ROSE
飯島真理
1994-06-25


【収録曲】
全曲作詞作曲 飯島真理
全曲編曲       坂本龍一
プロデュース  坂本龍一

1.Blueberry Jam ​★★★★★
2.まりン ★★★★★
3.My Best Friend ​★★★★☆
4.Love Sick ★★☆☆☆
5.Secret Time ★★★★☆
6.きっと言える ★★★★★
7.Shine Love ★★★☆☆
8.ガラスのこびん ★★★★☆
9.ひまわり ★★★☆☆
10.ひみつの扉 ​★★★★★
11.おでこにKiss ★★★☆☆

1983年9月21日発売(LP)
1984年2月25日発売(CDオリジナル盤)
1994年6月25日再発(CD)
2007年1月24日再発(リマスター・紙ジャケ)
ビクター
最高位不明 売上不明

飯島真理の1stアルバム。先行シングルは無し。今作発売後に「きっと言える」がシングルカットされ、「ひみつの扉」がそのB面曲となった。

飯島真理というと、アニメ『超時空要塞マクロス』のリン・ミンメイ役の声優、劇場版の『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』の主題歌「愛・おぼえていますか」の印象が強いという方が多いだろう。声優アーティストの走りとされることもあるが、本業はあくまでシンガーソングライターである。本人は長年リン・ミンメイのイメージとの間で葛藤していたようだが、現在ではそれを受け入れているという。アニメ関連のイベントに参加することも多い。

今作は坂本龍一が全曲の編曲とプロデュースを手がけた。ジャケ写や容姿からアイドル的な扱いをされることもあったが、実際には本格派なシンガーソングライターである。今作を聴けば、メロディーメーカーとしても優れた実力の持ち主であることがわかるはず。


「Blueberry Jam」は今作のオープニング曲。幻想的な雰囲気を持ったポップナンバー。流れの良さとキャッチーさを併せ持ったメロディーは絶品。ふんわりとしたイメージの音色のシンセが多用されたイントロからこの曲の世界に引き込まれる。それだけでなく、1番サビ終わりのトランペットのソロや、どこか哀愁を漂わせたラストのサビ〜アウトロなど相当に凝ったアレンジを楽しめる。
歌詞はタイトル通りのものが描かれている。それは「あふれる想い 届けてくれる」ものらしい。かなりメルヘンな詞世界ながら、飯島の歌声のおかげで何ら違和感無く聴けてしまう。
メロディーもサウンドも自分の好みのど真ん中。初めて今作を聴いた時、この曲を聴き終えた時点で今作にハマることを確信したくらいだった。


「まりン」は前の曲から続いて、無邪気ささえ感じられるようなポップナンバー。緻密に作り込まれたキャッチーなメロディーは一度聴けば忘れられるはずが無い。これを書くにあたって久し振りに今作を聴いても、この曲のサビは口ずさめるほどだった。サウンド面では、浮遊感のあるシンセの音色と太いベースが印象に残る。
歌詞については、アイドル的な自己紹介ソングだと思っていた。ただ、実際には「まりン」は東急ハンズで購入した「赤い水玉模様の服を着て、細くて白い腕で鉄棒に掴まり逆上がりをするピエロの人形」のおもちゃのことだという。それを知った上で聴くと、確かにそう解釈できる。
アイドル的な扱いをされても仕方がないと思うくらい可愛らしい曲なのだが、聴けば聴くほど凝ったメロディーやサウンドだとわかる。


「My Best Friend」はファンキーなサウンドが展開されたミディアムナンバー。こうした曲調でもかなり訴求力のあるメロディーが展開されている。サビは前2曲に負けないほどにキャッチーである。後藤次利による、弾き真似でもしたくなるほどにわかりやすく格好良いベースがインパクトを放っている。随所で鳴らされるシンセは他の音やボーカルを包み込むような感覚がある。
歌詞は自分に言い寄ってくる男性への想いが綴られている。その相手の優しさを認めつつも、あくまで友達として関係を続けたいと語る。モヤモヤした感情だけが残る詞世界だ。サビでの少々歌いにくそうな高音が尚更そうしたイメージを強くさせる。
この曲もメロディーやアレンジが好き。歌詞はまあ…


「Love Sick」はここまでの流れを落ち着けるバラードナンバー。何となく聴いていても複雑だとわかるようなメロディーが展開されている。どこがサビなのか少しわかりにくい。イントロを始めとして、曲の全体を通してストリングスが主張したサウンドとなっている。前の3曲と比較しても美しさのあるサウンドである。
歌詞はタイトルから想像できるように、恋煩いがテーマとなっている。「悲しいのに 涙が出ないのはなぜ? 涙の捨て場所も 見つけてないけど…」という歌詞が顕著。夢見心地なイメージの詞世界だが、しっかりと聴けてしまう。
丁寧にアレンジされたであろうストリングスが印象に残る曲。


「Secret Time」はシティポップの要素が感じられる曲。疾走感を持ちながらも洗練されたサビのメロディーはまさにそれを思わせる。アレンジはシンプルなバンドサウンドで構成されている。間奏では飯島自身によるピアノソロも用意されており、それも聴きどころの一つ。アウトロの力強いギターサウンドもたまらない。
歌詞は宇宙的なイメージを持ったもの。「夜空の彼方 飛びたつの」「漂う宇宙の海」「光の翼」など、それを思わせる言葉が並んでいる。これまたかなりメルヘンな詞世界なのだが、ただただ可愛らしいと思って聴けてしまうのが不思議なところ。
この曲はメロディーやサウンドが自分好み。やはり、優れたメロディーメーカーだと思う。


