ラングレー・パークからの挨拶状
プリファブ・スプラウト
2013-07-24


【収録曲】
全曲作詞作曲 Paddy McAloon
5.9.ストリングスアレンジ Robin Smith
6.ストリングスアレンジ John Altman
1.3.7.10.プロデュース Thomas Dolby
2.4.5.プロデュース Jon Kelly・Paddy McAloon
6.プロデュース Andy Richards・Paddy McAloon
8.9.プロデュース Paddy McAloon
9.プロデュース Jon Kelly

1.The King of Rock 'N' Roll ★★★★★
2.Cars and Girls ★★★★☆
3.I Remember That ★★★☆☆
4.Enchanted ★★★★☆
5.Nightingales ​★★★★★
6.Hey Manhattan! ​★★★★★
7.Knock on Wood ​★★★☆☆
8.The Golden Calf ★★★★★
9.Nancy(Let Your Hair Down For Me) ★★★★☆
10.The Venus of the Soup Kitchen ​★★★☆☆

1988年3月1日発売
1989年3月3日再発
1990年11月6日再発
1997年10月22日再発
2009年8月26日再発(紙ジャケ・リマスター・Blu-Spec CD)
2013年7月24日再発(現行盤・リマスター・Blu-Spec CD2)
Kitchenware Records
最高位5位(全英) 売上不明

Prefab Sproutの3rdアルバム。邦題は「ラングレー・パークからの挨拶状」。先行シングル「Cars and Girls」を収録。今作発売後に「The King of Rock 'N' Roll」「Hey Manhattan!」「Nightingales」「The Golden Calf」がシングルカットされた。前作「STEVE McQUEEN」からは約2年9ヶ月振りのリリースとなった。

Prefab Sproutは1982年にデビューしたイギリスの4人組バンド。ボーカル・ギターで楽曲制作を担当するパディ・マクアルーン、ベースでパディの弟のマーティン・マクアルーン、主にコーラスを担当するウェンディ・スミス、ドラムのニール・コンティから成る。(今作リリース当時)
現在はパディのソロプロジェクトとなっているが、体調の問題から満足な活動ができていない状態。長年のスタジオワークや趣味の読書が祟って、聴覚や視力が相当に悪くなってしまったようだ。現在は濃いサングラスに白髭、杖と仙人のような見た目になっている。

Prefab Sproutの魅力はパディのメロディーセンスにある。美しくドラマティック、そしてポップなメロディー。ソングライターとして評価する声も数多くあり、錚々たるミュージシャンの中にパディの名前が挙がることも多々ある。また、プロデューサーのトーマス・ドルビーによる緻密な音作りも大きな魅力の一つ。

今作はセールス的にもある程度の成功を収めた作品となっている。前作「STEVE McQUEEN」が彼らにとっての出世作だが、そこで得た人気を保った形。全体的に明るい作風で、ヒットを狙いに行った印象が強い。


「The King of Rock 'N' Roll」は今作発売後にシングルカットされた曲。唯一のチャートトップ10入りを果たした、彼らにとっての最大ヒットシングル。いつになく開放的なポップロックナンバー。サビは「Hot dog, jumping frog, Albuquerque」と繰り返すフレーズも相まってキャッチーそのもの。はっきり言って意味はわからない。語感以外は一切考えていないと思うのだが、耳に残って仕方がない部分である。実際口ずさんでみると何故か楽しい気持ちになれる。
歌詞や歌い方を含め、アメリカのロックスターを演じてみた…というイメージのある曲なのだが、ポップな中にある皮肉めいた雰囲気が何ともイギリスらしいと言ったところか。




「Cars and Girls」は先行シングル曲。前の曲に引き続き、爽快なポップロックナンバー。曲全体を通してそこまで盛り上がるような曲でもないが、サビはしっかりと耳に残る仕上がり。この曲ではウェンディ・スミスのコーラスが特に冴え渡る。天から降りてきたかのように美しく透明感のあるコーラスこそ当時のPrefab Sproutの魅力だ。パディにしては珍しく、シャウトした部分が登場するのも特徴。

歌詞はアメリカンロック、特にブルース・スプリングスティーンの考えを皮肉ったものだろうか。そうした詞世界は日本語だと言葉が刺さって仕方がないものだが、それをサラッと聴かせてしまうのだからやはり英語は強い。自分が英語が苦手だからというだけだが。





「I Remember That」はここまでの流れを落ち着けるバラードナンバー。サビになっても盛り上がることなく落ち着いた曲調だが、それがこの曲にはよく合う。音の数もそこまで多くはない。ただ、かなり分厚い音のように感じる。パディとウェンディ以外にもコーラス隊が参加しているため、他の曲にも増して重厚なコーラスとなっている。どうやらラストはコーラス隊によるアドリブのようだ。それによって、最後の最後に最も盛り上がる部分が来ている感じがする。
前の2曲が当時の新機軸のPrefab Sproutだとするなら、この曲からしばらく続くバラードナンバーは王道というイメージがある。


「Enchanted」は再び流れを戻すポップナンバー。どことなくひねくれた、一筋縄では行かないメロディーはこの頃のパディならでは。それでいてポップで聴きやすいなのが凄いところ。シンセ主体の曲が多いが、この曲は比較的生音が前面に出ている。ニールの正確かつ力強いドラミングや、マーティンの重厚なベースがこの曲ではよく映える。Prefab Sproutの中では地味に感じてしまう2人だが、リズムの面での貢献は相当に大きい。この頃にそれが頂点に達したのではないかと思う。
前半の曲の中ではあまり目立たない印象が否めないが、それでも割と好きな曲。


