くるり
2000-01-21


【収録曲】
特記以外全曲作詞作曲 岸田繁
5.作曲 くるり
13.作詞作曲 佐藤征史
14.作曲:岸田繁/佐藤征史 編曲:中村弘二
プロデュース くるり ジム・オルーク
 
1.イントロ ★★★★☆
2.マーチ ★★★★★
3.青い空<アルバムmix> ★★★★★

4.ミレニアム ★★★★☆
5.惑星づくり ★★★★☆

6.窓 ★★★★☆
7.チアノーゼ ★★★★★
8.ピアノガール ★★★★☆

9.ABULA ★★☆☆☆
10.屏風浦 ★★★★☆
11.街 ★★★★☆

12.ロシアのルーレット ★★★★★
13.ホームラン ★★★★☆
14.ガロン<ガロ~ンmix> ★★☆☆☆
15.宿はなし ★★★★☆


2000年1月21日発売
SPEEDSTAR RECORDS
最高位20位 売上1.0万枚


くるりの2ndアルバム。先行シングル「青い空」「街」を収録。「青い空」はアルバムバージョンで収録されている。


今作はジム・オルークがくるりとの共同プロデュースで参加した。15曲中5曲にジム・オルークが参加している。
オルタナロックサウンドが強調されたアルバムとなっている。他のアルバムと比べ激しいギターロックが多く、ポップな曲はあまり無い。そのため、単純な聴きやすさで言うと他のアルバムに劣る。


当時のくるりはメンバー同士の仲が悪かったという。仕切り屋だという岸田と、ベースの佐藤征史、ドラムの森信行が楽曲を完成させていく過程の中で起こったようだ。くるりとして音楽の幅を広げていきたい岸田が、のほほんとしていた森に対して感じたもどかしさが原因だったという。岸田本人は当時の自らを「怖かったなあ、あん時。ちょっとおかしくなってた」と振り返っている。
そのためか、葛藤や衝動が爆発しているような独特な雰囲気を持った曲が多い。



「イントロ」はアルバムそのもののイントロと言える一曲。最初の部分は前作「さよならストレンジャー」収録の「虹」がサンプリングされている。狂ったような味わいを持った今作の幕開けにふさわしい。映画のオープニングのような壮大さがある。



「マーチ」は歪んだロックサウンドが印象的な一曲。「こんな気分は春一番に乗って消えてゆけばいいのに」という歌いだしから引き込まれる。このアルバム特有の混沌とした雰囲気を象徴するような曲である。



「青い空」は先行シングル曲。アルバムバージョンで収録されている。前の「マーチ」と同様の激しいロックサウンドの一曲。サビの「こんな事は云いたくないのさ 何かが違うと考える頭は真っ白に」と鬱屈した感情を爆発させるような歌詞が好き。



「ミレニアム」はリリース当時の世間の様子が垣間見えるようなタイトルの一曲。「今までもこれからもミレニアム 本当かい 辛いけど眠るだけ 絵日記の絵だけ描く」というサビの歌詞が印象的。
「時代が変わるほら5秒間 すぐにでも祝杯あげようぜ」という歌詞は曲名に合った良い歌詞だと思う。



「惑星づくり」はインスト曲。ジム・オルークがプロデュースで参加している曲。インストではあるが5分半程ある。様々な音の響きが美しい一曲。シカゴ音響派と呼ばれていたジム・オルークの本領発揮といえる。



「窓」もジム・オルークがプロデュースで参加している一曲。虚無感漂う気だるい印象の曲。サウンドは独特な浮遊感がある。
「結局 僕等は何もしない」という歌詞にそれがよく現れている。
「浅い眠りの中何か夢を見ていたよ 何の夢かは思い出せないよ」という歌詞は何故か共感できる。



「チアノーゼ」もジム・オルークが参加している一曲。2分50秒程度の短い曲ではあるが、重厚感溢れる音を味わえる。この曲も今作特有の鬱屈した感情が爆発したような歌詞がある。「もしもあなたに出逢わなかったらとか もっと前に出逢っていたらとか考える自分に吐き気がする」「ロックンロールという言葉死んでしまえ」という歌詞が顕著である。何があったのかと言いたくなるほど退廃的な歌詞だ。



「ピアノガール」は岸田のピアノ弾き語りによる短い曲。何とも不安定な曲である。小品だがこのアルバムの雰囲気がよく現れた一曲。



「ABULA」はインスト曲。何故そのようなタイトルなのかとても気になる一曲。正直あまり印象に無い。アルバムの流れを調整する役割なのだろう。



「屏風浦」はジム・オルークが参加している一曲。今作の中では珍しいまったりとした曲調。屏風浦は京急の駅の名前にあるようだ。横浜市磯子区森三丁目にあるという。



「街」は先行シングル曲。今作の中では珍しいポップな曲。しかし、ポップではあるが歌詞は鬱屈した感情が出ている。曲の始まりからいきなり「この街は僕のもの」と高らかに歌い上げてしまう。ちなみに、この曲でドラムを担当しているのは森信行ではなく、この曲のプロデュースで参加した根岸孝旨である。当時のバンド内の軋轢がよくわかる。



「ロシアのルーレット」はサイケな雰囲気の一曲。「必要なのは 愛だけさ愛だけさ 笑うなよ 殺すぞ」という歌詞は聴く度に衝撃を受ける。混沌とした雰囲気の曲が多い今作でも、最も狂っているのではないかと思える曲がこれ。ただ、何故か癖になってしまう一曲。



「ホームラン」はくるりのキャリアを通しても数少ない、佐藤征史が作詞作曲を担当した曲。アルバムの雰囲気をガラリと変えるような明るい曲調。「シャバダバダ シャバダバダ」というコーラスが異様な程に耳に残る。


 
「ガロン」は「青い空」のC/W曲。「ガロ~ンmix」と銘打ってSUPERCARの中村弘二がリミックスしたバージョン。くるりの曲の中でもトップクラスで長い。実験作という呼び方がぴったり合うような曲。「僕の電波は何ガロン」「君の電波は何ガロン」等と単位違いの歌詞が印象的。ただ、正直かなり長ったるい曲。つい飛ばしてしまいたくなる。聴いていても途中で眠くなってしまう。



「宿はなし」はジム・オルークが参加している曲。田舎の風景を思い浮かべたくなるような一曲。前作を彷彿とさせるサウンドである。アルバムのラストにふさわしい、まったりとした曲。



中古屋ではあまり見かけない。
くるりが持つ様々な音楽を味わえる、まさに「図鑑」のような一作。ファンの中でも好き嫌いが別れるが、暗い気分の時に聴くと割とすっきりできる。ロックバンドとしてのくるりの姿を再確認することができるアルバム。

★★★★☆