FLOWER BURGER
FAIRCHILD
1989-03-21


【収録曲】
全曲作詞 YOU
4.10.作詞 麻生圭子
5.作詞 戸田誠司
7.作詞 石川あゆ子
全曲作曲編曲 戸田誠司
4.作曲 戸田誠司・川口浩和
プロデュース FAIRCHILD

1.おやすみソルジャー ★★★★★
2.O型でごめんね ​★★★★★
3.転校生 ★★★★☆
4.ラブ・シックは好き ​★★★★☆
5.フラワーバーガーひとつください ★★★☆☆
6.ひとりにしないで ​★★★☆☆
7.夢におかえりなさい ★★★★☆
8.わたしと鰐の一日 ★★★☆☆
9.すき すき 大好き ​★★★★☆
10.Bye Bye キッチン・ガール ★★★★★

1989年3月21日発売
ポニーキャニオン
最高位不明 売上不明

FAIRCHILDの2ndアルバム。先行シングル「Bye Bye キッチン・ガール」「ラブ・シックは好き」を収録。前作「YOURS」からは6ヶ月振りのリリースとなった。

FAIRCHILDは1988年にデビューし、1993年に解散した3人組ユニット。現在はマルチタレントとして活躍するYOUがボーカル、テクノポップバンド・SHI-SHONENのリーダーだった戸田誠司がベース・プログラミング、ギターの川口浩和という構成。YOUが作詞、戸田誠司が作曲・編曲を主に行っていた。川口浩和はハードロック的なアプローチの演奏が持ち味で、サウンドのアクセントとしてその存在感を発揮していた。

SHI-SHONENはテクノポップ・ニューウェーブ色の強いマニアックな曲を得意としていたが、FAIRCHILDはわかりやすくポップな曲を押し出していた。今作は前作よりもさらに王道寄りなポップスを展開した作品となっている。今作以降はSHI-SHONEN時代の空気は感じられなくなり、FAIRCHILD独自のポップスを展開するようになる。


「おやすみソルジャー」は先行シングル「ラブ・シックは好き」のC/W曲。幻想的な雰囲気を持ったミディアムナンバー。サビまでは落ち着いた曲調で進んでいくが、サビになると一気に明るくキャッチーなメロディーに変貌を遂げる。その変貌ぶりに引き込まれるばかり。サウンドはシンセ主体のもの。「幻想的な雰囲気」はその音色によるところが大きい。
歌詞は英語が多く登場するのが特徴。全体としてはあまり意味がわからないのだが、どことなく優しさを感じられる詞世界となっていると思う。
純粋に「良い」と思えるような曲。今作はそうした曲が集まっている。今作の作風を象徴するかのようなオープニング曲である。


「O型でごめんね」は爽快なポップナンバー。わざとらしいほどに明るくて耳馴染みの良いサビのメロディーがたまらない。一回聴けばしばらく耳を離れなくなるはず。シンセ主体のカラフルなサウンドの中でもギターサウンドが一際存在感を放っている。特に間奏の力強いギターソロがこの曲の聴きどころ。
歌詞はタイトル通り血液型がO型の女性の想いが綴られたもの。「ちょっと雑にできてるの」「天下無敵のロマンティスト」といったO型の人が言われそうな言葉が次々と登場する。YOUは実際に血液型がO型のようで、よりリアリティのある歌詞になったと思う。
ポップで面白い。FAIRCHILDならではの魅力が発揮された曲である。


「転校生」は今作の中では数少ない、ファンキーな方面へのアプローチがされたポップナンバー。やはりこの曲もサビがキャッチー。キレの良いギターのカッティングや矢口博康による独特なサックスがフィーチャーされている。矢口博康は「変な音」という言葉が褒め言葉になってしまうほどにクセの強い演奏が持ち味。
歌詞はタイトル通り転校生の少女が主人公として描かれたもの。「理想のレディー」になって「素敵な彼」に出逢いたいと願う姿が何とも微笑ましい。こうした無邪気な詞世界とYOUの歌声の相性は素晴らしいものがある。
この曲については、メロディー以上にサウンドが印象に残る。途中からボーカルが埋もれているような感覚さえあるが、聴きごたえはかなりのもの。


「ラブ・シックは好き」は先行シングル曲。フジテレビ系ドラマ『ヘイ!あがり一丁』の主題歌に起用された。ここまでの流れと同じく爽やかなポップナンバー。共作だが川口浩和が作曲に参加しているのが大きなトピック。相変わらずのポップなメロディーである。緻密なシンセの後ろでギターサウンドが存在感を放っている。それはFAIRCHILDにとってはいつものことだが、この曲はいつもに増してその印象が強い。
歌詞は片想いで終わった恋を振り返る女性を描いたもの。悔しさや喪失感を描きつつも、ラストでは「今日のことあなたは後悔するわ でも逃したサカナならば 腕には戻らないの」と強気な姿勢を示す。
ポップ性と可愛らしさというFAIRCHILDの持ち味が出ており、シングル曲の鑑のような仕上がり。


