フラワーズ
psycho babys
1996-08-31


【収録曲】
全曲作詞作曲 黒須チヒロ
8.13.作詞 ドレミ・黒須チヒロ
8.13.作曲 ドレミ
全曲編曲       サイコベイビーズ
プロデュース  小田原豊・サイコベイビーズ

1.ボクらは何処へ行くのだろう ​★★★★★
2.ブランコのようだ ★★★★☆
3.金色のヒマワリ ミルクの空 ★★★☆☆
4.愛はいろんな姿でボクらを包み込む ★★★★☆
5.レインソング ​★★★★☆
6.ハッピーエンドでいいのだ ​★★★★★
7.胸の上で十字を切って ★★★☆☆
8.花のひかり 星のしずく ​★★★☆☆
9.本物!!牛じじい ★★★☆☆
10.Home sweet home ★★☆☆☆
11.グライダー ★★★★★ 
12.きっと大丈夫だよ ​★★★★☆
13.またね ★★★☆☆

1996年8月31日発売
2009年6月22日発売(オンデマンドCD)
日本コロムビア
最高位不明 売上不明

サイコベイビーズの3rdアルバム。先行シングル「ボクらは何処へ行くのだろう」「きっと大丈夫だよ」を収録。今作発売後に「愛はいろんな姿でボクらを包み込む」がシングルカットされた。前作「ざくろを食べた日」からは1年1ヶ月振りのリリースとなった。

サイコベイビーズは1994年にデビューした3人組バンド。ボーカル・アコギの黒須チヒロ、ギターの栗原マロ、キーボード・ボーカルのドレミから成る。今作がラストアルバムであり、リリース後に活動を終えたと思われる。解散後は黒須チヒロは作詞家として活躍。栗原マロはプロデューサー、ドレミはCMソングの制作を行っているとされるが近況は不明。

サイコベイビーズの楽曲は普遍的なメッセージが込められたものが多くあるのが特徴。それでいて、難解な言葉は使われていない。また、『みんなのうた』に起用されていても違和感が無いと言っていいほどにメロディーやアレンジに親しみやすさがある。黒須チヒロの無邪気ささえ感じさせるような歌声もその要因か。


「ボクらは何処へ行くのだろう」は先行シングル曲。映画『ぼくは勉強ができない』の主題歌、ミニストップのCMソングに起用された。爽快感に満ちたポップナンバー。ポップとは何かを突きつけてくるかのようなメロディーは、何度聴いても純粋に「良い」と思わせてくれる。どこまでも広がっていく感覚のあるサビは鳥肌を立てて聴いてしまうこと請け合い。アコギを主体としたシンプルなバンドサウンドと、それに絡むシンセ。それらはメロディーそのものの強さをさらに引き出す。
歌詞の意味については断定できないが、どの歌詞もメロディーとぴったり合っているのが何とも心地良い。「ここはこのフレーズ以外無い!」と思うような部分が数多くあり、黒須チヒロが作詞家として活躍する原点を見た気分になる。
ポップなのにどこか切なくて、優しい…初めて聴いた時から今もずっと好きだ。サイコベイビーズにハマるきっかけになった曲だけに、思い入れが深い。


「ブランコのようだ」は前の曲に引き続き、温かみのあるポップナンバー。ふとした時に思い出したり、鼻歌を歌いたくなったりするようなメロディーがたまらない。淀みなく耳に入ってきて、離れなくなる感覚がある。アコギが主体となったサウンドながら、バックではシンセが控えめに存在感を放つ。曲の魅力を最大限に引き出すようなアレンジだと思う。
歌詞は恋人と過ごす「いろいろある」日々を描いたもの。二人でいると幸せなことも大変なことも出てくると思うが、それを「ぐるんぐるん目がまわる」と表現している。ここまでふんわりとした可愛らしい言葉で、プラスの感情もマイナスな感情も的確に表現する。黒須チヒロの作詞家としての実力が発揮されている。
シングル曲に比べると少々地味な印象が否めないが、やはり好きな曲。


「金色のヒマワリ ミルクの空」はここまでの流れから外れ、ロック色の強めな曲。淡々としたメロディーではあるが、サビはしっかりとキャッチーに仕上げられている。当たり前のようでいて、かなり難しい技術だと思う。サウンド面では、他の曲よりも鋭くなったギターサウンドが特徴的。栗原マロはバンドの中では地味だと思ってしまっていたのだが、この曲では前面に出て曲を牽引している印象。
歌詞は恋人と遊園地に行った青年の心情が綴られたもの。それだけなら楽しそうなのだが、主人公はジェットコースターが苦手なようだ。それなのに、彼女は好きで一緒に乗りたがる。微笑ましいながらにも哀愁の漂う詞世界になっていると思う。この曲に関しては、歌詞の方がインパクトが強い印象がある。


