すてきな世界
堂島孝平
1997-11-21


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【収録曲】
全曲作詞作曲 堂島孝平
プロデュース 堂島孝平・中山努
※編曲表記は無し(恐らくプロデュースの二人と同じだと思われる)

1.微笑がえし ★★★★☆
2.世界は僕のもの ​★★★★★
3.マーマレードガール ★★★★☆
4.恋はラベンダー ​★★★★☆
5.ノーベンバー ​★★★★☆
6.ミルキーウェイ ★★★★★
7.オードリー(Type 2) ★★★☆☆
8.迷子の天使 ★★★☆☆
9.忘れないでいるから ★★★★★
10.疾走の彼方 ​★★★☆☆
11.素敵な地上の夜 ★★★☆☆

1997年11月21日発売
BAY LEAGUE(日本コロムビア)
最高位不明 売上不明

堂島孝平の4thアルバム。先行シングル「忘れないでいるから」「世界は僕のもの」を収録。前作「トゥインクル」からは9ヶ月振りのリリースとなった。

前作「トゥインクル」と先行シングル「忘れないでいるから」の間にシングル「葛飾ラプソディー」がリリースされたが、そちらはアルバム未収録。
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』のオープニング曲に起用され、堂島の代表曲と言えるほどに知名度のある曲ながら、本人名義のアルバムでは長らく未収録が続いていた。2011年リリースのベスト盤「BEST OF HARD CORE POP!」でようやく収録されることとなった。

前作「トゥインクル」で自らの音楽性を確立したようだが、今作もその勢いそのままに制作された感覚がある。タイトル通り、歌詞も明るく幸せなイメージのあるものが多い。


「微笑がえし」は今作のオープニング曲。2分45秒程度と比較的短めなポップナンバー。聴き流すのがたまらなく心地良いメロディーが終始に渡って展開されている。ピアノと宮田繁男によるドラムが前面に出ており、グルーヴ感のある演奏がメロディーの強さをより高めている。
歌詞は恋人への想いが綴られたものだろうか。字面だけだと恥ずかしいと思ってしまうような言葉が並んでいるのだが、堂島の無邪気さを持った歌声のおかげであっさりと聴けてしまう。
短い曲の中に様々な聴きどころが詰め込まれており、それが魅力的。オープニングという位置にふさわしい曲だと思う。


「世界は僕のもの」は先行シングル曲。高揚感に溢れたポップナンバー。サビはもちろんのこと、曲のどこを取ってもキャッチーそのものなメロディーはまさに職人技。タイトなバンドサウンドは何らの隙が無い。随所で鐘のような音が使われており、それが曲のポップさを引き立てる。
歌詞は恋人との最も幸せな瞬間を切り取ったようなイメージがある。タイトルのフレーズこそ出てこないが、タイトル通りの全能感さえ感じられる詞世界となっている。また、歌詞とメロディーの絡みの良さが尋常ではない。それがクセになって何度でも聴きたくなる。
これだけポップなのに、どことなく切なさがある。これぞJ-POP!と言いたくなる名曲。


「マーマレードガール」はロック色の強めなミディアムナンバー。他の曲よりも重厚なバンドサウンドが展開されているが、メロディーはあくまでポップ。イントロや甘く美しいメロディーはTodd Rundgrenの「I Saw the Light」を彷彿とさせる。
歌詞は恋人への想いが綴られている。「そして時が経ってゆく程に 全てが色褪せても 変わらない君でいて」というサビの歌詞が好き。幸せそうなはずなのに、どことなく儚さが感じられるのは何故だろう。
この時期の堂島特有のソフトロック志向が強く現れた曲という印象。


「恋はラベンダー」は懐かしさを感じさせるポップナンバー。一聴しただけで口ずさめるようなサビが見事。メロディーだけでは飽き足りなかったのか、イントロからしてキャッチーな仕上がり。チープな響きのキーボードで構成されたイントロなのだが、それが曲の魅力を引き出している。
歌詞は恋人のもとへ向かおうとしている青年を描いたものだろうか。それだけでは普通のラブソングになりそうなのだが、花を取り入れたことでとてもロマンティックな歌詞となっている。
初めて聴いた時はこの曲がシングル曲かと思ってしまったことを覚えている。


「ノーベンバー」はここまでの流れをぐっと落ち着けるバラードナンバー。切なく美しいメロディーが全編に渡って展開されている。美しさのあまり、聴いていると思わず「…ああ…」と声を漏らしてしまう。ピアノ主体のアレンジはこれ以外無い!と言いたくなるほどこの曲に合っている。後半の盛り上がりも素晴らしい。
歌詞は別れた恋人のことを一人部屋で待ち続ける青年を描いている。「心の片隅で思い出してよ ここに僕がいることを」というサビ終わりの歌詞が何とも悲しい。ここまで幸せなラブソングが並んできただけに、一際虚しい歌詞。
今作の中では割と地味な曲だと思うが、それでも好きな曲。隠れた名バラードだろう。


