first
黒沢健一
1998-09-18


first(UHQCD)
黒沢健一
2017-03-15


【収録曲】
全曲作詞作曲 黒沢健一
6.作詞 BRIAN PECK
全曲編曲 黒沢健一・遠山裕
プロデュース 黒沢健一・遠山裕

1.Oh Why ★★★☆☆
2.Rock’n Roll ★★★★★ 
3.Round Wound ★★★★☆
4.Love Love ​★★★★☆
5.Mad Man Across The Water ★★★☆☆
6.Easy Romances ​★★★☆☆
7.Morning Sun ★★★☆☆
8.Wondering ​★★★★★
9.FAR EAST NETWORK ★★★★☆
10.Really I Wanna Know ★★☆☆☆
11.Rock’n Roll(reprise) 省略

1998年9月18日発売
2017年3月15日再発(UHQCD仕様・リマスター・ボーナストラック)
ポニーキャニオン
最高位34位 売上不明

黒沢健一の1stアルバム。先行シングル「Wondering」「Rock’n Roll」を収録。

黒沢健一はL⇔Rのボーカル・ギター、メインソングライターとして活躍してきたが、1997年にL⇔Rは活動休止。そして、1998年にソロデビューを果たした。

今作は日本とロンドンでレコーディング・ミックスダウンが行われた。黒沢が強い影響を受けたであろうブリティッシュロックの味わいを感じさせる音作りがされている。また、全曲の編曲と共同プロデュースでL⇔R時代から楽曲制作に関わっていた遠山裕が参加しているのが特徴。


「Oh Why」は今作のオープニング曲。3拍子によるしっとりとしたバラードナンバー。艶のある美しいメロディーは聴いていると思わず眠くなってしまう。サウンド面はアコギとピアノが主体となっている。遠くで鳴っているような音作りがされた打ち込みドラムが不思議と心地良い。こうした曲調では黒沢の優しい歌声がよく映える。サビの多重コーラスも相まって、歌声に包まれるような感覚になれる。
歌詞は何かを始める際の想いが綴られたもの。全体的には内省的な雰囲気を持ったものだが、サビでは「今すぐ 始めよう」というフレーズが登場する。
曲自体はとてもオープニングに配置するようなものではないと思うのだが、詞世界を考慮して配置したのだろうか?


「Rock'n Roll」は先行シングル曲。変拍子が凄まじいインパクトを与える尖ったロックナンバー。ロックンロールというよりはプログレと言った方が合っている。しかし、メロディー自体はかなりポップなものとなっている。ボーカルを含めた全ての音が激しくぶつかり合いながら耳に突き刺さってくるような感覚があり、それらには圧倒されるばかり。ただ、それすら心地良いと思えるのがこの曲の凄いところ。
歌詞は散文的でよく意味がわからないのだが、どことなくシニカルな世界観を持っているように感じる。
どういう頭ならこのようなメロディーや歌詞が浮かぶのだろうと疑問に思って仕方がない。つまりは黒沢健一は天才。こうした才能が暴走してしまう曲はL⇔Rの「アイネ・クライネ・ナハト・ミュージック」を彷彿とさせる。


「Round Wound」は前の曲から繋がって始まる、ノリの良いロックナンバー。キャッチーかつ美しいサビのメロディーがたまらない。メロディーメーカーとしての卓越した実力が発揮されている。カントリーミュージックのテイストも感じられる、弾み上がるようなピアノが前面に出たサウンドは、聴いているとまさに心が躍る感覚がある。
歌詞は男女のコミュニケーションについて語られたもの。「不器用なやり方だけで 愛を探しに行けば つまづいて 傷ついて それで後悔」という歌詞には深く共感してしまう。
この曲はメロディーやサウンドもそうだが、ボーカルが特に印象に残る。様々な表情を見せるボーカルを堪能でき、本当に楽しそうに歌っている姿が浮かんでくる。


「Love Love」は前の曲からの流れに続いてノリの良いポップロックナンバー。爽快感のあるメロディーやサウンドは聴いていると思わず身体を動かしてしまうこと請け合い。2分半程という短さも相まって、あっという間に流れてしまう感覚がある。この曲のみ"GOLDEN★ROADSTARS"によって演奏されている。メンバー自体は他の曲と変わらないと思うが、勢いのあるバンドサウンドと煌びやかな打ち込みサウンドの絡みは他の曲と比べても異色である。
歌詞もまた、肩肘張らずに書かれたような雰囲気を感じさせる。「Love」という言葉を「誰もが持ってる 切り札のセリフ」と例えているのが印象的。
今作の中だと少々浮いた感じもするのだが、それでも割と好きな曲。


「Mad Man Across The Water」はここまでの流れを落ち着けるバラードナンバー。サビもそれほどキャッチーではなく、全体を通じてシリアスなメロディーなのだが、じっくりと心に沁みていくような温かみがある。そうしたメロディーと、アコギやピアノが主体となったサウンドの絡みが何とも心地良い。
歌詞は内省的な世界観を持ったもの。どこを取っても深い迷いや悲しみの中にいるようなイメージの詞世界になるのだが、サビの「そして 歌う Revolution それは いつも Imitation」という歌詞が特に印象に残る。自らの歌ってきた曲たちを卑下しているようなフレーズだと思う。
短めの曲ながら、軽い気持ちでは聴けないような雰囲気が漂っている。


