SING LIKE TALKING
1993-02-25


SING LIKE TALKING
2015-02-11
(リマスター盤)



【収録曲】
全曲作詞 藤田千章
全曲作曲 佐藤竹善
1.6.11.作曲 西村智彦
全曲編曲 SING LIKE TALKING
12.ストリングスアレンジ LILI HAYDN with MARTIN TILLMAN
プロデュース Rod Antoon

1.encounterⅠ 省略
2.My Desire~冬を越えて~ ★★★★★
3.Fake It ★★★★☆
4.In The Rain ★★★★☆
5.今日の行方 ★★★★☆
6.encounterⅡ 省略
7.離れずに暖めて ★★★★★
8.Restless~君の許へ~ ★★★☆☆
9.Givin' Me All ★★★☆☆
10.Maybe ★★★★☆
11.encounterⅢ 省略
12.止まらぬ想い ★★★★★
13.Our Way To Love ★★★★★

1993年2月25日発売
2015年2月11日リマスター再発盤発売
ファンハウス
Ariola Japan(リマスター盤)
最高位1位 売上26.8万枚

SING LIKE TALKINGの6thアルバム。先行シングル「My Desire ~冬を越えて~」「離れずに暖めて」を収録。今作発売後に「Our Way To Love」がシングルカットされ、「In The Rain」がシングル「Standing」のC/W曲としてシングルカットされた。前作「Humanity」からは1年振りのリリースとなった。

SLTにとって初のオリコンアルバム1位獲得作。プロデューサーは前作に引き続きロッド・アントゥーンを迎えている。ロッド・アントゥーンは今作が最後のSLTのプロデュース作品となった。

佐藤竹善曰く、今作の制作にあたってはポピュラリティとマニアックさを併せ持った音楽を追求することを意識したという。これは前作のテーマだった「よりポップに、よりマニアックに」という姿勢が示されていると言える。

今作は全体的に前向きで明るい作風である。これは「出会い」を意味するタイトルにも現れている。藤田千章曰く「人との出会いや映画、音楽などの様々なものとの出会いを大切にしたい」という意味だけでなく、「自分と出会っていくこと」という意味も込められているようだ。自分の短所を認めていくこと。それが「自分と出会うこと」らしい。


「encounter Ⅰ」は今作のオープニング曲。スズキの「エスクード ノマド」のCMソングに起用された。ギタリストの西村智彦作曲によるインスト曲。アコギが主体となったサウンドが展開されている。暖かみのあるメロディーとサウンドが何とも心地良い。物語の始まりのような雰囲気のあるインストである。


「My Desire~冬を越えて~」は先行シングル曲。1996年に日産「ラルゴ」のCMソングとして起用された。軽快かつ壮大なポップナンバー。骨太なバンドサウンドと流麗なピアノとが絡み合ったサウンドはとてつもなく聴き心地が良い。サビはかなりキャッチーで、一回聴けばすぐに口ずさめそうなほど。ただの爽やかな曲かと思ってしまうが、この曲の背景にはSLT自身も強い影響を受けたTOTOのドラマー、ジェフ・ポーカロの急死がある。この曲はその一報を受けて追悼曲として発表された曲である。ジェフはSLTのデビューライブにも参加し、SLTの音楽性を評価していた。ちなみに、この曲のドラムはSLTのデビュー前に脱退した佐藤誠吾が演奏しているが、 そのドラムはSLTのデビューライブでジェフが使用したものだったという。歌詞はジェフへのメッセージのようになっている。「胸の吹雪なんてやがて晴れるから」というフレーズは力強さに満ちている。悲しみを乗り越えて前を向いて生きていく。SLTの強い決意がうかがい知れるような詞世界である。SLTの代表曲と言っていい存在の曲だが、その裏には大きな悲しみがあった。これは知っておかなければならない事実だろう。


