愛する人へ
谷村有美
1993-08-21


【収録曲】
全曲作詞作曲 谷村有美
全曲編曲        清水信之
8.10.編曲 佐藤準
プロデュース  谷村有美

1.NOT FOR SALE~A MON COEUR〜 ★★★☆☆
2.SOMEBODY LOVES YOU ​★★★★☆
3.SECOND LOVE〜二番手の恋~ ★★★★★
4.一緒に暮らそう ★★★★☆
5.最後のKISS ​★★★★☆
6.心はいつも側にいる ★★★★☆
7.別れても友達 ★★★☆☆
8.それでもあなたを愛してる ★★★☆☆
9.好きこそものの上手なれ ★★★★☆
10.FU・TA・MA・TA ★★★☆☆
11.あなたと生きてく ★★★★☆

1993年8月21日発売
Sony Record
最高位4位 売上21.9万枚

谷村有美の7thアルバム。先行シングル「最後のKISS」を収録。今作発売後に「SOMEBODY LOVES YOU」「一緒に暮らそう」が両A面シングルとしてシングルカットされた。前作「Docile」からは8ヶ月振りのリリースとなった。

今作は谷村有美が全曲の作詞作曲を手がけた初の作品。今作以降は暫く全曲の作詞作曲を自身で行うこととなる。

今作では遂に西脇辰弥が参加せず。前作で3曲の編曲を担当した清水信之が今作では大多数の曲を手がけている。清水は次作でも重用されることとなる。


「NOT FOR SALE~A MON COEUR〜」は今作のオープニング曲。デビュー曲の再録バージョン。1番だけなぞった形となっている。ボーカルと清水信之によるピアノのみという極めてシンプルなアレンジとなった。やはり、デビュー当時よりもボーカルが格段に上達している印象。ただ、自分はカラフルなアレンジがされた元のバージョンの方が好き。
1分40秒ほどと短めなため、アルバムそのもののイントロのような感覚がある。


「SOMEBODY LOVES YOU」は今作発売後にシングルカットされた曲。「一緒に暮らそう」とは両A面だった。TBS系報道番組『あなたにオンタイム』のエンディングテーマに起用された。爽快なポップナンバー。跳ね上がるようなサビのメロディーは鼻歌を歌いながら聴きたくなる。ギターのカッティングや、曲の随所で登場するシンセブラスも曲の軽快さを演出している。
歌詞は女性への応援歌と言ったところ。谷村自身を励ましているようなイメージもある。「シュールな現実の裏を読みすぎてる つまずいてもいいわ後戻りしたくない」という歌詞が特に好き。
メロディー、サウンド、歌詞のどの要素を取っても、ガールポップの王道を極めたようなイメージがあって好きな曲。


「SECOND LOVE~二番手の恋~」は前の曲に続いて、軽快なポップナンバー。思わず口ずさみたくなるほどにキャッチーなサビは絶品。サウンドは打ち込み主体となっている。90年代前半特有のキラキラしたシンセの音色がたまらない。
歌詞は好きな男性にとっての「一番」になりたいと願う女性の心情が綴られたもの。「友達のふりしても いい奴のふりしてても あなたの一番になれないの」という歌詞が何とも切ない。谷村の透き通った歌声がそうした歌詞をさらに味わい深くしている。
メロディーやサウンドと歌詞のギャップがかなり激しいが、それがこの曲の魅力。


「一緒に暮らそう」は今作発売後にシングルカットされた曲。「SOMEBODY LOVES YOU」とは両A面だった。温かみのあるミディアムナンバー。懐かしさや切なさを感じさせるメロディーは聴いていてとても心地良い。サウンドはこれまた打ち込み主体によるもの。シンセブラスが曲を盛り上げている。
歌詞は母親とのエピソードを基に作られたという。『「戦争が始まった」と臨時ニュースを聞いて 大切な人に気がついたの』という歌詞は湾岸戦争の頃を思わせる。この曲における相手は母親なのだろう。
それにしても、この頃の女性アーティストには似たタイトルの曲が多い印象がある。気のせいだろうか。


「最後のKISS」は先行シングル曲。テレビ東京系番組『いい旅・夢気分』のエンディングテーマに起用された。ダンスミュージックの要素を取り入れたポップナンバー。一度聴けばしっかりと馴染むサビは職人技。ダンサブルなキーボードの音色やホーンが導入されており、聴いていると思わず身体が動いてしまう。
歌詞は恋人との別れを描いたもの。恋人と暮らした部屋を出ていく様子が切り取られており、全体を通して生活感のある描写がされている。
この手のジャンルへのアプローチがされた曲はこれまでにはあまり無かった印象だが、割と好きな曲。


