愛が教えてくれたもの
相馬裕子
1994-04-01


【収録曲】
全曲作詞 岡部真理子
6.作詞 相馬裕子
9.10.作詞 相馬裕子・岡部真理子
1.2.6.作曲 弓島小夜
3.9.作曲 崎谷健次郎
4.作曲 羽場仁志
5.作曲 岩田雅之
7.8.作曲 楠瀬誠志郎
10.作曲 古川昌義
全曲編曲 亀田誠治
1.2.6.7.編曲 松本晃彦
プロデュース Tadao Yanaguchi・Mayumi Nakagawara・Masayoshi Hanasaki

1.好きと言えない ★★★☆☆
2.恋なんてしたくない ★★★★★
3.さよならした理由 ★★★★☆
4.ほんとは嘘 ★★★★☆
5.夜明けの星空 ​★★★★☆
6.描きかけのキャンバス ★★★☆☆
7.いっしょに暮そう ​★★★★☆
8.遠い約束 ★★★★☆
9.東京の空 ★★★★★
10.愛が教えてくれたもの ★★★☆☆

1994年4月1日発売
Sony Records
最高位不明 売上不明

相馬裕子の4thアルバム。先行シングル「恋なんてしたくない」を収録。前作「永遠を探しに」からは約1年振りのリリースとなった。

相馬裕子は1991年にデビューした歌手。アルバムを重視するスタイルだったようで、今作をリリースした時点ではアルバム4作に対してシングルは2作のみ。透明感のある歌声と洗練された楽曲によって、当時のGiRL POPの代表的な存在となった。現在は主婦・母親に専念する形で、主だった音楽活動は行っていないようだ。

今作がソニーでリリースされた最後のオリジナルアルバムとなった。1995年にベスト盤「Recollections」をリリースし、その翌年にマーキュリーに移籍した。ソニー時代の作品では上品に美しく歌い上げる曲が多かった印象だが、移籍以降はかなり明るく爽快なポップス・ロックを展開するようになった。


「好きと言えない」は今作のオープニング曲。優しく温かみのあるメロディーが心地良いミディアムナンバー。サビはしっかりとキャッチーにまとめられている。シンセを前面に押し出したことで、メロディーの魅力がより引き出されている印象がある。後ろで鳴っているバンドサウンドもタイトそのもの。
歌詞は相手の心情を読めずにモヤモヤしている女性の心情が綴られている。恐らく相手にはもう一人の恋人がいるのだろう。「好きと言えないのなら どうしてそんなに優しいのよ」という歌詞は主人公の心情を的確に表現していると思う。メロディーやサウンドに気を取られがちだが、思いの外シリアスな詞世界である。オープニングからかなり攻めた曲だと思ってしまった。


「恋なんてしたくない」は先行シングル曲。爽快なメロディーが冴え渡るポップナンバー。一度聴けば中々耳を離れなくなる、確かな引っかかりのあるサビのメロディーがたまらない。サウンド面では透明感のあるギターサウンドと鐘のような音色のシンセが主体。メロディーやボーカルに限りなく彩りを添えるようなサウンドになっていると思う。
タイトルと歌詞が真逆なのがこの曲の特徴か。傷ついて「恋なんてしたくない」と思っても、結局誰かに恋せずにはいられない。複雑で可愛らしい心情が描かれた詞世界である。この曲では優しいながらもどこかトゲのある歌い方なのだが、そのような歌詞とぴったり合っていると思う。数少ないシングル曲になっただけあって、相馬裕子の曲を聴いたことが無い方にも訴求できるだけの強さが感じられる。


「さよならした理由」はしっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。繊細さに溢れた美しいメロディーは崎谷健次郎の真骨頂である。サビになってもそれが変わらないのが凄いところ。キーボードやストリングスをフィーチャーし、かなり重厚なサウンドを聴かせる。間奏のサックスソロも絶品。青山純による力強いドラミングを始めとして、バンドサウンドも重厚な仕上がり。
歌詞は元の恋人に再会した女性の心情が綴られたもの。悲しい記憶も数多くあったのに、見かけたらいい思い出ばかりが蘇ってくる。「悲しいことだけをうまく 忘れたふりで人は生きてく 胸の片隅 しまいこんだまま」という歌詞が心に突き刺さる。この曲では芯のある相馬の歌声がよく映える。バラード職人・崎谷健次郎の実力を再確認させられる曲である。


「ほんとは嘘」はケルト音楽のテイストを取り入れたバラードナンバー。思わず口ずさみたくなるような、どこか懐かしく切ないメロディーが展開されている。サビは広がりのあるメロディーで、伸びのあるボーカルを際立たせる。サウンド面では、曲の随所でケルト音楽を思わせる音がシンセで表現されているのが特徴。
歌詞は恋人から別れを告げられた女性の想いが描かれたもの。「ねぇ答えて ほんとは嘘でしょう?」「昨日まで 好きだよと 言ってたじゃない」といったフレーズが冷たく刺さる。訴求力に満ちた歌声が歌詞を尚更切ないものに聞こえさせる。
相馬はアイルランドの歌手であるメアリー・ブラックの影響を受けているようだが、それがよく現れた曲だと思う。ただ、あくまで王道のJ-POPとして料理されているのが見事。


