You Love Me
小川博史
1992-09-10


【収録曲】
全曲作詞 川村真澄
全曲作曲 小川博史
全曲編曲 中村哲
1.2.4.6.7.8.9.コーラスアレンジ 小川博史・中村哲
プロデュース 東良睦孝・中村哲

1.ハイウェイ ドライバー ​★★★★★
2.Second Blank ★★★★★
3.I Love You ​★★★☆☆
4.コヨーテ カフェ ★★★★★ 
5.永遠になるために ​★★★★☆
6.君は夕陽 ★★★☆☆
7.12月のためいき ★★☆☆☆
8.Dead Old Days ​★★★☆☆
9.優しい人 ★★☆☆☆

1992年9月10日発売
MMG INC.
最高位不明 売上不明

小川博史のデビューアルバム。今作と同日にシングル「ハイウェイ ドライバー」がリリースされた。今作リリース後に「コヨーテ カフェ」(C/W曲は「I Love You」)がシングルカットされた。

小川博史は1992年にデビューしたシンガーソングライター。シングル2作とアルバム1作(今作)をリリースして活動を終了した。しばらくの休止期間を経て、1999年に織川ヒロタカ名義で再デビューしている。シングル3作とアルバム1作をリリースしてからはリリースが止まっているものの、現在も織川ヒロタカ名義で音楽活動を続けているようだ。ちなみに、妹は琴演奏家の松山夕貴子である。

小川博史は今作に限らず、織川ヒロタカ名義の作品でもシティポップ・AOR色の強い曲を得意としていた。甘いハイトーンボイスが持ち味で、それが曲の爽やかさにも繋がっている。


「ハイウェイ ドライバー」はデビューシングル曲。清涼感のあるポップナンバー。サビまではしっとりとした曲調で進んでいくが、サビで一気に盛り上がる。その開放感たるや相当なものがあり、それが何度でも聴きたくなる要因。サウンド面では、この時代特有のひんやりとした響きのキーボードが随所で存在感を発揮しており、その手の音が好きな自分にはたまらない。今剛による間奏のギターソロの疾走感も素晴らしい。
歌詞はタイトル通り、高速道路を走っている光景が想像できるもの。情景描写を多く含みながら、メッセージ性も持った歌詞に仕上げるのは川村真澄ならでは。
「2018年に出逢ったベストソング 下半期編」でもこの曲を紹介したが、それくらい好みの曲だった。免許を取ったので、この曲を聴きながら高速道路を走るというささやかな夢を叶えたいところ。



「Second Blank」はデビューシングル「ハイウェイ ドライバー」のC/W曲。ミッドテンポのロックナンバー。今剛によるギターサウンドが前面に出ており、メロディー自体の持つ力強さを演出している。かなり主張しているのに、ボーカルや他の音を潰すことはない。そのバランス感覚が見事。
歌詞は別れが決まった恋人との最後のドライブデートの様子を描いたものだと解釈している。「みんな自分が きっと一番 分からないのさ」という歌詞が好き。この手のメッセージ性の強いフレーズは川村真澄の得意とするもの。
A面の「ハイウェイ ドライバー」とは異なり、激しさを持った曲になっている。ただ、こちらも名曲。


「I Love You」はシングルカットされた「コヨーテ カフェ」のC/W曲。ここまでの流れを落ち着けるバラードナンバー。後半に差し掛かるまでは少ない音の数でボーカルを聴かせるが、後半からバンドサウンドやストリングスが入って盛り上がる。ドラマティックな展開がメロディーをさらに強いものにしている。
歌詞はタイトル通り、恋人への想いが綴られたもの。「ひとり うつむくことはない いつも僕が そばにいるから」など、とても力強い言葉が次々と登場する歌詞である。かなり張り上げたボーカルが誠実なイメージを持たせている。
この手のラブソングは90年代の男性シンガーソングライターに多くある印象。例に漏れずこの曲も好きな曲。


「コヨーテ カフェ」は今作発売後にシングルカットされた曲。爽快なポップナンバー。今剛による重厚なギターサウンドと、青山純によるドラムの絡みはいつまでも聴いていたいと思えるほどに心地良い。淀みなく流れるようなメロディーも身を委ねたくなる。
歌詞は恋人と過ごす幸せな時間が描かれている。サビで登場する「木彫りの犬」というフレーズがかなりのインパクトがあるが、「コヨーテ」はこれのことだと思われる。二人はそれが置かれているカフェで過ごしているのだろう。
小川の歌声の魅力が生かされた曲になっている印象で、シングルカットされたのも頷ける。


