Higher Self
氷室京介
1991-04-06


ストリーミング配信について…2020年7月21日から各種サービスでの配信が開始された。

【収録曲】
全曲作詞 松井五郎
1.8.作詞 氷室京介
11.作詞 氷室京介・松井五郎
全曲作曲 氷室京介
4.6.作曲 氷室京介・友森昭一
全曲編曲 氷室京介・西平彰・SP≒EED
5.11.12.編曲 氷室京介・西平彰
プロデュース 西平彰

1.CRIME OF LOVE ★★★★☆
2.BLACK-LIST ★★★☆☆
3.VELVET ROSE ​★★★☆☆
4.PSYCHIC BABY ★★★☆☆
5.MAXIMUM 100の憂鬱 ★★★☆☆
6.WILD AT NIGHT ​★★★★☆
7.STORMY NIGHT ★★★★★
8.CLIMAX ★★☆☆☆
9.CABARET IN THE HEAVEN ★★☆☆☆
10.MOON ★★★★★
11.JEALOUSYを眠らせて(RE-MIX VERSION) ★★★★☆
12.LOVER’S DAY-SOLITUDE- 省略

1991年4月6日発売(CD・CT)
2003年7月21日再発(リマスター・紙ジャケ・CCCD)
東芝EMI/EAST WORLD
最高位1位 売上64.6万枚(オリジナル盤)

氷室京介の3rdアルバム。先行シングル「JEALOUSYを眠らせて」「CRIME OF LOVE」を収録。今作リリース後に「MOON」がシングル「Urban Dance」のC/W曲としてシングルカットされた。前作「NEO FASCIO」からは1年8ヶ月振りのリリースとなった。初回盤はクリアケース入りで写真集付属。

前作「NEO FASCIO」は「カリスマの否定」「ファシズムの危険性」などをテーマにした硬派なコンセプトアルバムだったが、今作は特にコンセプトを設定せずに制作されたという。

今作は当時の氷室のバックバンドであったSP≒EED(ギター…友森昭一・ベース…春山信吾・キーボード…西平彰・ドラム…永井利光)がフィーチャーされている。
「NEO FASCIO」のツアーでSP≒EEDのメンバーとの交流が深まったからだという。レコーディング当初は「(バンドの)みんなからどんなモノが出てくるか?」を試していたようだ。


「CRIME OF LOVE」は今作のオープニングを飾る先行シングル曲。重厚感のあるバンドサウンドが展開されたミディアムナンバー。氷室曰く「マイナー系で重いビートの一曲」をやりたかったという。確かに、この頃としてはありそうで無かった感じがする。シングル曲だけあって、サビはそれなりにキャッチーな仕上がり。バンドサウンドの中でもドラムが特に目立っていて、他の音を牽引している印象。
歌詞はタイトルからも想像できるように、危うさや怪しさを感じさせるもの。氷室のボーカルはそうした歌詞の魅力をこれ以上無いほど引き出している。
ヒットシングル「JEALOUSLYを眠らせて」の次のシングルがこの曲か?と思ってしまったのは事実。ただ、聴く度にクセになる曲。


「BLACK-LIST」はダンサブルな演奏が展開されたロックナンバー。どこがサビなのか判別しにくいメロディーが特徴的。サウンド面では、キレの良いギターのカッティングやホーンが曲を盛り上げており、当時の氷室としては異色なアレンジだったと言える。エコーがかかった歌い出しや、他の曲よりも粘っこいイメージの歌い方は中々にインパクトがある。
歌詞は英単語が多用された性愛路線のもの。この手の曲は氷室のアルバムでは1作につき1曲くらいのペースで出てくる印象がある。
実際に演奏されていたかどうかはわからないが、ライブで演奏されていたら盛り上がる曲だったと思う。


「VELVET ROSE」はここまでの流れを落ち着けるバラードナンバー。サビになっても派手に盛り上がらないメロディーながら、それが曲の雰囲気に合っていると思う。最初はシンセが主体となったサウンドが展開されており、途中からバンドサウンドが入っていく。この曲では終始ロートーンで歌われているのが印象的。これもまた魅力的なボーカルである。
歌詞はアダルトな世界観を持ったもの。全体的には幻想的な雰囲気が感じられる詞世界ながら、前述したロートーンなボーカルがよく合っている。
一曲単位では地味なのだが、聴きどころの多いバラードだと思う。


「PSYCHIC BABY」は再び流れを戻すロックナンバー。SP≒EEDの友森昭一が氷室との共作で作曲に参加している。勢いのあるメロディーと力強いバンドサウンドが展開されており、SP≒EEDのメンバーが思う氷室京介の楽曲というイメージがある。
歌詞はこの曲もアダルトなイメージを持ったもの。ただ、ノリや語感の良さを重視した詞世界である。サビの「NO PSYCHIC NO THANK YOU」という歌詞が顕著。
バックバンドとの共同作業を意識した今作にふさわしい曲という印象。


「MAXIMUM 100の憂鬱」は前の曲と同じく、爽快なロックナンバー。この曲もどこがサビなのかわかりづらいメロディーが展開されている。曲全体で前面に出た、わかりやすく「格好良い」と思わせてくれるようなギターリフがたまらない。集中して聴いていると、バンドサウンド主体ながらかなり凝ったアレンジがされていることが分かる。
歌詞は英単語が多用されており、ノリの良さを意識したような感じ。真夜中の街の光景が浮かんでくるような、猥雑なイメージの詞世界になっている。
他の曲にも増して多彩な歌い方がされていて、聴いていて楽しい曲となっている。