「ミルキーウェイ」は前の曲から一転して、爽快なポップナンバー。サビは当たり前のようにキャッチーにまとめられている。サビのメロディーはどこまでも広がっていくような感覚があり、何度も聴きたくなる。骨太なバンドサウンドとピアノの絡んだサウンドはメロディーやボーカルに寄り添うかのよう。
歌詞はロマンティックな世界観を持ったもの。「見るモノ全てに愛を捧げよう 素敵さ 素敵さ この世界はワンダー」という歌詞は多幸感が突き抜けている。
ポップさや曲全体から溢れる多幸感のせいか、小沢健二の「LIFE」を聴いているような感覚になる。


「オードリー(Type 2)」は先行シングル「忘れないでいるから」のC/W曲の別バージョン。どことなく切なさを漂わせたポップナンバー。跳ね上がるようなサビがポップそのもの。ピアノを前面に出した素朴なアレンジが曲の雰囲気に合っている。
歌詞は「オードリー」への想いが綴られたラブソング。既に亡くなったことを思わせる歌詞がところどころに登場するのが特徴。オードリー・ヘップバーンのことなのか、その名前を使っただけなのかはわからない。
C/W曲のバージョンは聴いたことが無いので、いずれシングルを入手したいと思う。


「迷子の天使」は今作の中では割とロック色が強めな曲。とはいってもギターサウンドやドラムだけで、メロディーやボーカルは相変わらずポップ。美しく耳に残るサビには聴き惚れるほかない。
歌詞の意味ははっきりとわからないが、毒気のある言葉が並んでいるのが印象的。「静かに眠る街並みに 太ったサソリをバラまきたい」という歌い出しのインパクトは相当なもの。この曲に限ったことではないが、一つ一つの言葉が一切の無駄なく並べられている感覚があってそれが聴いていてとてもクセになる。
前作辺りから歌詞に毒気のある曲が出てきたが、今作ではこの曲がその枠と言える。


「忘れないでいるから」は先行シングル曲。哀愁を漂わせたメロディーがたまらないミディアムナンバー。こうした曲でもやはりキャッチーなメロディーであるのは変わらない。ラスサビ前での畳み掛けるような部分は聴きどころ。トランペットがイントロや曲の随所に使われており、その明るい音色がメロディーの哀愁を演出している。
歌詞は別れた恋人への想いが綴られている。「もどかしさに壁を蹴っても 痛がってこらえてみても 何も変わらない もう帰らない」「サヨナラも言わずに いなくなった君を」といった歌詞からは喪失感や悔しさが溢れ出している。
ポップなのはもちろんだが、それ以上に切なさに振り切った感覚がある名曲。


「疾走の彼方」はタイトル通りの疾走感を持ったミディアムナンバー。爽やかかつ訴求力のあるサビに心を掴まれる。また、サビで一気に音の数が増えて盛り上がっていく構成が印象的。何となく聴いていても複雑そうに感じる曲なのだが、それでも聴き心地良くまとめられているのが凄いところ。
歌詞は何かに向かって走り続けているようなイメージがある。「ちぎれたってかまわないのさ」「今は何も知らないままに 真っ逆さまに堕ちてゆくのさ」といった歌詞がいつになく力強く響く。
アルバムの終わり際になってこのような曲を出してくる演出が見事。ライブのような曲順だと思う。


「素敵な地上の夜」は今作のラストを飾る曲。タイトルは小沢健二の「地上の夜」を彷彿とさせる。 2分50秒ほどの短めなポップナンバー。無条件で気分が明るくなるようなサビがたまらない。サウンド面では、スレイベル(ジングルベル)が使われているのが特徴。クリスマスの要素は無いのに、その音だけでそれらしさが出ている。
歌詞は少年時代を回想したもの。「トンボの飛ぶ夕焼けや あの日見てた小さな世界は ああ いつの間にか崩れちまった 夜が怖いとは思えない」という歌詞には深く共感した。今作リリース時点での堂島の年齢に近付いたからだろうか。
最後まで一貫してポップで終わるところには脱帽するほかない。


あまり売れた作品ではないので、中古屋では時折見かける程度。
現在もシンガーソングライターとしてだけでなく、楽曲提供やプロデュースでもそのメロディーセンスを発揮しているが、この時期は特に神懸かり的な雰囲気さえある。どの曲もとにかくメロディーが強い。久し振りに聴き直して、ここまで良かったかと思ってしまった。
一曲単位では前作「トゥインクル」や6th「黄昏エスプレッソ」の方に好きな曲が集まっているのだが、今作は全体としてのまとまりがとても良い。
今作のみならず、2nd「陽だまりの中に」〜5th「Emerald 22 Blend」は過小評価されている90年代J-POPの名盤と言っていい。

​★★★★★