風の扉
鈴木祥子
1990-03-01


【収録曲】
全曲作詞 川村真澄
1.10.作詞 鈴木祥子
2.作詞 戸沢暢美
6.作詞 尾上文
全曲作曲 鈴木祥子
全曲編曲 西平彰・佐橋佳幸
プロデュース 東良睦孝

1.風の扉 ★★★★☆
2.愛はいつも ​★★★★★
3.Sweet Sweet Baby ​★★★★☆
4.ステイションワゴン ★★★★★ 
5.ささやかな奇跡 ​★★★★☆
6.夢の庭で ​★★★☆☆
7.Circle Game ★★☆☆☆
8.危ない橋 ★★★☆☆
9.ひとりぼっちのコーラス ★★★★☆
10.雪の夜に ★★★☆☆

1990年3月1日発売
EPIC/SONY RECORDS
最高位不明 売上不明

鈴木祥子の3rdアルバム。先行シングル「ステイションワゴン」「愛はいつも」収録。前作「水の冠」からは約10ヶ月振りのリリースとなった。

デビュー以来アコースティックなポップスやフォークロックを展開してきた鈴木祥子だが、今作では路線はそのままにヒットを狙いにいった印象がある。EPICソニーサイドが押しにかかったのだろう。同じEPICソニーに在籍し、音楽性でも少々似た部分のある遊佐未森の作品のアートディレクターを起用したアートデザインからもそれが伝わってくる。

前2作は川村真澄が全曲の作詞を手掛けていたが、今作からは新たな作詞家が起用されたり、鈴木自らが作詞を手掛けたりと詞世界の面でも変化している。編曲はこれまで通りのメンバーだが、参加ミュージシャンが増えたこともあってか、よりスケールの大きなサウンドを実現させた。


「風の扉」は今作のオープニングを飾るタイトル曲。壮大な曲調が特徴的なバラードナンバー。どこがサビなのかわかりにくいものの、確かに耳に残るメロディーが展開されている。青山純によるパワフルなドラムが基礎を築いた、隙の無いバンドサウンドが曲の壮大さを演出している。サックスやフルートも随所で起用され、曲に華を添える。
歌詞はメッセージ性の強いもの。「それでも 今 この目の前で 笑う人を 失くしたくない」という言葉が印象に残る。鈴木の歌声もいつになく強さを増して、聴き手に言葉を届ける。
ジャケ写の広大な土地やどこまでも広がる青空といった場面が見事に表現された、スケールの大きな曲だと思う。このような曲はこれまでに無かった。


「愛はいつも」は先行シングル曲。美しいメロディーが冴え渡るミディアムナンバー。とはいえサビはかなり印象に残る仕上がりであり、鈴木のメロディーメーカーとしての実力を実感させてくれる。サウンド面では、この頃のJ-POP特有のひんやりした音色のシンセや、村上"ポンタ"秀一による力強いドラミングが存在感を放っている。曲自体のスケールの大きさを演出しているように思う。
歌詞は戸沢暢美によるもの。いつになく壮大なメッセージが並んでいる。「愛は いつも正しいと思う」「愛は 生きる勇気だと思う」というサビの歌詞が顕著。透明感と訴求力を併せ持った鈴木の歌声によって、メッセージがさらに強みを増している。
メロディーやサウンド面が自分の好みそのもの。鈴木祥子の曲の中でも特に好きな方に入ってくる。


「Sweet Sweet Baby」は先行シングル「愛はいつも」のC/W曲。しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。60年代〜70年代の洋楽からの影響を感じさせる、流れるように美しいメロディーが展開されている。曲の中盤に盛り上がる部分を持っていく構成が特徴。シンプルなバンドサウンドを基調としたアレンジは時代性を感じさせない魅力を持ち、曲に力強さを与えている。
歌詞は様々な解釈の余地があると思う。幸せなラブソングとも、別れの気配を描いたものとも捉えられる。「明日は街中が ストライキで はぐれたままの時も止まる 雨でも降れば ビニール傘で 背中濡らす ねぇ あなただから」という歌詞が特に好き。メロディーや歌声から、鈴木祥子の「訴求力」という魅力が溢れた名バラードだと思う。


「ステイションワゴン」は先行シングル曲。映画『キッチン』の主題歌に起用された。鈴木祥子の楽曲の中では著名な方だと思われる。温かみや優しさを前面に押し出したミディアムナンバー。ゆっくりと心に沁み込んでいくようなメロディーがたまらない。その雰囲気はそのままに、キャッチーにまとめたサビは見事。叙情的な音色のスティールギターがメロディーの魅力を引き出している。
歌詞は恋人と過ごす幸せな時間を描いたもの。「紙コップのコーヒー」「ステイションワゴン」「中古車センター」「麦藁帽子」などの小道具や固有名詞を多数登場させつつ、幸せながらもどこか切ない詞世界を作り上げている。川村真澄の作詞家としての実力をぶつけてきたような、渾身の歌詞だと思う。メロディーやサウンドだけでなく、歌詞も好きな曲。


