小沢健二
1994-08-31


【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 小沢健二 
6.作詞作曲編曲 小沢健二/光嶋誠/松本真介/松本洋介
9.オルゴール編曲 服部隆之
2.3.7.8.管編曲 小沢健二・北原雅彦 
2.5.7.8.弦編曲 服部隆之
プロデュース 小沢健二 
6.プロデュース 小沢健二&スチャダラパー 

1.愛し愛されて生きるのさ ★★★★★+2
2.ラブリー ★★★★★
3.東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディー・ブロー ★★★★☆
4.いちょう並木のセレナーデ ★★★★★
5.ドアをノックするのは誰だ? ★★★★★
6.今夜はブギー・バック(nice vocal) ★★★★☆
7.ぼくらが旅に出る理由 ★★★★★
8.おやすみなさい、仔猫ちゃん!★★★☆☆
9.いちょう並木のセレナーデ(reprise) 省略

1994年8月31日発売
イーストワールド/東芝EMI
最高位5位 売上78.0万枚 

小沢健二の2ndアルバム。先行シングル「今夜はブギー・バック(nice vocal)」「愛し愛されて生きるのさ/東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディー・ブロー」を収録。今作発売後に「ラブリー」「ドアをノックするのは誰だ?」「ぼくらが旅に出る理由」がシングルカットされた。前作「犬は吠えるがキャラバンは進む」からは11ヶ月振りのリリースとなった。LPレコード盤も発売された。

今作は前作のフォーク・ロック主体の重い内容とは打って変わって、ソウルやヒップホップを取り入れたポップスを主とした内容である。出世作と言える「今夜はブギー・バック」を収録し、自身最高のセールスを記録したヒット作。
東京スカパラダイスオーケストラのメンバーが演奏、アレンジに参加しており、ホーンセクションを使用した曲が多い。

今作は「小沢健二」「オザケン」へと姿を変え、王子様キャラとしてブレイクしていく過程のアルバムである。そのため、ポップなラブソングが大半を占めている。楽曲そのものもそうだが、詞世界に於いても大きな変化を遂げている。前作では内省的でメッセージ性の強い歌詞が目立っていたが、今作ではひたすらにポジティブで多幸感に溢れた詞世界が展開されている。当時のリスナーは前作から今作への変貌をどう受け止めたのだろうか?まるで別人になってしまったかのような変貌振りである。そして、それくらいの変化をいとも簡単にしてしまう小沢健二の卓越したセルフプロデュース能力にも圧倒される。

タイトルの「LIFE」は「生活」「人生」といった意味があるが、本人曰く「法律用語のライフ契約から取った」とのこと。どうやらこのライフ契約というものは「存続」を意味しているらしく、「生きている限り続いていくもの」というような意味合いがあるようだ。そのためか、「続いていく」というような歌詞が多い。


「愛し愛されて生きるのさ」は今作のオープニングを飾る先行シングル曲。2004年にはカゴメ「野菜生活Soft」のCMソングに起用された。爽やかなギターサウンドで彩られたポップナンバー。ギターはここまでポップさを演出する音色を出せるのか!と思うほどに爽やかな音色である。ギターが主体となったアレンジではあるが、その脇で浮遊感を演出するエレピも存在感を放っている。思わず身を委ねたくなってしまうようなメロディーがたまらない。軽快ながらもシンプルでポップなメロディーの中に歌詞が詰め込まれている。語りの部分があるが、カラオケではそこも恥ずかしがらずにしっかり語るのが大切である。
歌詞は青春時代を振り返りつつも、恋人のもとへ急いで向かう青年の姿も描かれている。「いつだって可笑しいほど誰もが誰か 愛し愛されて生きるのさ それだけがただ僕らを悩める時にも 未来の世界へ連れてく」というフレーズは人を愛することの素晴らしさを伝えられているかのような力強さがある。
管理人はこの曲に関しての思い入れが深い。応援歌らしい歌詞は何にも無いのに、何故か高校受験の日にこの曲を歌いながら会場に向かったことを覚えている。高校に通い始めてからも、しばらくこの曲を口ずさみながら登校していた。新しい環境に入っていくことに対して不安を抱いていた当時の管理人を優しく包み込んでくれた曲だと思う。恐らくこれからの人生で何度もこの曲に助けられるはず。この曲と共に「未来の世界へ駆けてく」つもりだ。


