ONE
ASKA
1997-03-12


【収録曲】
全曲作詞作曲 飛鳥涼
2.作曲 飛鳥涼・ERVIN BEDWARD
1.3.6.9.編曲 飛鳥涼・CHRIS PORTER
2.7.8.編曲 飛鳥涼・PAUL WICKENS
4.10.編曲 飛鳥涼・PAUL STAVELEY O’DUFFY
5.編曲 PAUL STAVELEY O’DUFFY・ROBIN SMITH
3.ストリングスアレンジ WILL MALONE
7.ストリングスアレンジ ED SHEARMUR
10.ストリングスアレンジ ROBIN SMITH
プロデュース ASKA・CHRIS PORTER・PAUL “WIX” WICKENS・PAUL STAVELEY O’DUFFY

1.風の引力 ​★★★★☆
2.ONE ★★★☆☆
3.草原にソファを置いて ★★★★☆
4.バーガーショップで逢いましょう ★★★★☆
5.僕はすっかり ★★★★★
6.共謀者 ​★★★☆☆
7.帰宅 ★★★☆☆
8.ブラックマーケット ​★★★★☆
9.君が家に帰ったときに ★★★★☆
10.ID ★★★★★ 

1997年3月12日発売
2001年5月23日再発
東芝EMI EAST WORLD
ヤマハミュージックコミュニケーションズ(2001年盤)
最高位4位 売上27.8万枚

ASKAの4thアルバム。先行シングル「ID」を収録。今作発売後に「ONE」がシングルカットされた。前作「NEVER END」からは約2年1ヶ月振りのリリースとなった。

今作はASKAが渡英して制作された。ASKA自ら選んだ3人の現地のプロデューサーと共に制作されている。演奏も全て現地のミュージシャンによるもの。ASKAは今作を「実験アルバム」と語っている。
CHRIS PORTERはElton JohnやWham!との仕事で知られる。PAUL O’DUFFYはSwing Out Sisterとの仕事で著名。PAUL WICKENSはポール・マッカートニーのバックバンドでキーボードを担当していた。

今作について、ASKAは「人がいちばん聴きやすい長さ」を意識しており、最初から10曲入りと決めていたという。そのため、収録時間も40分台前半と比較的コンパクト。

余談だが、先行シングル「ID」のPVとジャケット撮影に加え、今作のジャケット撮影はベトナムで行われた。ASKAは撮影時に集まってきた野次馬にジャッキー・チェンと間違われてしまい、それっぽい振る舞いでその場をやり過ごしていたという。この時期はともかく、一時期は特に似ていた印象がある。間違われるのも無理はない…と思う。


「風の引力」は先行シングル「ID」のC/W曲。JAL STORY’97のCMソングに起用された。どことなく浮遊感を感じさせるミディアムナンバー。ほぼ全編通してウィスパーボイスで歌われているのが大きな特徴。聴き心地の良い優しいメロディーやシンプルなバンドサウンドも相まって、聴いていると包み込まれるような感覚がある。
歌詞は恋人への想いが綴られたものと解釈している。難解なのに情景が浮かんでくるような比喩が多用された詞世界はASKAならでは。
曲の全ての要素に於いて優しく柔らかいイメージがあり、タイトル通り「風」のような雰囲気を持った曲である。オープニングとしてはうってつけの曲だったと思う。


「ONE」は今作発売後にシングルカットされたタイトル曲。日本テレビ系ドラマ『ガラスの靴』のオープニングテーマに起用された。シングルバージョンとはボーカルやミックスが異なるようだが、そちらは未聴。
モヤモヤした雰囲気を持ったミディアムナンバー。共作になっているのはERVIN BEDWARDが歌った鼻歌をきっかけに作られたからだという。淡々とした打ち込みサウンドの響きがメロディーによく合っている印象がある。
歌詞は恋人との別れた男性の心情が描かれている。サビでは「あんなに好きだった 君なのに」と歌われているが、ASKAにしては異質なほどにストレートな表現で、かなりのインパクトがある。
正直なところ、「これがタイトル曲か?」と思ってしまった。ただ、不思議とクセになってよく聴きたくなる。


「草原にソファを置いて」は壮大なロックバラードナンバー。始まりからサビまではピアノやストリングス主体のしっとりとしたサウンドで進んでいくが、サビからバンドサウンドが入って盛り上がっていく。キャッチーかつ美しいサビには一聴しただけでも心を掴まれてしまう。
歌詞は内省的なもの。「結局一番遠かったのは自分の心さ」「僕はときどき寂しかったけど ああ 大人になるともっともっと寂しかった」といった歌詞が顕著な例。メロディーのおかげであっさりと聴けてしまうが、かなり心に刺さるような言葉が並んでいる。
この手のロックバラードはASKAソロの王道の一つだと思う。やはり外さない。