「WILD AT NIGHT」は3分足らずの短めなロックナンバー。氷室と友森の共作となっているが、友森が持っていた曲を他のメンバーと協力して作り上げていったという。一度聴けば口ずさめるような強いサビと、パワフルなバンドサウンドとの絡みは勢いに溢れている。
歌詞もまた勢いの良さを持ったものとなっている。「俺たちは 誰にも 止められないさ」という歌詞は全能感さえ感じられるほど。
ここまででも同じような味わいのロックナンバーが多く出てきたが、今作のロックナンバーの中でも特に好きな方に入ってくる。短い中に様々な聴きどころが詰まっており、ライブで定番だったというのも頷ける。


「STORMY NIGHT」は美しいメロディーが心地良いロックバラードナンバー。切なく哀愁のあるメロディーが展開されている。これぞ氷室京介!と言いたくなるようなメロディーである。バンドサウンドの中でも、力強いギターサウンドがそうしたメロディーの魅力を引き立てている。
歌詞はタイトル通り、恋人と過ごす台風の夜が舞台となっている。「抱きしめることしか 答えのない夜 もうどこへも行かないで」というサビの歌詞は訴求力に溢れている。
「LOVER’S DAY」の路線を彷彿とさせる仕上がり。そちらと並んで、この時期の氷室を代表する名バラードだと思う。


「CLIMAX」は先行シングル「CRIME OF LOVE」のC/W曲。重厚感のあるギターサウンドが展開されたミディアムナンバー。メロディーやボーカル以上にそのギターサウンドとシンセの絡みが印象に残る。サウンドを聴かせるタイプの曲と言える。
今作では珍しく、氷室自身が作詞を手掛けている。この曲も耽美的な世界観を持った歌詞となっているが、日本語が多めなのが特徴。
良くも悪くもC/W曲らしい、実験的な作風の曲と言ったところ。氷室はC/W曲をあまりアルバムに収録しない印象があるのだが、アルバム収録に至ったのが不思議。


「CABARET IN THE HEAVEN」はノリの良いポップロックナンバー。この曲の最大の特徴は様々な歌い方を試していること。初めて聴いた時は本当に氷室が歌っているのか疑ってしまったほど。酔っぱらったようなイメージの歌い方は相当なインパクトがある。
歌詞は女性を誘惑しているような感じ。欲を隠しきれない男性の姿が描かれており、歌い方とよく合っていると思う。
何度聴いても「なんだこれ?」という感想は変わらない。


「MOON」は後に「Urban Dance」のC/W曲としてシングルカットされた曲。しっとりとしたロックバラードナンバー。繊細さを感じさせる美しいメロディーには聴き惚れるばかり。アコギとピアノの絡みで進んでいき、サビでバンドサウンドやストリングスが入って盛り上がっていく。
氷室の楽曲の歌詞で「ぼくら」と歌われているのはこの曲のみ。内省的な印象の詞世界となっている。「なぜ 孤独は 消えないのだろう なぜ 明日と 争うのだろう なぜ ことばは 愛に迷う」という歌詞が好き。
同じバラードでも「LOVER’S DAY」や「STORMY NIGHT」とは歌詞のテーマが異なる。この曲も名バラードの一つだと思う。


「JEALOUSYを眠らせて(RE-MIX VERSION)」は先行シングル曲。フジテレビ系ドラマ『恋のパラダイス』の主題歌に起用された。今作収録にあたって、リミックスとボーカルのリテイクがされた。
爽快なポップロックナンバー。全編通してキャッチーかつ高揚感に満ちたメロディーはヒット曲にふさわしい存在感がある。バンドサウンドと同じくらいシンセを前面に出したアレンジで、キラキラ感のあるサウンドに仕上がっている。
歌詞はストレートなラブソング。いかにもドラマ主題歌と言いたくなるような、ドラマティックな詞世界になっていると思う。
自分はこの曲の1998年版を最初に聴いたので、1998年版が「完成版」だと思っている。シングル版があまり好きではなかっただけに、このバージョンの「完成版」に近付いている感じが好印象だった。


「LOVER’S DAY-SOLITUDE-」は今作のラストを飾るインスト曲。映像作品のために「LOVER’S DAY」のピアノバージョンが作られており、それがアルバムでも収録された形。「JEALOUSYを眠らせて」と同じく、この曲もボーナストラックに近い形式で収録されたという。
元々美しいバラードだが、ピアノ一本となるとさらに美しいメロディーを堪能できる。ラスト以外に置き場所の無いようなインスト。


ヒット作なので中古屋ではよく見かける。
当時のバックバンドだったSP≒EEDをフィーチャーしたためか、全体的にライブ映えする曲が集まっている感じがする。それがいつになく評価が低めになってしまった理由でもあるのだが…リアルタイムで今作を聴き、今作に連動したライブで収録曲が披露されていたのを聴いていたら印象が変わっていたかもしれない。今作に関しては、バラードで救われた作品だと思っている。

★★★☆☆