Solitude
大江千里
2000-09-06


【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 大江千里
プロデュース        大江千里

1.Solitude ★★★★☆
2.ビルボード(Album Version) ★★★★★
3.DOG’S LIFE ​★★★★☆
4.群衆の中で ★★★★★
5.Individuality ★★☆☆☆
6.紫の煙 ★★★☆☆
7.男と女 ​★★★★☆
8.予感 ★★★★☆
9.Optimistic ★★★★☆
10.未来 ​★★★☆☆

2000年9月6日発売
Station Kids Records
最高位42位 売上0.5万枚

大江千里の15thアルバム。先行シングル「ビルボード」を収録。前作「ROOM 802」からはベスト盤「WINTER JOE」「2000 JOE」を挟んで約2年4ヶ月振りのリリースとなった。ちなみに、大江の40歳の誕生日のリリース。

大江は2000年にデビュー以来所属していたエピックソニーを離れ、個人レーベル「Station Kids Records」を立ち上げた。「Station Kids」のフレーズは自身のファンクラブの名前や、パーソナリティを務めていたラジオ番組のタイトルにも使われており、大江自身思い入れの深いものだったと思われる。先行シングルの「ビルボード」がStation Kids Recordsにとっての1作目。

前作「ROOM 802」から大江自らで編曲を手掛けるようになったが、今作も全曲の編曲を行なっている。実験的な作風だった「ROOM 802」に比べ、メロディーをしっかり聴かせるようなアレンジが主体となった。大江本人の演奏によるピアノが使われた曲が多い。


「Solitude」は今作のオープニングを飾るタイトル曲。前年にリリースされたベスト盤「2000 JOE」で、サビのピアノインストという形で先行発表されていた。重厚なロックバラードナンバー。メロディー自体はしっとりとしたもので、サビもそれほどキャッチーではない。ギターやベースを始めとして、力強いバンドサウンドが主体となったヘビーなアレンジがされており、これまでにはあまり無かった路線と言ったところ。
歌詞は内省的なフレーズが並んだもの。恋人との関係に悩む男性が描かれている。「失いたくない物を増やして 幸せが何か分からなくなる」という歌詞が突き刺さる。サウンド面も相まって、もやもやした詞世界がより際立っている印象がある。オープニングというには重過ぎた感じがする。


「ビルボード(Album Version)」は先行シングル曲。シングルバージョンは聴いたことが無いので違いはわからない。叙情的で美しいメロディーが冴え渡るバラードナンバー。サビはその美しさを保ちつつ、かなりキャッチーにまとめられているのが見事。大江のメロディーメーカーとしての実力が遺憾無く発揮されている。ピアノを前面に出したバンドサウンドが展開されている。
歌詞は恋人と別れた男性の想いが綴られたもの。「全てが音符のように響きあえなくなったらオシマイ」「眠れない夜 聴きたい曲が見つからなくなったらオシマイ」と音楽を絡めた切ない歌詞が並ぶが、最後は「僕らの夢はそれぞれ始まったばかり」と締める。
メロディーや詞世界は円熟味を増しており、後期の名バラードの一つだと思う。


「DOG’S LIFE」はここまでの流れを変えるような、爽快なポップナンバー。跳ね上がるようなサビのメロディーはとても聴き心地が良く、すぐに耳に馴染む。サウンド面ではピアノが主体となっており、軽快なメロディーの魅力をさらに高めている。間奏での鍵盤ハーモニカも同様に曲を効果的に盛り上げる役割を果たしている。
歌詞は犬の視点から描かれた、飼い主へのラブソングと言ったところ。「1日は短くて 今日は2度と来ないのに 人間(ひと)は同じことばかり 繰り返すんだろう」といった歌詞は考えさせるばかり。このような詞世界の曲はかなり珍しいと思う。この曲を作った時点で大江は2匹の犬と暮らしていたようで、大江の愛犬家としての一面がよく現れた曲と言える。


「群衆の中で」は再び流れを落ち着けるバラードナンバー。繊細さ漂う美しいメロディーが展開されており、思わず聴き惚れてしまうほど。それはサビでも変わらず、一定のポップ性と共存している。1番のサビまではほぼピアノ一本で、そこからバンドサウンドが入って盛り上がる構成。菊地成孔による間奏のサックスも、曲の哀愁を引き立てている。
歌詞は恋人と別れる瞬間を切り取ったようなイメージ。「タイヤが積まれた壁 消されないままの黒板 改札は木枯らしで きみは空を見てた」「夕闇が昨日より早く 今年最初の雪を運んだ」など、大江独特の鮮やかな情景描写が冴え渡っている。聴いているだけでもその景色が浮かんでくる感覚がある。
この時期の大江の歌声も、曲の切なさを演出している。ベテランと言える境地に達したからこそできたバラードだと思う。


