていないのが見事。シングルカットされたのも頷けるくらいの強さがある曲。


「I Wish〜これからもずっと〜」は先行シングル「忘れないでね」のC/W曲。しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。どの曲でも田嶋里香の歌声の魅力を堪能できるのだが、この手の曲では特にその魅力を味わえる。終始落ち着いたメロディーながら、サビはそれを保ちつつもキャッチーに仕上げられている。サウンド面ではほぼシンセのみで構成されており、メロディーの美しさを引き立てている。
歌詞はメッセージ性の強いもの。「一人の夜にも 新しい朝が 必ず来るから 恐れることなんてないの」と歌い上げるサビには聴き惚れてしまう。静かな中にある力強さとでも言うのか、この部分では田嶋里香の歌声に凛とした雰囲気が感じられる。派手さは無いが、それでも心を掴まれてしまう。C/W曲という位置にふさわしいバラードである。


「情景〜夏の手紙〜」は前の曲に続いてのバラードナンバー。叙情的で美しいメロディーには相当な訴求力がある。サウンドはピアノやシンプルな打ち込みサウンドが主体となっており、田嶋里香のボーカルを際立たせるようなアレンジとなっている。他の曲ではロック色の強いアレンジをしていた野中則夫だが、この曲では印象がガラッと変わる。
歌詞は別れた恋人へのメッセージと取れるもの。幸せな別れ方だったのだろうか。主人公の近況や一緒にいた頃の思い出を織り交ぜつつ、相手の近況を尋ねている。どことなく温かみがあって懐かしい雰囲気が歌詞からも溢れている。そのような詞世界のためか、他の曲にも増してボーカルが優しく聴こえる。今作の実質的なラストにふさわしい曲だと思う。


「ありがとう(reprise)」は今作のラストを飾るインスト曲。オープニングの「ありがとう」のサビをストリングスでなぞったもの。静かに始まって静かに終わる。この曲を聴き終えた時、ひっそりと余韻が訪れることだろう。


あまり売れた作品ではないので中古屋では滅多に見かけない。90年代のガールポップという、今ではほとんど顧みられることのないジャンルに括られたアーティストだが、今でも似たような歌声の持ち主には中々出逢えない。そのため、このまま作品が埋もれてしまうのはあまりにも惜しい。
可愛らしさや透明感に満ちた歌声を活かした、ポップかつ上品な作品。その基本的な路線は前作と何ら変わらないが、様々な作家が参加したことによって、王道な路線と異色な部分とがバランス良く共存している。バランスの都合上評価を下げた曲もあるが、どの曲も高い完成度を誇っており、何度聴いても擦り減らないだけの魅力がある。
90年代ガールポップに関してはまだまだ深く掘り下げていきたいと思っているが、現時点で聴いてきたガールポップ系アーティストの作品の中でも特に好きな方に入ってくる。

​★★★★★