「バーガーショップで逢いましょう」はここまでの流れから一転して、爽快なポップナンバー。全編通して明るく高揚感のあるメロディーが展開されている。そこまで主張することのないサウンドながら、3人の外国人によるコーラスが目立っており、曲の爽やかさや楽しげな雰囲気を演出している。
歌詞はタイトル通り、バーガーショップで会ってデートしようと誘うもの。「世間に混ざり合って デートしましょう」という歌詞が意味深。普通のラブソングのように聴こえるのだが、そのフレーズの影響で有名人同士の密会のようなイメージが出てくる。
ライブで演奏されたら盛り上がりそうだが、あまり演奏されていない曲だという。


「僕はすっかり」は前の曲に続いて、清涼感のあるミディアムナンバー。歌い出しから心惹かれるようなメロディーがたまらない。美しいサビのメロディーには引き込まれるばかり。この曲もサウンド面が目立っているわけではない。ただ、それが聴き心地の良さに繋がっている印象がある。
歌詞は恋人に甘えようとする男性を描いたものだろうか。ただ、相手に振り回されているようにも解釈できる。「愛してくれなきゃ 意地悪もできないよ」というサビの歌詞は「あざとい」と言いたくなるほど。ただ、ASKAのラブソングはこうした部分を持った歌詞が多いように思う。
メロディーが自分好みで、今作のアルバム曲の中でも一番好きな曲。


「共謀者」は重厚なロックナンバー。今作に連動したコンサートの模様が収録された映像作品のタイトルとなっている。イントロではASKAがシャウトしており、中々にインパクトがある。英語詞から始まるサビはかなりキャッチーな仕上がり。この曲もコーラスワークが充実しており、曲を盛り上げる要因となっている。
歌詞は共に何かを成し遂げていく仲間を「共謀者」に例え、そうした存在への想いが綴られたものだろう。そうではないとしても、Chageに歌ったものだと思って聴いてしまう。今になって聴くと少々虚しくなるのだが…
ここまでロックに振り切れた曲はソロでは珍しいと思う。


「帰宅」はここまでの流れを落ち着けるアコースティックな曲。アコギとストリングスで構成されたシンプルなサウンドが展開されている。優しく叙情的なメロディーが心に沁みる。派手に盛り上がるような曲ではないが、それがこの曲に似合う。
歌詞は朝になってスタジオから帰る際の情景や気持ちを描いたものだという。生活リズムが違うことで生じる恋人とのすれ違いについても描かれている。夜勤の経験がある方は共感できるかもしれない。ただ、そうした経験の無い自分でも不思議と懐かしく感じるのがこの曲の詞世界の凄さ。
この曲は歌詞の方が印象に残っている。


「ブラックマーケット」はタイトルとは裏腹に、爽やかなポップナンバー。派手なギターサウンドに加え、ホーンやストリングスも前面に出た豪華なサウンドである。分厚いコーラスワークも相まって、どことなくELOを彷彿とさせるアレンジとなっている。
歌詞は非正規品が出回る世の中について語られたもの。ブラックマーケットに「みんなで行こう 仲良しこよしで行こう」と歌われている。まるでテーマパークのような楽しげな雰囲気さえ感じさせるが、その危うさや怪しさがこの詞世界の魅力だろう。
時代に加え、ASKAの起こした事件がこの曲の詞世界の説得力を強めてしまった感じがする。


「君が家に帰ったとき」は再びのアコースティックな曲。アコギが主体だが、曲が進むにつれて他のバンドサウンドも入って少し盛り上がっていく。流れるような美しさを持ったメロディーは身を委ねたくなるような心地良さがある。
歌詞は入院している女性とお見舞いに行った男性を描いたもの。何気ない日常と言ってしまえばそれまでだが、それをドラマや映画のワンシーンのように描き出してしまうのがASKAの凄さ。一つ一つの細かい描写の全てに映像が浮かんでくる感覚がある。やはり詩人だ。
ASKAは今作におけるこの曲を「正統派な曲」と称している。確かにそのようなイメージ。


「ID」は今作のラストを飾る先行シングル曲。フジテレビ系ドラマ『木曜の怪談 ファイナル 「タイムキーパーズ」』のエンディングテーマ・NECの企業CMソングに起用された。
怪しげな雰囲気を漂わせたミディアムナンバー。淡々とした打ち込みサウンドと分厚いストリングスが絡んだサウンドが展開されている。サビでもさほど盛り上がらないメロディーであり、シングル曲としては異色。
タイトルは「Identification」の略だというが、歌詞はサビに登場する「匿名希望」がキーワードとなっていると思う。匿名による掲示板やSNSを予見したような詞世界であり、リリース当初よりも今の方が心に刺さるだろう。
これを書いている今も「シングルにするような曲か?」と思っている。初めて聴いた時からその感想は変わらない。存在感の強さが故に今作の中ですら浮いている印象が否めない。ただ、中毒性のある名曲。


そこそこ売れた作品なので中古屋ではよく見かける。
「実験アルバム」と称した作品だが、王道な作風の曲が多い。次作「kicks」以降の作品の方がその言葉が似合うと思う。突出した一曲やかつてのような大ヒット曲こそ無いものの、作品自体がコンパクトなこともあって全体を通して聴きやすい作品である。今作のアルバム曲は一曲単位で聴くよりも、今作の流れの中で聴いた方がより良いと感じられる。

★★★★☆