light showers
2017-09-13


【収録曲】
1.作詞作曲 EPO
2.作詞 YOU
3.作詞作曲 堂島孝平
4.作詞作曲 ARAKI(BAVYMAISON)
5.9.10.作詞 藤井隆
6.作詞作曲 シンリズム
7.作詞作曲 澤部渡(スカート)
8.作詞作曲 西寺郷太(NONA REEVES)
2.作曲 RIS
5.10.作曲 冨田謙
9.作曲 葉山拓亮
全曲編曲 冨田謙
プロデュース 冨田謙

1.Going back to myself〜再生のリズム〜 ★★★★★
2.mode in the end ★★★★☆
3.DARK NIGHT ★★★★★
4.AIR LOVER ★★★☆☆
5.守ってみたい ​★★★★☆
6.くちばしは黄色 ★★★★☆
7.踊りたい ★★★☆☆
8.カサノバとエンジェル ​★★★☆☆
9.ドライバー ★★★★☆
10.プラスティック・スター ★★★★★

2017年9月13日発売
SLENDERIE RECORD
最高位31位 売上不明

藤井隆の4thアルバム。先行シングルは無いが、「プラスティック・スター」「守ってみたい」が今作に先行して配信された。前作「COFFEE BAR COWBOY」からは2年3ヶ月振りのリリースとなった。

今作は「90年代のミュージック」をテーマにした作品。藤井は「子どもの頃からCMディレクターに憧れていた」ようで、90年代のCMタイアップが付いた曲を意識して制作された。特に深夜に延々と流れていたCMに影響を受けたとのこと。
全曲に何かしらのタイアップが付いたという「設定」になっており、「フェイクタイアップシール」が付いている徹底振り。↓
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また、架空のCM集という設定のプロモーション映像が制作されている。藤井は曲よりも先にこの映像のアイデアが浮かんでいたとか。
この映像は当時を思わせる4:3の画角だが、画質は今風。ただのノスタルジーには終わらせないという姿勢が伺える。


ゴルフボールが使われたジャケ写が印象的だが、これは藤井が高校時代に球拾いのバイトをしていたというゴルフの打ちっ放し場で撮影されたようだ。年上・年下問わず様々なミュージシャンにリクエストし、それが集まって作品になっていく過程が「ゴルフ場でいうところの球拾いみたいなもの」に思えたという。何とも分かりにくいが情熱はよく伝わってくる。


「Going back to myself〜再生のリズム〜」は今作のオープニング曲。しっとりとした曲調で聴かせる曲。しかし、一度聴いただけで忘れられなくなるほどにキャッチーなサビを持っている。それが何度も繰り返されるのだから、聴いたらずっと脳内再生されてしまうこと請け合い。幻想的な打ち込みサウンドはメロディーやボーカルの引き立て役として活躍する。
歌詞は「新しい僕」の誕生について描かれている。ただ、それ以上に印象に残るのはサビ前の「君は僕のことを嫌いになればいい」というフレーズ。字面だけでも恥ずかしくなるくらい二枚目なセリフだが、藤井はそれを真っ直ぐに歌っている。俳優としての一面が現れた部分と言えるだろう。
EPOのメロディーメーカーとしての実力を再認識させられた名曲。CMソング女王として名を馳せただけあって、メロディーのインパクトが尋常ではない。


「mode in the end」は激しいデジタルロックナンバー。それでいて、ダンスミュージックの要素も感じさせる。そこは藤井の趣味が反映されているのだろう。唸りをあげるような攻撃的なギターサウンドと、力強いビートには圧倒されるばかり。サビまでとサビとでかなり変化があるのが特徴で、それがこの曲に引き込まれてしまう要因である。
これまでの音楽活動でも共演したことがあり、藤井が「叔母」と慕うYOUが作詞を担当した。一応はラブソングだと思っているのだが、散文的で意味ははっきりとわからない。FAIRCHILD時代の作品を聴いていて度々感じていたことだが、YOUは非常に独特な言葉選びのセンスの持ち主だと思う。この曲でもふわっと入ってきて心を掴まれるようなフレーズが多く並んでいる。そうした詞世界を、藤井はよく伸びる爽やかな歌声で見事に表現している。ボーカリストとしても優れた実力の持ち主である。


「DARK NIGHT」は都会的な雰囲気に満ちたポップナンバー。聴き流していても心地良く、それでいてキャッチーなメロディーが素晴らしい。堂島孝平の強みが遺憾無く発揮されたメロディーになっていると思う。夜の街並みを想像させるような煌びやかな打ち込みサウンドが主体で、メロディーの持つ魅力をさらに高めてくれる。
歌詞は恋人に振り回される男性が描かれたもの。何故かはわからないが、藤井にはそういう詞世界が似合うイメージがある。ただ振り回されているのではなく、その状況さえ楽しんでいるような雰囲気もある。
かつての作品でシティポップに寄った曲があったが、この曲はその頃の作風を思わせる。最初の2曲はかなり攻めていたので、ここで一気に落ち着いた感じ。


「AIR LOVER」は前の曲に引き続き、都会的な雰囲気を感じさせるミディアムナンバー。派手に盛り上がることはないが、かなりキャッチーで耳に馴染むメロディーが見事。クールな打ち込みサウンドとギターのカッティングが主体となっており、曲のお洒落さがより際立っている印象がある。
歌詞は恋人との関係が終わる瞬間を描いたものだと思っている。「女々しいヤツだろう」というフレーズが何とも直球だが、まさにそう言いたくなるような男性が主人公となっている。失恋を描いているのに、どこかナルシスティックなイメージがある。この手の歌詞が好きな自分にはたまらない詞世界である。
限りなくお洒落な歌謡曲といった感じの味わいがあり、親しみやすさがある曲だと思う。


