Touch And Go
角松敏生
1994-12-16


【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 角松敏生
1.ストリングス編曲 大谷和夫
3.4.6.8.ホーン編曲 Jerry Hey
プロデュース        角松敏生

1.OVERTURE〜TAKE OFF MELODY ​★★★★☆
2.LUCKY LADY FEEL SO GOOD ​★★★★★
3.TAKE IT AWAY ★★★★★
4.AUGUST RAIN〜IT’S OUR PURE HEARTS〜 ★★★★☆
5.PILE DRIVER ​★★★☆☆
6.1975 ​★★★★☆
7.GOOD-BYE LOVE ★★★☆☆
8.THE BEST OF LOVE ★★★★★

1986年6月11日発売(LP,CT)
1986年7月15日発売(CD)
1994年12月16日再発
AIR/RVC
OM ⁄ BMG VICTOR(1994年盤)
最高位5位 売上8.6万枚(LP)
最高位9位 売上4.0万本(CT)
最高位6位 売上3.4万枚(CD・オリジナル盤)

角松敏生の6thアルバム。先行シングル「THE BEST OF LOVE」を収録。今作発売後に「LUCKY LADY FEEL SO GOOD」「PILE DRIVER」のリミックスバージョンが12インチシングルとしてシングルカットされた。前作「GOLD DIGGER〜with true love〜」からは、バラードベスト「T’S BALLAD」を挟んで約1年1ヶ月振りのリリースとなった。

今作は角松にとって初の本格的な海外レコーディングがされた作品となった。国内の実力派ミュージシャンに加え、ニューヨークやロサンゼルスのミュージシャンも多数参加している。これまでにも増して演奏に聴きごたえのある曲が並んでいる。

タイトルは基礎飛行訓練科目であるタッチアンドゴーが元になっているようだ。着陸してすぐにまた離陸するという訓練だが、それを人生になぞらえたという。前作では耽美的な詞世界を持った曲が多かったものの、今作ではピュアなイメージのものが増えた。ただ、明るい印象のジャケ写に反して失恋を描いた曲が多い。


「OVERTURE〜TAKE OFF MELODY」は今作のオープニング曲。どこまでが「OVERTURE」なのかはよくわからないが、一続きになっている。「TAKE OFF」のフレーズにふさわしい、開放感のあるメロディーが心地良いポップナンバー。特にサビのメロディーはどこまでも広がっていくような感覚がある。サウンド面は打ち込みが主体となったもの。ガリガリとした打ち込みリズムと流麗なストリングスが不思議とぴったり合っている。
歌詞は多幸感に満ちたもの。「二度とあなたを悲しませない」というフレーズはかなり力強い。オープニングという位置にふさわしい、爽やかな曲に仕上がっていると思う。いきなり心を掴まれてしまうことだろう。


「LUCKY LADY FEEL SO GOOD」は今作発売後に12インチシングルでシングルカットされた曲。軽快な曲調と重厚なサウンド面がたまらないファンクナンバー。一度聴いただけで確実に耳に馴染む、キャッチーさを極めたようなサビは絶品。ヨギ・ホートンによるファンキーなドラミングには圧倒されるばかり。シンセの派手な使い方も曲のポップ性を高めている。間奏のサックスソロも素晴らしい。
歌詞は前作からの流れを引き継いだようなイメージ。「爪先まで一人占めさ」「君の中で果てる時が Hi light」といったフレーズが顕著。聴いていて恥ずかしくなるくらいなのだが、これくらい突き抜けるのが角松敏生である。
今作の収録曲の中でも特に好きな方に入ってくる。ライブの定番というのも頷ける、群を抜いた高揚感を持った名曲。


「TAKE IT AWAY」はシティポップ色の強い曲。都会的な雰囲気漂う洗練されたメロディーが心地良い。それでいて、サビはしっかりとキャッチーに仕上げるのが見事。軽快なリズムやホーンとヘビーなスラップベースの絡みがたまらない。ピアノも随所で存在感を放ち、聴き流していても身体が動いてしまいそうなほどに聴きごたえがある。
歌詞は夜にドライブに出たカップルを描いたもの。恋人同士の駆け引きを想像できるような、どことなく緊張感のある詞世界になっている。そのような歌詞も相まって、ドライブ中に聴く音楽としても適しているのではと思う。メロディーやサウンドの聴き心地の良さで言ってもぴったり。


