【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 小沢健二
プロデュース         小沢健二


1.昨日と今日 ★★★★★
2.天気読み ★★★★★
3.暗闇から手を伸ばせ ★★★★☆

4.地上の夜 ★★★☆☆
5.向日葵はゆれるまま ★★☆☆☆

6.カウボーイ疾走 ★★★★☆
7.天使たちのシーン ★★★★★
8.ローラースケート・パーク ★★★★★


1993年9月29日発売
1997年7月24日「dogs」と改題し発売
2002年2月6日「dogs」の再発


小沢健二の1stアルバム。先行シングル「天気読み」を収録。1991年にフリッパーズ・ギターが解散し、小沢はソロデビューすることとなった。今作はその1stアルバムとなる。


フリッパーズ・ギター時代の複雑な楽曲からフォークロックを思わせるシンプルな楽曲を中心にしたスタイルへと変貌を遂げた。
このアルバムは他の小沢のアルバムと比べてロック、ソウル色が強い作品となっている。ボーカルも世間が思うような高く頼りない感じの歌い方ではなく、低い声で突き放すような感じの歌い方になっている。


この作品を聴いた元相方のCorneliusこと小山田圭吾は「何か尾崎豊みたい」とコメントした。しかし、歌詞は変わらず文学的で難解である。内省的かつ哲学的な世界観が展開されている。


1997年に「dogs」と改題して発売されたが、「犬は吠えるがキャラバンは進む」との違いはというと、タイトルの他にはジャケ写が違うこと、セルフライナーノーツが付属していないことである。セルフライナーノーツは当時の小沢の考えやこの作品についての思いがよくわかるので、このアルバムを深く理解する上では重要なものといえる。


セルフライナーによると、「犬は吠えるがキャラバンは進む」というタイトルはアラブの方の諺だという。意味は書かれていなかったが、調べてみると「脇から批判・中傷する人々のことを気にせず、自信を持って自分の道を歩め」と言った感じの意味だった。小沢は当時色々なことを言われていたと思うが、このタイトルは小沢なりの決意なのかもしれない。



「昨日と今日」は当時フリッパーズ・ギターの楽曲を聴いていた方が間違いなく面食らったであろうロック。小沢の楽曲の中で後にも先にも無いようなハードボイルドなイメージを持った楽曲である。曲全体を通して聴こえるうねうねしたベースラインが格好良い。映画のワンシーンのような歌詞が印象的。



「天気読み」は先行シングル曲。アルバムバージョンで収録されているが、シングルバージョンとの比較をしていないので違いはわからない。非常に淡々と進んでいく曲である。歌詞が難解ではあるが、管理人はラブソングだと解釈している。ジャズを髣髴とさせる独特なサウンドが印象的。気だるい曲ではあるが、それがこの曲の持つ中毒性に繋がっていると言える。



「暗闇から手を伸ばせ」は「天気読み」のC/W曲。同じくアルバムバージョンで収録されているが、シングルバージョンとの比較はしていないので違いはわからない。今作発売後にこの曲をA面にしてシングルカットされているが、何故カットしたかは不明である。
小沢らしいポップな一曲。今作では数少ないポジティブな歌詞が印象的。「エブリデイ・エブリデイ・エブリデイ」と3回繰り返す所があるが、舌が回っていない。そこが気になる。わざとなのだろうか?



「地上の夜」はアルバムの真ん中に位置する地味な一曲。これまた歌詞が難解でよくわからないが、旅をしている都市で生活している人が主人公だろうか?「地上の夜 この星の現在位置」という歌詞が好き。終始流れているギターの音が気だるい感じを出している。



「向日葵はゆれるまま」はアルバムの箸休め的な存在の2分半程度の短い曲。ピアノが主となったジャズテイストの一曲。この曲単体で語られることは殆ど無いと思われる。



「カウボーイ疾走」は当時の小沢の思いが伝わってくる歌詞が印象的な一曲。「もう間違いが無いことや もう隙を見せないやりとりには嫌気がさしちまった」という歌詞は特にフリッパーズ・ギター時代を否定し、新しい音楽をやっていくことへの宣言のようである。タイトルのインパクトがかなり強い。



「天使たちのシーン」は13分半に渡る長尺の曲。当然小沢の楽曲の中で最も長い曲である。小沢の自信作らしく、セルフライナーでも「このCDを買った人の中で最も忙しい人でも、どうか13分半だけ時間を作ってくれて、歌詞カードを見ながらこの曲を聴いてくれますように」という旨のことが書かれている。
曲は非常にシンプルであるが、この曲が何より凄いのは歌詞。日常生活の中の一部を切り取ったような情景描写がひたすらに綴られていく。その文学性には圧倒させられる。
ラストの「神様を信じる力を僕に 生きることをあきらめてしまわぬように」という歌詞は聴く度に鳥肌が立つ。13分半という長尺の曲ではあるがその長さを全く感じさせない。曲の中に入り込んでしまって気付いたら終わっている感じである。管理人の想像だが、この曲の中に登場する「神様」は宗教的な意味の物ではないと思っている。
管理人がどれ程語ったところでこの曲の凄さは伝えきれない。とりあえず聴いていただきたい。



「ローラースケート・パーク」はアルバムのラストを飾るポップな一曲。前の「天使たちのシーン」の世界から解放されたような明るい雰囲気に満ちている。次作の「LIFE」の世界観に繋がっているような曲である。
この曲も今までの小沢自身を否定し、新たな道を歩んでいくというようなメッセージの歌詞がある。「意味なんてもう何も無いなんて 僕がとばしすぎたジョークさ」というもの。そして、「ありとあらゆる種類の言葉を知って 何も言えなくなるなんてそんなバカなあやまちはしないのさ!」と高らかに歌い上げる。



中古屋ではたまに見かける程度。現在出回っているのは「dogs」の方が主であるが、セルフライナーノーツが付いていないため、「犬は吠えるがキャラバンは進む」の方を購入することをおすすめする。ちなみに、タイトルの略称は小沢曰く「犬」が良いらしい。そのため、「犬キャラ」等と略すのはナンセンス。


歌詞に着目して音楽を聴く方には是非ともこのアルバムを聴いてみてほしい。歌詞の意味を色々と考えながら聴いてみると面白い。改めて言葉の持つ力を感じることができると思う。「オザケン」のイメージで聴くと面食らうこと必至である。「小沢健二」という体で聴いた方が良いだろう。

★★★★★