claire
花澤香菜
2013-02-20


【収録曲】
1.作詞 北川勝利・acane_madder
2.5.8.9.作詞 北川勝利
3.作詞 中塚武
4.作詞 カジヒデキ
6.作詞 宮川弾
7.14.作詞 meg rock
10.作詞 矢野博康
11.作詞 沖井礼二
12.作詞 Fullkawa Head.Q.music
13.作詞 花澤香菜
1.2.5.8.9.13.作曲 北川勝利
3.作曲 中塚武
4.作曲 カジヒデキ
6.作曲 宮川弾
7.作曲 ミト
10.作曲 矢野博康
11.作曲 沖井礼二
12.作曲 Fullkawa Head.Q.music
14.作曲 神前暁
1.編曲 長谷泰宏・北川勝利
2.編曲 acane_madder・北川勝利
3.編曲 中塚武
4.編曲 関根卓史
5.6.編曲 宮川弾
7.編曲 ミト
8.10.13.編曲 北川勝利
9.編曲 長谷泰宏
11.編曲 沖井礼二
12.編曲 Fullkawa Head.Q.music
14.編曲 神前暁
5.ストリングス編曲 宮川弾
9.ストリングス編曲 長谷泰宏
プロデュース 山内真治

1.青い鳥 ​★★★☆☆
2.Just The Way You Are ★★★★☆
3.初恋ノオト ​★★★★☆
4.ライブラリーで恋をして! ​★★★★☆
5.星空☆ディスティネーション ★★★★★ 
6.スタッカート ★★★☆☆
7.melody ★★★★☆
8.Ring a Bell ★★★☆☆  
9.Silent Snow ★★★★★
10.シグナルは恋ゴコロ ★★★★★
11.新しい世界の歌 ​★★★★☆
12.眠るサカナ ★★★★☆
13.おやすみ、また明日 ★★★☆☆
14.happy endings ​★★★★☆

2013年2月20日発売
アニプレックス
最高位6位 売上2.2万枚

花澤香菜の1stアルバム。先行シングル「星空☆ディスティネーション」「初恋ノオト」「happy endings」「Silent Snow」を収録。初回盤は三方背スリーブケース入り仕様で、フォトブックレットが付属。

声優として活躍する花澤香菜は2012年に本人名義で歌手デビューした。現時点でシングル13作、アルバム4作をリリースしている。デビュー以来長らくROUND TABLEの北川勝利がサウンドプロデュースを手掛けてきた。ただ、直近のシングル「春に愛されるひとにわたしはなりたい」「大丈夫」では佐橋佳幸がプロデュースを担当しており、楽曲制作の体制にも変化が出てきたようだ。

渋谷系〜ポスト渋谷系に括られるROUND TABLEの北川勝利がプロデュースを担当したためか、楽曲提供や演奏でその関連のアーティストが多く参加しているのが特徴。カジヒデキ、元Cymbalsの沖井礼二・矢野博康はその代表格と言える。花澤香菜のふわふわとした可愛らしい歌声も相まって、全体的にお洒落で軽快な作風となっている印象。今作もその魅力を楽しめる。


「青い鳥」は今作のオープニング曲。メルヘンな雰囲気を持ったミディアムナンバー。派手に盛り上がるような部分は無いものの、それでも高揚感のあるメロディーである。鐘の音やストリングスを多用したサウンドが展開されており、映画音楽のようなテイストを感じさせるアレンジとなった印象。後半にはセリフが用意されており、そこはいかにも声優のアルバムと言ったところ。ただ、それは違和感無く曲に溶け込んでいる。
メロディーやサウンドを含め、曲全体が可愛らしく煌びやかな世界観を作り出しているように思う。北川勝利はこの曲について「“花澤香菜らしさ”を伝える曲ってどんなだろうと思って一番最初に出来上がった曲」と語っているが、まさにその通り。オープニングというポジションにぴったりである。


「Just The Way You Are」は前の曲に続いてのミディアムナンバー。終始落ち着いた曲なのだが、タイトルのフレーズが登場するサビは不思議と耳に残る。様々な表情を見せる多彩な打ち込みサウンドがサウンド面を牽引している。
歌詞は片想いしている少女の心情が綴られたもの。主人公が相手を想う心の強さが伝わってくる可愛らしい詞世界となっている。北川勝利の作詞だが、本人が作詞したのかと思ってしまうほど心情が的確に表現されている印象。花澤香菜特有のウィスパーボイスが多重コーラスによって存分にフィーチャーされている上に、曲の後半には「好きです」というセリフまで登場する。そのため、花澤香菜の声が好きな方にはたまらない曲だろう。かくいう自分も思わずニヤニヤしながら聴いてしまう。


「初恋ノオト」は先行シングル曲。季節や色をコンセプトにしたシングル4作中の2作目。この曲は「夏」「水色」というコンセプト。清涼感のあるミディアムナンバー。 思わず口ずさみたくなるような軽快さと美しさを持ったメロディーや、お洒落な雰囲気はまさに渋谷系の王道である。ホーンやストリングスを交えたバンドサウンドはその雰囲気をさらに高めている。
歌詞は初恋の相手に語りかけているようなイメージ。その相手とはまだ関係が続いているようだ。「○○の音」「ノート(譜面)」と重ねたであろうタイトルの通り、「この恋の音楽(おと)」「いつまでも 奏でて」と音楽を思わせるフレーズが登場するのが特徴。
シングル曲と言うには派手さが足りない気もするが、控えめな感じが花澤香菜らしさを感じさせる。