「ラブリー」は今作発売後にシングルカットされた曲。資生堂「ヘアエッセンスシャンプー」のCMソング、日本テレビ系番組『落下女』のオープニングテーマに起用された。ソウルのテイストを盛り込んだサウンドが展開された、どこまでも突き抜けるようなテンションがあるポップナンバー。小沢健二の代表曲と言ってもいいかもしれない。イントロのギターのカッティングやホーンから聴き手の高揚感を煽ってくる。手拍子もまた、聴き手の気持ちを高めるのに一役買っている。最早躁状態なのではないか?と思ってしまうほどにポップでキャッチーなメロディーや小沢健二のボーカルは中毒性を生んでいる。7分半ほどある長尺な曲なのに何度も聴きたくなってしまう。恐ろしい。
歌詞は恋人と過ごすことへの期待や喜びが描かれている。「君と僕とは恋に落ちなくちゃ」と堂々歌い上げるその姿と言葉にはドン引きを超えて感嘆してしまう。どこまで自分自身と相手を愛することができればそのような言葉を放てるのだろうか。自分に自信を持てないタイプの人間である管理人には眩しいばかりである。何度も繰り返し歌われる「LIFE IS COMIN' BACK」というフレーズは今作の世界観を象徴するようなものだと思う。人を愛することのみならず、生きていることへの喜びに満ちたフレーズである。


「東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディー・ブロー」は先行シングル曲。「愛し愛されて生きるのさ」とは両A面シングルだった。独特なタイトルがインパクト抜群だが、これは小沢健二の楽曲の中で最もタイトルが長い。ボサノバにソウルのテイストを織り交ぜたようなサウンドが展開されたポップナンバー。サウンド、メロディー共にかなり洋楽のテイストが強いのだが、それでもJ-POPらしさが感じられる。洋楽と邦楽を共存させる優れたバランス感覚は小沢健二のみならず、渋谷系音楽に共通している要素と言える。メロディーに絡みつくようなホーンの音色は曲をより楽しげなものにしている。歌詞はタイトルからも想像できるように、東京を舞台にしたラブソング。当時の東京の光景が浮かんでくるような詞世界が繰り広げられている。「恋人たちの時間は言ってみりゃボディー・ブロー 互いに覚悟決めたら口づけをかわそう ドミノ倒しがはじまりゃ 甘くとろけるよう こんな恋を知らぬ人は 地獄へ落ちるでしょ」という歌詞は恋人のいない方には文字通りボディーブローのように心に効いてくるはず。かくいう管理人もこの歌詞にやられてしまった。曲全体を通して浮かれているような雰囲気があるのだが、不思議とその雰囲気がクセになる。


