SOUL DIMENSION
ICE
1996-11-27


【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 宮内和之
5.9.作詞 国岡真由美
3.10.ブラスアレンジ 水江洋一郎
プロデュース        宮内和之

1."where is…?" 省略
2.Medicine Street ★★★★★
3.See The Music On The TV ★★★★★
4.Life Is Blues ★★★☆☆
5.Monkey Communication ★★★★☆
6.Take Me Away ★★★☆☆
7.Love Makes Me Run ​★★★★★
8.Soul Of Joy ​★★★★☆
9.Plastic Hip ★★★★☆
10.Yes,I Do ​★★★☆☆
11.See The Music On The TV(reprise) ★★★☆☆

1996年11月27日発売
2007年12月19日再発(リマスター・紙ジャケ)
東芝EMI
ユニバーサルミュージック(2007年盤)
最高位5位 売上約7.8万枚

ICEの5thアルバム。先行シングル「Love Makes Me Run」を収録。前作「We’re In The Mood」からは9ヶ月振りのリリースとなった。

ICEは1993年にデビューした男女2人組ユニット。ボーカルの国岡真由美、ギターで楽曲制作の全般を担当した宮内和之から成る。宮内和之は2007年に43歳の若さで死去。現在は活動休止状態だが、国岡はソロでのライブ活動を定期的に行なっている。
ちなみに、国岡はICE BANDのメンバーやエンジニア、マニピュレーターを含めた全員がICEだと語っている。ICE BANDはベースの小川真司、ドラムの山下政人、パーカッションの大石真理恵、キーボードの崩場将夫・野崎貴郎で構成されており、ギターは宮内和之。

ICEの音楽性は渋谷系やクラブミュージックの文脈で語られることが多い。ただ、渋谷系に括られるようなミュージシャンとの交流が深かったかと問われるとそうでもない印象。ICEはソウルやファンクの要素を取り入れた、都会的で洗練されたサウンドの数々が魅力。宮内和之の「黒さ」に溢れた、日本人離れしたギタープレイは唯一無二だった。

同年にリリースされた前作「We’re In The Mood」がセールス面で好成績を残したわけだが、その勢いを保ったまま制作・リリースされた印象がある。ただ、音楽性は変わらない。


「"where is…?"」は今作のオープニングを飾るインスト曲。ジャズの要素を感じさせる演奏によるもの。アルバム全体のイントロのようなイメージがある。


「Medicine Street」は前の曲から間髪入れずに始まる、濃厚なファンクナンバー。前述した通り、宮内の真髄と言える「黒い」ギタープレイが曲を終始盛り上げている。この熱量には圧倒されるばかり。聴いているだけでも思わず身体が動くこと請け合い。演奏が格好良過ぎてメロディーがあまり印象に残らなくなってしまうほど。
歌詞はタイトル通り「Medicine Street」について語られている。よく意味はわからないが、気の済むまで歌い踊って楽しめる場所として描かれていると思う。それ以上に、全体でフィーチャーされたスキャットのインパクトが強い。
実質的なオープニングがこの曲だが、ICEの王道を詰め込んだような名曲だと思う。


「See The Music On The TV」は前の曲がさらに濃厚さを増したようなファンクナンバー。とても日本人が演奏しているとは思えないようなギターサウンドは格好良いとしか言いようが無い。ワウを駆使したギターサウンドに加え、メロディーに絡みつくようなホーンが曲をさらにファンキーなものにしてくれる。これまた演奏にメロディーの印象を持っていかれてしまうのだが、かなりキャッチーな仕上がり。
歌詞はほぼ全編がスキャットとタイトルのフレーズの繰り返しで構成されている。呪文のようなスキャットは中々にインパクトがあって、一度聴けば忘れられなくなる。
ICEの作品を聴いていると何度も思うことだが、国岡真由美の歌声は艶があって本当に魅力的である。


「Life Is Blues」はここまでの流れをぐっと落ち着けるバラードナンバー。こうした曲調でもサビはかなり耳馴染みの良い仕上がり。サウンド面では、ボサノバのテイストを取り入れているのが特徴。曲全体を通して前面に出た、優しく聴き心地の良いアコギの音色が曲に癒しの要素を与えている。
歌詞は過ぎていく時間への想いが綴られたもの。切なくて懐かしい雰囲気を感じさせる詞世界となっている。
ファンクを続けたと思えば、美しいバラードが来る。アルバムの前半にも関わらず、ICEの音楽性の幅広さを見せつけられたような感覚になれる。


