NEO FASCIO
氷室京介
1989-09-27


【収録曲】
全曲作詞 松井五郎
6.作詞 氷室京介
10.11.作詞 氷室京介・松井五郎
全曲作曲 氷室京介
1.作曲 佐久間正英
全曲編曲 氷室京介・佐久間正英
プロデュース 佐久間正英

1.OVERTURE 省略
2.NEO FASCIO ★★★★★
3.ESCAPE ★★★★☆
4.CHARISMA ★★★☆☆
5.COOL ​★★★☆☆
6.SUMMER GAME ​★★★★★
7.RHAPSODY IN RED ★★★☆☆
8.MISTY ★★★★☆
9.CAMOUFLAGE ★★☆☆☆
10.CALLING ​★★★★★
11.LOVE SONG ★★★★☆

1989年9月27日発売
2003年7月21日再発(リマスター・紙ジャケ・CCCD)
EAST WORLD/東芝EMI 
最高位1位 売上54.6万枚

氷室京介の2ndアルバム。先行シングル「SUMMER GAME」「MISTY〜微妙に〜」を収録。前作「FLOWERS for ALGERNON」からは1年振りのリリースとなった。

今作は「カリスマの否定」「ファシズムの危険性」などをテーマにしたコンセプトアルバムである。人気歌手のアルバムというにはかなり難解なテーマであり、売上を気にする声もあったようだ。しかし、氷室はどうしてもこのようなアルバムを制作したかったのだろう。天安門事件を始めとした、当時の世界情勢の影響を受けたと思われる。
結局、今作は先行シングルの影響なのかチャート1位を獲得し、前作ともさほど変わらないヒットを記録した。

今作の収録曲は氷室(ボーカル・ギター)・佐久間正英(ギター・ベース・キーボード)・そうる透(ドラム)の3人で演奏されている。「コミュニケーションを取りやすくするため」「布袋寅泰の1stアルバム(3人で主に制作された)への対抗意識の表れ」などの説があるという。氷室の作ったデモテープを聴いた佐久間はそのクオリティに驚いたというエピソードがあるが、それだけ今作に強い想いを持っていたということ。


「OVERTURE」は今作のオープニング曲。佐久間正英が作曲を担当した。厳かな雰囲気を持った曲や演奏が展開されており、物語の始まりを告げるようなイメージの曲となっている。次の曲とは繋がっている。


「NEO FASCIO」は今作のタイトル曲。硬質なサウンドが展開されたハードロックナンバー。親しみやすさを排除したようなメロディーながら、演奏の聴きごたえのおかげで全く気にならない。氷室のボーカルも含めた全ての音が聴き手に向かって襲いかかってくるようなイメージがある。そうる透のアタックの強いドラムはただただ格好良い。
歌詞はダークな世界観を持ったもの。「できないことは なにもない 時間さえも つかめる」という歌詞を始めとして、中々にスケールの大きな詞世界である。
メロディーこそ弱めだが、サウンド面が自分好みのど真ん中なので評価はかなり高め。


「ESCAPE」は前の曲に続いての力強いロックナンバー。この曲も硬質なサウンドが展開されており、ニューウェーブのテイストも感じさせる。キャッチーとは言い難いメロディーだが、それが演奏の格好良さを際立たせている。鋭いギターサウンドやパワフルなドラミングにねじ伏せられる。
歌詞の意味ははっきりとわからないが、恋人が何者かに追いかけられているようなイメージがある。その存在から逃げようとしているのだろう。切迫感を感じられる詞世界となっている。
曲全体に溢れるスリリングな感覚がとてもクセになる。


「CHARISMA」はラップを取り入れた部分が印象的な曲。PVも制作されており、今で言うリード曲のような存在だったのかもしれない。パンクロックの要素を感じる部分もあれば、ファンキーな部分もあるため、どのような曲とは断言できない。サウンド面では、終始鋭いギターサウンドが前面に出ている。
歌詞は独裁者の心情を描いたものだとされる。「世界中の愛を集めて 俺は疑いを いま踏み潰した」「やりこめるなら いますぐ」といった歌詞が顕著。「危うさ」を感じさせるボーカルに心をぐっと掴まれる。
今作の作風を象徴するような曲であり、PVが制作されたのも頷ける。


「COOL」は今作の中では比較的ポップな曲。後にベスト盤「Case of HIMURO」に収録された。メロディーはそれなりにポップだが、どこがサビか少しわかりにくい。サウンド面では攻撃的な音色のシンセが主張しており、ニューウェーブ色の強いサウンドが展開されているのが特徴。
歌詞は横文字が多用されており、歌詞に意味を持たせないようなイメージ。そのためか、他の曲よりも弾けた印象のボーカルである。松井五郎が作詞を手がけているが、氷室の作風そのままと言ったところ。
ベスト盤で聴いた時は地味な曲としか思わなかったが、今作の流れで聴くと一際明るい曲だと感じられた。