「守ってみたい」は今作に先行して配信された曲。ファンキーなサウンドが展開されたポップナンバー。サビのメロディーは何度でも聴きたくなるような中毒性がある。力強い打ち込みドラムやキレの良いギターも相まって、聴いていると思わず身体が動いてしまうこと請け合い。聴きごたえもあるサウンドで、冨田謙のアレンジャーとしての実力がよくわかる。
歌詞のイメージは「忍びの者が好きな女性を支える」というものらしく、この設定は大河ドラマ『真田丸』で藤井が演じた佐助を思わせる。誠実さを感じさせつつ、それでいてどこか微笑ましさもある詞世界は藤井の人となりをうかがわせる。
横山輝一や林田健司辺りの路線を思わせるメロディーやサウンドで、今作の中でも特に90年代の色が強い曲だと思う。


「くちばしは黄色」は洗練されたメロディーやサウンドが心地良いミディアムナンバー。若手シンガーソングライターのシンリズムが提供している。彼の色がよく現れた、上質でキャッチーなメロディーに仕上がっている。初めて聴いた時には笑ってしまったほどにシンリズムの作風そのまま。サウンドは鮮やかな打ち込みサウンドとギターのカッティングが主体。
歌詞は恋人の記念日を祝う男性が描かれている。タイトルの意味はよくわからないが、全体としては多幸感のある詞世界となっている。「もう 見慣れた表情が 今 誰よりも綺麗さ」という歌詞が顕著。他と比べても格好良さを増した歌声がこの曲にはよく合う。
この曲も「DARK NIGHT」と並んで、かつての藤井の1stアルバム辺りの作風を思わせる曲である。


「踊りたい」はエレクトロの要素が強い、タイトル通りのダンスナンバー。作詞作曲はスカートの澤部渡が担当した。引っかかりのあるサビのメロディーはまさしくCMソングのような味わいがある。全体を通して無機質ながらもダンサブルな打ち込みサウンドが展開されている。歌声が加工された部分もあるのが特徴。
歌詞は恋人に振られた男性がクラブに行く姿を描いたもの。「すべては よく出来た イミテーションの永遠」というフレーズが好き。サウンドはギラギラしたイメージがあるのに、歌詞は全体を通して情けない。このギャップがこの曲の魅力だと思う。
今作では数少ない、「今の音楽」の要素を強く感じさせる曲となっている印象がある。


「カサノバとエンジェル」はディスコミュージックの要素を取り入れたポップナンバー。前作「COFFEE BAR COWBOY」で全面的に関わった西寺郷太が提供した。その手のジャンルに造詣の深い西寺ならではの、ダンサブルかつポップなメロディーが展開されている。キーボードやオーケストラル・ヒットを多用した派手なサウンドは今作の中でも異彩を放つ。
歌詞は全編を通じてドラマティックなイメージのあるもの。恋に落ちた瞬間なのか、浮気された瞬間なのか。聴けば聴くほどよくわからなくなる詞世界なのだが、歌詞とメロディーのハマり方が見事で、それも聴いていて楽しい理由だと思う。
この曲については、90年代というよりも80年代の空気を感じさせる曲という印象。


「ドライバー」はここまでの流れを落ち着けるミディアムナンバー。藤井は葉山拓亮が在籍していたD-LOOPの「GLORY DAYS」(日産「パルサーセリエS-RV・ルキノS-RV」のCMソング)が好きだったようで、それでリクエストしたという。最初からCMソングとして作ったかのような、あざといほどにキャッチーにまとめられたサビがインパクト抜群。意図的にチープさを狙ったような打ち込みサウンドが印象的。
歌詞は恋人との最後のドライブデートが描かれたもの。「思い出塗り替えてく曖昧さで 都合良く笑えたら良いのに 潤んだ瞼に浮かんだ あの日の横顔 消えた」という歌詞が何とも切ない。別れを描いているのに、どうしても一人になった自分を格好良く見せたがっているようなイメージのある詞世界で、それがたまらない。作詞家としての藤井隆の実力が存分に発揮された曲である。


「プラスティック・スター」は今作に先行して配信された曲。ラストにして、爽快感のあるポップナンバー。コーラスに妻である乙葉が参加している。可愛らしい歌声だが、曲の中でも埋もれることなく存在感を発揮している。一度聴けばしばらく残って離れなくなるほどのサビはキャッチーそのもので、高揚感に満ちている。煌びやかなシンセの音色が前面に出たサウンドには包み込まれるような感覚がある。
歌詞はタイトル通り星がキーワードとなっている。タイトルの「プラスティック・スター」は「あきることないこのメロディー」のこと。この造語の異様なまでのハマり具合は実に90年代的。歌詞全体がキャッチコピーのようになっている。
ラストにわかりやすくポップな曲を配置したのは好采配だと思う。


「90年代」をテーマにした作品なのだが、あくまで現代の音を使ってそのテイストを感じさせる曲たちを彩る…というスタイルであり、決して懐古に走った作品ではない。むしろ、作り込まれた現代の音で溢れている。そのため、聴いていて「どこが90年代だよ?」と思う方もいるはず。その当時の音やアレンジを再現して「あの頃」を演出する作品ではない。そこは注意していただきたいところ。ただ、90年代をリアルタイムで過ごしたわけでもないのに懐かしいと感じてしまうのは何故だろう。
細か過ぎるほどに徹底したコンセプトはもちろん、それに沿った曲を提供した作家陣の仕事振りも見事。そして、それぞれの曲の世界観を憑依するかのように演じてモノにする藤井も素晴らしい。コンセプトアルバムとしてここまで完成された作品も中々無いと思う。
「ありそうでなかった」「懐かしくて新しい」…あまりにもありふれた表現だが、そうしたフレーズがよく似合う名盤。

★★★★★