今夜・私に
井上陽水
1988-09-07


NO SELECTION
井上陽水
1991-12-11


ReMASTER
井上陽水
2001-05-30


【収録曲】
全曲作詞作曲 井上陽水
1.編曲 川島裕二
2.編曲 鈴木茂

1.今夜、私に ★★★★☆
2.恋は自分勝手に ​★★★★☆

1988年9月7日発売
フォーライフ
最高位43位 売上1.6万枚

井上陽水の26thシングル。前作「WHY」からは約10ヶ月振りのリリースとなった。

表題曲は1988年9月1日に発売された日産の「セフィーロ」のCMソングに起用された。井上陽水本人もそれに出演。セフィーロは発売数週間前から放映されていたティザー広告や、糸井重里による「くうねるあそぶ。」というキャッチコピーが話題となっていた。

ただ、それ以上にCM中の井上のセリフ「みなさん、お元気ですか?失礼しま〜す」の方が著名だろう。このCMの放映が始まって間もなく、昭和天皇が体調を崩してしまい、全国的に自粛モードに入るようになった。その流れの中で「宮さん、お元気ですか?」と聞こえかねない井上の言葉も槍玉に挙げられた。問題のセリフの部分だけをミュートするという苦肉の策も取られたが、やはりそれも話題に。なお、井上は1990年頃までCMに出演していたものの、当時は運転免許を持っておらず、助手席に乗って出演していた。それもこのCM独特の雰囲気を演出した要因かもしれない。

「みなさん、お元気ですか?」の問題は、最終的に井上出演の新たなCMが作られることで収束したが、リアルタイムで観た世代は30年経っても忘れられないことだろう。色々と物議を醸したCM、放送中止や自粛に追い込まれたCMの代表格として今でも語られることが多い。




「今夜、私に」は表題曲。前述した通り、日産「セフィーロ」のCMソングに起用された。しっとりした曲調で聴かせるバラードナンバー。サビはCMに使われただけあって中々にキャッチーなのだが、それ以外はかなり落ち着いている。サウンドはシンセを得意とした川島裕二が編曲を担当しただけあって、打ち込みが主体になっている。当時の打ち込み特有の硬質なリズムや、どこか幻想的な雰囲気の漂うシンセの音色が特徴。間奏では力強いギターソロを楽しめる。かなり長いギターソロだが、この曲の聴きどころである。
歌詞は社会派な要素も交えつつ、色々なものを求めるもの。「学舎にうつむく 子供に あこがれを教えておくれよ ちょっとだけ」ひとりの夜に 気づかぬように 夢をちょっとだけ」…歌詞もまた、不思議な世界を持っている。それを井上の色気のある歌声がさらに引き立てる。
タイアップの知識を抜きにして聴くと、あまり印象に残らないような曲だと思う。改めて、CMの威力を実感させられた。


「恋は自分勝手に」は意味の分からない歌詞が並べられたファンクナンバー。メロディーそのものはそれほどキャッチーではないが、異様なテンションのせいかやたらと耳に残る。打ち込み主体だった表題曲とは異なり、こちらは生音主体。キレの良いギターのカッティングや、重厚なベースが格好良い。途中からは女性コーラスやホーンも入り、さらに盛り上がっていく。
歌詞は独特な言葉遊びが展開されたもの。「君に 騙されてもいい」「恋に 縛られてもいい」などと、確かに自分勝手な恋愛観が綴られている。ただ、繰り返し歌われる「HANDY TALKYは警官用 WALKY TALKYは犯人用」というフレーズが耳を離れない。ラストは歌いながら思いついたようなフレーズを当てはめて歌われており、その部分はもはや歌詞に記載されていない。
異様ながら何故か引き込まれる曲であり、表題曲よりもこちらの方が井上陽水らしいと思ってしまう。


どちらもオリジナルアルバムやベスト盤には収録されていない。ボックスセットの「NO SELECTION」「ReMASTER」には収録されているが、現在ではプレミアがついている。シングルもプレミアがついているという事態。安価に入手しようと思ったら、たまたまシングルが安く転がっていたのを入手するくらいしか無いだろう。
あれだけ話題になったCMに使われた曲なのだから、曲名こそ知らなくてもサビを聴けば当時を過ごした世代の多くはわかるはず。その点では、代表曲にも匹敵するほどの知名度を持っていると思うのだが…デビュー50周年企画の一環として、配信や再発がされてほしいと願うばかりだ。