「いちょう並木のセレナーデ」は今作発売後にシングル「さよならなんて云えないよ」のC/W曲としてシングルカットされた曲。シングルカットされたのは武道館ライブで演奏された際の音源。今作に収録されているのもライブ音源であり、スタジオレコーディングによる音源は無いようだ。管理人は小沢健二の生歌がどうなのか心配だったのだが、かなり安定していて驚いたことを覚えている。
曲自体はここまでの明るい流れをぐっと落ち着けるような、しっとりとしたバラードナンバー。タイトルは原由子の同タイトルの曲から拝借したものと思われる。アコギが主体となっており、フォーク色の強いアレンジとなっている。叙情的な音色のアコギはメロディーそのものから漂う切なさを引き立てている。ライブ音源のためか、温かみも感じられるのが魅力。歌詞はカップルが別れる姿を描いたもの。「晴海埠頭を船が出てゆくと 君はずっと眺めていたよ そして過ぎて行く日々を ふみしめて僕らはゆく」という歌詞が一番好き。管理人は晴海埠頭に行ったことも無いのだが、とても懐かしい光景のように感じられる。
それにしてもこの曲、今作の中では明らかに他の曲とは異なる雰囲気を醸し出している。しっとりとしたバラード、少ない音の数、失恋を描いた歌詞… しかも収録されているのが9曲中の4曲目。何故そのような曲をアルバムの真ん中に据えたのかがとても気になる。生きていく上で、幸せなことだけが起こるというのは決して無い。この曲は幸せが続いた後にやって来る悲しみとの向き合い方や、時に悲しみが美しいものに感じられることを教えてくれる。


「ドアをノックするのは誰だ?」は今作発売後にシングルカットされた曲。前の曲から一転して、再びの多幸感に溢れた曲。この演出には聴く度に「やられた〜っ!」と思ってしまう。分厚いストリングスから始まるイントロは突き抜けるような明るさと華やかさがある。焦燥感のあるアコギの音色と浮遊感のあるキーボードの音色との絡みはとても心地良い。この曲は何と言ってもテンションの高いサビが聴きどころ。サビは字余り気味な歌い方がされているが、それすら気にならないほどの圧倒的なテンションの高さ。もはや曲のキャッチーさを引き立てる要素にまでなっている。そんな早口で歌われるサビの歌詞は「誰かにとって特別だった君をマークはずす飛び込みで僕はサッと奪いさる」つまり、略奪である。それをキャッチーかつ爽やかに歌い上げてしまう小沢健二には脱帽。季節ごとの情景を美しく描きつつも、恋人のいない人には恐ろしい程にラブラブな姿が描かれている。「幸せだけでI'm sorry 僕の簡単単純なメモリー」という歌詞はそれが顕著に感じられる。「王子様」と化してしまった小沢健二には相手を恐れる心は無いのだろう。「君」と「僕」だけの世界なのでは?と思ってしまうほど。


「今夜はブギー・バック」は先行シングル曲。池袋『P'PARCO』のキャンペーンCMソングや、フジテレビ系番組『タモリのスーパーボキャブラ天国』のエンディングテーマに起用された。その他にも数多くのタイアップがされていたり、様々なアーティストにカバーされていたりと小沢健二の代表作と言える存在の曲。スチャダラパーと組んだ曲である。「featuring」という概念を日本の音楽界に定着させ、EAST END×YURIの「DA.YO.NE」と共に日本でヒップホップが受け入れられる元になった曲と言える。
どことなく耽美的で気だるい雰囲気を持ったメロディーやサウンドが展開されている。ヒップホップに詳しくない人が聴いても良いと感じられるような、わかりやすくてキャッチーな味付けがされていると思う。軽快なラップは思わず口ずさんでしまうようなインパクトがある。歌詞はクラブを舞台に、出逢った女性の一夜限りの愛を育もうとする青年を描いたもの。今作に収録されているラブソングは恋人とデートしているような光景が想像できるものだが、この曲だけはその先の段階である「夜」をイメージさせる歌詞となっている。この曲の歌詞で一番印象的なのは 「心がわりの相手は僕に決めなよ」というフレーズ。管理人にとって、「いつか実際に言ってみたいが、きっと無理だろうなと思う歌詞」というポジションにある。もしもそのようなテーマでランキングを組むなら間違いなく一位になる。
この曲単体で聴くなら名曲だと思うのだが、今作の中だとかなり浮いている印象がある。やはり「夜」のイメージがあるからだろうか。


