【収録曲】
1.作詞 Peter Barakan・高橋幸宏
2.作詞 細野晴臣
2.英訳 Peter Barakan
3.5.7.9.作詞 高橋幸宏・Peter Barakan
6.作詞 Chris Mosdell
全曲作曲編曲 高橋幸宏
2.作曲 細野晴臣
4.作曲 高橋幸宏・大村憲司
7.作曲 坂本龍一
プロデュース  高橋幸宏

1.Glass(ガラス) ​★★★★☆
2.Grand Espoir(大いなる希望) ★★★☆☆
3.Connection(コネクション) ★★★★★
4.New (Red) Roses(神経質な赤いバラ) 省略
5.Extra-Ordinary(非・凡) ★★★★☆
6.Drip Dry Eyes(ドリップ・ドライ・アイズ) ​★★★★★
7.Curtains(カーテン) ★★★★☆
8.Charge(チャージ) 省略
9.Something In The Air(予感) ​★★★★★

1981年5月24日発売(LP,CT)
1994年9月28日再発
2005年3月24日再発(リマスター)
¥ENレコード(アルファミュージック)
ソニー・ミュージックダイレクト(2005年盤)
最高位21位 売上不明(オリジナル盤・LP)

高橋幸宏の3rdアルバム。先行シングルは無し。前作「音楽殺人」からは約11ヶ月振りのリリースとなった。2005年盤の初回盤は紙ジャケ仕様。

タイトルは「Neurotic」(神経症の・神経症患者)と「Romantic」及び、ニューロマンティックから考え出された造語。また、今作には「ロマン神経症」というサブタイトルがついている。高橋は神経症を患っていたようで、その影響もあるのかもしれない。

今作と同時期にリリースされたYMOの「BGM」との類似性を指摘されることが多い作品である。それは高橋本人も認めており、『「BGM」で突き詰めた世界を、自分の部分だけ引っぱりだしたらどうなるかなっていうのをやってみたかった』と語っている。
「BGM」はテクノからニューウェーブ路線に転換した頃の作品だが、今作は海外のニューウェーブ・ニューロマンティック系のミュージシャンが数多く参加しているのが大きな違い。


「Glass(ガラス)」は今作のオープニング曲。オープニングにはあまりそぐわないと思ってしまう、ダークなイメージのある曲。聴き手の不安を煽るようなシンセのリフと、パワフルなスネアの音が主体。間奏での大村憲司のギターや、後半から入ってくるサックスも聴きどころ。どこか不穏な雰囲気がある上に6分程度ある長めの曲なのだが、それでも聴き苦しさは全く無い。それどころか、聴いているうちにシンセのリフをなぞりたくなるはず。
この異様なポップ性こそ、今作の大きな魅力と言える。


「Grand Espoir(大いなる希望)」は細野晴臣が作詞作曲を担当した曲。どこかコミカルな感じのする曲。メロディー自体はそうした雰囲気は無いので、シンセの音作りの影響だろうか。サビでもそこまで盛り上がらないが、今作の作風にはそれが合う。曲のほぼ全体でスコンスコン…というような打楽器の音が刻まれており、その音がやたらと耳に残る。これを書くにあたって久し振りに今作を聴き直したのだが、この曲のことをその音で覚えていたほどだった。


「Connection(コネクション)」は疾走感のあるポップナンバー。ここまでの中では格段にわかりやすくキャッチーなメロディーが展開されている。サウンドに隠れてあまり目立たなかったボーカルも、この曲ではよく聴こえる。サウンド面では、突き刺さるようなシンセベースと高橋幸宏特有の正確無比なドラミングがたまらない。硬質なリズムやシンセのリフがこの曲の格好よさを演出している。アルバムの流れの中で聴くと、トンネルを出た時のような感覚になれるはず。


「New (Red) Roses(神経質な赤いバラ)」はインスト曲。明るいとも暗いとも言い切れない、ニューウェーブ独特のメロディーが展開されている。ビブラートのかかったシンセの音は曲にミステリアスな雰囲気を与えている。そのシンセはチープな感じの響きなのだが、この音を作るために緻密な作業を行なっていたのだろう。それ以上に驚いたのが、ドラムが松武秀樹による打ち込みだということ。高橋の演奏だと確信して聴いていたが、クレジットを見て打ち込みだったと知った時は本当に驚いた。


「Extra-Ordinary(非・凡)」はどこか陰のあるメロディーが印象的なミディアムナンバー。ただ、そうしたメロディーこそニューウェーブにおける王道と言ったところ。いきなりスネアから始まる構成が聴いていて非常に気持ち良い。いつまでも聴いていたくなるようなドラミングである。謎めいたイメージを持ったシンセの音色が多用されており、それも曲によく合っている。こうした音作りは今作全体の作風にも影響を与えている印象。


「Drip Dry Eyes(ドリップ・ドライ・アイズ)」は高橋がSandiiに提供した曲のセルフカバー。哀愁に満ちたメロディーが胸に沁みるバラードナンバー。それでもサビはしっかりとキャッチーにまとめられている。サウンドはシンセの冷たい音の響きが主体。ただ、この曲の聴きどころは間奏のアンディ・マッケイによるサックスソロ。枯れた音色がメロディーの持つ哀愁を際立たせている。聴くたびに鳥肌が立ってしまう名演。
曲全体の持つ渋さにいつも引き込まれる。今作の中でも特に好きな曲。


「Curtains(カーテン)」は坂本龍一が作曲を担当した曲。メロディー以上に奇抜なシンセの音作りの方が印象に残り、その音色に圧倒される。この曲もドラムが打ち込みで処理されているが、かなり後ろに引っ込んでいて存在感は薄い。この曲の主役は「変」としか言いようのない不思議なシンセの音たちである。シンセだけで曲のあらゆる要素を表現しようとしている感覚さえある。


「Charge(チャージ)」はインスト曲。今作の中でも最も機械的な響きを持ったロックナンバー。無機質な打ち込みドラムの音色がこの曲にはぴったり合っている。大村憲司による情熱的なギターサウンドが前面に出ている。その演奏は冷たい響きの音が並ぶ中で、それらを切り裂いていくようなイメージがある。ただただ格好良い。そう思わされる名演である。


「Something In The Air(予感)」は今作のラストを飾る曲。今作の中でも一際ポップな曲。どんよりした雰囲気のAメロを抜けてサビに辿り着いた瞬間の高揚感や解放感は凄まじいものがある。様々な表情を見せてきたシンセも、この曲では比較的明るいイメージのある音色となった。それぞれの音の粒さえ見えそうなくらい。
ラストはこの曲以外無かったと思う。鬱屈した雰囲気の曲が並んだ今作も、この曲がラストを飾ったことで救われたような感覚になる。「終わり良ければすべて良し」を体現しているかのよう。


2005年盤はある程度中古でも出回っている。今から聴くなら2005年盤の一択だろう。
神経質なまでに緻密に作り込まれたシンセの音の数々は今もなお圧倒的な聴きごたえがある。流石に音が古いと感じてしまう部分はあるものの、その聴きごたえは変わらない。
全体を通して鬱屈した雰囲気を持った曲が多いという旨のことを繰り返し書いてきたのだが、決して取っつきにくい作品ではない。マニアックに作り込んだ部分とポップな部分とのバランスが絶妙で、その味付けが見事。次作「WHAT,ME WORRY?」では今作の暗さから一転して明るい作風になるわけだが、その変貌振りには驚くばかり。次作とセットで聴くとさらに楽しめると思う。どちらも日本のニューウェーブにおける名盤である。

​★★★★★