「ささやかな奇跡」はここまでの流れに続いてのミディアムナンバー。AORのテイストを感じさせる、洗練された美しいメロディーが展開されている。Aメロから聴き手の心を掴んで離さない。無駄のない曲構成は鈴木祥子の真骨頂と言える。サウンド面ではギターのカッティングや、重厚感のあるベースが存在感を放つ。
歌詞は恋人との別れを考えている女性の心情を描いたもの。別れの言葉を言おうとして言えないまま関係を続けてきたことを「ささやかな奇跡」とどこか皮肉めいたフレーズで表現しているのが印象的。鈴木の突き放すような冷たさを感じさせる歌声もこの曲の世界観を構成している。このような曲は今までもありそうで無かった印象がある。この手の曲が好きな自分にはたまらないものだった。


「夢の庭で」はここまでの流れを変えるようなポップナンバー。とはいえ突き抜けるような明るさは無く、上品な雰囲気を保っている。サビのメロディーもそのイメージを持っているが、耳馴染みの良さがある。サウンド面はシンセによるストリングスが目立っており、ドラムも打ち込み。また、佐橋佳幸や鈴木の多重コーラスも曲を盛り上げる役割を果たしている。
歌詞はファンタジックなイメージのもの。「永遠に終わりのない 夢の中 遊んでいた」「青い月の庭で 胸を重ねたまま いつのまにか ふたり 押し花に 変わった」といった歌詞が顕著。この手の詞世界でも違和感無く聴けてしまうのは鈴木祥子ならではと言ったところか。


「Circle Game」は先行シングル「ステイションワゴン」のC/W曲。「Folkish Rock Version」と銘打たれており、恐らくアルバムバージョンだろう。シングルバージョンは聴いたことが無いので違いはわからない。サブタイトルの通り、フォークロック色の強いサウンドが展開されている。メロディーも重々しい感じで、サビになってもそれが変わらない。刺々しさのあるアコギの音色がこの曲の無骨さを演出している。
歌詞は恋人の冷たい態度に悩む女性を描いたもの。恋人の態度はいつか変わると信じつつも、ただ季節が巡るだけで何も変わらない。「季節が巡る」という部分は、ジョニ・ミッチェルの「The Circle Game」からの影響を感じさせる。このような路線はありだと思うが、どうにも曲全体から溢れる「重さ」に馴染めない。


「危ない橋」は前の曲と同じくフォークソング路線の曲。2分15秒程度とかなり短いのが特徴。ボーカルと佐橋佳幸のアコギのみで構成された、極めてシンプルなサウンドとなっている。メロディーから漂う繊細さをそのようなサウンドがさらに引き立てる。
歌詞はタイトル通り、かなり不穏なイメージのフレーズが並んでいる。「信じるのをやめたら 本当のことを 言い出す人」「買い物袋を 川に捨てて」といった歌詞が突き刺さる。思うがまま、誘われるがまま、危ない橋を渡ったらどうなってしまうのだろう。「危うい」魅力を持った曲である。


「ひとりぼっちのコーラス」は今作の中では比較的ポップな曲。しかし、全体を通してどことなく陰のあるメロディーが展開されており、振り切ったような明るさは無い。この頃の楽曲特有のくっきりしたリズムや、聴き心地の良いバンドサウンドが曲に力強さを与えている。
歌詞はタイトルからも想像できるように、孤独感が前面に押し出されたもの。様々な寂しいシチュエーションが描かれているが、「悲しくはないけれど 泣きたい気分よ」という歌詞が全てを物語っている。一人の方が気楽だと思いつつ、寂しさを抑えきれない。その複雑な感情を的確に表現したフレーズだと思う。メロディーや歌詞が自分好み。今作のアルバム曲の中でも好きな方に入る。


「雪の夜に」は今作のラストを飾る曲。しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。心に優しく沁み渡っていくような感覚があるメロディーがたまらない。サウンドはシンセが主体となっており、音の数は少なめ。コーラスで遊佐未森が参加している。神秘的な雰囲気さえ感じられるほどの歌声で曲の厳かさを演出している。天から降ってくるかのような歌声である。
歌詞は幻想的な冬の夜をイメージさせるもの。「想い出も 罪さえも この手のひらに ひとつずつ 溶けてゆくから」という歌詞が好き。どの季節に聴いても、この曲を聴いている時だけは銀世界になる。そう言っていいほどに世界観が徹底されていると思う。


あまり売れた作品ではないが、中古屋ではそこそこ見かける。
EPICソニーに在籍していた頃の鈴木祥子のパブリックイメージを築き上げた作品と言えるだろう。ファンタジックな方にも現実的な方にも突き抜けない、的確に表現するのが難しい世界観である。
アルバムに関しては、前半の流れの完成度が高過ぎて、後半に尻すぼみしてしまった感じ。しかし、切なくて懐かしい、鈴木祥子独特のメロディーの強みは全体を通して堪能できる。アコースティックなサウンドとシンセとの両立もできており、その面でも聴きごたえのある曲が多いのも今作の魅力。

★★★★☆