「Individuality」はサイケな雰囲気を感じさせるバラードナンバー。メロディー自体は哀愁を帯びたしっとりとしたものなのだが、アレンジは一筋縄ではいかない仕上がり。サビになってもそれほど盛り上がることはないが、不思議と耳に残る。シンプルなバンドサウンドを押し出しつつも、複雑な打ち込みサウンドや歪んだギターサウンドも前面に出ている。
歌詞はラブソングだと解釈しているのだが、今の恋人なのか過去の恋人なのかわかりにくい。タイトルのフレーズはサビに登場するのだが、少々無理やり詰め込んだような印象。それがやたらと耳に残る理由だろうか?どうにもこの曲のもやもやした雰囲気に馴染めていない。


「紫の煙」は今作の中では比較的ロック色が強めのバラードナンバー。淡々としたメロディーだが、サビは一転してかなりキャッチーなメロディーに変貌する。サウンド面は重厚感のあるバンドサウンドが主体。分厚いベースの音と軽快なピアノの音色のコントラストがこの曲の面白いところ。
歌詞は散文的で難解。ただ、「午前4時」「この夜を朝日が 何もかも照らし出すまで」「新しい今日はどうですか?」「朝刊が届けば」など、一日の始まりを思わせるフレーズが多く登場するのが特徴。前の曲ほどでもないが、この曲もかなりもやもやした雰囲気がある。まさに聴き手を煙に巻くような曲。


「男と女」はグルーヴィーなサウンドが展開されたミディアムナンバー。お洒落さを押し出したメロディーがたまらない。上品に盛り上がるイメージのあるサビは都会的な雰囲気を持っている。よく動く太いベースラインと歌うようなピアノがこの曲のサウンドの心地良いところ。ジャズ・フュージョンのテイストも感じさせるサウンドとなっている。
歌詞は「都会」と「田舎」の男女を比較して描いたもの。淡々と男女の行動が描かれているのだが、「傷つけあってもっと求めて だけど嫌いには決してなれない 男と女は不思議な生き物」という歌詞は大江の思想がよく現れた部分だと思う。この曲については、メロディーやサウンドが自分好み。こうしたアプローチがされた曲は大江には珍しい印象だった。


「予感」はここまでの流れから一転し、優しく温かみのあるポップナンバー。どこか懐かしさを感じさせるメロディーと、素朴な歌声の相性はぴったり。歌声は少し変われど魅力は変わらない。タイトなバンドサウンドと美しいピアノの音色は曲の持つ温かみを引き立てている。
歌詞はインターネットで知り合った男女が初めて現実世界で会うというシチュエーション。「きみだと思う人はいても みんなきみじゃないようで」と戸惑いながらも、相手と会うことをとても楽しみにしている様子が浮かぶ。当時としては画期的な歌詞のテーマだったのではないか。リリース当時よりも今の方が共感されやすい歌詞だろう。自分自身、同性ではあるがツイッターでのフォロワーに実際に会ってからこの曲の歌詞がより沁みるようになった。


「Optimistic」は前の曲からの流れを継いでのポップナンバー。イントロから、聴き手に高揚感を与えてくれるようなピアノの音色を聴かせてくれる。ポップで優しさのあるサビのメロディーは大江千里の真骨頂。大江自らのピアノと、山田章典による極太なベースを前面に押し出したサウンドは今作ならではの特徴である。
歌詞はタイトル通り、前向きなメッセージが並んだもの。「明日の出来事 考えすぎるのはやめよう 今日を精一杯生きる それしか無いんだね」という歌詞が顕著。温かみのある歌声とこうした詞世界はよく似合う。今作は切なさのある詞世界を持った曲が多いだけに、より歌詞が際立つ。タイトルと曲の世界が上手い具合に一致していると思う。


「未来」は今作のラストを飾る曲。しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。訴求力に満ちた、美しいメロディーが展開されている。1番はピアノ一本で、2番から控えめながらバンドサウンドが主張を始めるというアレンジがされている。前述したメロディーの強さを実感させてくれるようなアレンジだと思う。
歌詞は恋人へのメッセージと取れるもの。「ときめきや喜びや 僕らを包むすべて こぼさないで 明日へ向かう舟の舵を握ろう 今すぐに」というサビの歌詞が顕著。恋人と過ごす「未来」の展望が書かれた歌詞なので、ウェディングソングとも解釈できると思う。
7分近い長尺な曲ながら、長さを不思議と感じない。ラストにふさわしいバラードになっている。


あまり売れた作品ではないので、中古屋では中々見かけない。大江千里の作品は今作くらいから遭遇頻度がぐっと減っていく。また、価格もそれなりに高くなる。
「孤独」を意味するタイトルの影響か、しっとりとしたバラードや内省的な曲が多い作品という印象がある。ただ、大江千里は元々ミディアムナンバー〜バラードで持ち前のメロディーセンスを発揮するアーティストだと思っている。当然、今作でもそれを存分に楽しめる。そのため、聴いていて退屈になるような曲は無い。それどころか、聴いているうちにどんどん引き込まれていく感覚さえある。歌声は少々苦しそうな感じになってしまったものの、それ以外はかなり充実した作品だと思う。

​★★★★☆