Too many people
ASKA
2017-02-22


【収録曲】
全曲作詞作曲 ASKA
1.6.9.13.編曲 澤近泰輔
2.5.7.10.11.編曲 ASKA
3.4.12.編曲 ASKAの音楽を愛する仲間
8.編曲 ASKA・鈴川真樹
プロデュース ASKA

1.FUKUOKA ★★★☆☆
2.Be free ★★★★☆
3.リハーサル ★★★★☆
4.東京 ​★★★★★
5.X1 ★★☆☆☆
6.それでいいんだ今は ​★★★★☆
7.Too many people ★★★☆☆
8.と、いう話さ ★★★★★
9.元気か自分 ​★★★☆☆
10.通り雨 ★★★★☆
11.信じることが楽さ ★★★☆☆
12.未来の勲章 ​★★★★★
13.しゃぼん ★★★★★

2017年2月22日発売
2017年11月29日発売(LP)
DADAレーベル
最高位7位 売上2.7万枚

ASKAの8thアルバム。先行シングルは無いが、「FUKUOKA」「X1」のMVが今作に先行して公開された。また、「Be free」は2014年に逮捕される直前にファンクラブ会員に送られたCDに収録されていた曲である。前作「SCRAMBLE」からは4年4ヶ月振りのリリースとなった。2017年11月29日には、ASKAのソロデビュー30周年記念としてアナログ盤でもリリースされた。

ASKAは2014年に覚せい剤取締法違反で逮捕され、復帰してからは初の作品。2016年の11月下旬に2度目の逮捕となったが、翌月に不起訴に。再び今作の制作を発表し、紆余曲折を経てリリースされた。

今作は保釈後に制作された50曲の中から厳選された13曲が収録されている。事件の影響で東京のスタジオを使用できなかった時期があるようで、地元の福岡の知人に提供してもらったというスタジオで制作された。一部のミュージシャンは事務所との兼ね合いからか、「ASKAの音楽を愛する仲間」「お友達に決まってるじゃないか」と名前が伏せられているのが特徴。


「FUKUOKA」は今作に先行してMVが公開された曲。訴求力に溢れた美しいメロディーには聴き惚れるばかり。ピアノとアコギのみで構成された、極めてシンプルなアレンジがされている。ASKAの歌声とメロディーを際立たせるようなアレンジである。
歌詞はタイトルからも察しがつくように、ASKAの故郷である福岡への想いが綴られたもの。誰もがそれぞれに持っているであろう、懐かしい風景が浮かぶ詞世界が見事。福岡だけでなく、聴き手それぞれの故郷をイメージして聴けると思う。それはASKAの言葉選びが冴え渡っているから。
この曲のMVが公開された時、「遂にASKAが戻ってくる!」と興奮したことを覚えている。静謐なバラードなのに、不思議と高揚感があるのはそのためだろうか。


「Be free」は2014年の逮捕直前にFC会員に送ったCDに収録されていた曲。そちらのバージョンは今作の方と一部の歌詞が異なるという。しっとりとした中にも力強さが感じられるバラードナンバー。美しいのに引っかかりのあるサビのメロディーは職人技。シンプルなバンドサウンドとシンセによるストリングスがそうしたメロディーの強さを高めている。
歌詞は制作当時のASKAの素直な心情が現れたものだと思う。「自由になりなさい 楽になりなさい 誰かにそんな風に 言ってもらいたい」というサビの歌詞が顕著。ここまで弱さをさらけ出した歌詞はASKAにしてはかなり異色である。
この曲だけ制作時期がかなりずれているが、それでも今作の中に違和感無く溶け込んでいる。


「リハーサル」はここまでの流れから一転し、8ビートによる重厚感のあるロックナンバー。力強さのあるメロディーには圧倒されるばかり。歪んだギターサウンドや打ち込みによるドラムも凄まじい圧力を持っている。
ASKAはデビュー以来リハーサルから本気で歌うというポリシーを持っているようで、そうした姿勢が前面に出た詞世界になっていると思う。「ほとばしる魂」を武器に、これからも音楽を続けていく。そのような想いがよく伝わってくる。
歌い方についても、いつになくパワフルな感じ。シャウトしている部分もある。ASKAのライブに行ったことは無いが、実際に行ったらこの曲以上の歌を楽しめるのだろうか。


