Banding Together in Dreams
黒沢健一
2013-06-12



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【収録曲】
全曲作詞作曲 黒沢健一
2.6.9.バックグラウンドボーカルアレンジ 遠山裕
7.8.ストリングスアレンジ 遠山裕
プロデュース 黒沢健一・永井はじめ・遠山裕(except trk 10.)

1.Return To Love ​★★★★★
2.A Summer Song ​★★★★☆
3.So What? ★★★★☆
4.Rock’n Roll Band ★★★★★
5.Many Things ★★★★☆
6.The Moon & You ★★★☆☆
7.I’m In Love ★★★★★
8.Lay Your Hands ★★☆☆☆
9.Dreams ★★★☆☆
10.Goodbye ★★★☆☆

2013年6月12日発売
24th Floor RECORDS
最高位79位 売上不明

黒沢健一の5thアルバム。先行シングルは無し。前作「Focus」からは4年3ヶ月振りのリリースとなった。限定盤「Banding Together in Box」としてもリリースされた。

全員が集まって演奏した曲こそ無いものの、今作は嶺川貴子も含めたL⇔R時代のメンバー全員が参加して制作された。特に木下裕晴は10曲中6曲でベースを演奏している。ただ、最初から彼らに頼もうと思って制作したわけではなく、結果的にそうなったようだ。

今作のタイトルは黒沢曰く「何かまとまっている感じ」を表現しているという。そして、今作に対しては「このアルバムを聴いた人たちが一人じゃない気持ちになってくれたらいいな」「曲を通して気持ちの通い合いができたらいいな」というメッセージを込めているようだ。


「Return To Love」は今作のオープニング曲。爽やかなポップナンバー。ギターをかき鳴らしたイントロからして心を掴まれる。キャッチーかつ流れるように美しいサビには初めて聴いた時から魅かれた。ピアノとギターが前面に出たバンドサウンドがメロディーをさらに強めてくれる。
歌詞は「君」と再会した男性の想いが綴られたもの。ピュアな心情が描かれたラブソングだが、「リズム」「ビート」など音楽を思わせるフレーズが出てくるところに黒沢らしさを感じる。
バンドサウンド主体のポップスとして理想的な曲。黒沢健一のソロ作品の中でも屈指の名曲だと思う。


「A Summer Song」はウォール・オブ・サウンドの要素を取り入れたポップナンバー。ノスタルジックで切なさを漂わせたメロディーで聴かせる。爽やかなギターサウンドに加え、黒沢自身による凝ったコーラスワークが曲を盛り上げている。
歌詞はかつての恋人と過ごした夏の日を回想したものだろうか。「平気な顔で乗り切って それでも何か失って そんなぼくらの日々が 何時も時を灯す」という歌詞が好き。全体を通して、センチメンタルかつ優しさに溢れた詞世界となっている。
聴いているとそよ風が吹き抜けていくような感覚があり、それがたまらない曲。


「So What?」は凝った演奏が印象的なロックナンバー。キレのあるギターのカッティングと転がるようなピアノの音色が印象的。テンポは速いのに何故かゆったりとした曲調に感じられるのが不思議なところ。演奏の印象が強くなりがちだが、Aメロからしてキャッチーなメロディーが展開されている。
歌詞は恋人との関係の終わりを描いたものだろうか。「だから何?」という意味のタイトル通り、相手のことを突き放した部分と優しさを残した部分の両方があるところに生々しさを感じる。
黒沢のインタビューによると、この曲は参加ミュージシャンが一斉に演奏して一発OKだったという。彼らの実力には驚くばかり。


「Rock’n Roll Band」は音源化される前からライブで披露されていて人気があったという曲。切なさを帯びたメロディーで聴かせるミディアムナンバー。タイトルから想像するような激しさや爽快感はあまり無いものの、余計なものを一切取り払ったシンプルなバンドサウンドが潔い。また、嶺川貴子がコーラスで参加している。
歌詞は昔好きだったロックンロールバンドが地元に来たことで、かつての恋人や仲間との日々を回想する…というのものだろうか。叙情的かつ前向きな詞世界となっており、リスナーとしての黒沢の一面が表現されている印象がある。
40代を迎えた黒沢だからこそ書くことができた名曲だと思う。


