裸であいましょう
かの香織
1995-09-01


【収録曲】
全曲作詞作曲 かの香織
1.編曲 白井良明
2.3.7.編曲 門倉聡
4.8.9.編曲 吉田智
5.10.編曲 細海魚
6.編曲 松浦雅也
プロデュース かの香織

1.裸であいましょう ★★★☆☆
2.午前2時のエンジェル ★★★★★
3.夏よ風よ ​★★★★★
4.REPLAY ★★★☆☆
5.合鍵 ​★★★☆☆
6.ジャンヌダルク1993 ★★★★★
7.魔法にかかれ ★★★★★
8.僕だけの休暇 ★★★★☆ 
9.HOPE ★★☆☆☆
10.アナタとイキル ★★★☆☆

1995年9月1日発売
Sony Records
最高位64位 売上不明

かの香織の5thアルバム。先行シングル「夏よ風よ」を収録。今作と同日にシングル「魔法にかかれ」がリリースされ、今作発売後に「午前2時のエンジェル」がシングルカットされた。前作「EXTRA BRIGHT」からは約1年振りのリリースとなった。

かの香織は1982年にショコラータのボーカルとして音楽活動を開始し、1985年にメジャーデビューを果たした。ニューウェーブとイタリアのカンツォーネを融合させた独自の音楽性が一部で高く評価されたものの、その翌年に活動休止。その後はCaolina Bambina名義でのCMソングの制作、他のアーティストとの共演、デザイナーとしての活動など幅広く活躍。

かの香織としてのソロデビューは1991年。奇抜なファッションや音楽性が印象的だったショコラータ時代とは異なり、自然体なスタイルでデビュー。音楽性もバンド時代のそれとは一変し、シティポップ・AORや渋谷系のテイストを忍ばせたお洒落なポップスを展開するようになった。
バンド時代の、声楽科出身らしいオペラの要素が強い歌い方も、持ち前の独特な声質や優れた表現力を活かしたものに変貌を遂げた。


「裸であいましょう」は今作のオープニングを飾るタイトル曲。アコギが主体となったシンプルなサウンドで聴かせるバラードナンバー。そのようなサウンドは優しく温かみのあるメロディーを際立たせる。優しさや温かみだけでなく、切なさも忍ばせたメロディーがたまらない。
歌詞は友人が自らの恋人と親密な関係にあることを知った女性の心情を描いたもの…と解釈している。タイトルの「裸」はお互いに何も知らない状態や、お互いの心の内を晒け出せる状態だと捉えている。この曲、他の曲よりもボーカルに臨場感があるように思う。そのため、この曲を聴いていると目の前で歌ってもらっているかのような感覚に陥る。
オープニングのタイトル曲というには地味な印象もあるが、作風にはよく合っていると思う。


「午前2時のエンジェル」は今作発売後にシングルカットされた曲。日本テレビ系番組『発明将軍ダウンタウン』のエンディングテーマ、日本ユニシスのCMソングに起用された。しっとりした曲調で聴かせるバラードナンバー。終始落ち着いた曲なのだが、サビはキャッチーに仕上げてくるのが見事。夜の街中に潜り込んでいくようなサウンドが展開されている。洗練されていて、どこか幻想的な打ち込みサウンドが主体。また、鈴木茂による間奏のギターソロも聴きどころ。
歌詞はかの香織の友人の実話を基にしたもの。その友人は遠距離恋愛をしており、深夜にタクシーで恋人のところまで向かったという。真っ直ぐな恋心だけでなく、都会の深夜の明かりや風の匂いまでイメージできるような詞世界である。かの香織の代表曲というのも頷ける、確かな貫禄のある曲だと思う。


「夏よ風よ」は先行シングル曲。爽快感に満ちたポップナンバー。サビだけでなく、Aメロから耳に残るようなメロディーを堪能できる。ポップス職人としての面目躍如と言ったところ。ホーンをフィーチャーし、夏の青空を想起させる爽やかさや軽やかさを持ったサウンドになった。安定感のあるバンドサウンドも相まって、シティポップやリゾートミュージック色の強いサウンドである。
歌詞は恋人への想いをストレートに打ち明けたもの。「きっとふたりは であうために 生まれてきた」「きみがいるから 願い事 なんでもかなうはず」などと、多幸感溢れるフレーズが並ぶ。その喜びを思い切り表現したボーカルにも引き込まれる。ここまで自分たちのことを肯定されると、聴いているこちらまで清々しくなってしまうくらい。
振り返ると、今年の夏はこの曲ばかり聴いていた。この記事を書いているのも、この曲に出逢ったからだ。


「REPLAY」は前の曲からの流れをぐっと落ち着けるバラードナンバー。7分と少々長めな曲。終始落ち着いた曲調ではあるが、サビはそれなりにキャッチーな仕上がり。民族音楽的なアプローチがされたサウンドとなっており、1曲の中に様々な聴きどころが散りばめられている。また、曲の随所で男性ボーカルが存在感を放っているのが特徴。
歌詞は恋人と過ごす時間が描かれたもの。二人だけの合言葉として「REPLAY」のフレーズが登場する。「生まれたままで泳ぎましょう」「生まれたままで笑いましょう」といったサビの歌詞が印象に残る。今作のタイトルのテーマにも繋がってくると思う。曲全体から漂うサイケな雰囲気に飲まれてしまいそうになる。そうなると、7分という長さも気にならないだろう。


