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【収録曲】
全曲作詞作曲 梶浦由記
2.4.6.8.作詞 石川千亜紀
4.8.作曲 西岡由紀子
6.作曲 梶浦由記・石川千亜紀
1.4.5.6.7.編曲 土屋学
2.8.9.10.編曲 小西貴雄
3.11.編曲 坂本昌之
6.ストリングスアレンジ 溝口肇
コーラスアレンジ See-Saw
プロデュース Satoshi Tanaka(漢字表記不明)

1.Swimmer ★★★★★
2.La La Africa ★★★★☆
3.かくれんぼ ★★★★☆
4.Timecard Love ★★★☆☆
5.Heaven ★★★☆☆
6.キライになりたい-Snow Drop Version- ★★★★☆
7.うた ​★★★☆☆
8.永遠 ★★★★☆
9.不透明水彩絵具 ​★★★★☆
10.遠いティンパニ ★★★★★
11.心の絵本 ​★★★★☆

1993年9月26日発売
2020年6月10日発売(「See-Saw Complete Best See-Saw-Scene」)
ファンハウス
最高位不明 売上不明

See-Sawの1stアルバム。デビューシングル「Swimmer」を収録。今作と同日にシングル「キライになりたい」がリリースされた。

See-Sawはボーカルの石川千亜紀(石川智晶)・キーボードの梶浦由記からなるユニット。
前身となったのは15 SAND(いちごさんど)というバンド。これは今作リリース当時在籍していたベースの西岡由紀子が高校時代に石川の姉らと共に結成した6人組バンド。そこに梶浦がキーボードとして加入、後に石川がボーカルとして加入した。

今作は3人体制でリリースされた唯一のアルバムである。西岡は1994年、3rdシングル「Chao Tokyo」をリリース後に脱退することとなる。


「Swimmer」はデビューシングル曲。爽快なポップナンバー。しっとりとした歌い出しから一転して明るい曲調へと変貌を遂げる。石川の突き抜けるような高音が冴え渡るサビは圧巻。かなりの高音なのだが、それを見事に歌いこなしているのが凄い。派手な音色のシンセが前面に出たサウンドがメロディーをよりポップなものにしている。
歌詞はタイトル通り「君」をスイマーに例えている。何かに向かってひたむきに努力を続ける人への応援歌のようなイメージがある。
曲全体を通して強いインパクトがあり、デビューシングルとしてはこれ以上無い曲だったと思う。


「La La Africa」は前の曲に続いての爽やかなポップナンバー。開放的な雰囲気を持ったメロディーが展開されている。この曲のサビでも、石川によるパワフルなハイトーンを堪能できる。鋭いギターサウンドとシンセによるブラスがフィーチャーされたサウンドは非常に明るい。
歌詞は前向きなメッセージが並んだもの。タイトルに「Africa」と入っているだけあって、「シマウマ」「赤い土煙」「サバンナの青空」など、アフリカを彷彿とさせるフレーズが散りばめられているのが特徴。
曲全体にみなぎるテンションの高さが印象的。ライブで盛り上がる曲だったというのも頷ける。


「かくれんぼ」は穏やかな雰囲気を持った曲調で聴かせるポップナンバー。アマチュア時代からあった曲だという。サビはもちろんのこと、Aメロからしてよく耳に残る。柔らかい音色のシンセを主体としたアレンジでメロディーの魅力を引き立てている。
歌詞はセルフサービスのカフェを舞台にしたもの。そこで居合わせた人を観察している風景が浮かんでくる。OL時代の梶浦の姿が歌詞に反映されているように思う。
この曲については、可愛らしさの中にどこか気高さも感じられる石川の歌声が印象的。


「Timecard Love」は西岡が作曲を担当した曲。疾走感のあるポップナンバー。曲を通して勢いが落ちることなく、そのまま駆け抜けていくような感覚がある。重厚なシンセベースを始めとして、打ち込み主体のダンサブルなサウンドが展開されている。長めな間奏も印象的で、サウンド志向がうかがえる。
歌詞は社内恋愛をテーマにしたもの。タイムカードを押すと同時に、自身の恋を振り返りながら感傷に浸る姿が描かれている。
西岡も優れたメロディーメーカーだったことがよくわかる曲。


「Heaven」はここまでの流れを一気に落ち着けるバラードナンバー。広がりのあるメロディーで聴かせる。ピアノに加え、シンセによるストリングスもフィーチャーされているためか、壮大かつどこかファンタジックな雰囲気も感じられる。
歌詞の一人称は「僕」となっており、恋人への想いがストレートな言葉で綴られている。「君のいる場所が 僕のHeaven」というラストの歌詞は特に力強さがある。この曲での石川のボーカルは少年のような響きがある。
今作の中では、後の梶浦の作風に最も近い曲という印象がある。


