City Folklore
高野寛
2019-10-09


↑全曲トレーラー動画

ストリーミングについて…Spotify, Apple Music, Amazon Music,AWAで配信されているのを確認。

【収録曲】
全曲作詞作曲 高野寛
4.作詞作曲 Hirth Martinez
全曲編曲       冨田恵一
プロデュース 冨田恵一

1.魔法のメロディ ​★★★★☆
2.もう、いいかい ​★★★☆☆
3.Wanna be ★★★★★
4.Altogether alone ★★★☆☆
5.ピエールとマリの光 ★★★☆☆
6.はれるや ★★☆☆☆
7.TOKYO SKY BLUE ​★★★★★
8.停留所まで ★★★★☆
9.ベステンダンク(2019 ver.) ★★★★★

↓CDのみ収録のボーナストラック
(デモ音源やライブ音源なので、星評価及び感想は省略させていただく)
10.魔法のメロディ(Demo 2018)
11.もう、いいかい(Live 2019)
12.Wanna be(Demo 2019)
13.ピエールとマリの光(Demo 2016)
14.はれるや(Recorded at Rio 2014)
15.Tokyo Sky Blue(Demo 2016)
16.停留所まで(Demo 1999)

2019年10月9日発売
SUNBURST
最高位不明 売上不明

高野寛の16thアルバム。先行シングルは無し。前作「A-UN」からは1年8ヶ月振りのリリースとなった。

今作は高野寛のデビュー30周年記念作品である。タイトルは「21世期の都市生活者の民芸」というような意味があるようだ。高野は自らアレンジ・プロデュースも手がけるシンガーソングライターだが、今作は全曲の編曲・プロデュースを冨田恵一に委ねて制作された。
「サウンドが気になる曲のことを調べてみると冨田さんのプロデュース作品だった」ということが何度かあり、それがきっかけとのこと。

今作は近年のシティポップリバイバルの影響を受けて制作された。高野にとってもシティポップは小学生の頃から耳にしてきたもので、自らの「源流」にあると考えていたようだ。それを意識しながら、「今」のサウンドを聴かせるイメージで制作を進めたという。


「魔法のメロディ」は今作のオープニング曲。幻想的な雰囲気を持ったミディアムナンバー。イントロや間奏は大貫妙子の「色彩都市」を彷彿とさせる。派手に盛り上がるわけではないが、それでも耳に残るメロディーは高野の真骨頂。冨田の得意とするストリングスをフィーチャーしたアレンジとなっており、曲をより上質なものにしている。
音作りがそうであるように、歌詞もドリーミーな世界観を持ったもの。松本隆が作詞した大滝詠一の曲を意識していたようで、確かにそう感じられる部分がある。
かつてのシティポップと、今の音の融合という今作のテーマにふさわしい曲。この曲以外がオープニングを飾るのは考えられない。


「もう、いいかい」は穏やかなメロディーが心地良いミディアムナンバー。数年前から作られており、少しずつ完成させていった曲だという。落ち着いた曲調ではあるがサビはかなり強く、一度聴けば離れなくなる。エレクトロの要素を取り入れたサウンドながら、それでも温もりのある質感に仕上がっている。間奏でアコギが使われているからだろう。
高野は大学教員としても活動しているようだが、そこで学生と接する中で感じたことが綴られている印象。「君は君だよ そのままでいい」というフレーズが好き。そのフレーズを始めとして、全体的にメッセージ性の強い歌詞となっているのはそのためだろうか。


「Wanna be」はブラックミュージックのテイストが強い曲。Aメロからキャッチーそのものなメロディーが展開されている。サビは当たり前のように耳に残る仕上がり。今の音を使っているはずなのに、何故か80年代の洋楽を聴いているような感覚にさせられるサウンドがたまらない。
歌詞は「君の望む方へ行け」というテーマで、SNSによるコミュニケーションについて語られている。聴いていると耳が痛くなるような、鋭いメッセージ性を持った歌詞となっている。
サウンド面については、これまでの高野の作品にありそうで無かった曲という印象。冨田との制作の成果がよく現れた曲だと思う。


