ハジマリノウタ
いきものがかり
2009-12-23




ストリーミング配信について…Spotify,LINE MUSIC, Apple Music, Amazon Music, AWAでの配信を確認。

【収録曲】
全曲作詞作曲 山下穂尊
3.4.5.7.9.作詞作曲 水野良樹
12.作詞作曲 吉岡聖恵
1.9.編曲 島田昌典
2.編曲 湯浅篤
3.編曲 田中ユウスケ・近藤隆史
4.編曲 松任谷正隆
5.6.8.編曲 本間昭光
7.編曲 江口亮
10.編曲 中村タイチ
11.編曲 ヒダカトオル
12.編曲 西川進
13.編曲 住友紀人
7.ストリングスアレンジ クラッシャー木村
12.ストリングスアレンジ eji

1.ハジマリノウタ〜遠い空澄んで〜 ★★★★★
2.夢見台 ★★★★★
3.じょいふる ★★★★☆
4.YELL ★★★★☆
5.なくもんか ★★★★☆
6.真昼の月 ★★★★☆
7.ホタルノヒカリ ★★★★☆
8.秋桜 ★★★☆☆
9.ふたり-Album Version- ★★★☆☆
10.てのひらの音 ★★★★★
11.How to make it ​★★★☆☆
12.未来惑星 ​★★★☆☆
13.明日へ向かう帰り道 ★★★☆☆

2009年12月23日発売
エピックレコードジャパン
最高位1位 売上55.4万枚

いきものがかりの4thアルバム。先行シングル「ふたり」「ホタルノヒカリ」「YELL/じょいふる」「なくもんか」を収録。前作「My song Your song」からは1年振りのリリースとなった。初回盤は三方背BOX入り仕様、ライブDVD、別冊ブックレット、いきものカード017が付属。

今作は前作「My song Your song」に続いてチャート1位を獲得したほか、3週連続1位を達成した。

今までの3作であったC/W曲の収録や、シングル表題曲のアコースティックバージョンの収録は今作では行われていない。水野はシングル表題曲のみ作曲を担当しており、アルバム曲は全て山下と吉岡が作曲を担当した。


「ハジマリノウタ〜遠い空澄んで〜」は今作のオープニングを飾るタイトル曲。どこか懐かしくも力強いメロディーが心地良いバラードナンバー。サビの広がり方がたまらない。ピアノとストリングスを主体としたサウンドはメロディーを包み込むかのよう。
歌詞はメッセージ性の強いもの。彼らなりの決意表明のようなイメージがある詞世界となっており、吉岡の真っ直ぐなボーカルが言葉の強さをさらに高める。
ラストの曲でも全く違和感の無いような壮大な曲で始まる。いつになく重いオープニングとなった。


「夢見台」は前の曲から一転して、爽快なポップナンバー。イントロからして圧倒的な高揚感があり、すぐに心を掴まれてしまう。曲のどこを取ってもポップかつ王道。キレの良いギターサウンドがフィーチャーされたアレンジで曲の爽快感を演出する。
タイトルは「夢が見える高台があればいい」という山下の想いが反映されたものだが、歌詞も夢や未来に対する想いが綴られたものとなっている。
シングル並かそれ以上のこの曲をアルバム曲にしてしまうところに当時のいきものがかりの勢いを感じる。「ハジマリノウタ〜遠い空澄んで〜」よりもこちらの方がオープニングというイメージがある。


「じょいふる」は先行シングル曲。江崎グリコ「ポッキー」のCMソングに起用された。「YELL」とは両A面。シングル曲としてはいつになく弾けた印象のあるポップナンバー。好き嫌いを抜きにして耳に残る圧倒的な強さを持ったサビは代表曲の風格がある。パワフルなバンドサウンドとホーンによって、タイトル通りの楽しげなサウンドに仕上がった。
歌詞は語感やノリの良さを重視しており、意味を持たせていない感じ。歌ったことが無くても歌いにくそうだとわかるほどだが、普通に歌っているように聴こえてしまう。吉岡のボーカルの安定感はやはり凄い。
世代的なものなのか、PVよりも先にCMの映像が脳内で浮かんでくる。


「YELL」は先行シングル曲。NHK『みんなのうた』の2009年8月〜9月度の曲、2009年度のNHK全国学校音楽コンクール中学校の部の課題曲に起用された。静かながらも力強さのあるバラードナンバー。誰もが歌いやすいような親しみやすさとわかりやすさを持ったメロディーとなっている。ピアノとストリングスで曲の壮大さを演出する。
歌詞はメッセージ性の強いもの。10代半ばくらいの頃にありがちな悩みや迷いを描いたものだと解釈している。この曲を合唱する生徒の世代に向けているような感じ。
中学時代の合唱コンクールでこの曲がかなり人気だったことを思い出す。これを歌えたクラスが入賞できるという風潮があったような…


「なくもんか」は先行シングル曲。映画『なくもんか』の主題歌、はたらいくのCMソングに起用された。ノスタルジックな雰囲気を持ったバラードナンバー。派手に盛り上がるわけではないが、それでもサビは当たり前のようにキャッチーにまとめられている。柔らかい音使いでメロディーやボーカルを包み込むようなイメージのアレンジである。
歌詞はラブソングの形を取りつつも、内省的なメッセージが綴られたもの。それでも前向きな感じで終わる。
そこまで似た曲ではないと自分でも思うのだが、「帰りたくなったよ」とごっちゃになった挙句、サビで「こっちか〜!」となる現象を毎回のように起こしてしまう。


