U‐miz
松任谷由実
1993-11-26


【収録曲】
全曲作詞作曲 松任谷由実
1.コーラス詞 鈴木俊
2.ナバホ語詞 Geri Keams
全曲編曲       松任谷正隆
5.ホーンアレンジ 松任谷正隆・Jerry Hey
6.7.ホーンアレンジ Jerry Hey
プロデュース  松任谷正隆

1.自由への翼 ★★★★☆
2.HOZHO GOH(ホジョンゴ) ★★★☆☆
3.真夏の夜の夢 ★★★★☆
4.この愛にふりむいて ★★★☆☆
5.XYZING XYZING ​★★★★☆
6.11月のエイプリルフール ★★★★★
7.只今最前線突破中 ​★★★★☆
8.Angel Cryin’ X’mas ★★★★☆
9.July ★★★★☆
10.二人のパイレーツ ★★★☆☆

1993年11月27日発売
2013年10月2日再発
東芝EMI/EXPRESS
EMI RECORDS(2013年盤)
最高位1位 売上138.2万枚

松任谷由実の25thアルバム。先行シングル「真夏の夜の夢」を収録。前作「TEARS AND REASONS」からは1年振りのリリースとなった。初回盤は黒色のプラスチックケース入り仕様だが、逆にそれ以外を見たことが無い。

タイトルは「ユーミッズ」と読む。「YUMI as a kid」「Yuming’s Kiz」などからの造語だという。タイトル候補としては「Flower Kid」「ylang-ylang」(イランイラン)などがあったようだ。

今作のテーマは「サイケデリック」である。ただ、かつてのサイケデリック・ロックのような曲が並んでいるかというとそうではない。コンセプトに関してはさほど意識せずに作られたのだと思われる。


「自由への翼」は今作のオープニング曲。浮遊感のあるサウンドが展開されたミディアムナンバー。派手に盛り上がるわけでもないのに、よく耳に残るサビのメロディーがたまらない。タイトル通り、空を飛んでいるかのようなイメージを持ったシンセの音色が主体となっている。「浮遊感」はそれによるところが大きい。
歌詞はお互いのために別れることを決めたカップルを描いたものだろうか。「みつけて おいでよ はじけそうな あの日の夢 かなえて おいでよ そしていつか 連れて行って」という歌詞はとても優しい。「大人の別れ」というものがあるとしたら、この曲がそれに当てはまりそう。
静かながらも高揚感も感じられるメロディーやサウンドとなっており、オープニングにふさわしい曲だと思う。


「HOZHO GOH(ホジョンゴ)」は民族音楽のテイストを取り入れたミディアムナンバー。ミステリアスな雰囲気を持ちながらも、明るさも感じられるメロディーが展開されている。キーボードを前面に出したサウンドは当時としては最先端だったのだろう。
タイトルはアメリカ南西部に先住するインディアン部族であるナバホ族の調和のとれた生活を表すとされる。ナバホ族の言語と思われるコーラスや会話も入っており、この曲の世界観を演出している。彼らに会ったことも無いのに、何故か彼らの生活の様子が浮かんでくるような詞世界となっている。
ユーミンは後に民族音楽の要素を多く取り入れるようになるが、この曲はそれを予見していたかのようである。


「真夏の夜の夢」は先行シングル曲。TBS系ドラマ『誰にも言えない』の主題歌に起用された。ユーミンにとっては90年代初のシングルとなった。ラテン音楽の要素が取り入れられた、異国情緒の漂う曲。一度聴けばすぐに馴染むような強いサビはシングル曲ならでは。前述した通りのラテン音楽の要素とロックの要素が混ざったサウンド面となっている。そうしたアレンジは熱気のこもったユーミンの歌声によく合っていると思う。
歌詞は情熱的な恋模様が想像できるもの。それでもどこか切なさが感じられる歌詞となっており、その味わい深さが印象的。
それなりに好きな曲なのだが、この曲がユーミン最大のシングルヒットと聞くとモヤモヤした感覚が残る。異色作という印象が強いからだろうか…?


「この愛にふりむいて」はここまでの流れを落ち着けるバラードナンバー。どこがサビなのか少しわかりにくいものの、繊細で美しいメロディーが心地良い。渋く色気のあるギターサウンドと、冷ややかな響きのキーボードが前面に出たサウンドとなっている。随所ではサックスも登場する。あまり主張することのないアレンジだが、それがこの曲には合っている。
歌詞は別れた恋人のことを忘れられずにいる女性の心情が綴られたもの。その想いが叶うことは決して無いのだろう。それでも願ってしまう。ユーミンの淡々としたボーカルが歌詞の「どうしようもない感じ」をこれ以上無いほど上手く引き出している。
AOR色の強いサウンドが自分好み。