「キライになりたい-Snow Drop Version-」は今作と同日にリリースされたシングル曲。今作収録にあたって、シンセドラムが生音のドラムに差し替えられているようだ。
ギラギラとした雰囲気を持ったポップナンバー。「スキ」「キライ」と花占いのように繰り返されるサビは一度聴けば忘れる方が難しいほど。オーケストラヒットや分厚いシンセベースが使われたサウンド面はダンサブル。
歌詞は恋人とのすれ違いを自覚しつつも、想いを断ち切れない女性の心情が綴られている。
1993年リリースの曲なのだが、サウンド面のせいか、もう数年前にリリースされた曲のような佇まいがある。


「うた」はデビューシングル「Swimmer」のC/W曲。素朴なポップナンバー。シンセ主体の明るいサウンドでメロディーを際立たせている。今作の中でも特に凝ったコーラスワークが印象的。普遍的な魅力を持った美しいメロディーと、メルヘンな雰囲気を持ったコーラスという組み合わせはSee-Sawならでは。
歌詞はタイトル通り、歌を歌うことそのものについて描かれている。See-Sawとしての決意表明のようにも感じられる。
「Swimmer」とは全く違ったアプローチがされており、音楽的な引き出しの多さをアピールするには打ってつけな曲だったと思う。


「永遠」は今作と同日にリリースされたシングル「キライになりたい」のC/W曲。TBS系ドラマ『泣きたい夜もある』の挿入歌に起用された。
西岡が作曲を担当した曲。しっとりとしたバラードナンバー。切なさを帯びた美しいメロディーで聴かせる。言葉数が多く、畳み掛けてくるような感覚のあるサビが印象的。サウンド面の主張は控えめだが、感情が爆発したような間奏のギターソロは聴きどころ。
歌詞は「永遠」をテーマに、恋人へのメッセージが綴られている。どこかアダルトな雰囲気を持った詞世界となっている。
「Timecard Love」とは真逆の方向性の曲となっており、振り幅の激しさに驚かされる。もう少し西岡が手掛けた曲を聴いてみたかった。


「不透明水彩絵具」は前の曲から打って変わってのポップナンバー。キャッチーかつノスタルジックな雰囲気を持ったメロディーがたまらない。鮮やかなシンセの音色で曲に彩りを添えている。この曲もギターソロが聴きどころ。
歌詞は「君」の心模様を知りたいと思う女性の心情が綴られている。タイトルに沿って、色を思わせるフレーズがいくつか登場するのが特徴。ロマンティックかつ可愛らしい詞世界となっている。
曲全体に漂う少女的な世界観に引き込まれる。この頃のSee-Sawにしかできなかったような曲だと思う。


「遠いティンパニ」は訴求力に溢れたメロディーで聴かせるミディアムナンバー。技巧的な部分を抜きにして、聴いていて単純に良いと感じられるようなメロディーである。曲を通して全く隙が無い。生音とシンセをバランス良く織り交ぜたアレンジでメロディーの魅力をより引き出している。
歌詞はファンタジックな世界観を持ったもの。タイトル通り、音楽や楽器をテーマにしたものなのだが、童話にでもありそうなイメージがある。こうした詞世界と石川のボーカルとの相性は非常に良い。
この曲はメロディーが自分好み。初期のSee-Saw屈指の名曲だと思う。


「心の絵本」は今作のラストを飾る曲。前の曲からの流れをさらに落ち着けるバラードナンバー。石川の伸びやかなボーカルが映えるメロディーで聴かせる。ピアノを始めとした生音に加えてストリングスも使われており、豪華なサウンド面となった。上質かつドラマティックな盛り上がりを見せる。
歌詞は内省的なメッセージが込められたもの。この曲では「不透明水彩絵具」以上に色を思わせる言葉が多く使われている。聴き手それぞれの心象風景を思い浮かべられるような詞世界となっている。
壮大かつ聴き手を包み込んでくれるような優しさに魅かれた。この曲はラストという位置がよく似合う。


オリジナル盤は長らく高騰していて入手困難だったが、現在ではベスト盤「See-Saw Complete Best See-Saw-Scene」に全曲が収録されているので、特にこだわりが無ければそちらを入手することをおすすめする。

See-Sawおよびそのメンバーは後にアニメ関連で知られるようになるが、今作は同時代のガールポップ的な作風。アニメ関連のイメージを持って聴くとかなり違和感があると思う。むしろ自分はこの時期のSee-Sawの方が好き。
とはいえ、メンバーそれぞれが実力を存分に発揮した、1stアルバムにして充実感のある作品である。

​★★★★☆