「合鍵」は流れを再び戻すようなミディアムナンバー。サビでもあまり盛り上がらないメロディーだが、その分サウンドを楽しめる。細海魚がアレンジを手掛けただけあって、エレピやシンセを効果的に用いたサウンドが展開されているが、バンドサウンドとも共存している。中でも、渋さとファンキーな要素を両立させたギターサウンドが見事。
歌詞はタイトル通り「合鍵」が“キー”アイテムとして描かれている。全体的に多幸感に溢れた詞世界となっており、それを少しだけ分けてもらったような感覚になる。「ドアを開けてね その合鍵で」というフレーズが印象に残る。ただ、字面の通りの意味でもないように感じる。この曲に関しては、サウンド面が自分好み。今作のアルバム曲の中でも好きな方に入ってくる。


「ジャンヌダルク1993」は爽快感のあるポップナンバー。全体を通して疾走感のある曲調がたまらない。跳ね上がるようなサビのメロディーはキャッチーそのもの。今作では唯一、PSY・Sの松浦雅也が編曲を担当した。無秩序に飛び交っているかのようなエレピや、キレの良いギターサウンドがこの曲を効果的に盛り上げている。かなり前の曲なのに近未来的なサウンドだと感じてしまうのは何故だろう。
歌詞は自らをジャンヌダルクに例えたもの。「あなたを守ってあげる 風にまぎれて私がいるよ」「平気じゃないってわかってる どんなにつくろった言葉並べて凛としていても その目は 泣いているね」といった歌詞が優しい。メロディーやサウンドがとにかく自分好み。今作のアルバム曲の中でも特に好き。


「魔法にかかれ」は今作と同日にリリースされたシングル曲。ワコールのCMソングに起用された。シティポップ色の強いサウンドが展開されたポップナンバー。一聴しただけでも耳から離れなくなるほどにキャッチーなサビは絶品。タイトなバンドサウンドとホーンの絡みが心地良い。渡辺等による分厚いベースがバンドサウンドの中でも特に存在感を放つ。
歌詞は恋人のところへ向かう女性の心情を描いたもの。繊細な女心を的確に表現し、恋心を「魔法」に例えた詞世界が特徴なのだが、それ以上に「大好き 大大大 大好き」というサビ頭のフレーズが印象深い。一度この曲にハマれば中々抜け出せなくなる気がするが、その中毒性の要因はこのフレーズではないかと思う。
お洒落で可愛らしい。かの香織の楽曲の魅力を凝縮したような曲だ。


「僕だけの休暇」は「魔法にかかれ」のC/W曲。そちらはシングルバージョンとして収録されているようだ。違いはわからない。ちなみに、「休暇」は「ホリデイ」と読む。
シンプルなバンドサウンドを前面に押し出したポップナンバー。広がりのあるサビのメロディーは、聴いていると身体がふわっと浮くような感覚さえある。バンドサウンド主体のアレンジだが、中でも小倉博和のギターが印象に残る。力強く叙情的な間奏のギターソロは絶品。
歌詞はタイトルからもわかるように男目線。恋人から別れを告げられた男性の想いが綴られたもの。「もうきみからはちっとも 必要とされてないって 肩をおとしたよ」という歌詞が突き刺さる。メロディーやサウンドと歌詞のギャップがかなり大きい。


「HOPE」は重厚なバラードナンバー。7分半と中々に長尺。ボーカルを聴かせるイメージで、メロディーもあまり耳に残らない。音の数もかなり少ないが、曲が進むにつれて少しずつ増えていく。サウンド面ではストリングスやオルガンが前面に出ている。何かに祈りを捧げているかのような、荘厳な雰囲気さえ感じられるほどのサウンドである。
歌詞はメッセージ性の強いもの。「人を愛すその先になにかがある きせきにであうまで 愛をやめないで」という歌詞が顕著。全てを包み込むようなかの香織のボーカルによって、歌詞の一言一言にさらなる力が生まれている印象。曲の雰囲気に圧倒されるばかりだ。


「アナタとイキル」は今作のラストを飾る曲。しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。曲調そのものはかなり落ち着いているが、音の数はかなり多いので盛り上がる部分はある。シンセ主体のサウンドながら、その後ろでホーンやギターも主張しているのが特徴。また、コーラスで高浪敬太郎が参加しており、かの香織との掛け合いをスタイリッシュにこなしている。
歌詞はタイトル通り、恋人と共に生きていくことを誓った女性の想いが綴られたもの。「信じているよ こわれそうでも 愛せよ恋せよ愛せよ恋せよ」というフレーズがかなり印象に残る。可愛らしさを感じさせつつも、相当な力強さも感じられる。ラストにふさわしい風格のある曲だと思う。


かの香織の作品の中では売れた方なので、中古屋ではそこそこ見かける。かの香織はバンド時代のこともあってか、ボーカルやサウンド面で語られることが多い印象がある。ただ、メロディーメーカーとしても優れた実力を持っている。ソロとして確立した、お洒落で都会的なポップスという路線を維持しつつ、純粋に良いと思えるようなメロディーを数多く聴かせてくれる。そのため、これまでのソロ作品の集大成のような印象がある。長尺な曲が多めなのが数少ない欠点なのだが、全体を通して充実感のある作品なのは事実。

​★★★★☆