「Many Things」はAORテイストの演奏で聴かせるミディアムナンバー。黒沢秀樹によるギターのカッティングやサックスが主体となっており、アダルトな雰囲気を持ったサウンド面となっている。気だるさを感じさせる曲調がそうしたサウンドによく似合う。
歌詞は恋人との日常をどこかシニカルに描いたもの。 「のべつまくなし」というフレーズが多用されているのが印象的。中々歌詞に出てくるような言葉ではないと思う。
L⇔R時代も含めて、この手のアプローチがされた曲は珍しい印象。ありそうで無かった曲と言ったところ。


「The Moon & You」は前の曲からの流れをさらに落ち着けるバラードナンバー。ゆったりとした曲調には身を委ねたくなるような心地良さがある。夜の中に溶けていくような甘く美しいメロディーとボーカルには聴き惚れるのみ。力強いバンドサウンドも心地良さを演出する。
歌詞はタイトル通り、恋人と過ごす夜を描いたもの。「Tonight」ではなくスラングでのスペル「Tonite」と表記されているのが特徴。この辺りは黒沢のこだわりが出ているように感じる。
ここまで夜を想起させるような曲は意外と少なかったように思う。


「I’m In Love」は前の曲から一転して、爽やかなポップナンバー。聴く度に心に深く沁みていくような美しいメロディーがたまらない。バンドサウンドとストリングスを織り交ぜたサウンドは聴き手を包み込むかのよう。この曲でも嶺川貴子がコーラスで参加している。
歌詞は恋人への想いがストレートに綴られたもの。全体的に微笑ましいほどにピュアな心情が描かれている中で、「どんな風に君を笑わせるかだけを 考えてこの時を風に任せてみよう」という歌詞が好き。
「Return To Love」と並び、純度の高いポップスという感じ。活動末期の名曲の一つ。


「Lay Your Hands」は配信限定アルバム「LIVE2011 NEW DIRECTION」に収録されていた曲のアルバムバージョン。ピアノやストリングスを主体とした静謐なバラードナンバー。繊細さを持った美しいメロディーで聴かせる。また、ピアノを始め、一つ一つの音が粒のようになって聴こえる感覚がある。
歌詞は少々難解だが、迷いから立ち直ろうとする人を描いたものだと解釈している。
この曲では、黒沢の低音ボーカルが非常に魅力的。この時期の歌声がこの曲によく似合うと思う。


「Dreams」は前の曲に続いてのバラードナンバー。今作のタイトル曲といえるかもしれない。優しく穏やかなメロディーで聴かせる。ピアノと多重録音コーラスのみで構成された極めてシンプルなサウンドながら、この曲にはこれ以外無いと思わされる。
歌詞は一日の終わりを想起させるもの。良いことがあった日も悪いことがあった日も全てを優しく包み込んでくれるようなイメージのある詞世界となっている。
多重録音のアカペラで制作された「Alone Together VOLUME ONE」の経験が活かされた曲という印象がある。


「Goodbye」は今作のラストを飾る曲。2分ほどの短い曲で、菊池真義によるアコギをバックに歌われる素朴なバラードナンバー。ノスタルジックな雰囲気を持ったメロディーで聴かせる。
歌詞はタイトル通り別れをテーマにしつつも、再会の可能性も含ませたものとなっている。季節を特定する言葉は無いのだが、何故か冬の終わり〜春の始まりくらいの時期をイメージして聴いている。
アルバムのラストというポジションに配置することを前提として作られたというだけあって、この位置がよく似合う。そして、生前最後のオリジナルアルバムのラストがこの曲ということに不思議な繋がりを感じる。


様々な音楽を取り入れてきた黒沢だが、結果的に生前最後のオリジナルアルバムとなった今作は、彼のルーツと言えるアメリカンポップス・ロックに傾倒した作風となった。
聴き手や聴く状況を選ばない、純度の高いポップスが終始並んでいる。36分というコンパクトな収録時間も相まって、何度も聴きたくなるような魅力がある。
そして、卓越したメロディーセンスは不変だったことがわかる。今作の続きを聴きたかった…

★★★★★