「東京」は前の曲とは異なり、爽快なポップナンバー。サビでの跳ね上がるようなメロディーはキャッチーそのもので、一度聴けばすぐに耳に馴染む。サウンド面では、シンセによる鐘の音が特に印象に残る。90年代のチャゲアスやASKAソロの曲を思わせる音色である。
歌詞はタイトル通り、ASKAの東京に対しての想いが綴られたもの。「人は繋がってる」というフレーズが多用されているが、それは東日本大震災を経て実感したことだという。東京の光景だけでなく、そうした温かいメッセージも盛り込まれている。
今作の中でも一番好きな曲。ASKA本人も意識したのか、一人で往年のチャゲアスをやっているような感覚があり、それがたまらない。


「X1」は今作に先行してMVが公開された曲。ゆったりとした曲調が何とも心地良い。それでいてキャッチーにまとめられたサビは見事。サウンドはアコギと打ち込みが主体となっている。サウンドはあまり主張することなく、ASKAの優しい歌声を引き立てる役割を果たしている。
タイトルは「クロスワン」と読む。バツイチの人へのメッセージが綴られている。主人公の男性がバツイチになった女友達を励ましているイメージ。好きな歌詞は歌い出しの「西向きの窓のようさ 君の生き方は」というもの。「ああ…ASKAだ…!」と思ってしまうような、独特の言語センスが発揮された箇所である。ただ、バツイチの人だけでなく、様々な苦労の中で頑張っている人たちに対しての応援歌でもあると思う。


「それでいいんだ今は」は力強いポップロックナンバー。全編通して弾むような明るいメロディーながらも、芯の強さが感じられる。タイトなバンドサウンドが主体であり、メロディーの持つ芯の強さを引き出している。
歌詞はASKA自身を励ましているようなイメージがある。「空っぽに 空っぽになりかけても 諦めることはない 手放すことはない」という歌詞が顕著。事件を経て、多くの厳しい批判の中で活動を再開することとなった。そのような状況の中でも、気持ちがぶれることなく歌い続ける…というような想いが伝わってくる。


「Too many people」は今作のタイトル曲。壮大なロックバラードナンバー。しゃがれ声で字余り気味に言葉を詰め込むボーカルは相当なインパクトがある。これは今までに無かったと思う。その影響か、フォークロックを彷彿とさせる部分もある。最初はピアノとボーカルだけだが、途中からバンドサウンドが合流して盛り上がっていく。
歌詞は事件後のASKAの心情が現れたものだと解釈している。自らの言動が曲解されて伝わっていく様子を見ての想いが綴られていると思う。
苦しさを持った詞世界なので聴いていて少々辛いものがあるが、復帰作である以上はこうした曲もあって当然だろう。タイトル曲ならではの存在感を持った曲である。


「と、いう話さ」は不穏な雰囲気を感じさせるロックナンバー。ASKAは今作の中での「アップテンポな曲」の代表としてこの曲を挙げている。キャッチーながらも格好良さもあり、力強さのあるメロディーである。無骨なバンドサウンドもこうした曲によく似合う。
歌詞はよく意味がわからないが、凄まじい表現力に圧倒される。「紙が風に飛ばされぬよう 小石を乗せつづける夢を見た 夕暮れに伸びた影が 夏の石段に焼き付けられてる 少しずつ浅くなって薄らいだ」というサビの歌詞は圧巻。不思議とその光景が浮かんでくる。
かつての「kicks」を彷彿とさせる作風がたまらない。親しみやすさと怪しさが絶妙なバランスで共存しており、聴いていると引き込まれるばかり。