「Nightingales」は今作発売後にシングルカットされた曲。幻想的な雰囲気を持ったバラードナンバー。繰り返しが多く、単調になりかねないメロディーなのだが、それが本当に美しい。ここまで訴求力に満ちたメロディーはあるのかと思わされる。それをシンセやストリングス主体のサウンドでさらに華やかに彩る。心地良いことこの上ない。間奏のStevie Wonderによるハーモニカも聴きどころ。吹いている姿さえ想像できるような、彼独特の演奏を聴かせてくれる。
直接的にそれを思わせるフレーズは登場しないのだが、ファンタジックな雰囲気の影響かクリスマスソングのような感覚で聴いてしまう。鈴の音が多用されているのもそう感じる理由かもしれない。メロディーがとにかく好きで、Prefab Sprout屈指の名バラードだと思っている。



「Hey Manhattan!」は今作発売後にシングルカットされた曲。AORやソウルのテイストも感じさせるミディアムナンバー。サビまではパディの語りで構成され、サビになると思い切り美しくキャッチーなメロディーに変貌を遂げる。流麗なストリングスを前面に押し出した壮大なアレンジとなっている。サビでのシンセの音色がたまらない。夜の街の明かりのようなイメージを持った音色である。The WhoのPete Townshendがアコギで参加しているのだが、極めてわかりにくい。よく聴けば辛うじて聴こえる程度。
歌詞はマンハッタンに初めて訪れた男性の胸の高鳴りを描いたもの。ただ、夢破れた人々や貧しい人々に対して言及した部分もある。マンハッタンの光景を見たことも無いのに想像できる詞世界だ。
「2018年に出逢ったベストソング(下半期編)」でも述べたが、自分がPrefab Sproutにハマるきっかけになったのがこの曲。それだけに思い入れが深い。



「Knock on Wood」は謎めいた雰囲気を持ったミディアムナンバー。この曲も一風変わったメロディーとなっている。コード進行はよくわからないが、相当変わっているのではと思う。民族音楽のテイストを取り入れたサウンドが展開されており、今までにはないアプローチがされている。サウンドは打ち込み主体によるもの。神経質なほどに緻密に作り込まれたシンセはトーマス・ドルビーならではと言ったところ。
歌詞はストーリー性のあるもの。ただ、意味はよくわからない。「木を叩く」というような意味のタイトルだが、その行為はおまじないのような形で描かれている。
この歪なポップ感はニューウェーブを思わせる。意味はわからずともクセになる。


「The Golden Calf」は今作発売後にシングルカットされた曲。バンド史を通じても数少ない、8ビートによるストレートなロックナンバー。1曲目や2曲目も比較的ロック色が強めだったが、それらとは比べ物にならない。とはいえ耳馴染みの良いメロディーなのは変わりない。ここはやはり一貫している。サウンド面では力強いバンドサウンドが終始曲を盛り上げている。ギターサウンドが前面に出ており、それが新鮮に感じられる。ニールのドラミングも他の曲に増して存在感を放っている。躍動感のある演奏である。
シンプルなロックナンバーなのに、異色作と位置付けたくなってしまう。その辺りがPrefab Sproutらしい。



「Nancy(Let Your Hair Down For Me)」は前の曲からの流れを落ち着けるバラードナンバー。ボーッと聴いていても引き込まれてしまうような美しいメロディーがたまらない。特にサビは聴き惚れるばかり。他の曲よりもピアノが前面に出ており、それがメロディーの美しさをさらに高めている。曲に寄り添ったシンセも見事。
歌詞は主人公の男性が務める会社の社長であり、自らの妻であるナンシーへの想いが綴られたもの。複雑なトリックのような歌詞で、社長と妻が同一人物だと気付くまでに時間がかかった。
この頃の彼らの作品には人名がタイトルとなった曲がよく出てくる。今作ではこの曲がその枠。


「The Venus of the Soup Kitchen」はシングル「The Golden Calf」のB面曲としてシングルカットされた曲。美しいメロディーが終始展開されたバラードナンバー。この曲もコーラス隊が参加しており、その分厚いコーラスワークで曲に彩りを添えている。そして、その影響でゴスペルの要素を含んだ曲となった印象がある。
「Soup Kitchen」は日本語で言う炊き出しのようなものらしい。そこで活動する女性を描いたものだが、どこか気高い女性の姿が浮かんでくる歌詞である。なお、「From Langley Park to Memphis」というタイトルのフレーズはこの曲に登場する。
終わり際は神秘的な雰囲気さえ感じられるほど。この曲以外にラストは務まらないと思う。


度々再発されているわけだが、現行盤である2013年盤が最も入手しやすいと思う。
前作「STEVE McQUEEN」で確立した青く切ない音楽性はそのままに、さらに売れ線を意識した明るい作風となった。それはシングルカットされた曲の多さが物語っている。売れ線を意識して本当に結果を出してしまうのが凄いところ。
Prefab Sproutはコンセプトアルバムの趣を感じさせる作品が割と多いのだが、今作は全体としての構成や流れよりも1曲1曲の完成度に拘った印象が強い。まだまだニワカなのだが、今作はPrefab Sprout屈指の名盤だと思う。

​★★★★★