Untitled Love Songs
大江千里
2002-11-07


【収録曲】
※作詞作曲編曲のクレジットは無いものの、全て大江千里によるものと思われる。
3.7.ストリングスアレンジ 河野伸
11.ストリングスアレンジ 柏木広樹
プロデュース 大江千里

1.たまらなく ​★★★★★
2.7年目 ★★★★☆
3.This Christmas(Album Version) ​★★★★☆
4.磁石 ​★★★☆☆
5.夏の指輪 ★★★☆☆
6.イコール ★★★★☆
7.Let it be,SWEET(Album Version) ★★★★★
8.きみはサンタに恋してる ​★★★★☆
9.Let’s Go! ★★★☆☆
10.ボーイズ・サミット ​★★★★★
11.おやすみ ★★★★☆

2002年11月7日発売
Station Kids Records
最高位92位 売上0.3万枚

大江千里の17thアルバム。先行シングル「This Christmas」「おやすみ」「Let it be,SWEET」「イコール」を収録。前作「first class」からは1年2ヶ月振りのリリースとなった。

今作は大江千里のデビュー20年目の記念作。「旅」をテーマにした前作「first class」から一転、タイトル通りラブソングがメインの作品となっている。節目を迎えたということもあってか、精力的にシングルのリリースを行なっていたようで、先行シングルの多さはそれが理由。


「たまらなく」は今作のオープニング曲。爽快なポップナンバー。ポップかつ切ないメロディーは大江千里の真骨頂。サビは初めて聴いた時に鳥肌が立ってしまった。イントロから力強いギターサウンドが展開され、曲の全体を通じて存在感を放つ。ここまでギターが表に出た曲も久し振りだと思う。
歌詞の意味ははっきりとわからないが、かつての恋人へのメッセージだと解釈している。「きみが選んだすべてが きみを幸せにするように 離れても同じ空 見上げるたび祈ってるよ」という歌詞が好き。大江千里の失恋ものにおける王道のような歌詞である。
圧倒的な高揚感を持った曲で、オープニングを飾るにはうってつけな曲だと思う。


「7年目」は叙情的なメロディーが冴え渡るミディアムナンバー。比較的地味な曲調ながら、サビはかなりキャッチーな仕上がり。サウンド面は打ち込みによるリズムとピアノが主体となったもので、個人レーベルを立ち上げてからの作品では定番のパターン。ただ、サビではギターが入って一気に盛り上がる。
歌詞は7年振りの同窓会に参加する男性を描いたもの。「夕焼けの海」「単線の駅」「プレハブの食堂」などといったフレーズによって、その情景がよく浮かんでくる。内省的な部分もしっかり綴られているのは大江千里ならでは。
ふと昔の同級生を思い出しながら聴いてしまう。歳を取ったら、もっとこの曲が響くようになるのかもしれない。


「This Christmas(Album Version)」は先行シングル曲。シングルバージョンとの違いはストリングスが追加されたこと。温かみのあるメロディーが心地良いミディアムナンバー。それはサビになっても変わらない。当たり前のように耳馴染みの良さと両立させている。メロディーやボーカルを包み込むようなストリングスと、キラキラしたシンセの音色がたまらない。
歌詞はタイトル通りのクリスマスソング。恋人への想いが綴られた歌詞となっているのだが、自分が好きなのは「うまくいかないことの方が 今年は多かったけど 少しずつキャンドルに 灯りをともしていこう」という歌詞。
大江千里のウィンターソングは数多くあるが、そのどれも「温かみ」を持っている。この曲も例に漏れず。


「磁石」はここまでの流れを変えるデジタルロックナンバー。硬質な打ち込みによるリズムと歪んだギターサウンドは相当なインパクトがある。この曲がオープニングだったら、違うアーティストの作品を買ったと勘違いしてしまいそうなくらい。それなりにキャッチーなメロディーなのだが、サウンド面に印象を食われてしまう。
歌詞は恋人と仲直りしようとする男性が描かれている。恋人は出て行ってしまったのだろう。主人公は一人で街を歩いて恋人を探しに行く。全体を通して不穏な雰囲気の詞世界となっている。
サウンドと歌詞のイメージがよく合っていて、それが不思議と中毒性を生んでいる。キャリアを通じてもかなり異色な曲だと思う。


「夏の指輪」は先行シングル「Let it be,SWEET」のC/W曲。歌謡曲のテイストを感じさせるポップナンバー。切ないメロディーはいつもに増して訴求力が強くなっている。さほど盛り上がる曲調でもないのに、ロック色さえ感じられるのは鋭いギターサウンドの影響だろう。
歌詞は夏の海を舞台に、恋人と過ごす幸せな時間が綴られている。メロディーが歌謡曲を彷彿とさせるなら、歌詞もまたそれを想起させる。言葉数が多くてメロディーが追いつかなくなりそうな展開は大江千里独特のもの。
この曲については、今までにもありそうで無かった曲という印象が強い。