「元気か自分」は前の曲からは一転して、軽快なポップナンバー。弾むようなリズムとピアノ主体のサウンド、朗々としたボーカルは聴いているだけでも心地良い。メロディー自体もかなりポップで、思わず鼻歌を歌いながら聴いてしまう。
歌詞はタイトル通り明るいメッセージが並んでいる。歌詞カードには掲載されていないが、ラストでは「負けるな生きよう 頑張れ生きよう」と歌われている。迷った末にそこを歌うことにしたようだが、結局歌って正解だったと感じる。
事件を想像させる曲もあるが、この曲はASKAのパーソナルな部分がよく現れた曲だと思う。


「通り雨」は温かみのあるメロディーが心地良いミディアムナンバー。ふんわりとしたシンセや、爽やかなアコギの音色が主体となったサウンドがメロディーの魅力をさらに高めてくれる。優しく心に響いて沁みていくようなメロディーながら、サビは確かな引っ掛かりがある。
歌詞は今作の中では数少ないストレートなラブソングと言ったところ。恋人と雨宿りしながら色々な話をしている光景が浮かんでくる。その光景だけでなく、雨の匂いまで伝わってくるほどに繊細な描写はASKAならでは。
ASKAはラブソングの名手であることを再確認させられた。地味と言ってしまえばそれまでだが、それでも好きな曲。


「信じることが楽さ」は前の曲と同じく、優しさを感じさせるミディアムナンバー。全体としては素朴なメロディーながら、訴求力に満ちたサビを持っている。ピアノやアコギ主体のシンプルなバンドサウンドは、そうしたメロディーをこれ以上無いほど魅力的なものにしている。
歌詞は制作当時のASKA自らを励ましているようなイメージがある。「昨日が行きて また今日が来るのさ 何をなくした」というサビの歌詞が顕著。全体的に内省的な部分が現れた詞世界ながら、暗くなっているわけではない。
「それでいいんだ今は」「元気か自分」辺りと並び、今作が復帰作であることを認識させてくるような曲である。


「未来の勲章」はここまでの流れから一転し、8ビートによる爽快なポップロックナンバー。力強さと高揚感を併せ持ったメロディーは聴いているだけで気持ちが明るくなる。言葉を詰め込んだサビはキャッチーそのものである。シンセとバンドサウンドの絡みも丁度良い塩梅で、メロディーのポップ性を引き立ててくれる。
歌詞はこれからの決意表明のようなイメージがある。「旗を上げて朝を下ろして 時に僕は深い現実を見る 寒がらないよ 誰もがくぐるのさ いつかいつか訪れる季節さ」という歌詞からは、批判やトラブルを乗り越えていこうという想いが伝わってくる。
メロディーやサウンドが自分好みそのものなので、「東京」と並んで今作の中でも好きな曲。


「しゃぼん」は今作のラストを飾る曲。壮大なロックバラードナンバー。思わず正座して聴いてしまうような、気高ささえ感じられるほどに美しく強いメロディーが展開されている。重厚なバンドサウンドとシンセによるストリングスはそうしたメロディーにさらなる強さを与えている。間奏のギターソロは今作のハイライトと言っていいだろう。
歌詞は内省的なメッセージが並んだもの。「僕の上に天使はいるかい 胸を踊らす光はあるかい 僕の側に君はいるかい 見ていてくれるかい」と畳み掛ける部分には圧倒された。ASKA自身だけでなく、ファンにも問いかけているのではないか。
この曲以外にラストが務まる曲は無い。そう言い切れる名曲。


今作を聴く前は不安で仕方がなかった。バラードばかりの作品になっているのか、重苦しい作風になっているのか、はたまた意味のわからない作風になっているのではないか…その時の不安を挙げたらキリが無い。ただ、自分の不安を吹き飛ばしてくれるような傑作だった。聴き終えた後の満足感と感動は相当なものがあった。ASKAの音楽の魅力の全てを教えてくれるような、圧倒的な力を持った作品であるチャゲアスを含めて、ASKAのアルバム単位での最高傑作だと思った。これからのASKAを、期待と不安の両方を感じつつも応援していきたい。

​★★★★★