「Fake It」はクールなファンクナンバー。どことなく久保田利伸を彷彿とさせる。サウンドはキーボードや打ち込みが多用されている。それらの音の使い方は1st〜3rdアルバム辺りの雰囲気を感じさせる。ファンクというよりはシティポップテイストの強いサウンドと言えるかもしれない。ドラムもシンセドラムによるものである。打ち込みではあるが、生音にも負けないグルーヴが作り出されている。そのようなサウンドでもサビはかなりキャッチーなもの。どこから出しているんだと言いたくなる、佐藤竹善によるハイトーンなファルセットには圧倒されてしまう。歌詞は情熱的なイメージのもの。藤田千章らしく少々難解な詞世界となっているが、メロディーとぴったり合っており、聴いていて気持ちが良い。 SLTの「格好良い」部分を見せてくれるような曲だと思う。


「In The Rain」は今作発売後にシングル「Standing」のC/W曲としてシングルカットされた曲。ミディアムテンポのしっとりと聴かせるバラードナンバー。サビまではキーボードが前面に出た落ち着いたサウンドで進んでいくが、サビになると一気にバンドサウンドが盛り上がっていく。間奏のギターソロは絶品。聴き手の心をぐっと掴むような力がある。サビを始め、心に優しく沁み渡るようなメロディーがたまらない。歌詞は恋人への想いをストレートに語ったもの。「こころが軋むたびに逸らさないで」というフレーズが印象的。お洒落で、美しく、優しい。メロディーや歌詞共に、SLTによるAORの王道と言えるような曲である。


「今日の行方」はアフリカの雰囲気を感じさせるバラードナンバー。この曲のライブ音源がシングル「みつめる愛で」のC/W曲として収録されている。イントロからコンガが使用されているほか、ジャンベやフィドルといった様々な民族楽器が使われている。サウンドだけでいうなら「La La La」の路線を引き継いだような感じがある。壮大なメロディーも相まって、何処までも広がるような大地に立っているような感覚になれる。コーラスワークもかなり凝っており、その点でも力強さを感じさせる。歌詞はメッセージ性の強いもの。「僕等は走り出せるよ たとえ 夜明けにとどかなくても」というサビの歌詞が好き。全編通してポジティブなフレーズが並んでおり、今作のテーマによく合った曲だろう。


「encounterⅡ」は再びのインスト曲。西村智彦による作曲である。前の曲と同じように、アフリカの雰囲気を感じさせるサウンドとなっている。ギターの他にもコンガのような音が使われている。自然をテーマにしたドキュメンタリー番組で使われていそうな曲である。


「離れずに暖めて」は先行シングル曲。TBSの番組『ムーブ』のエンディングに起用された。SLTのメンバーも出演していたようだ。どこまでもストレートでキャッチーなポップナンバー。SLTにしては異質だと感じてしまうほど。これまでのシングルと比べて売上も上昇し、SLTにとっての出世作と言える曲だろう。隙のないタイトなバンドサウンドと爽やかなメロディーとの相性は抜群。間奏のハーモニカソロも素晴らしい。イントロでの冬の寒さをイメージさせるようなシンセの音も絶妙。歌詞は恋人への想いを直球に言ったもの。「重ねた総てを使い果たしていいとさえ 云える その微笑み 応えたい」というサビの一節。恋愛の幸せな部分だけを切り取ったような美しい歌詞だと思う。耳の肥えたリスナーだけでなく、SLTについてよく知らない一般層も取り込めるような曲である。今作のセールスを牽引した曲と言えるかもしれない。


「Restless〜君の許へ~」はカントリーのテイストを感じさせるバラードナンバー。アコギが前面に出たサウンドが展開されている。この曲ほどアコギがフィーチャーされた曲はこれまでには無かったという印象。聴き手の心を落ち着けてくれるような、しっとりとしたメロディーが心地良い。歌詞は遠いところにいる恋人の元に会いに行く男性を描いたもの。遠距離恋愛をしている二人なのだろうか。「現在(いま)は 遠い君の膝に 堪らなく帰りたい」というフレーズには男性の気持ちが集約されているかのよう。ここまで幅広い音楽性を見せつけてくるSLTには脱帽するばかり。