「きっと言える」は今作発売後にシングルカットされた曲。跳ね上がるようなサビのメロディーは聴いていてとても心地良い。サビまでのしっとりとしたメロディーからの変貌振りは相当激しいが、それもサビの心地良さを演出する要素だと思う。曲の随所で存在感を放つホーンが曲の高揚感を高めてくれる。
歌詞は恋人に浮気された女性が自ら別れを切り出すもの。別の女性といるところを偶然見てしまうところが何ともきつい。裏切りを目の当たりにして自ら別れを切り出そうとする。
好きな曲なのだが、なぜこの曲をシングルカットしたのだろうか?もっとシングルらしい曲があったように思う。


「Shine Love」は再び流れを落ち着けるバラードナンバー。懐かしささえ感じられるような素朴なメロディーが展開されている。それでもサビは確かな引っ掛かりを持ったもので、そこにメロディーセンスを感じる。そうしたメロディーの魅力を活かすようなアレンジであり、音の主張は少なめ。
歌詞は初恋の人を忘れられなかった女性が本当に好きな人と出逢って変わっていく様子が描かれている。こうしたシチュエーションだけでも漫画や小説ができてしまいそうだが、ストーリー性に溢れた詞世界となっている。
今作の中でもかなり地味な曲だが、心に沁みる隠れた名バラード。


「ガラスのこびん」は聴きごたえのある演奏を楽しめるミディアムナンバー。サビになってもさほど盛り上がるようなメロディーではないが、それでも不思議と耳に残るのが特徴的。ホーンに加え、後藤次利によるベースがこの曲でも存在感抜群。ボーカルやメロディーを食わんばかりのプレイを聴かせてくれる。
歌詞は恋人と別れようとする女性の想いが綴られている。付き合っていなかったようにも感じる。歌詞から察するに、相手からは「重い女」と思われてしまっていたのだろう。「ガラスのこびん」は涙を注ぐためのものらしい。これもまた重さを感じる。
凝ったアレンジに引き込まれる名曲。アレンジャー・坂本龍一の実力を実感させられる。


「ひまわり」はしっとりとしたバラードナンバー。繊細さを感じる美しいメロディーがたまらない。終始落ち着いた曲調だが、この曲にはそれが合う。アコギや柔らかいシンセを前面に出したシンプルなアレンジがメロディーやボーカルを際立たせている。
歌詞はタイトル通りひまわりを描いたもの。「ひまわりの花が 悲しげに揺れるのを あなたは見たことがありますか?」という歌い出しから、ひまわりが咲く夏の日に連れ込まれるような感覚がある。
ひまわりは当然日本でも咲くが、あまり日本の空気が感じられない曲になっているのは何故だろう。


「ひみつの扉」は今作発売後にシングルカットされた「きっと言える」のB面曲。グルーヴ感に溢れた演奏がたまらないポップナンバー。後藤次利によるファンキーなベースや、勢いの良いホーンが曲を盛り上げている。バックで鳴るキレの良いカッティングも渋い。演奏に触れてばかりだが、メロディーそのものも相当にキャッチー。英語詞から始まるサビは一度聴けばすぐ馴染む。
歌詞は恋人とすれ違いが生じた女性の想いが綴られたもの。「悲しさを微笑みに 変えてゆけるはずだった だけど今 切なさ感じてるだけ」という歌詞が顕著。メロディーやサウンドと歌詞のギャップが激しく、それが尚更切ない。
シティポップの文脈で再評価されていてもおかしくない名曲。この曲がA面でシングルカットされていても良かったのではと思う。


「おでこにKiss」は今作のラストを飾る曲。1分45秒程度とかなり短めな曲。こうした短い曲でも確かな聴きどころを作るメロディーセンスは見事。ピアノやシンセ主体のふんわりとしたアレンジでメロディーを引き立てる。
タイトルだけ見てもアイドル的な要素を感じるのだが、歌詞もそうしたイメージ。ロマンティックな恋模様が綴られた詞世界と、甘ったるいとさえ思ってしまう歌声の絡みがたまらない。
前の曲で一気に盛り上がった流れのまま締められる感覚がある。今作を何度でも聴きたくなるのはこの締め方の影響だろう。


中古屋で見かけるのは1994年盤が多い印象。2007年盤はプレミアがついている。
坂本龍一がプロデュースしたということで、往年のYMOのようなテクノの方面に傾倒した作品と思うかもしれないが、そういうわけではない。温もりのあるシンセの音を前面に出しつつ、生音と共存させるアレンジで飯島による曲や歌声の魅力を引き出している。メルヘンな世界観を持った曲たちが全く浮いていないのも、そのアレンジ技術によるものが大きい。一曲一曲の完成度もとても高く、メロディーメーカーとしての実力がよくわかる。
1stにして最高傑作と評するファンが多いのも頷ける名盤。80年代前半という時代だからこそ生まれた作品だと思う。

​★★★★★