「Easy Romances」は全編英語詞によるポップナンバー。派手に盛り上がるような部分は無いが、聴き流すのが心地良くて仕方がないメロディーと言ったところ。曲を通して前面に出ている軽快なピアノや、ザクザクと刻むような音色のアコギは曲の楽しげな雰囲気を演出している。黒沢によるイントロや間奏でのハーモニカもまた、陽気な感じ。
作詞はL⇔R時代から度々参加してきたBRIAN PECKが担当した。L⇔Rの全編英語詞の曲を聴いた時にも思っていたことだが、発音がとても綺麗である。全編英語詞の曲は黒沢健一のボーカリストとしての魅力をさらに引き出してくれるように思う。


「Morning Sun」は流れを再び落ち着けるバラードナンバー。メロディー自体は淡々としている印象で、主張は控えめ。アコギが主体となったシンプルを極めたようなサウンドは思わず身を委ねたくなるほどの心地良さがある。優しく語りかけるような黒沢の歌声もその心地良さを引き立てている。
歌詞は一日の終わりを思わせるもの。「とりとめない 話をしようよ 眠くなるまで ずっと」という歌い出しから、いつ聴いていようと寝る前の時間に引き込まれる。
段々と朝の光が射し込んでくるようなイメージのある曲で、一日の始まりと終わりのどちらに聴いてもぴったりだと思う。


「Wondering」は先行シングル曲。NHKの音楽番組『ポップジャム』のエンディングテーマに起用された。骨太なバンドサウンドが心地良いバラードナンバー。ここまで訴求力のある美しいメロディーはあるのかと思うようなメロディーが素晴らしい。高潔ささえ感じられるほどである。それでいて、ポップですぐに口ずさめるようなメロディーに仕上がっている。バンドサウンドは全て日本人ミュージシャンによる演奏だが、ストリングスはロンドンの演奏家によるもの。この曲全体から漂う厳かな雰囲気はストリングスのおかげだろう。
タイトルは「不思議に思う」というような意味があるが、歌詞もそうした感情が綴られている。ソロデビューするにあたり、内省的な心情になったのだろうか。ただ、メロディーやサウンドの影響か迷っているような感じは伝わってこない。それどころか、力強い決意表明のようにも聴こえてしまう。
ソロデビュー曲ながら、ソロ作品の中で一番好きな曲というポジションにある。


「FAR EAST NETWORK」は前の曲の雰囲気をはねのけるようなイメージのポップロックナンバー。開放感に満ちたサビのメロディーには一聴しただけでも魅かれてしまうほどの強さがある。ギターの長田進・ベースの根岸孝旨・ドラムの古田たかしと、Dr.StrangeLoveのメンバーが揃って演奏しているのが特徴。息の合ったバンドサウンドと分厚いコーラスワークはこの曲の力強さと軽快さを象徴するかのよう。
歌詞は何もかもを諦めて吹っ切れてしまったようなイメージがある。「肝心な事はいつでも 忘れるから 逃げてばかりいる未来を目指そう」「僕らはこわれたあとの存在」「すべてが いつも反対だから むなしくなる」といった歌詞が顕著。それをポップなメロディーに乗せてしまうのだからよくわからない。そして何故このタイトルになったのかも謎。わからないことだらけなのに、何故かハマってしまう。


「Really I Wanna Know」はメロウなバラードナンバー。流れるように美しいメロディーとファルセットを多用したボーカルはまさに「癒し」の一言。アコギが前面に出ている中でグロッケン、マリンバ、フルートなど様々な楽器が使用されているのが特徴で、それらの音に包み込まれているような感じがする。
歌詞の意味はよくわからないものの、一応はラブソングだと思っている。どことなくファンタジックなイメージを持った詞世界となっており、前述したカラフルなサウンドとの相性はぴったり。目を閉じながら聴いていると、どこか違うところに飛ばされるような感覚に襲われるだろう。


「Rock’n Roll(reprise)」は今作のラストを飾るインスト曲。「reprise」とあるものの、実際のところは別バージョンと言ったところ。生音のみで演奏されているのが主な違い。シンセの代わりなのか、オルガンが使われているのも特徴。しっとりとした曲で終わると思ったら、今作の中でも最も尖った曲の別バージョンで締められる。一筋縄ではいかない作品だ。


あまり売れた作品ではないため、中古屋ではたまに見かける程度。今ではリマスター盤もリリースされているので、そちらを入手するのもおすすめ。
L⇔R時代のような突き抜けたポップさは控えめで、ソロとしてのパーソナルな部分が詞世界やサウンドでよく現れているのが特徴。正直なところ、初めて聴いた時はそこまでハマることなく、以降はしばらく放置してしまっていた。内省的な世界観が強く、それに違和感を覚えたのだろう。ただ、しばらく経つとその内省的な部分が今作の魅力なのだろうとわかった。それ以降はそれなりに好きな作品となった。L⇔R時代の延長線上にあると思って聴いてはいけない。

★★★★☆