「真昼の月」はどことなくシリアスな雰囲気を漂わせたバラードナンバー。TBS系ドラマ『BUNGO-日本文学シネマ-』の主題歌に起用された。初めて聴いても懐かしいと感じてしまうようなメロディーが展開されている。タイアップ相手に沿ったのか、どことなく和風なアレンジがされているのが特徴。
歌詞は幻想的な世界観を持ったもの。元々山下はあまり歌詞に使われないような日本語を使う癖?があると思うのだが、この曲ではそれが遺憾無く発揮されている。明治〜大正時代の日本文学のようなイメージがある詞世界となった。
シングル曲に挟まれていても埋もれない存在感が見事。


「ホタルノヒカリ」は先行シングル曲。テレ東系アニメ『NARUTO -ナルト- 疾風伝』のオープニングテーマに起用された。ここまでの流れを変えるような、爽快感のあるポップナンバー。すぐに馴染むキャッチーなサビはアニメタイアップにふさわしい強さがある。バンドサウンドの他にストリングスがフィーチャーされており、ここまで華やかかつポップなストリングスの使い方ができるのかと驚かされる。
歌詞は「儚さ」をテーマにしたラブソングと言ったところだろうか。それをホタルと重ねるようにして描いている感覚がある。
どうしても同じタイアップ相手の「ブルーバード」の印象の方が強くなってしまうのだが、こちらも割と好きな曲。


「秋桜」はインディーズ時代の1stアルバム「誠に僭越ながらファーストアルバムを拵えました…」の収録曲のリアレンジバージョン。昭和歌謡のような雰囲気を持ったミディアムナンバー。哀愁を帯びた懐かしい質感のメロディーが終始に渡って展開されている。ハーモニカの使い方が絶妙で、メロディーの魅力をより引き出すような音色を聴かせてくれる。
歌詞はこれまた日本語の響きにこだわったような感覚のあるもの。許されない恋に落ちた女性の心情が綴られており、どこか艶っぽい詞世界となっている。
曲の方向性としては「真昼の月」と似ている感じがする。


「ふたり-Album version-」は先行シングル曲。TBS系ドラマ『ぼくの妹』の主題歌に起用された。シングルバージョンには無かったイントロが追加されたのが特徴。重厚感のあるバラードナンバー。この曲のメロディーも歌謡曲のような質感があり、どの部分も切なさに溢れている。サウンド面では、ストリングスが曲に緊張感を与えている。
歌詞は相手の気持ちを受け止め、慰めているようなイメージのあるもの。恋人や友人というより、タイアップ相手のような兄妹の関係を想像して聴いている。
これまでもバラードがシングルになっていたが、それらよりもシリアスな雰囲気を持ったバラードに仕上がっていると思う。


「てのひらの音」は前の曲から打って変わって、楽しげな雰囲気に溢れたポップナンバー。曲の全体を通して明るく爽やかなメロディーが展開されている。ギター主体のシンプルなバンドサウンドが曲の爽やかさを引き立てる。「夏・コイ」と同じく、男性メンバーもボーカルに参加しているのがこの曲最大の特徴。二人とも中々の美声を披露している。
歌詞の意味をはっきりと掴みにくいものの、青春時代の思い出を回想しつつ、これからの日々への想いも綴られたものだと解釈している。
一曲単位で聴いてももちろん良いのだが、アルバムの流れの中で聴くと、ポップ性がさらに強調されるような感覚がある。


「How to make it」は前の曲に続いての爽やかさを持ったポップナンバー。言葉数が多く、言葉が詰め込まれたようなサビはかなり耳に残る。他の曲よりもシンセが前に出ている感じがするのだが、これはBEAT CRUSADERSのヒダカトオルが編曲を手がけたためだろうか。
いきものがかりとしては珍しく、英語詞が多く登場するのが特徴で、1番と3番のサビは全編英語詞。歌詞自体はこれからの日々への不安が描かれたもの。
王道のようでいて少しだけ外したような感覚があり、良くも悪くもアルバム曲ならではの立ち位置の曲という印象がある。


「未来惑星」は吉岡が作詞作曲を担当した曲。広がりのあるメロディーが心地良いバラードナンバー。水野・山下に負けず劣らずのキャッチーなBメロやサビが印象的。アコースティックなサウンドが主体だが、この曲でもストリングスがフィーチャーされており、曲に厳かな雰囲気を与えている。
歌詞は落ち込んでいる人を励ましているようなイメージのあるもの。吉岡自身で作詞したためか、他の曲にも増して優しく力強いボーカルを聴かせてくれる。
この曲を聴くと、吉岡がメロディーメーカーとしても成長していることが実感できる。


「明日へ向かう帰り道」は今作のラストを飾る曲。曲自体はインディーズ時代からあったという。フォークロック的なアプローチがされたバラードナンバー。懐かしさを感じさせる、聴き心地の良いメロディーを楽しめる。この曲でもストリングスが使われているが、アコギやハーモニカを始めとして柔らかい音が主体となっているのでそこまで壮大にはなっていない。
歌詞はタイトル通り、夕暮れ時の帰り道での光景を描いたもの。誰もがそれぞれにとっての帰り道を想像しながら聴けるような、繊細な描写がされている。
バラードで始まった今作はバラードで幕を下ろす。作風が徹底していることがわかる。


かなり売れた作品なので、中古屋ではよく見かける。
全体的にバラードの多い構成となっているが、それでもあまり聴き辛くなっていないのが今作の凄さ。それだけ各々のメロディーセンスが冴え渡っているということでもある。
作風の幅広さで言うならこれまでの作品の方が上だが、今までよりもさらにスケールが大きくなった作品だと思う。

​★★★★☆