「XYZING XYZING」はファンキーなサウンドが展開されたミディアムナンバー。メロディー自体はさほど盛り上がらないが、サビはよく耳に残る仕上がり。打ち込みによる無機質なドラムに重厚なベースやキレの良いギターが絡み、随所ではホーンも入って曲を盛り上げる。エレクトロファンクと言いたくなるようなサウンド面である。
タイトルは「ズィンズィン」と読むようで、アルファベットの最後の3文字と恋の終わりをかけたものだという。そのため、歌詞も情感のこもった詞世界となっている。「ここから逃げても 荒野が続くだけ」という歌詞が何とも意味深。
この曲もサウンド面が好き。他の曲より少し評価が高めなのもそのため。


「11月のエイプリルフール」はここまでの流れを変えるようなポップナンバー。フジテレビ系番組『ビートたけしのつくり方』のエンディングテーマに起用された。どこがサビかわかりにくいのだが、どこを取ってもポップなメロディーがたまらない。今作の中でも特に生音が前に出たサウンドだと思う。ギターとホーンが絡んだサウンドは爽快そのもので、何故か80年代の雰囲気も感じる。
歌詞はタイトル通り11月の街を舞台に、恋人のついた「嘘」に翻弄される女性が描かれている。「もう会うのはやめにしよう」と恋人に言われたが、それは嘘なのか。本気なのか。聴いているこちらまで惑わされてしまうような、丁寧な描写が見事。
今までベスト盤に収録されていないのが不思議に思えるほどにポップな曲。シングル曲と言っても違和感が無いくらいなのだが…


「只今最前線突破中」は70年代のディスコミュージックを彷彿とさせる曲。サビは一度聴けばすぐに離れなくなるような強さを持っている。ファンキーなギターサウンドに分厚いホーンがこの曲を盛り上げている。間奏での松原正樹によるギターソロはこの曲の聴きどころ。渋くて格好良い。彼ならではのプレイを堪能できる。
歌詞は恋の駆け引きを戦争に例えたもの。かつての「LOVE WARS」を想起させるが、そちらとはまた異なる。相手からのアプローチを「ナパーム」に例えているのは相当にインパクトがある。
この手のサウンドは今までのユーミンにはありそうで無かった印象。当然自分好みのサウンドである。


「Angel Cryin’ X’mas」は爽快なロックナンバー。全体を通して疾走感のある曲調となっており、パワフルなバンドサウンドがそれをさらに引き立てている。この曲ほどシンセが主張しない曲も今作では少ないと思う。マイケル・ランドウ、松原正樹と日米の超一流ギタリストが共演しているだけあって、ギターサウンドには圧倒的な力強さがある。特に間奏では対決をしているかのようなソロを堪能できる。
歌詞はタイトル通りのクリスマスソング。女性に対して「恋をしようよ」と呼びかける内容になっている。何故かはわからないが、歌詞に80年代の空気が感じられる。
ハードロック的な演奏ながら、メロディーやボーカルはあくまでポップ。この感覚がこの曲の魅力。


「July」はここまでの流れから打って変わって、しっとりとしたバラードナンバー。美しいメロディーを次から次に畳み掛けるようなサビには聴き惚れるのみ。サビまでは陰を感じさせるシンセが主体だが、サビになるとバンドサウンドが入って静かながらも盛り上がっていく。激しいギターが前に出た、長いアウトロもこの曲の大きな聴きどころ。
歌詞は砧公園をイメージして書かれたという。「蜘蛛の巣のビーズ刺繍」「水面に停まる妖精」など、7月の朝の幻想的な光景が浮かんでくるような言葉が並んでいるが、全体としては恋人と別れた女性の心情が綴られている。
この曲については、歌詞が強く印象に残る。後にベスト盤に収録されたのも頷ける。


「二人のパイレーツ(album version)」は今作のラストを飾る曲。キリンの「キリンラガービール」のCMソングに起用された。CMに使われていたバージョンとは少々アレンジが異なるため、こうした表記がされている。
前の曲に続いて、しっとりとしたバラードナンバー。美しく優しいメロディーには包み込まれるような感覚がある。ピアノとオルガンのみで構成された、極めてシンプルなサウンドは厳かささえ感じられるほど。
歌詞はタイトル通り、海賊から連想される言葉が並んでいるのが特徴。全体としては、少年・少女時代に共に過ごした友達への想いが綴られたものだと解釈している。
打ち込みによってクリスマスソング風のアレンジがされているCMバージョンもいつか音源化されてほしいと思う。


ヒット作なので中古屋ではよく見かける。「真夏の夜の夢」以外の曲はベスト盤にも収録されていなかったが、2018年リリースのベスト盤「ユーミンからの、恋のうた。」に「July」が収録された。とはいえ、ほとんどの曲は依然として今作でしか聴けない状態が続いている。それが今作に特別感を生み出しているような感じ。
聴く度に良いと思える曲が変わるような、そうした魅力を持った作品だと思う。ただ、聴き終えた後のどこかモヤモヤした感覚はいつ聴いても変わらない。様々な曲調やシチュエーションの曲が揃っているからだろうか。それとも、「サイケデリック」というテーマの影響だろうか。

★★★★☆