「SUMMER GAME」は先行シングル曲。疾走感のあるポップロックナンバー。全編サビと言っていいほどに勢いのあるメロディーに圧倒される。サビは一度聴けばすぐに歌えるほどに強い。そうる透によるパワフルなドラミングがさらに曲を力強いものにしてくれる。
歌詞は夏の日の恋をテーマにしたもの。横文字が多用された詞世界はいかにも氷室らしさを感じるが、それが見事なまでにメロディーと合っている。その感覚がとても聴いていて気持ち良い。
今年の夏はこの曲を何度聴いたかわからない。そのため、氷室の曲の中でも特に好きなのだが、今作の中で聴くと浮いてしまっている印象が否めない。売上を考慮して収録したのだろうか…?


「RHAPSODY IN RED」は「SUMMER GAME」のC/W曲「RHAPSODY IN BLUE」の別バージョン。そちらはシャッフルビートによる曲だったが、こちらはレゲエの要素を取り入れている。この曲もラップ調で歌われている部分があり、かなりのインパクトがある。
「〜BLUE」は氷室が作詞を担当していたが、こちらは松井五郎が手がけている。ただ、全体的な歌詞のテーマはそこまで変わっていない。
同じ曲でもアレンジが違うだけでここまで質感が変わるのかと驚かされた。「RHAPSODY IN BLUE」と聴き比べると、さらに楽しめると思う。


「MISTY」は先行シングル曲。カネボウ'89秋のプロモーションのイメージソングに起用された。「〜微妙に〜」というサブタイトルが付く場合と付かない場合があるが、今作では付いていない。
影を感じさせるミディアムナンバー。サビになってもそこまで盛り上がらないのだが、それが逆にこの曲にインパクトを与えている。音の数は少なめながら、渋い雰囲気を持ったギターサウンドが主張している。
歌詞は好きな人に言い寄る男性を描いたものだと解釈している。「微妙」というフレーズが気にかかるが、男性は上手くいったのだろうか。
「SUMMER GAME」とは異なり、こちらは今作の作風に合っている印象がある。曲全体からどことなく漂うモヤモヤした雰囲気の影響か。


「CAMOUFLAGE」は不思議な曲の構成が印象的なミディアムナンバー。素人の自分が聴いても、複雑で難解なリズムだとわかるくらい。メロディーそのものはそれなりにキャッチーなのだが、それ以上に演奏にインパクトを持っていかれる。これについていくミュージシャンの技量には驚くばかり。
歌詞は英語詞が多く登場する。意味はわかりにくいが、性行為を描いたものだと解釈している。しかし、それに満足できなかったようだ。
アルバムの中の箸休め的な曲だと思っている。何回聴いても演奏ばかりが印象に残る。


「CALLING」は重厚なロックナンバー。
2005年発売の映像作品『FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN』のイメージソングに起用された。開放感のある、ポップかつ美しいメロディーに引き込まれる。それをパワフルなバンドサウンドが曲を盛り上げている。
歌詞は極めてメッセージ性の強いもの。「そむけた顔をいくつ打たれたら 気づかぬふりやめるのか」「ふりしぼる声と握りしめるその手で 運命はきっと 変わる時を待っている」といった歌詞が顕著。氷室の理想通りのボーカルにするため、喉が潰れるまで何度も歌い直したというエピソードがある。確かに、他の曲にも増して格好良く力強いボーカルとなっている。
今作のアルバム曲では一番好きな曲。


「LOVE SONG」は今作のラストを飾る曲。後にこの曲のインスト版が「Urban Dance」のC/W曲となった。
ほぼキーボードのみで構成された、極めてシンプルなバラードナンバー。聴かせるべきところでストリングスが起用されており、ドラマティックな展開を見せる。氷室ならではの叙情的なメロディーには聴き惚れるばかり。
歌詞はタイトル通り誰かへの想いが綴られたもの。「We’ll be together run&run 忘れないでほしい いつまでも旅は続いてゆく」という歌詞が印象的。ファンへの決意表明のようにも感じられる歌詞である。
この曲に氷室が伝えたかったことが全て詰め込まれているように思う。


かなり売れた作品なので、旧盤は中古屋ではそこそこ見かける。2003年盤はリマスターされているが、CCCDなので取り扱い注意。
コンセプトに関する話題が先行しているので取っつきにくい作品のように感じてしまうかもしれないが、実際のところは割と聴きやすい印象がある。コンセプトを強く意識して作られた曲は前半に固まっており、中盤〜後半はいつも通りという感じがする。コンセプトアルバムだけあって、一曲単位で聴くよりもアルバムの流れの中で聴いた方が良いと思える曲が多い。前作とはまた違った魅力を持った名盤。

★★★★★