大江千里
2013-04-10

【収録曲】
全曲作詞作曲 大江千里
全曲編曲        大村雅朗
プロデュース 大江千里

1.きみと生きたい ★★★★★
2.コインローファーはえらばない ★★★☆☆
3.17℃ ★★★★☆
4.マリアじゃない ★★★★☆
5.去りゆく青春 ★★★★★
6.長距離走者の孤独 ★★★★☆
7.本降りになったら ★★★★☆
8.ゆめみるモダンクリスマス ★★★★☆
9.BOY MEETS GIRL ★★★★★
10.AVEC ★★★★★

1986年11月6日発売(LP、CD、CT)
1991年11月1日(CD再発)
2013年4月10日(Blu-Spec CD2リマスター盤再発)
EPIC/SONY RECORDS
GT Music(2013年再発盤)
最高位5位 売上約13.5万枚(合算)

大江千里の5thアルバム。先行シングル「きみと生きたい」を収録。
今作が初のセルフプロデュースによるアルバムとなる。今作に連動したツアーが大江にとって初の武道館ライブとなった。ジャケ写はパリで撮影されている。
アレンジャーとして大村雅朗が初めて参加した。大江の全キャリアを通じても楽曲のキレが素晴らしかった1980年代後半のアルバムで編曲を担当した。

非常に内省的な内容のアルバム。当時大江は心身共に辛い状況だったという。大江曰く「いつも死を意識していた」とのことで、最後になると思い、悔いの残らないような作品にしようと考えていたようだ。その答えが今作である。
バブルの幕開けと言えるリリース当時に時代に背を向けるような内省的なアルバムを発表した大江は先見の明があっただろう。
冴え渡る情景描写、複雑な心を繊細に紡ぎだした哲学的な詞… 詩人としての大江千里の到達点と言える。


「きみと生きたい」は先行シングル曲。タイトル通りの優しさに溢れた楽曲である。恋人への愛を誓う歌詞は感動させる。「きみに逢えてから本当の孤独が優しさにあると知ったよ」というサビの歌詞にはかなり衝撃を受けた。2014年には槇原敬之が「Listen To The Music 3」でカバーした。


「コインローファーはえらばない」はデビュー初期の雰囲気を持ったポップな一曲。ファッションの面でも注目を浴びていた大江ならではのおしゃれな歌詞が並ぶ。管理人がコインローファーという単語を知ったのはこの曲だった。1950年代のアメリカ東海岸の大学生の間で幸運のお守りとして流行した、甲の部分に1セント硬貨を挟む風習がコインローファーの由来だという。


「17℃」はカップルのすれ違いを描いた一曲。曲中に挟まれるギターの音色が印象的。情景描写がキレキレである。タイトルはよくわからない。どこかの平均気温なのか、カップルの気持ちの温度差の表現なのか?


「マリアじゃない」は微妙な関係の男女を繊細に描いた一曲。「苦しいくらい近くにいてせつないくらい遠くにいる」というサビの一節は何とも胸が痛めつけられる。大江の頼りないながらも絞り出すような印象のボーカルがこの曲の世界観を上手く作り上げている。


「去りゆく青春」はヘルマン・ヘッセの影響を受けて作られたという一曲。タイトル通り青春時代を回想する曲となっている。「男ユーミン」のあだ名があった大江らしい世界観の楽曲である。後半のジャズを思わせる展開は現在の大江に繋がっているようである。


「長距離走者の孤独」はアラン・シリトーの小説からタイトルを取った一曲。今作では数少ないポップな曲である。思春期の少年ならではの独特な焦燥感を切り取った歌詞が印象的。「自分以外の岸辺に橋を架けてみたい」という歌詞は当時の大江の思いがそのまま表現されているようである。


「本降りになったら」は同じレーベルで楽曲提供も行った渡辺美里とデュエットした一曲。雨が降る街の雰囲気が伝わってくるような曲。雨になると聴きたくなる。濡れたアスファルトの匂いも想像できる。


「ゆめみるモダンクリスマス」はタイトル通りクリスマスをテーマにしたポップな一曲。楽しいクリスマスのイメージに合った曲である。恋人だけでなく、全ての人の幸せを祈るような歌詞のため、クリスマスソングにありがちな特有のリア充感は無い。その辺りは槇原敬之の「雪に願いを」を髣髴とさせる。槇原はこの曲の影響を受けたのかもしれない。


「BOY MEETS GIRL」は学生時代の恋愛や友人を回想した一曲。これまた情景描写が冴え渡る。甘酸っぱい世界観は聴く度に胸が熱くなる。「変わらぬ理想を自分だけに恥じない歩き方で続けるよ」という歌詞は管理人がいつか言ってみたい歌詞のランキングで上位に来る。


「AVEC」はタイトル曲。「きみと生きたい」のC/W曲。社会派としての大江の姿が現れた歌詞が印象的。歌詞は深過ぎて今の管理人にはまだ理解できない。「リビアで午後始まった戦争は争いじゃなく隔たりじゃない よりそえぬ無邪気さのせい」という歌詞は今も世界で起こっている戦争の本質を突いているようである。リビアと聴くとつい頭の中で流れる曲。


CD時代初期の作品なので、音質が悪い。何故か中古屋だとそこそこ高い。2013年に発売されたリマスター盤で聴くことをおすすめする。


大江千里の文学的な世界を味わえる。今こそ評価されてほしいアーティストである。そんな大江の作品の中でも屈指の完成度を誇る一作。ベストの後のオリジナルアルバムとしてもおすすめできる。物想いに耽りたい方には是非とも聴いていただきたい。

★★★★★