「AUGUST RAIN〜IT’S OUR PURE HEARTS〜」はここまでの流れを一気に落ち着けるバラードナンバー。繊細さに満ちた、美しいメロディーには聴き惚れてしまうばかり。全編に渡って訴求力のあるメロディーなので、聴き手を飽きさせることなく聴かせる。分厚く隙のないバンドサウンドは曲の強さをさらに引き出すかのようである。
歌詞はタイトルからも想像できるように、雨がキーワードとなっている。恋人との別れをドラマティックに描いたものだが、一つ一つの情景が浮かんでくるほどに叙情的な詞世界である。情感のこもったボーカルもその味わい深さを演出している。
今作の中だと少々地味な雰囲気があるが、隠れた名バラードと言うにふさわしい佇まいである。


「PILE DRIVER」は今作発売後に12インチシングルでシングルカットされた曲。流れを再び戻すファンクナンバー。派手に盛り上がるようなメロディーではないが、その分ボーカルやサウンドを楽しめる仕上がり。シンセ主体のサウンドが展開されており、後の「BEFORE THE DAYLIGHT」で傾倒することとなるエレクトロファンクのテイストを感じさせる。また、間奏に外国人によるラップが入っているのも特徴。
歌詞はワンナイトラブを終えた次の朝を描いたもの。「砕けたグラスには 昨夜の君がかすむ」「窓に流れる淡い光は まだ夜の香りをつたえる」といったフレーズは虚無感を漂わせている。「やらしい」という言葉が似合うタイトルも角松敏生ならではと言ったところ。曲の全てが一体となって夜の淫靡な世界を表現している感じ。


「1975」は前の曲からの雰囲気を変えるようなポップナンバー。高揚感のあるサビのメロディーは一度聴けばしっかり耳の残って離れなくなる。隙のないバンドサウンドとホーンの絡みもまた、メロディーの魅力を引き出してくれる。間奏でいきなり英語によるラップが入ってくるのも聴きどころ。
歌詞はタイトルからも想像できるかもしれないが、少年時代の思い出を振り返ったようなイメージがある。「みんなが温もりをさがしてた あの素適な日々をもう一度 君に」というサビの歌詞が顕著。角松のボーカルも他の曲に比べて楽しげな感じで、優しい詞世界を引き立てていると思う。
今作は角松が込めた力がこちらにも思い切り伝わってくるような曲が多いが、この曲については肩肘張っていない印象。


「GOOD-BYE LOVE」は流れを再び落ち着けるバラードナンバー。聴き流していても無意識に引き込まれてしまいそうなメロディーが展開されている。タイトルのフレーズが繰り返されるサビはかなり耳に残る。サウンド面では、リチャード・ティーによるピアノが前面に出ている。これほどメロウな雰囲気を醸し出すピアノの演奏はあるのか?と思ってしまうほど。
歌詞はタイトル通り失恋を描いたもの。「最後の言葉が見つけられない」「いつでも二人 やり直せると思っていたんだ」といった歌詞が何とも切ない。
後半からは角松による語りが入っており、中々に濃厚なバラードに仕上がった印象。しかし、「やり過ぎ」と言っていいほどのこってり感こそが角松敏生流バラード。まさにその王道である。


「THE BEST OF LOVE」は今作のラストを飾る先行シングル曲。ファンク色の強いシングルバージョンと比べ、よりポップ性の強いアレンジとなった。それでも重厚なスラップベースやホーンなど、ファンクのテイストは失われていない。シングルバージョンよりも爽やかさを押し出したアレンジで、アルバムのラストというポジションに合っている印象。サビのキャッチーなメロディーはシングル曲ならではの風格がある。
歌詞は恋人との別れを描いたもの。ただ、悲壮感や喪失感は全く感じさせず、幸せな別れ方を想像させる。「さよならは 出会いの言葉 未来へと夢をつなぐよ」という歌詞が顕著。ラストに配置されていることで、歌詞の一つ一つの訴求力がより強くなっているのではと思う。
シングルバージョンも大好きだが、このバージョンも好き。シングルバージョンがアルバム未収録なのが惜しまれるところだが…


中古屋ではたまに見かける程度。今作に限らず、この頃の角松敏生のアルバムは高値で出回っていることが多い。
前作「GOLD DIGGER〜with true love〜」で垣間見せた、エレクトロファンクの要素をさらに突き詰めた印象がある。次作でそれをさらに発展させることになる。ただ、今作は生音とバランス良く共存していると思う。サウンド面の聴きごたえは、リリースから32年が経った今聴いても凄まじいものがある。
角松敏生は長いキャリアを誇るアーティストだが、自分は1980年代半ば〜後半が彼の全盛期だと思っている。収録曲数は8曲と物足りなく感じてしまうが、それすら魅力に変えてしまえるほどに充実感のある名盤である。
余談だが、サウンド面の聴きごたえがさらに増すと思うので、リマスターを切望している。いつ実現するのだろうか…?

​★★★★★