「イコール」は先行シングル曲。しっとりとしたバラードナンバー。繊細で優しいメロディーが心に沁みる。サビはその魅力に加えて、一度聴けばすぐに馴染むほどの強さも持っている。サウンドはピアノ主体ながら、全体としての音の数は少なめ。その分ボーカルが際立っている。
歌詞は片想いしている男性の心情が綴られたもの。「イコールの思いは 恋にはないから 好きになってしまうたびに 人は孤独なんだね」という歌詞が何とも切ない。聴き手の心を突き刺すような感覚がある。全体を通して、言葉選びのセンスが冴えに冴えている。
この曲に関しては、歌詞の方が印象に残っている。


「Let it be,SWEET(Album Version)」は先行シングル曲。今作収録にあたって、ストリングスが追加されている。厳かな雰囲気さえ感じられるバラードナンバー。美しさの中にどことなく懐かしさも混じったメロディーには聴き惚れるばかり。ピアノ主体のサウンドはメロディーの魅力を限りなく引き立てている。
歌詞は「きみ」を励ます言葉が並んだもの。タイトルからも想像できるように「ありのまま」がキーワードとなっている。ラブソングの要素と応援歌の要素の両方を持った詞世界である。「そのままじゃだめなのかい 許してあげなよもっと ありのままのきみを」という歌詞が好き。
40代を迎えた大江千里だからこそ書けた「大人のラブソング」だと思う。


「きみはサンタに恋してる」は先行シングル「This Christmas」のC/W曲。高揚感に満ちたポップナンバー。一度聴けば口ずさめそうなほどに引っかかりのあるサビは職人技。力強いバンドサウンド主体ながら、シンセの音色も主張しており、メロディーのきらめきを演出している。
歌詞はタイトル通りのクリスマスソング。自らをサンタクロースに例え、恋人にプレゼントを渡そうとする姿を描いている。微笑ましく多幸感のある詞世界はクリスマスソングならでは。
改めて思うが、大江千里はクリスマスソングが多い。そのどれも好きな曲。もちろん「This Christmas」やこの曲も。


「Let’s Go!」は前の曲からの流れに続いての爽快なポップロックナンバー。「必要以上に」と余計な一言を前に入れたくなるほどにキャッチーなサビはインパクト抜群。ピアノとキレの良いギターサウンドの絡みはメロディーをさらにポップなものにしてくれる。
歌詞はノリ重視という印象が強い。「きみ」の恋愛を応援したものだと解釈しているが、意味はそこまで考えずに楽しめる。何度も繰り返し登場する「Let’s Go!」のフレーズのおかげである。
ライブだったら盛り上げ担当の曲になっていたはず。それくらいの勢いを持った曲である。


「ボーイズ・サミット」はここまでの流れに続いての爽快なポップナンバー。ポップでありながらどこか哀愁のあるメロディーが素晴らしい。サビでグッと心を掴まれる感覚があるのだが、何度でも味わいたくなる。キラキラしたシンセの音色と力強いギターサウンドが前面に出たサウンドも、メロディーとよく合っている。
歌詞は大学時代の友人と再会して昔話で盛り上がる姿を描いたもの。「あのころ描いてた 大人に手が届きそうで こだわりを捨てずにいるのは 何故なんだろう」という歌詞は哀愁を感じさせる。自分もいずれこの曲の心情がわかるようになるのだろうか。そう考えると、少しだけ大人になりたいと思えた。
メロディーやサウンドが自分の好みのど真ん中。今作の収録曲の中でも特に好きな曲。


「おやすみ」は今作のラストを飾る先行シングル曲。荘厳な雰囲気を持ったバラードナンバー。どこまでも優しく心地良いメロディーにはいつ聴いても引き込まれてしまう。サウンドはピアノとチェロのみで構成されている。このメロディーにはこのアレンジしか無いと思わされる強さがある。
歌詞は9.11の犠牲者の遺族や友人からの話を基に作られたという。それを踏まえて聴くと、ラブソングの体裁を保ちつつも、そうした存在を慰めているようなイメージを持った詞世界であることがわかる。「美しい人よ 明日が今日より憎み合わないように 今 静かにおやすみ」という歌詞が顕著。
今作のラストというポジションにこれ以上無いほど合った曲だと思う。ここまでの全ての曲を包み込むような感覚がある。


中古屋の店頭で見かけたことは一度も無い。自分はネットで購入したわけだが、今作は大江千里の作品の中でも特に高値で出回っている印象がある。
タイトル通り、様々なシチュエーションのラブソングが集まった作品となっている。往年の歌声から変わってしまったとはいえ、歌詞やメロディーのキレは一切衰えていない。
今作を聴いていると再認識させられるが、やはり大江千里はラブソングの名手である。次作「ゴーストライター」は未聴なので何とも言えないが、大江自ら編曲を手がけるようになった「ROOM 802」以降の作品だと今作が一番好き。

​★★★★★