【収録曲】
全曲作詞作曲 桜井和寿
10.英語詞・英訳 KEN MASUI
全曲編曲 Mr.Children
5.ブラスアレンジ 山本拓夫・桜井和寿
4.8.オーケストレーションアレンジ 桜井和寿・世武裕子
9.オーケストレーションアレンジ 桜井和寿・弦一徹
プロデュース Mr.Children
1.Your Song ★★★★★
2.海にて、心は裸になりたがる ★★★★★
3.SINGLES ★★★★☆
4.here comes my love ★★★☆☆
5.箱庭 ★★★★☆
6.addiction ★★★☆☆
7.day by day(愛犬クルの物語) ★★★★☆
8.秋がくれた切符 ★★★☆☆
9.himawari ★★★★★
10.皮膚呼吸 ★★★★☆
2018年10月3日発売
トイズファクトリー
最高位1位 売上43.3万枚
Mr.Childrenの19thアルバム。先行シングル「himawari」及び、配信シングル「here comes my love」を収録。前作「REFLECTION」からは3年4ヶ月振りのリリースとなった。三方背BOX入り仕様・デジパック仕様。
前作「REFLECTION」では途中まで小林武史が参加していたが、今作では遂に一切参加していない。これで文字通りのセルフプロデュースとなった。これはミスチルの歴史を振り返る上での大きな転換点と言えるだろう。
今作は10曲とミスチルのオリジナルアルバムにしてはかなりコンパクト。10曲入りというのは実に「Versus」以来25年振りとなる。しかし、内容のついては桜井曰く「濃いアルバムにしたかった」とのことで、自分たちの自我を強く出した作品だという。そのせいかはわからないが、いつになくバンドサウンドが前に出ている印象がある。
「Your Song」は今作のオープニング曲。今作のリード曲であり、リリース前にMVが公開された。壮大なロックバラードナンバー。聴き流していても思わず引き込まれてしまうような、訴求力に満ちた力強いサビは圧巻。メンバーの息遣いが聞こえてきそうな、生々しささえ感じられるほどのバンドサウンドはそうした曲の力強さを演出している。
歌詞は恋人への想いを包み隠さず打ち明けたもの。日常の何気ないシーンを描き出しつつ、恋人と過ごしてきた日々の尊さが語られている。繰り返し歌われる「君じゃなきゃ」というフレーズは、ミスチルにしては異色だと思ってしまうくらいストレート。
ここまでバンドサウンドが主体になったバラードも久し振りだと思う。早くも完全なセルフプロデュースとなったミスチルを実感させてくる。
「海にて、心は裸になりたがる」は前の曲から一転して、爽快なポップロックナンバー。サビの高揚感はかなりのものがあり、聴いていてとても気持ちが良い。「心が裸になる」ような感覚である。サウンド面では、分厚いベースが曲の全体を通して前面に出ているのが印象的。それはミスチルの曲では中々珍しいのではと思う。
歌詞は日常から離れて海に行き、気分転換している姿が描かれたもの。「海」というと爽やかな光景やロマンティックな光景が描かれていることが多いように感じるが、この曲は「生臭い海の匂い」とリアルな描写がされている。海に行ったことで開放感を味わいつつも、どこか斜に構えた姿勢を崩していない印象の歌詞になっているのが見事。
今作のアルバム曲の中でも特に好きな方に入ってくる。
「SINGLES」は力強いポップロックナンバー。テレビ朝日系ドラマ『ハゲタカ』の主題歌に起用された。サビまではかなりポップなのだが、サビは少しテンポが遅くなって力強さのあるメロディーに変貌を遂げる。逆にサビまでの方が印象に残る…ということもあるかもしれない。こうした構成は今までには無かった印象。骨太なバンドサウンドが曲にさらなる強さを与えている。
タイトルだけ見るとベスト盤のように感じてしまうが、歌詞は恋人と別れた男性の心情が綴られたもの。幸せな描写が全て過去形なのが何とも切ない。主人公の心情を「守るべきものの数だけ 人は弱くなるんなら 今の僕はあの日より きっと強くなっただろう」と表現しているのが見事。
タイトルが「SINGLES」となっているのは、個々の孤独な人間を指しているからだろうか。この曲については、詞世界に魅かれた面が大きい。
「here comes my love」は配信限定シングル曲。フジテレビ系ドラマ『隣の家族は青く見える』の主題歌に起用された。重厚感のあるロックバラードナンバー。ドラマ主題歌だけあって、サビはしっかりとキャッチーにまとめられている。ピアノから始まるが、その後は終始バンドサウンドが前面に出て少しずつ盛り上がっていく。ストリングスも入るものの、あくまでバンドサウンドの引き立て役に徹する形。
歌詞はラブソングとなっているが、迷いと希望の両方が感じられるもの。ただのラブソングとは思えないほどにスケールの大きな詞世界であり、海を思わせるフレーズが多く登場するのも特徴。恐らく、タイアップ相手のドラマの内容に寄り添った歌詞だろう。
バラードというのは定番過ぎてあまりにも安定感に溢れ過ぎている印象。美しい曲だとは思うが…好きかと言われるとそこまででもない。
「箱庭」はここまでの流れを変えるようなポップナンバー。サビはかなりキャッチーな仕上がりで、すぐに耳に馴染む。サウンド面では、バンドサウンドと同じくらいエレピやホーンも主張しているのが大きな特徴。歪んだギターサウンドも前面に出ているが、メロディーそのものはポップである。