「愛はいろんな姿でボクらを包み込む」は今作発売後にシングルカットされた曲。前の曲と同じく、ロック色の強めなサウンドが展開されたポップナンバー。こちらはピアノがより前面に出ており、ピアノロックのテイストを感じさせる。軽やかかつ力強いサウンドはメロディー自体の軽快さをより高めている。
歌詞は恋人との関係に亀裂が入った男性の心情を描いたもの。「自立するオンナ」を目指そうとする恋人と、関係を何とか続けたい主人公の男性。「愛をください」と訴えかけるサビはボーカルも相まって、哀愁に満ちている。二人はやり直すことができるのだろうか…?曲調と歌詞のギャップがかなり激しいのだが、そこがこの曲の中毒性を生んでいると言える。​​


「レインソング」は先行シングル「ボクらは何処へ行くのだろう」のC/W曲。切なく懐かしい雰囲気を感じさせるメロディーが心地良いバラードナンバー。心にスッと沁みていくような感覚のあるメロディーがたまらない。サウンド面はアコギが主体となっているが、後半にはシンセによるストリングスも入り、さらに美しく盛り上げていく。
歌詞は「キミを初めて送った日の夜」のことを思い出したもの。主人公と「キミ」は友達以上恋人未満の関係のようで、その関係特有のもどかしさがよく現れた詞世界になっていると思う。片想いをしたことがある方なら痛いほどに気持ちが伝わってくるはず。冷たく、突き刺さるような雨の日を思い浮かべながら聴いてしまう。C/W曲らしく、渋い佇まいの名バラードだと思う。


「ハッピーエンドでいいのだ」は先行シングル「きっと大丈夫だよ」のC/W曲。ピアノが主体になったアレンジが心地良いポップナンバー。サビまでは淡々としたメロディーだが、サビになると一気に変貌を遂げる。跳ね上がるようなサビのメロディーはキャッチーそのもので、一度聴けばあっという間に耳から離れなくなるはず。初めてこの曲を聴いた時に鳥肌を立てたのを覚えているが、今でも聴く度に鳥肌をおっ立ててしまう。
歌詞は別れた恋人へのメッセージのようなもの。恋人のことをからかっていても、本心は「できるだけシアワセでありますように」と優しい。失恋したことによる喪失感や後悔は間違いなくあるだろうに、それを一切感じさせない詞世界になっているのが見事。ただ、強がっているようにも感じられるのは少年性の高いボーカルのせいか。
C/W曲どころか、A面でも何ら違和感無く聴けたのではないか。むしろA面よりも好きだったりする。


「胸の上で十字を切って」はここまでの流れを変えるようなロックナンバー。激しいギターサウンドが終始前面に出ており、曲を盛り上げている。小田原豊特有のパワフルなドラミングが冴え渡っており、この曲の力強さを演出している。メロディー自体はそれほど印象に残らないものの、やはりサビはそれなりに耳に残る仕上がり。
歌詞は勇ましい言葉が多く並んだもの。会社のためだけに生きる日々を過ごし、誰のための人生なのかと疑問に思った男性が主人公。そして、「戦うのだ 従順な日々に 背広の裾 翻して」と戦う決意を固める。わかりやすい言葉が並ぶ他の曲とは異なり、少々難しい言葉を並べているのも特徴。今で言う「社畜」を描いた歌詞だけに、今の方がより説得力を増した歌詞なのかもしれない。


「花のひかり 星のしずく」はドレミがボーカルを担当した曲。前の曲からの流れを落ち着ける、しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。それでも、サビはフックのあるメロディーで心を掴んでくれる。ピアノが主体となったシンプルで美しいサウンドが展開されており、メロディーそのものの繊細さを際立たせるようなアレンジになっていると思う。
歌詞は幻想的なイメージのあるもの。自然の美しさを感じさせてくれるような、情景が浮かんでくる描写が印象的。それらを愛おしむような、ドレミのふわふわした歌声がこの曲の優しさや心地良さを何よりも演出しているのだと思う。
アルバムが中盤から後半に入っていくタイミングでこの曲が配置されているので、アクセントとしてぴったりである。