「ライブラリーで恋をして!」は軽快なギターポップナンバー。予備知識が無いまま聴いてもカジヒデキが提供したと分かる方が出てきそうなほどに彼の作風がよく現れている。カジヒデキが歌っているのが想像できるくらい。ポップなメロディーに次々と言葉が並べられる感覚がたまらなく心地良い。サウンド面は打ち込みが主体で、後ろでギターが存在感を放つ。
歌詞は夢見がちな文学少女を思わせるもの。「あぁ夢中で 宇宙で一番素敵な恋しよう」というサビのフレーズが好き。メロディーと語感の良さがぴったり合っていて、一聴しただけでも口ずさめるくらいキャッチーな仕上がりだと思う。歌詞の主人公の想いを見事に表現したボーカルも流石。
今作を語る上で「渋谷系」のフレーズから逃れられないと思うが、中でもその色が最も強く現れたこの曲と言える。


「星空☆ディスティネーション」は先行シングル曲。花澤香菜にとってのデビュー曲。季節や色をコンセプトにしたシングルの第1弾。この曲は「春」「ピンク」というコンセプト。花澤の透明感のある歌声という魅力を前面に押し出したポップナンバー。聴き心地と耳馴染みの良さを併せ持ったサビは絶品。ギターサウンドやベースを始め、激しさこそ無いがグルーヴ感のあるサウンドが展開されている。そのバックを流麗なストリングスが美しく盛り立てる。
歌詞は恋人への想いが綴られたもの。「つないだ手をにぎりしめ ずっとこのままでいようね」「ふと目が合って笑った あの日あの時を覚えてる?」といった歌詞が何とも可愛らしい。歌声を活かす歌詞とでも言うのか、イメージとよく合った詞世界だと思う。
花澤香菜と北川勝利の相性の良さはこの曲を聴くだけでもよくわかるだろう。


「スタッカート」はここまでの流れを落ち着けるバラードナンバー。繊細さを持った、切ないメロディーが展開されている。サビでも派手に盛り上がらないが、この曲はそれでいい。シンプルなバンドサウンドに加えて、チェロやフリューゲルホルンが使われているのが特徴。
歌詞は別れた恋人へのメッセージと取れるもの。全体を通して喪失感のある詞世界となっており、メロディーの雰囲気に寄り添った印象がある。言葉が途切れ途切れになるのを「スタッカート」に例えた部分が特に好き。
可愛らしさだけでなく、儚さも感じさせる歌声がこの曲の切なさを何よりも演出している。情感を込めすぎず、いつも通りに歌っているのが尚更。


「melody」はディスコミュージックの要素を取り入れたミディアムナンバー。サビまでは淡々と進んでいくが、サビは一転してかなり耳に残るものになっていると思う。派手な打ち込み音に加え、キレの良いギターサウンドや分厚いベースがこの曲のノリの良さを形作っている。
歌詞はもどかしい恋心が綴られたもの。ピュアなイメージの他の曲と少々異なり、ギラギラした雰囲気のある詞世界。ただ、この曲で一番印象に残るのは「スキ・キライ・ウソ・ホント」と呪文のように繰り返す部分。聴いていて恥ずかしくなってしまうほどに可愛い。その部分に限らずこの曲では巻き舌で歌われており、かなりインパクトがある。「斜に構えた感じで」歌うよう指示されたようだが、その通りのボーカル。新境地を開拓した曲だと思うが、違和感は全く無い。


「Ring a Bell」はアルバムの箸休め的な存在の小曲。ジャズのテイストを感じさせる、優しく落ち着いた演奏を味わえる。また、タイトルに沿ってか、オープニングの「青い鳥」で使われた鐘の音がこの曲でも使われているのが特徴。歌詞は無く、タイトルのフレーズを繰り返し歌っているのみだが、その単純さが不思議と心地良い。1分半程度とかなり短い曲ながら、飛ばすには惜しいほどの聴きごたえがある。


「Silent Snow」は先行シングル曲。季節や色をコンセプトにしたシングル4作のラスト。「冬」「アイボリー」​というコンセプト。美しく幻想的な雰囲気に満ちたミディアムナンバー。静かな中にも疾走感があるサビのメロディーがたまらない。バンドサウンドに加えてグロッケンやストリングス、鐘の音もフィーチャーされており、雪の降る街の情景を思わせるサウンドに仕上がった印象がある。
歌詞はタイトル通り冬を舞台にしたラブソング。「ありふれた言葉よりも 大切な事に 気付いたから」という歌詞はいつになく力強さがある。極めて私的な解釈になるが、1stシングルから4thシングルのこの曲まで、同じ主人公が描かれているのではと思う。その度に段々と成長しているような感覚がある。そのため、これまでに無い「芯の強さ」が感じられる。


