HAPPY BIVOUAC
the pillows
1999-12-02


ストリーミングについて…Spotify,LINE MUSIC,Amazon Music,Apple Music,AWAでの配信を確認。

【収録曲】
全曲作詞作曲 山中さわお
プロデュース  吉田仁

1.HAPPY BIVOUAC ★★★★☆
2.RUSH ​★★★★☆
3.LAST DINOSAUR ​★★★★☆
4.カーニバル ★★★★☆
5.Our love and peace ★★☆☆☆
6.Crazy Sunshine ​★★★☆☆
7.Back seat dog ★★★☆☆
8.Kim deal ★★★★★
9.Funny Bunny ★★★★★
10.Beautiful morning with you ★★★☆☆
11.Advice ​★★★☆☆

1999年12月2日発売
2018年5月6日発売(LP,数量限定)
キングレコード
最高位72位 売上不明

the pillowsの8thアルバム。先行シングル「カーニバル」「RUSH」を収録。前作「RUNNERS HIGH」からは約11ヶ月振りのリリースとなった。

前作「RUNNERS HIGH」までは鹿島達也がベースを担当していたが、今作からTHE CHEWINGGUM WEEKENDのベースの鈴木淳が参加するようになった。鈴木とは長らく活動を共にし、2014年リリースの19thアルバム「ムーンダスト」まで15年近く参加している。

今作は前作にも増してUSのオルタナロックに傾倒した作風となっている。アメリカにおけるオルタナロックの代表的存在であるPixiesやDinosaur Jr.からの影響を感じさせる曲がある。特にPixiesは当時の山中が気に入っていたバンドのようだ。


「HAPPY BIVOUAC」は今作のオープニングを飾るタイトル曲。肩肘張らずに作られたような雰囲気を感じさせるロックナンバー。サビの中でもサビ終わりが特に耳に残るという不思議な仕上がり。歪んだギターサウンドを始めとして演奏には緊張感があるのだが、どことなく脱力感がある。独特なギターリフがクセになる。
歌詞は当時の山中及びピロウズの決意表明のようなイメージがある。頂上を目指して登っていったはずだが、結局は「頂上なんてないんだ」という結論に至る。頂上を目指して苦しんでいた時期よりも、その答えを導き出した今が一番楽しくて充実しているという想いも伝わってくる。
後追いで聴いても、当時のピロウズの充実感が伝わってくるような曲になっていると思う。


「RUSH」は先行シングル曲。どこか切ないメロディーが展開されたミディアムナンバー。サビは特にそれを味わえる。それでいてキャッチー。そうしたメロディーと、この時期のピロウズ特有のローファイなバンドサウンドとの絡みがこの曲の聴きどころ。
歌詞はいつになくストレートで力強い応援歌と言ったところ。「こわがらないで ほらキミは自由」「大人になった悲しみに 耐えきれず胸が痛くても 迷わないで まだ夢の途中」といった歌詞が好き。丁度成人を迎えた自分に優しく刺さる歌詞だった。
この曲はメロディーやサウンド以上に歌詞の方が印象に残っているパターン。


「LAST DINOSAUR」は爽快なロックナンバー。ポップでありながら美しく流れていくようなメロディーが見事。サウンド面については、Dinosaur Jr.からの影響を感じさせるサウンドが展開されている。タイトルもそれを意識したと思われる。「ギターの壁」と言いたくなるほどに分厚いギターサウンドと、抜けの良いドラムは聴いていてとても気持ち良い。
歌詞は自らを恐竜に例えつつ、想いが綴られたもの。「世界中が苛ついたって デタラメに今日もわめいてみせる」「どこでだって誰の前でだって ただ自分でいたい」といった歌詞が好き。この曲も当時の山中の想いがよく現れた歌詞だと思う。
メロディーが自分好みで、今作の収録曲の中でも好きな方に入る。


「カーニバル」は先行シングル曲。TBS系音楽番組『COUNT DOWN TV』のエンディングテーマに起用された。この曲も爽快なポップロックナンバー。しっとりと始まり、サビで一気に激しくなる構成はかなりのインパクトがある。ツインギターを活かした凝ったアレンジが印象に残る。他の曲よりもベースが目立っているのも特徴。
歌詞は「キミ」への想いが綴られた、ストレートなラブソング。「たった一人 キミは僕の味方」という歌詞はとても力強い。こうした「キミ=僕を孤独から救ってくれる唯一の存在」というような構図のラブソングは当時のピロウズに多く見られるが、この曲もその一つ。
この曲は凝ったアレンジや演奏に引き込まれた。あまりシングル向きの曲ではないと思うが、何故かクセになる。


「Our love and peace」はここまでの流れを落ち着けるバラードナンバー。こうした曲調でも、サビは確かな引っ掛かりのあるメロディーが展開されている。これまでの曲よりもボーカルが優しくなっており、演奏も他の曲ほどの激しさが無い。
歌詞は世紀末の空気を持ったもの。世紀末の中で、「Our love and peace」を追い求めている。「さよなら20世紀」というサビ頭の歌詞は今になって聞くと隔世の感がある。1999年という時代でしか書けなかった歌詞だろう。
あまりにも落ち着いた曲なので、逆に流れが悪くなってしまった感じがする。サビのメロディーだけ好きという不思議な立ち位置の曲。