「本物!!牛じじい」は流れを再び戻すようなロックナンバー。サビだけでなく、全編を通して勢いの良い曲調であり、聴いていてもあっという間に流れていってしまうような感覚がある。
黒須チヒロは基本的にアコギに専念しているが、この曲ではエレキギターを演奏している。それによって、他の曲にも増して力強いギターサウンドに仕上がっている印象。
歌詞は「牛じじい」という渾名の中年男性が主人公となったラブストーリーと言ったところ。全体的に熱い恋心が伝わってくるような詞世界となっている。ボーカルも他の曲より張り上げて強く歌っている感じ。サイコベイビーズの曲にはネタ路線と言えるものも見られるが、この曲はまさにその路線である。


「Home sweet home」は再び流れを落ち着けるバラードナンバー。フォーク色の強い、叙情的でどこか懐かしい雰囲気を持ったメロディーが展開されている。今度はドレミがアコギを演奏している。恐らく黒須チヒロも演奏していると思われるが、それによって分厚いアコギの音色となっている。
歌詞は難解でよくわからない。タイトルだけだと、自分の家の愛おしさや安心感について語ったものだと思ってしまうが、決してそのような内容ではない。ボーカルやサウンドを含め、どんどん暗がりに潜り込んでいくような雰囲気があって、短めな曲ながら今作の中では浮いている印象が否めない。


「グライダー」は前の曲から一転して、爽やかな雰囲気溢れるポップナンバー。タイトル通り、青空に向かって勢い良く滑り出すかのような開放感を持ったメロディーが展開されている。特にサビはそれが顕著で、一気に視界が開けたような感覚になれる。澄んだ音色のギターサウンドや、シンセによるアコーディオンのような音色がフィーチャーされたサウンドは曲全体に満ちた開放感を演出している。
歌詞は恋人と離れ、「遥かに海を見渡す丘」で一人ぼんやりと過ごす青年が主人公。そこでグライダーを目にして、思ったことを描いた感じ。「もっと素晴らしい明日がキミに届くように」というメッセージが何とも力強く、優しい。
この曲に関しては、メロディーがとにかく好き。初めて聴いたときに「ああ…好きだ…」となって、そこからは何度も聴いてしまったことを思い出す。


「きっと大丈夫だよ」は先行シングル曲。テレビ朝日系ドラマ『KIRARA』のテーマソングに起用された。あくまでサイコベイビーズにしてはという感じなのだが、壮大なバラードナンバー。繊細さも持った美しいメロディーが冴え渡っている。しかし、サビのキャッチーさという魅力はこの曲でも変わらずに楽しめる。ピアノも絡むタイトなバンドサウンドは曲に力強さを与えてくれる。
歌詞は恋人への想いをストレートに打ち明けたもの。「ずっとそばにいて今更だけれど 本当に確かな愛を見つけたい やっと手に入れた小さな答えを絶対忘れない」と誠実さ溢れる歌詞が素晴らしい。黒須チヒロのどこか頼りない感じの歌声も、この曲では強さのある歌声を聴かせてくれる。タイアップ相手のことを考えてか、他の曲よりもさらに訴求力を増したラブソングになっていると思う。


「またね」は今作のラストを飾る曲。ドレミがメインボーカルを担当した。2分20秒程度と短めながら、今作の中でも特に落ち着いた曲調で聴かせる曲。ハープのような音色や小鳥のさえずりが入っているのが特徴で、まるでヒーリング音楽のような音作りがたまらなく心地良い。
歌詞はメッセージ性の強いもの。「いつだってそばにいるよ 何も言えないけど いつまでもそばにいるよ 何もできないけど」というラストの歌詞が印象的。頼りないとも優しいとも力強いとも解釈できると思う。この後のことを考えると、バンドの終わりを予期していたような感覚さえある。穿ち過ぎだろうか。


あまり売れた作品ではないので、中古屋では滅多に見かけない。しかし、この名盤が中古屋に埋もれたままにされるのはあまりにも歯がゆい。
90年代は数え切れないほど多くの名曲や名盤が生まれ、それと同じくらいかそれ以上の数の名曲や名盤が埋もれた。言うまでもなく今作は埋もれてしまった名盤の一つだ。
ポップでどこか切なく懐かしいメロディーや、その魅力を引き出すことに尽力するようなアレンジは今でも全く新鮮さを失っていないどころか、ますます輝きを放っている感覚さえある。普遍性に満ちたメッセージが込められた歌詞の数々も同様。この記事を読んで、今作のことが少しでも気になった方には是非とも入手していただきたい。その予感はきっと正しい。

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