Moods for Modern
blue tonic
1994-10-21


Moods for Modern
ブル-・トニック
2015-12-16


【収録曲】
全曲作詞作曲 井上富雄
9.作曲 木原龍太郎
全曲編曲       blue tonic 
プロデュース 安部恭弘 

1.Syndicate key 省略
2.I got a lovely girl ★★★★★
3.Silent move ★★★☆☆ 
4.Play Back ​★★★★☆
5.The shadow of your smile ​★★★★☆
6.Grey turns to blue ★★★☆☆ 
7.Breakdown ★★★☆☆
8.Funk it up ★★★★★ 
9.Panic in western 省略
10.Do it yourself ★★★★☆ 

1987年6月21日発売
1994年10月21日再発(CD選書)
2001年11月21日再発
2015年12月16日再発(SHM-CD)
Non STANDARD/TEICHIKU
テイチク(再発盤)
最高位不明 売上不明

blue tonicの1stアルバム。先行シングルは無し。

blue tonicは1984年、ザ・ルースターズのベースだった井上富雄を中心に結成された4人組バンド。ボーカル・ギターの井上富雄、キーボードの木原龍太郎、ベースの冷牟田竜之、ドラムの田中元尚から成る。結成当初はトロンボーン(井上富雄が担当)やサックス担当のメンバーがおり、ブラスをフィーチャーしたバンドだったという。今作以降は段々とバンドとしての必然性が無くなっていき、1989年に解散した。2015年以降は本格的に活動を再開しており、定期的にライブ活動を行なっているようだ。

blue tonicは「渋谷系」の先駆けとなったバンドと称されることがある。グルーヴ感を重視した、スタイリッシュな楽曲やサウンド面は当時は珍しかった。そのような音楽性から「和製Style Council」という別名もあったという。
井上富雄がORIGINAL LOVEや小沢健二のサポートベースを担当していたこと、木原龍太郎がORIGINAL LOVEのキーボードとして所属していたこと、冷牟田竜之が東京スカパラダイスオーケストラに在籍していたこと…後の「渋谷系」に繋がる要素を持ったメンバーが多いことも大きい。

前述した音楽性は今作でも堪能できる。具体的に明記されてはいないものの、ホーンが使われた曲が多く、それが今作の軽快さや洗練された雰囲気を生み出していると言える。


「Syndicate key」は今作のオープニングを飾るインスト曲。疾走感溢れる曲調でいきなり聴き手の心を掴んで離さない。メンバー全員が心から楽しんで演奏している様子が浮かんでくるようなバンドサウンドに加え、ホーンがさらにそれを盛り上げている。聴いていて自然と「楽しい」「格好良い」と思ってしまうような演奏がたまらない。ここまで聴き手をワクワクさせてくれるオープニング曲も中々無いのではと思う。


「I got a lovely girl」は前の曲に引き続き、スピード感のあるファンクナンバー。前の曲からは繋がって始まるが、この演出が見事。興奮をそのまま保たせてくれるような感覚がある。聴き流していても、不意に身体が動いてしまうのではと思うほどにファンキーなベースやギターサウンドがたまらなく格好良い。それに絡むホーンはアダルトな雰囲気さえ感じさせる音色である。
歌詞は一夜限りの恋を狙う男性を描いたもの。ギラギラした雰囲気が前面に出た詞世界となっている。「出会った瞬間俺の回路は粉々 かわいい胸に埋もれて酔っていく」という歌詞が顕著。井上富雄の色気のあるボーカルもこのような詞世界とよく合っている。
熱苦しささえ漂ってくるが、それがこの曲の魅力。


「Silent move」はここまでの流れを少しだけ緩めたミディアムナンバー。サビになってもそれほど盛り上がらないメロディーながら、不思議と耳に残るメロディーが展開されている。キレの良いギターサウンドを始めとしたバンドサウンドは熱量がある。他の曲と比べてもピアノやオルガンが前面に出ているのが特徴で、それの影響で軽快なサウンドになっていると思う。
歌詞は英単語が多用されており、どこかスカした雰囲気を感じさせるもの。静かな夜の街を想像させるような詞世界となっている。
一曲単位で聴くと良いと思うのだが、ここまでの流れで聴くとかなり地味な曲だと感じてしまう。


「Play Back」は前の曲からの流れを変えるポップナンバー。同じフレーズを繰り返したサビはかなりキャッチーな仕上がり。鋭いギターサウンドとシンセの絡みが何とも心地良い。シンセのソロとピアノのソロが用意されているが、それがこの曲の聴きどころ。それらのソロだけでなく、全てのサウンドがお洒落な雰囲気を押し出したものとなっている。当時の日本のバンドとしてはかなり先鋭的だったのではないか。
歌詞は全編英語詞によるもの。歌詞の意味はよくわからないが、メロディーそのものがかなり洋楽的なので歌詞とのハマりが良い印象。井上富雄の癖のあるフェイクもこの曲では冴え渡る。お洒落かつ格好良さもある。blue tonicが渋谷系の元祖と称されるのも頷ける曲である。