「Altogether alone」はハース・マルティネスが1975年に発表した楽曲のカバー。BE THE VOICEがカバーしたバージョンが2000年代に韓国でヒットしたらしく、「配信で海外の人にも引っかかってくれたらいいかなと」という狙いでカバーしたようだ。
原曲はボサノバの要素を取り入れたAORといった感じの曲だが、原曲に沿ったアレンジとなっている。アコギとエレピの絡んだサウンドが優しく響く。高野のボーカルも相まって、聴いていると身を委ねたくなるような心地良さがある。


「ピエールとマリの光」は壮大なバラードナンバー。最初はしっとりとした感じで進んでいくが、途中から音の数が増えて一気に盛り上がっていく。後半からはかなりロック色の強いサウンドとなるのが印象的。
歌詞はラジウムを発見したことで有名なピエール・キュリーとマリ・キュリー夫妻を題材にしたもので、物語のようなイメージがある。原子力発電への批判がされた歌詞だと解釈している。
歌詞のテーマは「アトムの夢」(2nd「RING」収録)や「人形峠で見た少年」(3rd「CUE」収録)を彷彿とさせる。
高野が伝えたいことは30年前と変わっていなかったことがよくわかる。


「はれるや」はアルバムのインタルード的な存在の小曲。長い曲にしようとしたこともあったが、結局上手くいかずにこのままになったようだ。ボーカルが加工されているのが特徴的で、80年代のテクノポップを聴いているような感覚にさせられる。


「TOKYO SKY BLUE」は今作の中でも特にシティポップの色が強い曲。90年代の終わりに書いた曲を基にして作られたという。一聴しただけで心を掴まれるようなサビのメロディーは職人技。シンセとギターのカッティングが主体となったサウンドが展開されている。後半のギターソロは冨田が演奏しており、Steely Danのウォルター・ベッカーを意識して演奏したようだ。
歌詞は東京オリンピックを前にして急速に変化する東京の街を描いたもの。「この街は夢を見てる 夢に敗れても また夢を見ている」というサビの歌詞が印象的。どこか閉塞感のあるイメージで、夢と現実のギャップを感じる詞世界となっている。
「2019年に出逢ったベストソング 下半期編」でも語ったが、メロディーやサウンドが自分好みで、今作の収録曲の中でも一番好きな曲。


「停留所まで」は懐かしい雰囲気を持ったミディアムナンバー。1999年のライブで歌われて以来、長らく音源化されていないままだったという曲。サビで思い切り掴んでくるメロディーは見事という他ない。アコースティックライブに合わせて作られただけあって、アコギが前面に出たシンプルなサウンドが展開されている。
歌詞は「きみ」への想いが綴られたもの。恋人とも友人とも解釈できるような描かれ方がされている。バスの停留所という日常そのものと言えるチョイスが高野らしさを感じる。
メロディーやサウンドは、アコースティックな方面に傾倒していた「Tide」や「確かな光」の頃の作風を思わせる。


「ベステンダンク(2019 ver.)」は1990年にリリースした5thシングルの再録版。高野にとっては「虹の都へ」と並んで代表曲と言える存在。
ダンスミュージック的なアプローチがされたアレンジがされており、初めて聴いた時には驚くしかなかった。原曲もエレクトロポップ色が強いアレンジだったが、それよりもさらに尖ったサウンドになった印象。
歌詞については、「虹の都へは遠すぎるようだ」という歌詞が「虹の都へはあと少しなんだ」に変わっているのが特徴。近年のライブでは後者で歌われていたという。高野はそれを音源として残しておきたかったようだ。
アレンジが大幅に変わっても聴けてしまうのは、やはり原曲が良いからだと思う。このバージョンを通して、元のバージョンの強さを再確認した。


高野寛は自ら作詞作曲編曲プロデュースできるシンガーソングライターだが、冨田恵一による緻密なアレンジによって、メロディーの魅力がより引き出された作品となった。
発売前から「高野寛と冨田恵一のコラボ」ということで期待していた。いざ聴いてみると、その期待通りの作品だった。むしろそれを超えてきた。ここまで二人の相性が良いというのは予想外だった。長らく共に制作してきたような雰囲気さえあった。
デビュー30周年企画は今作を以て終わった。これからの高野寛の活動にも注目するしかない。

​★★★★☆