「Givin' Me All 」はブラックミュージック色の強いダンスナンバー。洗練されたサウンドは聴いていると洋楽かと思ってしまうほど。シンセが主体となっており、その脇をバンドサウンドで固めている。クラブでかかっていても何ら違和感の無いようなサウンドだと思う。サビでは佐藤竹善と女性コーラスとの掛け合いがあり、それも聴きどころ。歌詞は恋人同士の夜を想起させるような濃厚な詞世界となっている。「身じろぎしながらも 宵に溺れる」というフレーズは何とも意味深。サビは英語詞が多用されているのが特徴的。 サウンドや歌詞共に、この曲に関してはマニアックになり過ぎてしまった印象が否めない。


「Maybe」は先行シングル「離れずに暖めて」のC/W曲。ファン人気の高いバラードナンバー。3連符によるピアノが前面に出ており、美しさに溢れている。バックの重厚なバンドサウンドも曲の美しさや壮大さを引き立てている。中盤から使われるサックスも絶品。コーラスワークも曲を鮮やかに彩っている。歌詞は恋心をストレートに描き出したもの。サビは英語詞で構成されているのが特徴。ラストの「紛れも無く 終わりも無い 唯 愛したいだけ」というフレーズは名言。6分20秒ほどの少々長尺な曲ではあるが、一切聴き飽きることなく聴けてしまう。美しいメロディーやサウンド、丁寧で優しい佐藤竹善のボーカルのお陰だろう。


「encounter Ⅲ」は今作最後のインスト曲。この曲もまた、西村智彦が作曲を担当した。エレピで佐藤竹善が参加している。これまでのインスト曲とは違い、独特な浮遊感を感じさせるサウンドが展開されている。アコギとエレピという風変わりな組み合わせがサウンドによいアクセントをつけていると思う。


「止まらぬ想い」はしっとりと聴かせるバラードナンバー。今作発売後にシングルカットされた「Our Way To Love」のC/W曲としてこの曲のアコースティックバージョンが収録されている。それはそちらでしか聴けない。空高く羽ばたいていくようなピアノの音色はたまらなく聴き心地が良い。シンプルなバンドサウンドで演奏がされているが、それが曲の美しさを演出している。ストリングスも一部で使用されている。全編通して流麗なメロディーが展開されているが、サビは特に素晴らしい。歌詞は別れた恋人に想いを寄せる男性の心情を描いたもの。「笑顔が消える迄 他人(ひと)を愛せたこと 沈んでも 塞いでも 色褪せなどはしない」という歌詞が好き。ファン人気が高いというのも頷けるようなSLTの名バラードだと思う。


「Our Way To Love」は今作発売後にシングルカットされた曲。明治乳業「旬のフルーツゼリー」のCMソングに起用された。今作の中では最もロック色の強いサウンドが展開されているバラードナンバー。サビまではアコギが主体となった落ち着いたサウンドで聴かせるが、サビになると一気に爆発したかのように激しいバンドサウンドが登場する。歪んだギターサウンドは耳をつんざくかのよう。その変貌振りがたまらなく格好良い。歌詞は強い恋心を描いたもの。「高まるたび 余計な寂しさが募る だから 正しさ 持てあます」というフレーズが好き。佐藤竹善はいたって普通に歌っているが、口ずさむとありえないほど難しい。SLTはこのような曲が多いが、この曲は特にその印象が強い。


SLTにとってのヒット作ということもあり中古屋ではよく見かける。多彩なジャンルを取り入れつつも、どの曲もポップで聴きやすい作品である。このような音楽性はSLTならではと言ったところ。かなり売れ線寄りな作風なのでベストの次に聴くオリジナルアルバムとしてもおすすめできる。ポップな曲から美しいバラードまで…どれを取っても素晴らしい曲揃い。

★★★★☆