「夜明けの星空」はここまでの流れを変えるような、爽快なポップナンバー。サビはもちろんのこと、Bメロから相当な高揚感のあるメロディーを堪能できる。Aメロは何かが起こる予兆のように落ち着いているだけに、そこからの変貌振りが印象的。サウンド面はバンドサウンドが主体で、随所にシンセをまぶしたもの。これはこの頃の亀田誠治特有のアレンジ。
歌詞は夜の街を舞台に、恋人の家まで車で向かおうとする女性が描かれている。喧嘩した後、素直な気持ちを胸に恋人のもとまで向かう。期待と不安とが入り混じった詞世界であり、相馬の真っ直ぐな歌声とよく合っている印象。ポップではあるが、どことなく上品な雰囲気が感じられるのが相馬裕子ならでは。


「描きかけのキャンバス」は流れを再び落ち着けるバラードナンバー。サビでも派手に盛り上がるような部分は無いが、全編を通して聴き心地の良いメロディーである。フリューゲルホルンやフレンチホルンがフィーチャーされたサウンドとなっており、映画の中にでも使われていそうな煌びやかなアレンジである。
今作では唯一、相馬が単独で作詞を担当した曲。別れた恋人との思い出を振り返った内容。「ねぇ 楽しかった日々を 無理に捨てたりしないで」という歌詞が印象的。この手のテーマの曲は多いが、ここまで自分や元の恋人のことを肯定した歌詞も珍しいのではと思う。
今作の中では地味な印象が否めないが、アルバムの真ん中という位置に合っている。


「いっしょに暮そう」は前の曲から一転して、爽やかな雰囲気溢れるポップナンバー。作曲は楠瀬誠志郎が担当した。シングル曲かと思ってしまうほどにキャッチーで、なおかつ広がりのあるサビのメロディーがたまらない。聴いていて安心感のあるバンドサウンドはメロディーの強さを引き立てている。この曲でもフリューゲルホルンやフルートが使われており、曲を流麗な音色で彩っている。
歌詞はタイトル通りの内容。恋人のことを全肯定したような、多幸感に満ちた詞世界となっている。中でも好きなのは「幸せってきっと つかむものじゃなくて気付くもの」という歌詞。この時期のガールポップ系の作品には似たようなタイトルの曲が多いと思うが、どの曲ももれなく好き。この曲も例に漏れず。


「遠い約束」は先行シングル「恋なんてしたくない」のC/W曲。「第9回 国民文化祭・みえ 94」のイメージソングに起用された。この曲も楠瀬誠志郎が作曲を手がけた。こちらは壮大なバラードナンバー。楠瀬誠志郎特有の優しく美しいメロディーが展開されている。バンドサウンドとストリングスを交えたサウンドは厳かな雰囲気がある。後半に行くたびに静かに盛り上がっていくようなアレンジであり、メロディーと相性の良いアレンジだと思う。
歌詞は恋人への想いが綴られたもの。「時間(とき)を越え さがしてた あなたを」「失くした恋さえも あなたに会うための運命だったと今言えるわ」など、歌詞もかなりスケールの大きなものが並ぶ。伸びのある相馬の歌声もこの曲の壮大さを演出しており、この曲がラストでも違和感が無いと思ってしまうほど。


「東京の空」は前の曲から一転して、ロック色が強めのポップナンバー。作曲は「さよならした理由」と同じく、崎谷健次郎が担当した。力強くキャッチーなメロディーながらも、美しさも感じられるのは崎谷健次郎ならでは。今作では珍しく、ギターやドラムが前面に出て曲を盛り上げているのが特徴。
歌詞はメッセージ性の強いもの。相馬は名古屋から上京したようなので、その経験も活かして作詞を行なったのだろう。「ビル街の谷間に落ちていく夕陽がふいに あの町を思い出させるよう」という歌詞が好き。自分はそうした経験が無いため心から共感できないのが残念だが、上京したことのある方なら心に沁みる詞世界だと思う。この曲に関しては、メロディーやサウンドが自分好み。今作のアルバム曲の中でも特に好き。


「愛が教えてくれたもの」は今作のラストを飾るタイトル曲。しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。繊細で懐かしさを感じさせるメロディーが展開されており、聴いていると思わず眠くなってしまうほど。サビでも大きく盛り上がるような部分は無いので、尚更。サウンド面では、ストリングスやオカリナがフィーチャーされているのが特徴。メロディーの持つ雰囲気をより引き立てていると思う。
歌詞はメッセージ性の強いもの。全体としての意味はよくわからないのだが、他の曲に比べても数段階成長したようなイメージがある。ボーカルの訴求力も一段と強さを増した。今作の収録曲全てを総括するような曲になっていると思う。


あまり売れた作品でないが、中古屋ではそこそこ見かける。90年代のガールポップというのは、今ではほとんど顧みられることのない地味なジャンルである。相馬裕子はそのジャンルの代表格として括られているわけだが、今でも似たような歌声の持ち主は中々いないと思う。はっきり言って、歌声以外は他と似たような要素が多くある。「普通」というフレーズを褒め言葉として使えるアーティストというのも珍しい。
全体を通してポップでどこか上品な曲が並んだ構成となっているが、歌声が好きな方にはたまらない作品だろう。幸い動画はそれなりにアップされているので、それを聴いて歌声が気に入った方はまず外さない。色々と作品をリリースしてきたアーティストだが、やはり自分はソニー自体が一番好きだ。今作はその中でも特に充実した作品だと思う。

★★★★★