Familia
かの香織
1993-11-01


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【収録曲】
全曲作詞作曲 かの香織
1.編曲 森英治
2.4.5.編曲 山内薫
3.編曲 吉田智
1.コーラスアレンジ 森英治・かの香織
プロデュース かの香織

1.Familia ​★★★★☆
2.2 WEEKS ★★★☆☆
3.CUT AND CUT ★★★★★
4.とあるホテル ★★★☆☆
5.ちぎれそうなパラダイス ★★★★★

1993年11月10日発売
Sony Records 
最高位不明 売上不明

かの香織の2ndミニアルバム。先行シングルは無し。前作のミニアルバム「Vita」からは約5ヶ月振りのリリースとなった。

かの香織は1982年にショコラータのボーカルとして音楽活動を開始し、1985年にメジャーデビューを果たした。ニューウェーブとイタリアのカンツォーネを融合させた独自の音楽性が一部で高く評価されたものの、その翌年に活動休止。その後はCaolina Bambina名義でのCMソングの制作、他のアーティストとの共演、デザイナーとしての活動など幅広く活躍。

かの香織としてのソロデビューは1991年。奇抜なファッションや音楽性が印象的だったショコラータ時代とは異なり、自然体なスタイルでデビュー。音楽性もバンド時代のそれとは一変し、シティポップ・AORや渋谷系のテイストを忍ばせたお洒落なポップスを展開するようになった。
声楽科出身らしくオペラの要素が強かったバンド時代の歌い方も、持ち前の独特な声質や優れた表現力を活かしたものに変貌を遂げた。


「Familia」は今作のオープニングを飾るタイトル曲。静謐な雰囲気を持ったバラードナンバー。派手に盛り上がることはないが、それでも心に響くメロディーはまさに職人技。柔らかい音色のシンセや、分厚いコーラスワークが前面に押し出されたサウンドはメロディーの美しさを限りなく際立たせている。
歌詞はかつての恋人のことを想ったものと解釈している。その相手は別の誰かと結婚し、子供もいる。主人公のことは忘れてしまったのだろう。「Familia」はスペイン語で「家族」を意味するようだが、その言葉の持つ温かみのあるイメージとは異なり、とても切ない詞世界となっている。
タイトル曲にふさわしい存在感を持った、隠れた名バラードだと思う。


「2 WEEKS」は聴き心地の良いミディアムナンバー。サビでもそこまで盛り上がることはないが、それでも確かに耳に残るメロディーが見事。サウンド面では、ひんやりとした響きのキーボードとギターのカッティングを主体としたアレンジがメロディーの良さを引き立てる役割を果たしている。後半の凝ったコーラスワークも聴きどころ。
歌詞は恋人と喧嘩し、連絡が途絶えて2週間になるという女性の心情が綴られている。後悔が伝わってくるような歌詞となっており、かののボーカルが歌詞をより情感のこもったものにしている。
今作の中では少々地味な曲なのだが、一曲単位では割と好き。


「CUT AND CUT」は渋谷系のテイストを感じさせる、お洒落なポップナンバー。キャッチーかつ切なさを漂わせたメロディーが素晴らしい。サウンド面も魅力的。宮田繁男(当時ORIGINAL LOVE所属)によるドラムはグルーヴ感に満ちている。また、菊地成孔のサックスも聴きどころ。明るい音色なのにどこか哀愁を感じさせる演奏である。
歌詞は別れた恋人との思い出を忘れようとする女性を描いたもの。「みえないあなたに つまづいてばかり これ以上 支えきれない」という歌詞からは心情がよく伝わってくる。
メロディーやサウンドが自分好みで、今作の収録曲の中でも一番好きな曲。


「とあるホテル」は前の曲とは打って変わって、しっとりとしたバラードナンバー。終始落ち着いた曲調ながら、それでもサビは耳に残る仕上がり。サウンド面は柔らかい音色のシンセが主体。また、随所でピアニカが使われており、サウンドにアクセントをつけている。
歌詞はタイトル通りホテルについて描かれている。「あなたも泣きやんだら ここにおいで すべてをたちきったら ここにおいで」という歌詞が印象的。本当にこのような場所はあるのかと思ってしまうが、実在するかしないかを考えるのは野暮なのだろう。
地味と言ってしまえばそれまでだが、聴きどころの多いバラードだと思う。


「ちぎれそうなパラダイス」は今作のラストを飾る曲。聴き流していても自然と引き込まれてしまうような、強い訴求力を持ったメロディーが展開されている。煌びやかかつ優しい音色のシンセが前面に出たサウンドが曲を鮮やかに盛り上げている。
歌詞はそれと断言出来る要素は無いものの、クリスマスを舞台にしたラブソングだと解釈している。他の曲と比べると幸せそうなイメージの詞世界なのだが、それでもすぐにその状態が終わるかのような切迫感も感じられる。
「CUT AND CUT」と並んで、こちらも好きな曲。かの香織のメロディーメーカーとしての実力がよくわかる曲だと思う。


あまり売れた作品ではないので、中古屋では時折見かける程度。
前作ミニアルバム「VITA」は夏をテーマにした曲が並んだ作品だったが、こちらは冬をテーマにした曲が並んでいる。前作や今作以降の作品ほどの派手さこそ無いものの、聴く度に沁みるような魅力を持った曲が多い。ミニアルバムという形だからこその流れの良さも相まって、何度でも聴きたくなるような作品になっている。

​★★★★☆