歌詞は恋人との別れを描いたもの。まだ相手のことを好きだという想いを「乱暴なまでに僕はまだ 君を好きで」と表現し、忘れられない思い出を「残酷なまでに 温かな思い出に生きてる」と表現するところが素晴らしい。感傷的な心を上手く皮肉った表現だと思う。
メロディーやサウンドと歌詞のギャップが激しく、短めの曲ながらかなり印象に残る。だからこそ、この曲に魅かれるのだろう。
「addiction」はスリリングなイメージのあるロックナンバー。派手に盛り上がるわけではないが、不思議と耳に残るサビのメロディーは中々にインパクトがある。バンドサウンドより目立つのでは?と思うほどピアノが前面に出ており、それがこの曲の持つイメージを持たせているのかもしれない。
歌詞はタイトル通り、何かに依存している人の姿が描かれたもの。「どんなに言い聞かせても 変われぬものがあるよ」「欲しくてたまらないよ」「今日は我慢できても また手を出してしまうだろう」などと依存している様子がわかる言葉は多くあるが、何に依存しているかは明言されていない。聴き手それぞれの依存しているものに当てはめてもいいだろう。
この曲に関しては、サウンド面で新たな境地を開拓した印象。ピアノロック的な展開の曲はミスチルには珍しいと思う。
「day by day(愛犬クルの物語)」は前の曲とは打って変わって、爽快感のあるポップロックナンバー。サビに入った瞬間がたまらなく気持ち良く、何度でも聴きたくなる。サビに入った時の桜井和寿の突き抜けるような高音や、終始主体となっている躍動感のあるバンドサウンドが高揚感を引き立てていて、聴いていると思わず身体が動いてしまう。
歌詞はタイトルからも察しがつくように、犬のクルと飼い主の交流が綴られている。クルの視点でも飼い主の視点でもなく、第三者の視点で描かれているのが特徴。そのためか、絵本のようなイメージがある。後半は切ない展開になってしまうのだが…クルはどうなったのだろうか。
発売前にタイトルだけ見て一番気になったのがこの曲だった。初めて聴いた時には、まさかこのような曲になっていたとは…と驚いた。
「秋がくれた切符」はここまでの流れを落ち着けるバラードナンバー。しっとりとした曲調だが、サビは比較的キャッチーにまとめられている。ピアノやストリングスも主体となった、厳かな雰囲気漂うサウンドが展開されている。それでも、バンドサウンドが埋もれていないのは現体制のミスチルならではと言ったところか。
歌詞はタイトル通り秋の情景が描かれたもの。落ち葉と夕日を「神様が僕らにくれた 何かの切符みたいだ」と描写しているのには圧倒された。秋の夕暮れ時特有の切なさが感じられる詞世界になっていると思う。
終始穏やかで優しいボーカルはこの曲の世界観を見事に表現している。桜井和寿のボーカリストとしての実力を再確認できる。
「himawari」は先行シングル曲。映画『君の膵臓をたべたい』の主題歌に起用された。表記こそ無いが、ボーカルや演奏が再録されたアルバムバージョン。スケールの大きなロックバラードナンバー。儚ささえ感じられるほど美しく、かつ耳馴染みの良いメロディーには聴き惚れてしまうのみ。再録され、よりバンドサウンドの力強さが増した印象がある。ストリングスがあくまでバンドサウンドの後ろの引き立て役になっているのは、初めて聴いた時には新鮮に感じた。
歌詞はタイアップ相手の映画の内容に寄り添い、亡くなった恋人への想いが綴られたもの。どれだけ叫んでも相手には届かないとわかっていても、想いを伝え続ける。そういうイメージのある詞世界は「悲痛」というフレーズがよく似合う。
ボーカルはシングルバージョンの方が好きで、演奏はアルバムバージョンの方が好き。何とも悩ましいが、どちらにしろ名バラードである。
「皮膚呼吸」は今作のラストを飾る曲。NTTドコモの25周年キャンペーンのCMで「未発表曲DEMO」として公開されていた。重厚感のあるミディアムナンバー。一聴しただけでも心を掴まれるような、確かな強さを持ったメロディーが展開されている。サビは特にそれが顕著。骨太なバンドサウンドが曲の力強さをより高めている。
歌詞は夢を追い続けることと現実との間で葛藤する人物が描かれている。桜井は「人は皮膚呼吸ができなくなると死ぬ」という都市伝説(実際は嘘)に影響されて作詞したとか。ただ昔を懐かしむわけでも、枯れて悟ったような境地に至るわけでもなく、今の自分だからこそできることがある!というふうに、大人になった自分を思い切り肯定しているところが印象的。
デビュー25周年を迎えたミスチルでなければ、こうした曲は作れなかったのではないか。詞世界で今までにない魅力を感じた。
全体を通してバンドサウンドが主体となった曲が多いという印象は初めて聴いた時から変わらない。ミスチルとしては、ロック色の強い作品として統一させたかったのだろう。
しかし、初めて聴いた時〜3回目くらいまでは「なんだこれ?」という感想しか持てなかった。駄作だなんて思ってはいない。ただ、何故かはわからないが、どうしても曲が耳からするすると抜けていくような感覚があった。曲や歌詞よりもサウンド面ばかりが印象に残った。正直なところ、この記事を執筆するにあたって収録曲を繰り返し聴いて、やっとサウンド面以外の語りどころが見つかったくらいだ。
今作を聴いて思ったのは、完全なセルフプロデュース体制がまだ盤石ではないのでは?ということ。つまり、ミスチルはまだ過渡期にある。これからのミスチルはどうなるのだろう。期待しつつ不安になりつつ見守っていきたい。
★★★★☆
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