「永遠になるために」は前の曲に続いての爽やかなポップナンバー。ハネた曲調はどことなく楽しげな雰囲気を感じさせる。緻密な打ち込みによるドラムは生音との区別が難しいほどで、それも印象に残っている。また、村田和人・坪倉唯子とコーラスの名手と言える歌手が参加しており、他の曲に比べても充実したコーラスワークである。
ポップなメロディーやサウンドとは裏腹に、歌詞は別れを決めた二人が描かれている。別れる理由は「永遠になるため」だという。この洒落た言葉選びは川村真澄の作詞家としての実力が発揮されていると思う。
メロディーと歌詞のギャップがとても激しい曲だが、それがこの曲の魅力。


「君は夕陽」は再び流れを落ち着けるバラードナンバー。終始ゆったりとした曲調であり、サビでもそれが変わることはない。アコギ、ピアノ、ストリングス主体の非常にシンプルなアレンジのため、メロディーやボーカルが際立つ。荘厳な雰囲気さえ感じられるほどのアレンジである。
歌詞は少年時代の思い出を振り返ったものと解釈している。「友達になれば また逢えるからって 手を振って さよならした」という歌い出しからこの曲の世界に引き込まれる。主人公と「君」はどのような関係なのだろう。
切なさや懐かしさを持ったバラードだが、少々長くなり過ぎた感じがする。


「12月のためいき」は清涼感のあるミディアムナンバー。淡々と曲が進んでいく感覚があるが、サビはそれなりにキャッチーな仕上がり。サウンド面では、ギターのカッティングや間奏でのサックスが特徴的。ただ、演奏が目立っているかというとそうでもない。
歌詞は恋人と別れた直後の人に片想いしている男性の心情が綴られている。「微笑で 終わる恋もあれば 涙から はじまる愛もある…」というラストの歌詞が何とも意味深。全体的にストーリー性に溢れた詞世界だが、この歌詞で締められる。二人のその後はどうなったのだろうか…?
この曲については、メロディーやサウンド以上に歌詞の方が印象に残っている。


「Dead Old Days」は今作の中でも特にロック色の強い曲。どこがサビなのかわかりにくい構成ながら、終始力強い曲調で割と耳に残る。バンドサウンドに加えて、ピアノやサックスも前面に出ている。それによって、パワフルかつ軽快なサウンドになっていると思う。
歌詞はメッセージ性の強いもの。「Dead Old Days」というタイトルは「失われた日々」というような意味だろうか。過ぎた過去への後悔が綴られた歌詞なのだが、メロディーやサウンドの影響で暗さはさほど感じない。
作品の終わり際で盛り上がる曲を出してくる演出が上手いと思う。


「優しい人」は今作のラストを飾る曲。極めてシンプルなサウンドで構成されたバラードナンバー。エレピと小川自らによるアコギのみで構成され、後はボーカルのみ。一切の無駄を取り払ったようなアレンジであり、メロディーとボーカルを聴かせる仕上がり。
歌詞は「君」へのメッセージと取れるもの。「嘘をついてきて 逢いに来るのは」という歌詞がどことなく不穏な雰囲気を感じさせる。恋人に嘘をついて自らに逢いに来たということだろうか。「優しい人」という言葉の響きがどこか虚しい。
独特な余韻を残して今作は終わりを告げる。ストーリー性のある曲が並んだ構成なので、また最初から聴きたくなるだろう。


あまり売れた作品ではないので、中古屋では滅多に見かけない。近年は再評価されているのか、それなりの値段で売られている場合がある。
全体を通して上質なポップスが並んだ作品となっている。小川の清涼感溢れる歌声も相まって、とても聴き心地が良い。好みの分かれる歌声だが、「ハイウェイ ドライバー」を視聴して良いと思ったらまず外さない。
一時期より改善されたが、90年代のシティポップ・AOR系の作品は80年代のそれと比べてあまり掘り下げられていない印象がある。その中でも今作は中々の名盤だと思う。こうした作品が再発されるとありがたいものだが…

​★★★★☆