「ぼくらが旅に出る理由」は今作発売後にシングルカットされた曲。フジテレビ系ドラマ『将太の寿司』の主題歌、JR西日本『にっぽんさんぽ/新九州交響旅・長崎』のCMソング、ANA「2017年 夏の旅割」編のCMソングに起用されたほか、様々なアーティストによってカバーされている。シングルカットされたバージョンはシングルエディットとして、曲の長さが短くなっている。
高揚感溢れるブラスがフィーチャーされた爽やかなポップナンバー。東京スカパラダイスオーケストラのメンバーが大活躍している。ホーンの他にも流麗なストリングスやハープが取り入れられており、曲を華やかに彩っている。
歌詞はタイトル通り「旅」をテーマにしている。管理人はこの曲を聴くといつも何処かへ旅に出たくなってしまう。恋人が海外に一人旅に出た。それを待つ主人公は恋人の幸せを祈る…という姿が描かれている。この曲の歌詞で好きなのは「そして毎日はつづいてく 丘を越え僕たちは歩く 美しい星におとずれた夕暮れ時の瞬間 せつなくてせつなくて胸が痛むほど」という歌詞。ここまで日常や生きていることの美しさを実感させてくれる歌詞はそうは無い。「旅」の賛歌であり、人生の賛歌のようにも感じられる曲。


「おやすみなさい、仔猫ちゃん!」はここまでの流れを落ち着けるような、ゆったりとした曲。今作の中では「いちょう並木のセレナーデ(reprise)」を除くと唯一シングルカットされていない曲。聴いていると思わず眠くなってしまうような心地良さがある。バンドサウンドやホーンの使い方はどことなくAORのテイストを感じさせる。メロディーやサウンドは、歌詞にも登場する「ディズニー映画」を彷彿とさせるような優しさや温かみがある。
歌詞は「きれいな世界」の光景を描いたもの。寝る前に聴いたら良い夢を見られそうな詞世界である。後半からは子供たちによるコーラスが入ってくるのだが、それがとても可愛らしい。全編通して「甘ったるい」という言葉が合うような世界が広げられている。ちなみに、「仔猫ちゃん」というのは本当の猫のことではなく、小沢健二ファンの女性に対しての小沢本人の呼び方である。今作の中でも「王子様」としての小沢健二の姿が最も顕著に現れている曲だと思う。


「いちょう並木のセレナーデ(reprise)」は今作のラストを飾るインスト曲。「いちょう並木のセレナーデ」をオルゴールでアレンジしたもの。優しい音色は今作の終わりを美しく告げる。ちなみに、今作に収録されている曲は全て英語によるサブタイトルがついているのだが、「いちょう並木のセレナーデ」は「STARDUST RENDEZVOUS」。こちらは「AND ON WE GO」である。大体の意味は 「さあ行こう!」と言った感じ。そのようなタイトルで今作を締めるというのは上手い演出だと思う。


ヒット作ではあるが中古屋では人気が高く、見かけることは少ない。もし見かけてもそれなりの値段で出回っていると思われる。そのゆったりとした活動ペースのせいか、生ける伝説のような存在となってしまっている小沢健二だが、渋谷系音楽を語る上で彼の存在は欠かすことができないというのは言うまでもない。

全編通してどこまでもポップな作品なので小沢健二の入門にもぴったりだと思う。シングル曲や比較的知名度のある曲が多めなのでベスト盤も同然と言ったところ。ラブソングが殆どではあるが、恋人とは無縁な管理人でも楽しめてしまう。前述した通り、今作はとにかく多幸感に溢れている。暗い気持ちを吹き飛ばしてくれるような明るさも感じられる。管理人は今作を聴くたびにその多幸感を受け取ったような気分になる。
管理人にとっては気分が明るい時にも暗い時にも聴けてしまうアルバムである。いつ聴いても今作の世界に圧倒されてしまう。まさに管理人の「LIFE」と共にある作品と言っても過言ではない。是非とも今作を聴きながら街を見てほしい。平凡な日常が輝いて見えるような感覚を味わえるはず。今作は90年代J-POPシーンに燦然と輝く名盤である。

★★★★★+2