「フラワーバーガーひとつください」はここまでの流れを一気に落ち着けるバラードナンバー。今作の実質的なタイトル曲と言えるだろう。全体を通してゆったりとした美しいメロディーが展開されている。聴きどころは間奏から後半に入る部分。静かに盛り上がっていくのだが、その雰囲気に圧倒される。
作詞も戸田誠司が担当した。曲の雰囲気と同じく、歌詞もロマンティックな世界観を持っている。YOUのボーカルに合った歌詞を仕上げてきた印象がある。
一聴しただけだとかなり地味な曲のように感じられるが、細部まで徹底的に作り込まれたサウンドに耳を傾けるとあっという間に引き込まれる。


「ひとりにしないで」は前の曲からの流れを継いでのバラードナンバー。しっとりとした曲調ながら、サビはしっかりとキャッチーにまとめられている。戸田誠司のメロディーセンスが発揮された形。ほぼシンセのみで構成されたサウンドは少々時代性を感じるが、それがいい。
歌詞は大切な人との別れを描いたものだろうか。そして、相手への想いが語られている。「同じ景色をくぐってなくても ときめくことに 慣れてしまうよりも素敵だって 思えるから 頑張れるの」という歌詞が好き。ここまで真面目な歌詞を書かれると面食らってしまうのだが。
メロディーと歌詞がぴったり合っていて、それが聴いていてたまらなく心地良い。


「夢におかえりなさい」は流れを変えるポップナンバー。タイトルのフレーズがそのまま出てくるサビなので、一度聴けばすぐに耳に残る。とはいえ、前半の曲ほど突き抜けるような感覚は無い。この曲もキラキラしたシンセが前面に出たサウンドが展開されている。バックで鳴っているギターの渋い音色も聴きどころ。
歌詞はこれまたメルヘンな世界観を持ったもの。恋人に逢う姿が描かれているが、まさに夢の中の光景のような不思議な描写がされている。
こうした歌詞でも違和感無く聴けてしまうのがボーカリストとしてのYOUの凄さと言える。


「わたしと鰐の一日」はレゲエのテイストを取り入れたミディアムナンバー。メロディーは今作の中では控えめであまり目立たない印象なのだが、凝ったサウンド面が見事。とはいえサビはかなり耳に残るが。チープな打ち込みによるリズムやシンセドラムの連打が不思議とクセになる。
歌詞の意味はよくわからないが、出てくる言葉が軒並みインパクトの強いものばかりなのが特徴。「鰐に食べられて 彼 虫の息」というサビの歌詞が顕著か。「虫の息」が出てくる曲はそうそう無いと思う。
サウンド面や歌詞を始めとした全ての要素が一体となって、シュールな世界観を作り出しているような感覚がある。


「すき すき 大好き」はここまでの流れを変える爽快なポップロックナンバー。突き抜けるようにポップなサビのメロディーがたまらない。歪んだギターサウンドと作り込まれたシンセとが絡み合うサウンドはまさにこの頃のFAIRCHILDの王道そのもの。
歌詞は恋人への想いを浮かれ気味に綴ったもの。「すき すき 大好き 無邪気なままが好き」「世界中で一番好き」といった歌詞はどこまでも浮かれている。
サビでの「どこから出してんの?」と思うような、高音が多用された歌い方が印象的。FAIRCHILDの代表曲「探してるのにぃ」以降の歌い方を思わせる。それが歌詞の内容と合っているから素晴らしい。


「Bye Bye キッチン・ガール」は今作のラストを飾る先行シングル曲。跳ね上がるようなメロディーが心地良いポップナンバー。サビは一度聴いたらしばらく離れなくなること請け合い。静かに始まり、激しいギターサウンドと共に一気に盛り上がっていく構成が見事。
歌詞は失恋した少女の心情が綴られたもの。「キッチン・ガール」というだけあって、食材や調味料の名前が散りばめられているのが特徴。健気な少女を辞めて変わろうとする姿が何とも可愛らしい。
割と静かな「おやすみソルジャー」から始まり、明るいこの曲で締められる。普通は逆の配置になると思うが、この配置が絶妙。何度でも聴きたくなる。


あまり売れた作品ではないので、中古屋ではたまに見かける程度。
現在ではFAIRCHILDの作品を振り返られる機会はほぼ無い。たまに振り返られたとしても、YOUの黒歴史というような形でネタ扱いされるくらいのもの。ただ、それで済まされてしまうにはあまりにも惜しい。
今作は構成やテーマなどはさほど気にせず、ひたすら「良い曲」を並べた作品という印象が強い。全体を通して強いサビを持った曲が揃っており、あっという間に聴き終えてしまうはず。そうしたわかりやすいメロディーの数々と、緻密に作り込まれたサウンドの絡みがたまらない。80年代後半という時代にしかできなかった、ポップアルバムの名盤だと思う。

​★★★★★