「The shadow of your smile」はここまでの流れを落ち着けるバラードナンバー。繊細で美しいメロディーが展開されているが、サビはしっかりとキャッチーに仕上げられているのが見事。サウンド面については、爽やかなアコギが前面に出た、シンプルで温かみのあるサウンドで聴かせる。間奏ではピアノソロも用意されており、曲そのものの美しさをより引き立てる。
歌詞は恋人と別れた男性の心情を描いたもの。喪失感や後悔が伝わってくるような、叙情的な詞世界が広がっている。その悲しみを必死に耐えるような井上富雄のボーカルがこの曲の切なさを演出している。勢いのある曲ばかりだけでなく、このようなしっとりした曲でも存在感を発揮できる。blue tonicの音楽性の広さがわかる名バラード。


「Grey turns to blue」は前の曲から打って変わって、爽快なポップナンバー。曲調そのものはかなり軽快なのだが、ドラムがとてもロック色の強い音色。その影響もあってか、力強く重厚なサウンドとなった印象。ただ、後半からはピアノが前面に出て曲を盛り上げる。ギターの存在感は他の曲に比べると控えめだが、随所で渋い音色で主張している。
歌詞は全編英語詞によるもの。井上富雄は好き嫌いの分かれる歌声だと思うのだが、英語詞だと不思議とそのアクの強さが気にならなくなる感じがする。この曲もまた、洋楽的なメロディーなので英語詞でも違和感無く聴けてしまう。


「Breakdown」は前の曲に引き続き、全編英語詞によるポップナンバー。派手に盛り上がるような部分は無いものの、演奏の数々は中々に聴きごたえがある。キレの良いギターサウンドやパワフルなドラムのおかげで、サウンドだけだとかなりロック色が強い。
歌詞は前述したように、全編英語詞によるもの。意味はよくわからないものの、「What you need? What you want?」と繰り返すサビはキャッチーそのもの。全編英語詞の曲をアルバムの随所に挟むのならアクセントとしても良いと思うが、こうして続けられるとどうしても印象が薄くなってしまうという感が否めない。


「Funk it up」はタイトル通りのファンクナンバー。鋭いギターのカッティングやパワフルな16ビートのドラムが主体となったバンドサウンドには圧倒されるばかり。随所ではホーンも登場し、ファンキーなサウンドをさらに盛り上げる。ただ、ホーンはどことなく哀愁を帯びた音色なのが特徴。もはやメロディーも楽器の一つになっているという感覚さえある。
歌詞はクールなイメージのあるもの。洋画のワンシーンのような光景が浮かんでくる詞世界である。「スリルな夜を渡る」「自由を求めて」「戦い続ける」といったフレーズが顕著。普通だったら「ダサい」と思ってしまいそうなものだが、「格好良い」「お洒落」と思わせてくれるのがblue tonicならでは。
blue tonicの王道と言えるサウンドがたまらなく好き。今作の収録曲の中でも特に好きな方に入ってくる。


「Panic in western」は木原龍太郎作曲のインスト曲。ギターを前面に押し出したサウンドが展開されている。渋さや焦燥感を持ったギターサウンドは乾いた空気をイメージさせる。確かに、西部劇の挿入歌として使われていても違和感が無いと思う。盛り上がりを保ったまま、アルバムはラストに向かう。


「Do it yourself」は今作のラストを飾る曲。軽快な雰囲気がたまらないポップロックナンバー。勢いに満ちたバンドサウンドと、それに彩りを添えるようなピアノの絡みが心地良い。また、他の曲に比べてもコーラスワークが充実している印象。「和製Style Council」というあだ名も大言壮語ではなかったと教えてくれるかのよう。
歌詞はメッセージ性の強いもの。「不思議な力を信じ だまるだけじゃ始まらない」という歌詞が特に印象に残る。他の曲は歌詞もサウンドの一部というような感覚があったが、この曲にはそれが当てはまらない。
この曲に限らず今作そのものに言えることなのたが、気付いたら始まっていて、気付いたら終わってしまっていた…という感じがする。


あまり売れた作品ではないので、中古屋では滅多に見かけない。ただ、埋もれてしまうにはあまりに勿体無い。
今作は次作「GUTS FOR LOVE」に比べてロック色が強く、荒削りな印象がある。ただ、洗練された雰囲気は変わらない。バンドサウンドとピアノの絡みや、ホーンとの絡みも素晴らしい。
シティポップ・AOR、渋谷系といったジャンルで語れそうな作品なので、お洒落な音楽が再評価されやすい今の音楽界と相性が良いのではと思う。ソウルやファンクの要素も内包されている。今になって聴いても古臭さを感じさせない曲ばかり。

​★★★★☆