「Monkey Communication」は熱のこもった演奏を堪能できるポップナンバー。聴き流すのがたまらなく心地良いメロディーが展開されている。手拍子やパーカッションなど、アフリカ音楽を彷彿とさせる部分が多くあるのが特徴。宮内のギターは相変わらずファンキーである。
国岡が作詞を担当しているが、一人称は「僕」となっている。どこか皮肉めいているのに、ノリの良さも感じられる詞世界である。
ICEの持ち味であるソウルフルな音楽性とアフリカ音楽の要素とがぴったり合っている。当時としては新機軸だったと思うが、何ら違和感無くまとまっている印象。


「Takes Me Away」はメロウなミディアムナンバー。3分少々の比較的短めな曲。甘く美しいメロディーとボーカルには聴き惚れるのみ。ギターも他の曲での激しい演奏から一転し、控えめながら叙情的な演奏を聴かせてくれる。思わず身を委ねたくなるような心地良さを持っている。
歌詞は恋人と過ごす幸せな時間が想像できるもの。「もう戻れなくても 同じ場所がいい」という歌詞がどことなく意味深である。
短めの曲ながら、様々な部分に聴きどころがあって侮れない曲。飛ばすには勿体無い。


「Love Makes Me Run」は先行シングル曲。疾走感のあるポップナンバー。シングルだけあって、売れ線を狙ったようなわかりやすいメロディーが展開されている。ただ、こうした曲でもグルーヴィーで聴きごたえのある演奏を楽しめるのは変わらない。メロディーと共に駆け抜けるような感覚のあるキーボード(オルガン?)がたまらない。
歌詞は恋人との幸せな時間が描かれている。「夜空にたった2人だけ 消えないあの星になれる」というサビの歌詞は恥ずかしくなってしまうほどだが、国岡の歌声にかかればクールなものに変わる。
この曲を聴きながら夜の高速道路を走るというささやかな夢がある。ICEには他にも夜の高速道路が似合いそうな曲がある。どれを聴いてもきっと最高なはず。


「Soul Of Joy」は流麗なメロディーが冴え渡るバラードナンバー。サビでも派手に盛り上がるようなメロディーではないが、サビは英語詞で構成されているのでかなり耳に残る。アコギやハープをフィーチャーしたサウンドもメロディーの美しさを演出している。「耳が幸せになる」とはこういうことかと思わされる。
歌詞の意味はよくわからない。その代わりと言っては難だが、ボーカルも楽器の一つとして聴いている。そう捉えて聴くと、曲がさらに心地良いものになる感覚がある。
アルバム曲ながら後にベスト盤に収録されたのも頷ける、隠れた名バラード。


「Plastic Hip」は前の曲からの流れを変える、荒々しいロックナンバー。それでも、メロディー自体は割とポップ。力強いギターサウンドとドラムが曲を終始盛り上げている。聴き手に迫ってくるような感覚のある演奏である。リアルタイムで聴いていたわけでもないのに、70年代の洋楽ロックを思い起こして懐かしい気持ちになるのは何故だろう。
作詞は国岡によるもの。芸能界で活躍する女性の日常が描かれている。古臭い言い方になってしまうが「いい女」を想像させる詞世界である。「すこしオトナにならなきゃね」という歌詞はそこの歌い回しも相まって、無意識のうちに「エロい」と思ってしまう。
ジャケ写のイメージに最も合った曲はこの曲ではないか。アルバムを通して聴くといつも思う。


「Yes,I Do」は先行シングル「Love Makes Me Run」のC/W曲。メロウなミディアムナンバー。いきなりサビから始まる構成はかなりのインパクトがある。シンプルなバンドサウンドに加えて、ホーンやストリングス、ハープもフィーチャーされている。ここまで贅沢で心地良い演奏もそうは無いだろう。
歌詞は恋人との時間を描いたものだと思う。タイトルのフレーズは前日から恋人に聞かれた質問への答え。どのような質問だったのだろうか。こうした耽美的な詞世界もICEの魅力の一つ。
C/W曲らしく、良くも悪くも地味な佇まいの曲だが、サウンドが好み。


「See The Music On The TV(reprise)」は今作のラストを飾る曲。宮内自らボーカルを担当していること、元の方には無かった歌詞が追加されているのが大きなトピック。国岡のクールなボーカルとは打って変わって、熱量のある太いボーカルを聴かせてくれる。「こんなICEもあったのか」と思わされるようなバージョンである。


ICEの作品の中では売れた方なので、中古屋ではよく見かける。
都会的でお洒落な楽曲を展開してきたユニットだが、今作ではファンキーで熱を帯びた曲の主張が強めな印象がある。お洒落な部分が強調された前作「We’re In The Mood」と聴き比べると面白い。ただ、どちらの路線でも全く時代性を感じさせない曲ばかりなのは共通している。それだけ普遍性に溢れた曲を作り続けたということ。
ICEのセールス的な全盛期はこの頃だと思うが、それを飾るにふさわしい充実感のある作品である。

★★★★★