「Crazy Sunshine」は前の曲から一転して、爽やかなポップロックナンバー。サビだけ聴いているとシングル曲かと思ってしまうほど。曲自体は「LITTLE BUSTERS」の頃に作られていたという。ただ、サウンドの方向性がその時期とは異なるのであまりその頃の雰囲気は感じられない。サウンドは他の曲と同じく、オルタナロック色の強いもの。
歌詞は時代への不満を吐き出しているようなイメージがある。「痛みのないタイクツに 溺れそうだ」「不機嫌な僕らの未来」といった歌詞に顕著に現れている。この手の歌詞もピロウズの定番といえる。
メロディー・サウンド・歌詞とどの要素も当時のピロウズの王道と言ったところ。最早安定感さえある。


「Back seat dog」は穏やかなミディアムナンバー。Pixiesの「Here Comes Your Man」のオマージュで、実際に聴き比べるととても似ている。ラストで「Here Comes Your Man」と歌われているのはご愛嬌。ボーカルやメロディーを立てるイメージの演奏で、さほど主張していない。聴きどころはサビでのYOKO(noodles)によるコーラス。女性コーラスの起用もPixiesを意識したと思われる。
歌詞は別れた恋人のことを忘れられずにいる男性を犬に例えて描いたものだと解釈している。ピロウズの女々しいラブソングが好きな自分にはたまらない詞世界である。
今作の中では地味な曲だと思うが、割と好きな曲。


「Kim deal」は清涼感のあるポップナンバー。今作の中でも特にわかりやすくポップなメロディーが展開されており、それが素晴らしい。サビでのコーラスワークがサビのメロディーをさらにキャッチーにしている。最早多幸感さえ感じられるようなサビとなっている。曲全体で前面に出ている、キラキラしたような響きのギターサウンドはこの時期のピロウズにとっては異色そのもの。
タイトルはPixiesのベースだったキム・ディールから取られている。歌詞は片想い系ラブソングの形を取っているが、山中のキム・ディールへの想いが綴られているような感じ。
メロディーやサウンドが自分好みで、今作の収録曲の中で一番好きな曲。


「Funny Bunny」は優しいメロディーが心地良いミディアムナンバー。アニメ『フリクリ』や『SKET DANCE』に起用されたほか、カバーバージョンがCMソングに起用された。
一緒に口ずさみたくなるようなサビのメロディーはとても強い。演奏はとてもシンプルで派手さは無いのだが、その分この時期の山中の優しい歌声が際立っている印象。再録バージョンとはまた違った魅力がある。
歌詞は真っ直ぐな応援歌と言ったところ。「飛べなくても不安じゃない 地面は続いているんだ 好きな場所へ行こう キミなら それが出来る」というラスサビの歌詞の方が好き。
この曲は長らくシングル曲だと思っていたが、これを書くにあたって調べた時にシングル曲ではないと知った。それが今や代表曲と言えるポジションにある。この曲の強さを実感させられた。


「Beautiful morning with you」はここまでの流れを落ち着ける、重厚なロックバラードナンバー。5分40秒ほどとピロウズにしては珍しいくらい長尺な曲。ただ、サビはやはり耳馴染みの良い仕上がり。しっとりとした感じで始まり、サビ前から一気に盛り上がっていく構成となっている。激しいのに聴きやすいギターサウンドが魅力的。
歌詞は恋人への想いが綴られたもの。「暗闇で寄り添う日々」「寂しさは手口を変え 何度でも会いに来る」など、この曲も主人公が孤独であることを思わせる歌詞が登場する。ピロウズと「孤独」の親和性の高さがわかる。
一曲単位ではあまり聴かないのだが、アルバムの流れの中で聴くと引き込まれる。


「Advice」は今作のラストを飾る曲。全編英語詞によるロックナンバー。どこがサビかはわかりにくいが、それでも凄まじい勢いで一気に聴かせてしまう。今作では珍しく、パンクのテイストを感じさせる演奏となっている。歌詞の中の様々な人物を演じるため、山中が声色を変えて歌っているのが特徴。
歌詞は山中が様々な人からもらったアドバイスに対しての想いが綴られている。そのアドバイスを紹介し、サビで「leave me alone. Away with you!」(「俺のことはほっといてくれ!出て行け!」という感じか?)と切り捨てる。とても排他的なイメージの歌詞だが、聴いていてとにかく爽快である。
前の曲からもう一度盛り上げて終わる感じはライブを想起させる。何度も聴きたくなるような終わり方だと思う。


あまり売れた作品ではないので、中古屋ではたまに見かける程度。この頃のピロウズの作品はどれもそれなりの値段で出回っているが、今作は特に高値で売られていることが多い印象。
かなりロック色が強かった前作「RUNNERS HIGH」よりも少し落ち着き、メロディーを聴かせるタイプの曲が増えた印象がある。過去の作品にあった暗さも無くなり、ピロウズのキャリアを通じても特に聴きやすい(わかりやすい)作品になっていると思う。

​★★★★☆