「心はいつも側にいる」は前の曲に続いてのポップナンバー。全体的に優しく聴き心地の良いメロディーながら、特に開放感のあるサビのメロディーが好き。サウンド面については、他の曲と比べてギターサウンドが前面に出ているのが特徴。
歌詞は遠距離恋愛をテーマにしたもの。かつての「愛は元気です。」を彷彿とさせるテーマだが、谷村らしい訴求力のある言葉選びが見事。こうした詞世界と谷村の歌声の相性はとても良い。
今作の中だと少々埋もれている印象が否めないが、王道な部分がよく現れた曲だと思う。


「別れても友達」はここまでの流れを落ち着けるミディアムナンバー。ラテン音楽の要素を取り入れたアレンジは今作の中でも異彩を放っている。そうした音作りが強く印象に残るが、サビはかなりキャッチーな仕上がり。そこはやはり一貫している。
歌詞は恋人との関係が冷めてしまった様子を想像できるもの。ただ、主人公は関係を戻すことを望んでいる。「もう二度と愛しあえない運命は信じない」「もう二度と中途半端な優しさはいらない」といった言葉はいつになく力強い。
一曲単位ではさほど好きな曲でもないが、この曲はやはりサウンド面の印象が強い。


「それでもあなたを愛してる」はしっとりとしたバラードナンバー。美しさと訴求力を併せ持ったメロディーには聴き惚れてしまうばかり。今作では数少ない、佐藤準が編曲を担当した曲。清水信之の編曲とは異なり、生音が主体。バンドサウンドのみならずピアノやストリングスも使われており、メロディーの強さを引き立てている。
歌詞は片想いしている相手への心情が綴られたもの。喪失感や後悔が前面に出た詞世界が何とも切ない。「どんなに愛しても 未来は生まれないなら 明日から一人きりでも大丈夫ね」という歌詞が顕著。
壮大というよりは重苦しいと言った方がいいだろうか。気軽に聴けない印象。


「好きこそものの上手なれ」は前の曲から一転して、爽快なポップナンバー。流れるような美しさと耳馴染みの良さを持ったメロディーが展開されている。他の曲と比べてもパワフルなリズムになっているのが特徴。ホーンが多用されていることも相まって、かなりファンキーなサウンドになっていると思う。
歌詞は自分自身への応援歌のようなイメージ。タイトルのフレーズは「私らしい生き方選ぶため」「好きなものを好きと言えるため」に大切にすることである。
このフレーズを曲名にしてしまうセンスには驚かされるが、男の自分が聴いてもハッとするようなメッセージが込められている。


「FU・TA・MA・TA」は再び流れを落ち着けるバラードナンバー。こうした曲調でもサビをしっかり盛り上げる技術が見事。この曲も佐藤準が編曲を担当している。聴きごたえのあるバンドサウンドが展開されているわけだが、その中でも青山純によるドラムが特に素晴らしい。青山純はガールポップを陰で支えた実力者だと思っている。
歌詞は人生の分岐点を恋愛に重ねて描いたもの。タイトル通り、二股をかけそうになっている女性の心情が綴られている。ただ、苦悩が伝わってくる詞世界である。平気で相手を弄ぶ人物を描いたものだと思っていただけに、ギャップが激しい。
この曲については、詞世界が強く印象に残っている。


「あなたと生きてく」は今作のラストを飾る曲。重厚感のあるバラードナンバー。美しく訴求力に溢れたメロディーと、透明感のある歌声の絡みがたまらない。サウンド面では、ストリングスが全面的に導入されているのが大きな特徴。それによって、曲がさらに壮大なものに感じられる。
歌詞はタイトルから察せられるように、恋人と共に生きていく決心をした女性の想いが綴られている。大きな愛や優しさをイメージできる、スケールの大きな詞世界である。
曲調・歌詞のテーマ共に、ラスト以外に置き場所の無いような曲だと思う。いかにもラスト用の曲と言ったところ。


谷村有美の作品の中では比較的売れた方なので、中古屋ではよく見かける。
前述した通り、今作からしばらくは谷村本人が全曲の作詞作曲を手がける展開が続く。そのため、シンガーソングライターとしての谷村有美を確立した作品と言えるだろう。その影響かはわからないが、これまでよりもラブソングの比率が高まった印象がある。これはこれで良いとは思いつつも、やはり自分は前作「Docile」までの「B級アイドル」の路線が好きだ。

★★★★☆