「シグナルは恋ゴコロ」はここまでの流れを変えるような、軽快なポップナンバー。元Cymbalsの矢野博康が手掛けただけあって、これまた渋谷系の色濃い曲。弾むようにポップなメロディーは聴き流していても明るく幸せな気分になれる。タイトで安定感のあるバンドサウンドに加え、ピアノやホーンが絡んだサウンドはお洒落そのもの。
歌詞は片想いしている少女の想いが綴られたもの。「見たこともない 極彩色の未来 どうか色あせないでいて…」という歌詞を始め、全体を通してピュアでどこか儚さも感じられる詞世界である。
提供数こそ少ないが、矢野博康は花澤香菜の「可愛らしさ」という大きな魅力を引き出すのが本当に上手い作家だと思う。もう少し提供曲が多ければ、北川勝利と同じくらいの名コンビになるはず。


「新しい世界の歌」はジャジーなテイストを持ったポップナンバー。元Cymbalsの沖井礼二が提供しており、これまた軽快でお洒落な雰囲気に満ちている。思わず鼻歌を歌いながら聴きたくなるような、ポップで聴き心地の良いメロディーが展開されている。バンドサウンドに加えてピアノやエレピ、ホーンがフィーチャーされたサウンドなので、その心地良さがさらに引き立てられている。
歌詞は鮮やかな情景描写が多用されたもの。何気無い日常の風景を美しく描き出した詞世界となっており、それはまさに「新しい世界」と言ったところ。「あなた」と過ごす新しい世界を喜び、愛おしむようなボーカルもこの曲の開放感を形作っている。
前の曲と並んで、今作のアルバム曲の中でも特に好きな曲。沖井礼二もまた、花澤香菜との相性の良さを感じる。


「眠るサカナ」はエレクトロニカの要素を取り入れたミディアムナンバー。落ち着いた曲調だが、サビは比較的キャッチーなもの。全編打ち込みによるサウンドであり、タイトルからのイメージの通り水の中を浮遊しているような感覚がある。ただ、あくまでポップであり、深淵の中に潜り込んでいくような暗さは無い。
歌詞は恋人に会えず、眠れない夜を一人過ごす女性の心情を描いたもの。タイトルは主人公の様子を例えたもの。歌詞自体は少し切なさのあるものなのだが、不思議と悲観的ではない。ボーカルのおかげだろうか…?明る過ぎず、暗過ぎず、悲し過ぎず。様々な点でバランスの良い曲になっていると思う。


「おやすみ、また明日」はここまでの流れをぐっと落ち着ける小曲。聴いていて安心感のある、心の奥底に優しく沁みていくようなメロディーがたまらない。サビでもその感覚は変わらない。サウンドは北川勝利によるアコギ一本のみと極めてシンプルなもの。
初めて花澤自らが作詞を手掛けた曲。タイトル通り、寝る前の気持ちが描かれている。気分が明るくても、沈んでいたとしても通じる言葉選びが見事。花澤の人となりも伝わってくるような歌詞だと思う。
自分は寝る前にこの曲を聴くことがある。満たされた気分になる時もあれば、救われた気分になる時もある。そのため、評価の割に親しみ深い曲となっている。アルバムの流れで聴くよりは、この曲だけを聴くことが多い。


「happy endings」は今作のラストを飾る先行シングル曲。アニメ『絶園のテンペスト』のエンディングテーマに起用された。季節や色をコンセプトにしたシングル4作のうちの3作目。「秋」「ブラウン」というコンセプト。上品な雰囲気を持ったポップナンバー。ポップではあるが、盛り上がり過ぎないバランス感覚が絶妙。ジャズの要素を内包した、ソフトでお洒落なサウンドが展開されている。
歌詞は遠距離恋愛をしているカップルを描いたものだと思っている。「落ち葉の海」「悴んだ指先」と秋〜冬を思わせるフレーズを盛り込みつつ、二人のこれからへの期待と不安とを感じさせる詞世界。
シングル曲ながら、アルバムのラストという重要なポジションにぴったりはまっている印象。最初からラストに配置することを見越して作っていたのではと勘ぐりたくなるほど。


それほど高い売上ではないが、中古屋ではそこそこ見かける。
歌声の良さを活かすため、激しさや派手さは抑えてソフトなアレンジがされた曲が揃っている。1曲単位では埋もれてしまいそうになる曲もあるが、アルバム全体で通して聴くとより魅力的に聴こえるようになっているのが素晴らしいところ。「渋谷系」をキーワードに今作について語ってきたわけだが、そのジャンルについて知らずとも、提供者を知らずとも楽しめるだけの作品である。

今作に限らず、花澤香菜の作品は「ヘッドホン推奨」というキャッチコピーのようなものがある。どの作品も共通して、曲もボーカルもとにかく聴き心地の良さを追求している印象があるため、より良い音で聴ける環境を整えたくなるのは事実。花澤香菜の声が好きな方の場合、聴いていて思わずニヤニヤしてしまうこと請け合い。そのため「一人で聴くの推奨」とも言っておこう。自分も極力一人の時に聴くようにしている。

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